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25話 不安な心

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 シャルルは父親のローソンとの立ち合いを振り返っていた。


 ローソンに放った双剣百乱舞が決まったまでは良かった。


 あの父上から一本とれたのだからかなりものだろう。


 しかし、立ち合い後のローソンから出た言葉は通用しないと言う残酷な言葉だった。


 半年の間で編み出した技を通用しないと言われた事は悔しかったが、今はそれ以上にシャルルの心は満たされていた。


 小さい手の平を握りしめ、今まで努力してきた事は結してムダではなかったと実感する。


 課題を残された事にはなったが、あれが今のシャルルにとって戦場での一番の武器だ、すぐ変えることは出来ない。


 また新しい斬撃技をシャルルは考える必要があったが、考えても今すぐ答えがでる訳ではない。


 実戦で使える技をもう一度練り直そうとシャルルはギルドに向かう事にした。


 家から獣人街を抜けて商店街に出る。するとあることに気付く。


 いつも商店街は賑わってはいるが人だかりが出来るほどではない。


 一ヶ所に集中的に人が集まり始めている。


 シャルルは不思議に思い行き交う人達をよく見てみると、手にはチラシをもっている。


 それはユウキ達が公演すると言っていたキラキラサーカス団のチラシだった。


 シャルルは足を止めて聞耳を立ててみると――


「おい、これから公演するキラキラサーカス団て、かなり凄いらしいぞ」


「ザナルガルドの知り合いもそう言ってたぞ。 団長の隣には天使のような可愛い子がいると」


 団長のユウキと助手の女性が凄く可愛いいとのことだ。


 かなりの美人ということにシャルルは敏感に反応する。


 もしかして、ユウキの彼女なんてことは………


 イヤな考えがシャルルの頭をよぎる。


 昨日のユウキの会話の中には彼女がいるような雰囲気は感じとれなかったが、聞かなかった事もあり確証もない。


 不安になりながらもにキラキラサーカス団が公演している時に助手をやっている女性が、どの程度の人間なの確認しようと思ったシャルルは一緒に見学する事にした。


 公演時間になり、ざわついてた広間は一瞬静寂に包まれる。


「イリュージョン」


 ユウキの言葉が聞こえ、簡易的に作られた垂れ幕から姿を現す。

 その姿は想像を遥かに越えるものだった。


「お……おい! あいつ浮いてるぞ!!」


「どうなってんだ……?」


 その場にいた人間、獣人、リザードマンなど目を疑う。


 そう。シャルルでさえもユウキの浮遊する姿に目を奪われていた。


 なぜならこの世界には浮遊魔法は存在しないからだ。


「え……どうなってるの?」


 ユウキが新しく手に入れた二つのうちの一つのスキルだった。


 イリュージョンと聞こえた者を惑わし、現影、幻臭、幻覚を見せる。


 そして広間にいたもの達は実際にはいないユウキを見ていた。


 音がパチンと聞こえた瞬間、ユウキの現影は消え、横から本物のユウキとニーア、そしてキラ様が登場する。


 広間は大きくざわつく。


「どうなってる? 消えたと思ったら横から出てきたぞ」


「訳が分からない、魔法だったのか?」


「浮いてる奴なんて初めて見たぞ!」


「隣にいるニーアちゃんて子、天使見たいに可愛いぞ!!」


 シャルルはバニーガールのニーアを見て唖然とする。


 可愛い……


 女の私から見ても明らかに可愛い。


 そこら辺にいる女の子とは全く違っていた。


 整った顔立は、まるで妖精を思わすかのような可愛さ。


 それだけならまだしもスタイルは上から下まで完璧なまでに整ったプロポーションだった。


 おまけにバニースーツまで完璧に着こなして、公演中にチラチラ見える綺麗なお尻が男性の目を釘付けにさせていた。


 あんなことやられたら大抵の男なんて虜にできない訳がない。


 獣人の私には顔でもプロポーションでもとても勝てないと悟る。


 ショーが始まって驚いたと思ったら、ニーアという強力な存在に奈落の底に落とされた気分になる。


 現実はニーアには彼氏はいない。


 シャルルの思い込みが勝手に暴走し、二人は付き合っているかもと思わせただけのものだった。


 そのあとのショーは凄いものばかりだったが、落ち込んだシャルルにとってはどれも心に響くものはなかった。


 公演が大盛況で終わり、満足した観客は余韻に浸りながら帰っていく。


 またロザリアの街中でもザナルガルドのように噂が瞬く間に広がっていく。


 観客に混じりながらとぼとぼと歩いていくシャルルは、誰かの手によって止められる。


 振り返るとシャルルに気付いたユウキが駆け寄って来てくれていた。


「ユウキ……」


「シャルルちゃん見に来てくれたんだね。 ありがとう」


 笑顔のないシャルルちゃんにユウキはすぐ気付く。


 ショーが始まって途中からシャルルちゃんの存在には気が付いていたが顔色までは確認出来ていなかった。


 てっきり喜んで見てくれていたものだとユウキは思っていたのに、予想外の反応だった。


「どうしたの?元気なさそうだけど……」


 私は本当の気持ちを言えず心に蓋をしてしまう。


 これ以上ユウキに深入りすると心がどうにかなってしまいそうな程苦しくなる。


