29話 獣人部隊長ローソン VS 獣王ライオネス
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凄まじい勢いで飛び出したローソンは大剣をライオネスの喉元目掛けて振り翳す。
「貴様はここで死んで貰うぞぉぉっ!!!!」
ライオネスは今まで出会ったことのないスピードをもつ相手に面を食らわされた。
それほどローソンはS級相手でも、勝るスピードで攻撃を仕掛けたのだ。
「ぬおぉ!!」
放たれた剣をライオネスの喉元に向けて何発も繰り出すがギリギリでライオネスは後手に回されるも弾いていく。
「ぬぅ!!! しつこく急所を……狙って」
ローソンはライオネスの目が馴れていないうちに決着をつけたかった。
それは自分の肉体が長くは持たないからでもあった。
「はぁぁぁっ!!!!」
ライオネスの振り抜かれた鋭い爪をギリギリで交わし、懐に入り込むローソン。
全身の身体が軋むように激痛が走ったが、その一瞬の出来た隙をローソンは見逃さなかった。
「もらったぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
ローソンの一撃はドラゴン族、人族、獣人の全ての弱点である、喉元目掛けて放たれた。
ーーーーーー 狩猟豹斬殺 ーーーーーーー
ズバァァァァァァァァァァ………ァァ……ァ………ンンン!!!!
「ぐはぁぁっ!!!」
強烈な一撃が喉元にまともに入る。
ライオネスは後ろによろけて喉元を押さえる。
動きが止まり周りで混戦になっていた狂戦士も、騎士団、獣人、ハンター達でさえも決着が着いたと思った。
それほどの一撃がライオネスに入ったのだ。
シャルルも同じだった。
確実に喉元を剣先が捉えた。無事な奴はこの世にいないと思ったのだ。しかしーー
「ぐっ…………………くっ……くっく」
「はぁぁっはっは!!」
ライオネスは大きく口を開け笑う。
今の攻撃が全く効いていなかったかのように。
周りが沈黙した中、馬鹿笑いをし始める。
シャルルはその姿を見て絶句する。
あれほどの攻撃を受けて笑っていられるなんて信じられなかった。
「なん………で」
「中々の迫真の演技だったろぉ。 笑いを堪えるのに必死だったぞ」
シャルルもローソンもそんなはずはないといった表情を浮かべる。
周りも同様に、隊長の最強の攻撃が効かなかった敵など今まで一度もいなかった。それが効いていなかったなんてーー
「俺様のたてがみは何のためにあるか知ってるかぁ?」
「何……だと……?」
ライオネスはローソンに向い質問を投げかける。
しかし、ローソンにはライオネスのたてがみが、獣人部隊でも、戦の中でもたてがみを持つ者に出会った事がなかった為に、何のためにあるかまでは知らなかった。
「ライオンである俺様のたてがみは、最強の象徴なんだよ。
最強の者だけに許された、黒くて長いたてがみは首元から背中までしっかり生えて急所を守ってるんだよ。
だから俺様のたてがみは鎖帷子と同じで刃物も牙も通さねぇ。
貴様らのなまくらの剣じゃぁ俺様の首を切り落とすどころか傷さえ付けれねぇんだよ!」
「ぐっ………」
ローソンはそれほどまでに、ライオネスのたてがみが防御力の高いものだとは知らなかった。
そして誘い込まされて撃たされた事にただ強いだけではなく戦いのセンスも同時にあると知る。
「お前らは勘違いしている。 獣人達のお前らが己の牙、爪に頼らず、武器に頼ってる地点で既に弱者なんだよ」
そう言ってライオネスはローソンに見えるように腕を前に突き出し、指先から長い爪を出す。
太く、鋭く頑丈な爪は振り抜かれたら皮膚や肉が簡単に引き裂かれてしまう事が容易に想像出来る位のものだった。
獣人でありながら野生に限りなく近い存在のライオネスは、己の肉体のみでS級まで登りつめた正真正銘の化物だった。
「く……ぐふっ……」
咳き込んだローソンの口からは再び血が流れ始める。
内蔵も悲鳴を上げ、臓器が限界を迎えようとしていた。
このままずるずる展開が長引けば、自ずと死ぬことになると予感させる程の吐血の量だった。
「おいおい。 身体がもう限界なんじゃねぇのかぁ? もっと楽しませてくれよぉ!」
余裕を覗かせるライオネスはローソンの肉体の限界が近いのを知ったのか落胆し、挑発をかけてくる。
「まだ…だ。 これからだ!!」
