7日目・・・ 運命のラストチャンス 取り戻せ未来。
カレンダーもついに残り1枚になりましたが、七夕だの、花火大会だのでお送りしております…って前にも書きましたね、どうも仁咲です。
いよいよ物語もリアルな夢の最終日まできました。
でも、ここで終わりではありません! 7日目のあともう1章続く予定です。
さぁ、令和元年中にゴール出来るか?…というよりしたいです。
今回は、颯太たちは根本的なことを忘れていて、少し迷います、
根本的なこと、みなさんはお気づきですよね。
ベタなお話ですが読んでいただけたらうれしいです。
「……あれっ」
「目が覚めたかハヤト、体調はどうだ?」
「ああ、問題は無さそうだ、ありがとう トモ」
気がついた俺は智仁の車の後部座席に座っていた、なぜか智仁もその隣に座っていた、
どうやら俺は 気絶していた間、智仁の肩を借りていたらしい、
俺のせいで動けなかったからか 智仁は携帯電話でゲームをしていたようだった。
「少し顔色が悪くないか、もう少し休むか?」
「そうか? 確かに目覚めたときはちょっとだるいけど、たぶん平気だ」
後部座席で二人、俺が気絶していた間のことを話していた、
智仁の話によると、打ち合わせ通り智仁は俺を背負い車に戻った、
そして後部座席に座らせたのはいいけど、てこずって座らせ方を直しても変に倒れてしまう、
それで肩を貸したという内容だった、気絶していた間はだいたい30分ぐらいだろうか。
「もう動けそうか? なら 移動するか」
「うっ、うん」
「なんだよ、なんだかやけにおとなしいな」
体調を確認するためか智仁が俺の頬に触れた、
歯切れの悪い返事しかできなかった、まぁ、たぶん体が動かしにくいからだろうけど、
なぜか頭のなかに朝の光景が、 智仁に〝女子だな〟と言われた時の光景が浮かんでいた。
人の体温を感じる…、医療行為以外で こんなに直接 人と接触したのは久しぶりかも知れない、
よく考えてみれば、事故のあったあの日から、しばらくは人と直接話すこともなかったし、
普段の生活に戻っても、仕事以外のコミュニケーションといえば ほとんどがネットだ、
誰かと飲んだりしても、どこか人との接触を避けていたかも、せいぜい握手ぐらいか?
なら俺 “彼女なし” を通り越して “ぼっち” ってことじゃん、拓哉のことは言えないな。
「行けるか? なら 行こうぜ 待ち合わせのカフェへ」
智仁は運転席に移動して車を発信させるとカフェの駐車場へ移動を始めた。
その間 俺はぼんやりと考えていた。
駐車場に着くと智仁は、あっという間に車を降りてわざわざ反対側に回ってドアを開けた、
俺がまだボーッとしてるように見えたのか、智仁は様子を見ながら手を差しのべた。
「俺、“ぼっち” じゃなかったんだな」
「なんだよそれ 行くぞ ヒメ」
「だからヒメじゃないって」
智仁は “にかっ” って漫画の吹き出しが出そうなぐらいに楽しそうに笑ってた、
ちょっと迷って俺は智仁の手を取った、俺にはこんなに頼もしくも面白い仲間たちがいたんだな、
友達とか親友とか口では言っていたけど、本当のことに気がついてなかったんだな 俺。
車を降りた俺たちは扉を閉めて、そのまま二人で待ち合わせのカフェに向かった。
「いらっしゃいませ、お二人ですか?」
「すみません、待ち合わせをさせてください、来たら計四人です」
「俺はちょっとトイレ、すみません 先に借りたいのですが」
俺たちの話を聞いてそれぞれに女性店員は場所を案内した、智仁はトイレに、
そして俺は店員のあとについてテーブルに向かって…、また あの人形が目に入った、
その姿を女性店員に見られていたのか、席に着くと声をかけられた。
「気になりますか、あの人形」
「えっ」
「あっ 失礼しました、でも 以前いらしたときに 確か気にされていたと」
「そうでしたね、最近バタバタしてて、今 見てたら思い出しました」
「あれ、もう注文しちゃつた?」
「いいえ まだですよ、こちらへどうぞ、今 お冷やお持ちしますね」
智仁がテーブルにやって来た、まただ、人形の話の途中で女性店員は厨房の方に戻っていった、
智仁は俺の向かい側の席に腰かけると さっそくメニューを俺にも見えるように広げた。
「あの人この間の人だな、で、何を話してたんだ?」
「気になるか?」
「別に、お前が俺の彼女ってわけじゃないし、こういう店は彼女と来たいわ」
「あっ、それカズも言ってた」
「そうか、…で、なんの話だったんだ」
「やっぱ気になってんじゃん」
「いいから、教えろって」
「ご注文はお決まりですか?」
まるで二人の話の腰を折るように 先ほどの女性店員が水を持ってきた、
俺たちはあわててメニューを見直し、ドリンクを注文した。
「デザートはいいのか?」
