20話 獣人 シャルル
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ユウキと会う少し前のことだ。
彼女の名前はシャルル。
17歳のモデルチーターの獣人で、ハンターランクはここのロザリア王国では二人しかいないAランクのエリートハンターだ。
そして今日も相棒のタイガ。希少種のホワイトタイガーと一緒に狩りに出ていた。
タイガーは数が少ないだけでなく、この世界では手懐けるのが難しいと言われる獰猛でプライドが高いトラ科最高位の獣だった。
そんな獰猛なタイガーと一緒にいられたのも生れた時から一緒で小さい頃から供に育ってきた兄弟みたいな存在だったからだ。
「タイガ、今日の獲物はBランクのマウントゴングだよ。一匹だけだけど油断はしないでね」
「ガウゥ!」
そうタイガも返事をし、お互いは狩り場に向かう。
マウントゴングはゴリラよりも数段大きく戦闘的でとても凶暴な相手だった。
手足はゴリラよりも短いが、その短さを補うように太くて強靭な腕と脚の持ち主で、その一撃を食らえば骨の二、三本は確実に砕かれてしまう程の破壊力がある危険な相手なのだ。
普段ギルドの冒険者達は自分のランクと同クラスの相手を狩ることは少ない。
毎日命をかけて戦っているのだが、より安全に仕事として狩るには自分の所有しているランクより下の獲物を狩った方が安全で負傷するリスクも少なく効率的に仕事を進めれるからだ。
二人も同じようにランクの下の獲物を狩るようにしていた。
「いたよ!」
二人は気配を消してマウントゴングに近付いていく。
気配を消すのはお互い得意だった。森の中の草木や木陰を利用しまるでカメレオンのように同化していく。
正面から立ち合うのではなく一瞬で確実に仕留めれる方法で狩りをする。それが二人のスタイルだった。
シャルルがタイガに合図を出す。
殺傷能力の高いタイガはトドメの一撃を、瞬足の足を持つシャルルが特効で先手を撃ち相手を切り刻む役目だった。
合図と供にシャルルが飛び出す。足音一つさせないのは、まさに獣人のハンターの特徴だった。
ーーーー 瞬足 ーーーーー
チーターの持つスキル瞬足の脚で瞬く間に間合いを詰められたマウントゴングは闘う用意も覚悟も何も出来ていないかった。
「ヴホォォ!!」
「戦う間も与えないよ!!」
二本の剣を腰から取り、構えの整っていないマウントゴングに向かって容赦なく振り翳す。
ーーー 双剣百乱舞 ーーーー
ババババババババババッッッ!!!!!!!
桁違いに速い二本の剣から放たれた乱舞は、一瞬のうちに百回、相手が切り刻まれるまさに超高速連撃だった。
この技を使えるのはこの世界でチーターの獣人のシャルル一人だけの強力なオリジナルスキルだった。
マウントゴングの反り血がシャルルの身体中ににかかる。
骨も肉も裂け、反撃すらろくに出来なかったマウントゴングは力なく崩れ落ちていく。
その横からタイガが喉元に襲いかかる。
「ガァォォッッッ!!!!!」
「ヴゴ……ゴホホ…ホ……」
間接も肉もズタズタに引き裂かれたマウントゴングはタイガを引き剥がそうとするが、その剛腕も虚しく腕を動かすことなく力尽きた。
無事に狩りを終えた二人は必要な分だけ食材とギルドに必要な核だけをを取りだし後にする。
狩り場から三時間程しばらく歩いて二人は森からは街道に出てきた。
街道まで出ると魔物にあう遭遇率は極端に減る。
魔物や動物は人間達が作った人工物は好きではないのだ。
そしてシャルルはロザリアに着く前に反り血を浴びた身体を洗うためロザリアエンヤ湖に来ていたのだった。
木陰で服を脱ぎ、全裸になって反り血を浴びた身体を洗い流すシャルル。その身体は17歳の獣人にしては小さく、大人の獣人達と比べても小さかった。