力を込め剣を握る。
少しづつだが剣を握る感覚が鈍くなっている。
次の攻撃を防がれたらローソンは終りなのだと悟る。
「来ないならこっちから行く。 勝手に死なれる前に俺の手でちゃんと殺してやるよ」
ライオネスが攻撃を仕掛けてくる。
鋭い爪に焔を纏わせ、一撃でローソンの身体もろとも引き裂いてくれようと。
ローソンはそんなことは今更怖くなかった。
それよりも怖いのは、ライオネスに傷一つ付けられずに死ぬ事だった。
自分が死んだら最愛の愛娘が慰み者にされ、散々遊ばれた後に殺される事になる。
大好きだった娘のシャルルをこんな奴に慰み者にされる為に育ててきた訳じゃない。
普通の優しい女の子に育って、普通の家庭を持って、子供を授かって、そんな未来の幸せを手にして欲しくてローソンはシャルルを育てたのだ。
それを、いつからか娘は私を追って剣の道を歩んでしまった。私の反対を押切り、いつ死ぬかも分からない危険な職業に。
しっかり者の面倒見のいい母ではなく、年中家にいないこの私の背中を追って。
父親らしいことは小さい頃にした以来、全然してこなかった不甲斐ない自分に……だ。
娘はそんな自分を物心ついた時から騎士としてずっと見てくれていた。
父親として、こんなに誇らしいことはなかった。
だから娘には生きてほしい。
ここで終わらせる訳にはいかない。
例えこの身が朽ち果てても、最後の力をこの一撃にーー
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
目にも止まらない速さの斬撃がローソンとライオネス二人同時に放たれる!
その時、限界を迎えようとしていたローソンの頭の中で今までの出来事が走馬灯のように思い出されていた。
剣を何万回と、何千万回と、雨の日も風の日も毎日休むことなく振ってきただろうか。
幼い頃からロザリア王国の騎士団に憧れて、ローソンは剣を握る道を選んだ。
その思いはずっと変わらず、騎士団に入隊してからも色褪せることはなかった。
ひたすら上を目指して毎日、毎日剣を振るい続けた。
その努力を買われ、いつしか一万の獣人を束ねる獣人部隊長を任せて貰えるまでなった。
それでもローソンは強さを求め続けた。国を守るためもあるが、己の強さがどこまで行けるのか自分自身が見てみたかったからだ。
昔、一度だけ見た、光のような温かさを持ち、鬼神のような強さを合わせ持つ
勇者のようになりたくて。
ただ純粋にーー
そう。ただ純粋に強くなりたくて
ーーーー パァァァァァッッ ーーーーー
その一瞬だった。
ローソンにか見えない針ほどの小さな光が見えた。
光に気付いたローソンは、その光を手で掴むように剣を伸ばす。
届くか届かないか分からない。
ただローソンはその光が、特別な光のような気がして、光の先に必至に剣を伸ばした。そしてーー
それは戦いの中で最後にローソンが編み出した新しい技だった。
ーーーーー 諸刃豹撃 ーーーーーー
全身の身体を犠牲にして放つ諸刃突きの渾身の一撃
ライオネスは鋭い爪に焔を纏わせ、威力を増して攻撃『不知火』を放っていた!
同時に放たれた技が、先に届いたのはライオネスの方だった。
「くたばれぇぇぇっ!!!」
肩にライオネスの焔の爪がめり込んで身体をえぐり混んでくる。
だが、ローソンは剣を鈍らせることはなかった。
痛みなど関係ない。その一撃は真っ直ぐに、軌道を変えずに一点だけを目指した。
「ハァァァァァァっ!!!!」
グサァァァァァッッ!!!
二人の動きが同時に止まる。そして鈍い音が周りに響き渡った。
「ガ…………ァ…………」
ライオネスの声が変わる。それは今までの声とは明らかに違い、声にならない程の声だった。
「ぐ……ふっ……」
ローソンは又も激しく吐血する。
見るとローソンの肩から胸にかけて深くめり込んだライオネスの爪は、肺にまで達しているのではないかと思わせる程の重症になる一撃だった。周りに焼けた血の臭いが漂う。それはローソンの血がライオネスの焔に焼かれて蒸発した臭いだった。
しかし、その焔を纏った爪はそれ以上行かず、ライオネスは爪を抜き取る。
いや、正確にはライオネスが後ろによろめいたから外れたのだった。
「グァ……ァァァ………」
呻き声を上げるライオネスを見ると、両手で押さえた左目には深々と剣が刺さっていたのだ。