「さっき食べたからな、ちょっと自粛するわ」
いつも必ずなにか食べる智仁がドリンクだけどはね、また二人になって話を続ける、
目の前の智仁は頬杖をつきながら 反対の手の人差し指でトントンっとテーブルを叩いている、
食べらないから? それとも 話の内容を教えてくれないから? ちょっと不機嫌そうだ、
なんかこれってデート中の痴話喧嘩みたいだな。
「お待たせいたしました、アイスビーチティーとレモンスカッシュです」
手早く女性店員が飲み物を俺たちの前に置いていく、俺たちはその光景を眺めていた、
すると今度は女性店員から話しかけてきた。
「先ほどは お話を邪魔してしまいましたか?」
「いいえ、大丈夫ですよ」
「そうですか、それならよかったです」
「俺たちの話って、さっきの人形の話ですから」
「人形の…ですか?」
俺は智仁の不機嫌をなだめるように、疑問の答えを店員と会話することでさりげなく教えた、
まだ一眞たちが来るまでには時間がある、俺もヒマつぶしに人形のことを聞いてみたかった、
俺の言葉を聞いて女性店員はその場で立ち話をはじめた。
「あの人形、あの時計台にあった話を 確かしましたよね」
「ええ、あの事故の日にキズがついたとか」
俺たち二人は店員の話を、途中 飲み物を口にしながら聞き入っていた、
話の内容は店員さんの祖父の話だった。
「あの人形は私の曾祖父、あの時計店の初代オーナーがとても大事にしていたものでした、
曾祖父は当時としては珍しく海外に行き、弟子入りして時計職人の技術を学びました、
祖父はその曾祖父から技術を学び、曾祖父が仕事を辞める時、あの店を受け継いそうです、
時計台は曾祖父がの最後に手掛けた仕事で、そこに大切なあの人形をいれたそうです」
あの時計店ってそんなに前から営業していたんだな、
古くから…とは思ってだけどそんなにとは、全然知らなかった。
「晩年 祖父は、あの人形を何故 大事にしてるのか 曾祖父に尋ねたことがあったそうです、
その問いに曾祖父は、『自分がいなくなったあともこの子が寂しくないように、
たくさんの景色を見せて、たくさんの笑顔に囲ませてやりたいんだ』 と
そんなふうに語ったそうです、曾祖父の語るその姿は
まるで 大切な人への願いのようだった そう感じたと言っていました。
結局、曾祖父からは その人形をなぜ大事にしていたかは語られなかったんですが、
曾祖父がそんなに大切にしているならと、祖父はずっと時計台を守り続けて来たんです」
「だけど、あの事故で壊れたんですね」
「はい、事故後 時計台を直したんですが、肝心の時計が動かなかったんです」
「おじいさんは直せなかったんてすか?」
「ええ、残念なことに、交換パーツが簡単に用意出来ないことも理由の一つですが、
とても造りが複雑で 祖父では太刀打ちできなかったそうです」
職人技というのはすごいんだろうな、あの時計台がそんなに長く動いてたことにも驚いた、
「なら、中身の時計部分を全部新しいパーツに替えれば済むんじゃないの」
「私にはよくわかりませんが、新しいパーツではからくりが動かないかも知れないと」
「じゃ、外観だけ残して中身を全取り替え? それじゃ かなり大がかりか…」
あのままにしておくのはもったいないし、でも直せないなら仕方ないのかもな、
でも、確かにその通りだ、智仁の意見は もっともだった。
「たしかに大がかりですが、当時 事故の保証で、時計台の作り替えも出来たそうです、
でも祖父いわく、『たぶん曾祖父の技術あっての時計台なんだ』と、
祖父なりにですが、簡単に現代のパーツ替えるのは
何かが違うと感じがしていたのかもしれません」
「思い入れのある時計なんですね」
「今でもたまに直そうとしていますよ、でも、この人形を閉じ込めるのは可哀想なので」
「それでここに置いたと」
「はい、事故後は家に置いていたんですが、ここなら時計台も見えて寂しくないかなっと」
ランチタイムも終わり夕方に近づいたせいか、店内は比較的 落ち着きを見せていた、
ゆっくりと話を聞くことができるぐらいに。
つい長話をしてしまったと、女性店員はちょっと反省し頭を下げると厨房の方に戻って行った。
「あの時計店 そんなに長く営業してたんだな」
「俺たちが生まれる前からあったもんな、それでさハヤト、その人形ってどれ?」
「知らなかったのか、ほら、あの窓だよ、あそこでこっちに背中を向けているの」
俺は時計台の方に面している窓を指差し 背中を向けている人形のことを説明した、
智仁は立ち上がるとその人形を見に行った。
俺は目の前のドリンクのストローに口をつけた、
ちょっと体がだるかったし、話を聞きながらはどうも飲みにくかった、
ドリンクの中に入っているのは ハチミツか? 身体にしみわたるようだ。