人間と比べると獣人達は成長が早い。
人間よりも寿命が短い分、成長期も早く出来ているのだ。
シャルルの年齢は既に17歳で成長期が終わっており、これ以上成長出来ないことに内心シャルルはコンプレックスを持っていた。
獣人の大きさはそのまま強さに直結するからだ。
小さい身体には似つかわしくない成長した胸。
それと小さい肩幅。戦うには自慢の脚以外どれも非力で必要のないものだった。
身体を洗い流すのを終え木陰に戻ったシャルルは油断をしていたのか何かの気配に気付かなかった。
何かが近くにいる。だが分かる事は魔物ではない。
タイガも側にいるが警戒していないからだ。
人族か、獣人かは分からないが、身体の大事な部分を手で隠し、物音のした方に私は叫ぶ事にする。
「誰だっ!?」
すると少し先の水辺の方から一人の人間が姿を表した。
目線を外しながら、なにやら言い訳をしている。
私はまだ裸で服を着ていない。
相手に敵意がある場合反撃しないといけない。
流石の私でも裸のまま戦うには抵抗もある。
一応結婚前の一人の女の子だから。
恥ずかしさよりも追い払って欲しくてタイガに声をかける。
「タイガ!!」
私はタイガに威嚇して来るように指示を出す。
普段ならタイガは何かが近付くと一番早く気付き私に教えてくれる。
魔法つかいが使うサーチよりも、獣である私たちが他の種族より優れている超感覚の一つだからだ。
しかしこの時はなぜかタイガは反応しなかった。
仕方なく相手に向かうタイガ。
足取りは追い払う姿勢ではなく、仲間に会いに行くような警戒心の欠片もない。どういう事なの。
「おぉ? ホワイトタイガー大きくて格好いいね」
近くに行ったタイガにその男は、逃げる様子もなくタイガを撫でている。
それどころかタイガも心地良さそうに撫でられている。尻尾も左右に揺れ機嫌が良いときの状態だ
そんな嘘だ……。
タイガは私と家族以外でなつく者はいない。
それは希少種であるタイガーが、元々獰猛で単独主義者の誰にも媚びたりしないプライドの高い獣だったはずなのに。
「………」
向こうには敵意はないみたい。
私は下着を身に付け。服を着る。
無防備な姿でいるのは恥ずかしさよりも落ち着かないから。
着替えを終えて相手に近付くシャルル。
一発平手で叩いてやろうと思ったからだ。しかし近付くと不思議な感覚に陥る。
今まで色々な種族の者を見てきた。
人間も同様で色んな人と話してきた。
何も感じた事なんてなかったのに。
それなのに心地いい感覚。
何処か仲間のような家族かのような安心感さえ覚える。
これにタイガは惹かれたの。
怒る気さえ忘れ、男の前に立つシャルル。
こんな気持ちは生まれて初めてだった。
「……あなたは?」
『俺の名前はユウキ。キラキラサーカス団の一人で世界を旅をしているんだ』
そう聞いた彼女は少しだけ落胆する。
もしかしたら冒険者でいつか私達とパーティを組むかも知れないと頭をよぎったからだ。
現実的に考えユウキとは旅のサーカス団の一人。
これ以上交流が深まることは考えずらい。
「私はシャルル。 ロザリア王国のギルド登録の冒険者なの。 あの……さっき見た事は忘れて欲しい』
「あ、うん。 ごめん。 キレイさっぱり忘れるよ。 シャルルちゃんはロザリア登録なんだ。 俺もロザリアに向かっているんだ」
「そっか。 なら街の中で会うこともあるね。 機会があればサーカス見せて貰うね」
私はそうユウキにいい背中を向ける。タイガにも行くよと声をかけて歩き出した。
タイガは名残惜しそうにその場を離れる。
私も同じ気持ちだった。
会ったばかりの人間で、会話も一言、二言しか交わしてもいないのにこんな気持ちになるのは何故なんだろう。
シャルルが何度も考えても分かることではなかった。




