24話 憧れた父親
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ユウキが強請退場させられた次の日、シャルルはベットから起きて自分のやったことを思い出していた。
「私はなんて、恥ずかしいことやってたの……」
思い出すだけで死にたくなるような事を自分から誘ってやってた事に、酔った勢いがあるとはいえお酒の力は恐ろしいと感じたのと、もうしばらくは異性と飲むときは控えようとシャルルは心に誓う。
着替えて朝ごはんを食べに行くと、母さんがどうだったとしつこく聞いてくる。
これはこれでイヤだと思ったが、服を借りた件もあるので無下にも出来ないので、いい雰囲気にはなったよと伝えておく。
しばらく朝ごはんを食べながら色々聞かれたくないことを聞かれていたが、珍しく父上が帰ってくる。
「ただいま」
「あら、おかえりなさい。 ご飯は?」
「大丈夫だ。 またすぐ準備が出来次第出ていく」
王国の任務はいつも忙しいと聞いてはいたけど、最近は特に忙しいらしい。
こうやっていきなり帰って来ては、またすぐ戻らないといけない。
10年前から隊長任務についてからは家でゆっくり休んでいる姿なんて見たことがなかった。
「最近。 忙しいのね」
「なに。 いつもの事だ」
母さんと父上が話をしている最中だったけど、私は父上に声をかける。
「父上! 少しだけ時間を貰えないですかっ?」
この少しだけ時間を貰えないですかという台詞には違った意味も込められている。
それは、後で稽古をつけて下さいという意味だ。
本当に父上の気まぐれで稽古をつけてくれる時がある。
たまにしか帰ってこない父上に稽古を頼むのはこんな時ぐらいしかチャンスがないからだ。
A級を取ってからこの半年間の実力を少しでも見て欲しくて緊張と不安が入り交じるなか、シャルルは断られる覚悟で聞いてみたのだ。
「…………あぁ」
こんな感じで何回も断られている。今日もダメかと思った時だった。
「……分かった。 その代わり一本だけだ」
「あ……ありがとうございます!!」
たまにしかないチャンスが巡ってきた。
シャルルは闘志を燃やす。
前回やったのはA級を取る3ヶ月前だ。
それからもっと強くなっているはず。
準備の出来た父上と一緒に外に出る。
真剣は危ないので二人は練習用の木剣を持って構える。
シャルルは父親の前で初めて見せる構えをとる。勿論、双剣だ。
速さに恵まれたシャルルは力よりもスピードに特化させた今の現段階でシャルルが行き着いた最強のスタイルだった。
初めて見る構えに眉を潜める父上。
何故ならば、双剣を扱う者は大勢いる騎士団にも獣人隊の中にも誰一人といなかったからだ。
戦いの中では通常両手剣で相手を切断するのが鉄則。
片手では切断は愚か、固い相手なら傷さえ付かない場合すらある。
ローソンからしたら下策中の下策の戦いにすら思えた。
「来い。 すぐ終わらす……」
父上から隙が消えていく。
殺気もない、存在すら消えていくように前かがみに構えをとる。
獣人達は戦う時、体格を生かして殺気を垂れ流しながら戦う者が多い。
しかし、チーターの私たちは元々真っ向勝負の力比べが得意でない分、殺気を消して戦う習性がある。
父上が前回から見せるこの構えは一瞬で相手の懐に入り一刀両断する一撃必中の構えだった。
「……いきます」
父上も私の今のスタイルもスピードを活かした戦い。
父上を超えて、その先の境地へ私はたどり着きたい。
「「 ーーー 瞬足 ーーー 」」
二人同時に肉球を生かした足音すら聞こえない最速同士の戦い。
「なにっ!!」
一瞬で間合いを詰めてくるシャルルに驚くローソン。
前回まで使えてなかった瞬足を使い、自分に近づいてくる。
驚く程早く成長していく娘にはローソンは、もはや天賦の才能と思う他なかった。
ーーー 狩猟豹斬殺!!ーーー
父上が前回見せた最高スピードからの大技を放つ。
体格とスピードの両方を生かした相手を一撃で一刀両断する切断技。
シャルルは前回この技で避けきれずに完敗を決した。
しかし、その後に技を受けた時のイメージを繰返し想定し対策を練っていた。
何百回も何千回も繰返して、数少ないチャンスを活かす為に。
柔らかい身体をねじ曲げながら、ローソンの剣の軌道を変えていく。
同じ技を2回連続で食らう訳にはいかない。
今度は私の番!!
ーーー 双剣百乱舞!!! ーーー
凪ぎ払われた父上の剣の内側からシャルルの剣が入って行く。
ズババババババババァァァァ!!!!!
懐に飛び込んだシャルルの最高最速の技が炸裂した。
「グォオォォォォ!!!!」
まともにヒットしたローソンだったが……
「グゥ………ガァッ!!!」
どんっ!!!
技の最中に後ろに突き飛ばされ、懐から無理やり離されたシャルル。
「「はぁ…… はぁ…… はぁ……」」
一瞬の戦いだったが、息をきらす二人。
「ふっ、はっ!」
少しだけ笑いが込み上げたローソンからは悔しさは感じ取れない。
「強くなったじゃないかシャルル!!」
「えっ?」
初めて一本取った私に、今まで一度も誉めたことのなかった父上から出た信じられない言葉にビックリする。
「よく練習している証拠だ。 よくあの一撃を避けたな」
「あ…………はい」
思考回路が止まってしまうくらい、うれしい言葉だった。
ただ少し誉めらただけ。それでも私には充分価値のある言葉だった。
少しでも父上に近付きたくて剣を振るった。
王国の獣人部隊長の父上に、幼いながらに憧れて気付いたら剣を振るっていた。
女だからと見つかると剣を取り上げられ隠された。
騎士団にも入るなと固く断られて、それでも納得出来ずに無理やりハンターの道を歩んだ。
そして、物心ついた頃から父上は私の前では笑うこともなくなって、いつしか私を遠ざけるようになっていった。
その父上から剣を振るい始めて、初めて誉めてくれた。
ほんの少しだけ報われたような気がした。
「うっ……ごめん……なさい」
小さい頃の時のように父親に誉められた事に、ただ嬉しくて涙が溢れ出してくる。
「おいおい……。 泣くほどじゃないだろう」
ローソンは突然泣き始めたシャルルに戸惑う。
「だって、一度も誉めてくれた事ないじゃない……」
「うっ。 そうだったか?」
「そうだよ……」
少し苦笑いしながら、最後にシャルルにアドバイスくれるローソン。
「だけど、次に手合わせするときは、あの技は通用しないからな」
そう言って剣をしまうローソン。それは強がりではなくシャルルの弱点とも言える点を指摘する。
「強い奴には連撃は止められる。 その技は致命傷にならない。 俺達チーターは相手を一撃で仕止めれる技をもう一度練りなさい」
「それは……どうやったら?」
「………速さを活かしなさい」
そう少しだけ助言を残して去っていくローソンにシャルルは最後まで見送っていた。
そして私は少しずつだけど強くなっていると実感した。
次に父上と戦う時は更に強くなり、認めて貰えるようにと気持ちを改めたシャルル。
しかし、平穏な日々はいつまでも続かなかった。
ロザリア王国に崩壊の危機が迫っていたからだ……。
しばらくはシャルル視点で物語が進んでいきます。よろしくお願いします