 後一週間もすれば、また別の街に旅立ってしまうユウキに、止める権利もなければ彼女になって旅立つ覚悟もなかった。


 私にはこの国の騎士団にいつか入り、父上と一緒にロザリア王国を守りたいという大きな目標を持ってしまっていたからだ。


 シャルルは精一杯の強がりをして笑顔でユウキに答える。


「そんなことないよ。 凄く良かった!」


 その笑顔はどことなく不自然に見えて、いつものシャルルが見せる無邪気さはそこにはなかった。


「シャルルちゃん……」


 ユウキはシャルルがこれ以上、深く詮索されたくないという素振りに気付き、それ以上の言葉を掛けてくることはなかった。


「また見に来るね」


 そう私はユウキに一言だけ残して、その場を後にした。


 ユウキの方を振り返る事もなく、ただギルドに向かって歩いた。


 ユウキの心配した顔を見たらチクチクと胸が痛んだ、不安定な感情にシャルルはやっと気付く。


 これは恋なのだと。


 結して実らない恋。


 気付いたところでシャルルにはどうすることも出来なかった。


 ギルドに着いて一人で狩りをするためにC級のクエストとって受付に回す。


 こんな考えのままではまともに闘えたりはしないと思ったシャルルはあえていつもより低いランクのクエストを受けた。


 街を出てクエストの魔物を探しに行く。


 気持ちを切り替えてしばらく森の中を進むがあることに気付く。


「魔物がいない……。 それどころか動物の気配もない」


 森の異変に気付いて獣人のシャルルはスキルでサーチをかけるが何も引っ掛かってこない。


「おかしい……」


 こんな現象は狩りをし始めて初めてだった。


 恋に振り回されていたシャルルでもハンターとしての腕は一流だ、狩りに出た中で誰よりも早く森の異変に気付いた。


 恋の気持ちより不安な気持ちが膨れ上がっていく。


 何かとてつもないな事が起こる前触れのような静けさ。


 シャルルはギルドに報告しようと急いで来た道を引き返す。


 ギルドに戻り受付譲のシニアに話しかけようとするが、中で何やらあわただしくしている。


 私は受付カウンターに手をバンバンと叩いて声を出してシニアを呼ぶ。


「シニアさん! シャルルです!! 来てもらえますか!?」


 奥にいたシニアがシャルルに気付いて慌てて受付カウンターに戻って来る。


「シャルルさん! すいませんでした。 ちょっとバタバタしてしまって」


「ねぇ。 それって森の様子と何か関係あるのっ? 動物も魔物も姿が見えないの!」


 私は受付譲のシニアに問いただす。


 森の異変とギルドのあわただしさは同じ案件じゃないのかと。


 シニアはそれを聞いて顔が青ざめる。


 シャルルの言っていること、森の異変とギルドに届いた緊急極秘情報と内容が酷似していたからだ。


 A級のエリートハンターがいち早くこの国の周りの異変に気付いたということはギルドに回って来た緊急極秘情報は本当なのだと。


 シニアは青ざめた顔でシャルルに話す。


 これは極秘情報でまだ周りには明かせなかったからだ。


「実はまだ詳しい事は言えないのですが、東の方で何か不穏な動きがあるらしいのです。 この話をしたらシャルルさんは大体何が起ころうとしているかは想像がつきますよね?」


 シニアは機密情報を漏らす訳にはいかないので全ては話せない。


 しかし、シャルルを信用している事もあり、含みのある台詞で気付くように伝えてくれた。


 私はその言葉を聞いて、真っ先に思い浮かんだのは、ロザリアから、はるか東に拠点を置いている獣王ライオネス。


 このマール大陸で知らない者はいない。


 最低、最悪の殺戮集団のボスの名前だ。


 この数年で幾つもの国と街が滅ぼされている。


 この名前を聞いたら誰もが震え上がってしまうほどの圧倒的な暴力、殺戮の戦闘を好み、女は慰み者にされ、捕まった子供は奴隷として育てられ、死ぬまで働かされる。


 2年前に近隣のマチス王国は滅ぼされ、1年前にもドゥカニカという大都市も滅ぼされた。


 その破壊させられた街は数知れずマール大陸でも何処の王国の騎士団も手が出せないほどの凶悪集団になってしまっていた。


 ごくりと息を飲んでシャルルは答えた。


「ライオネス……ね」


 シャルルから出た聴こえない程の言葉にシニアの眼は間違っていないと言っている。


「後、何日後なの?」


「遅くても後、一週間です」


 早い……。一週間後にはこの国の周辺は戦争に変わり、辺一面が血の海に変わるかもしれない。


 父上の最近の忙しい様子も、もしかしたらこれが原因だったのかもしれない。


 獣王ライオネス。


 S級指定にされてもおかしくはないとも言われる、この大陸で最も危険とされているAAA級指定とされている獣人の王。


 本当に勝てるのか、負ければ父上は勿論、母さんも私も殺され、このロザリア王国ごと滅ぶ事になる。


 国の存亡をかけて戦う戦争に想像もつかない程の重圧がシャルルにのしかかってくる。


 テーブルに置かれたシャルルの手は震えていた。






 そして命をかけて戦う、運命の日は刻々と近づいて来ていた。




しばらくはシャルル視点で物語が進んでいくのでよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] そういえば、主人公が目的を達成して、 世界から邪気が消えてしまったら、 冒険者の生活はどうなるんだろうな
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