気絶した後は どうも疲れるというか、喉が渇くと言うか、よく寝てるはずなのにな、
人形を見終わったのか智仁が携帯電話を片手にテーブルに戻ってきた。
「連絡あったぜ、駅に着いてこっちに向かってるって」
「そうか、あっちはどうだったかな、なぁ、トモこれからどうする?」
智仁は俺の目の前に座ると、氷の入ったグラスをストローでかき回してから一口 口に含んだ、
そして 一息ついて話はじめた。
「どうするかなぁ、俺、二人の話 スゲー聞きたい、できれば飲みながらとか」
「居酒屋とか? でもな結構 店内はうるさいからな」
「ホンとは、お前のおばさんのごはんが食べたいけどな」
「なら家にするか、頼めば…」
「だからだよ」
「えっ、なにが?」
俺の言葉をさえぎって、すぐに智仁はドリンクに口をつけた、その時、店内に客が入ってきた。
「いらっしゃいませ、2名様ですか?」
女性店員が出迎えに厨房から入口に向かっていった、入口で何か話をしているようだ、
それからまた一人で厨房に戻って行った。
「よっ、お待たせ二人とも」
「あっカズ、待ってたよ」
智仁たち二人が俺たちのテーブルにやって来て 荷物を空いたスペースに置いてから椅子を選ぶ、
んっ なんか拓哉げっそりしてないか? 一眞は智仁の 拓哉は俺の横に座った。
「失礼します、お待ち合わせの方 見えられましたね、ご注文はお決まりですか」
俺たちの挨拶そこそこのところで先ほどの女性店員が水の入ったグラスを4つ持ってきた、
俺たちのグラスの水もついでに入れ替えてくれた。
「かしこまりました、では しばらくお待ちください」
注文を受けると女性店員は 心なしか頬も赤くなり 嬉しそうに厨房に向かっていった、
なんだか厨房が騒がしいような気もするが…、う~ん 恐るべしイケメンパワー。
当のイケメンと言えば、顔を上げて店員とやり取りし、注文を かろうじて したあと、
げっそりを通り越して、魂の抜けたよう顔をしてからうなだれ下を見ていた。
「拓哉、お前さぁ 昼メシ食べてきたんじゃないのか 腹 減ってるのか?」
俺は尋ねた、みんながドリンクのみで済ませている中で、拓哉だけデザートを注文したからだ、
なんだか下を向いてげっそりしてるのに、注文はしっかり頼んでるのがちょっと不思議だった、
その俺の声に反応するかのように拓哉はガバッっと顔を上げて俺の方にかるく体を向けた。
「颯太さん、助けて、約束通り助けてください」
今まで心ここにあらずだったのか? 今はさながら、“く~ん”って鳴いて
構ってほしくてじゃれる子犬ように、俺の肩辺りを両手で軽く揺すりながら助けを求めてきた、
うっすらだけど涙が見える、
そんなに見合いの顔合わせがイヤだったのか、部長の娘 激ヤバな感じとか?
「ハイハイ、俺に出来ることはするから、後で話そうな」
俺は拓哉が触れてる側とは反対側の手で拓哉の頭を まさに 撫でてやった、
あ~なんだか子犬を撫でてる気分だ、それに安心したのか、拓哉は体の向きを元に戻した、
見える、俺には見えるぞ、耳がピーンのしっぽブンブン、なんだかスゲーかわいいな。
「お待たせ致しました、ケーキセットとアイスカフェモカです」
「あっ、モカはこっちです」
一眞が手を挙げた、女性店員がトレイにのせた注文の品を ぎこちなく テーブルに並べていく、
そう ぎこちなく、おそらく厨房用の白いコック服を着た先ほどとは別の女性店員が来たのだ。
俺の言葉に安心したのか、ケーキが嬉しいのか、拓哉はその店員にニッコリと笑いかけている、
俺はそれを少し冷めた感じで見ていた、きっと二人も俺と同じようなことを考えてるだろう。
〖自覚ないってコワっ、まさにキラースマイル、イケメンパワー 恐るべし…〗
女性店員はさっきの店員のように頬を少し赤らめながら厨房に帰って行った、
完全に厨房に戻ったな…、また厨房の方が騒がしくなったようだ、ホンと罪作りなやつだ。
「なぁ 拓哉、一口くれよ」
「いいですよ、じゃ、先にどうぞ」
やっぱ食べたかったんだな、智仁はすかさず一口をねだっていた、拓哉は食べさせるのではなく、
フォークと皿ごと智仁に渡した、智仁も取りすぎない程度に一口をもらって満足そうだ、
拓哉はセットのアイスコーヒーを一眞もアイスカフェモカを飲んで一息ついている。
「なぁ、拓哉、やっぱお腹すいてるのか」
一口を頬張ったった智仁は拓哉に皿を返すと、さっきの俺の質問、俺との話の続きを話はじめた、
拓哉は皿を受け取り、すかさず一口ケーキを食べてから またちょっと暗い顔を見せた。
「いえ、さっき食べたんですけど、なんか味がよく分からないし、急に甘いものが欲しくなって」
「味が…なんて、なんだかホンとの見合いみたいでいいじゃないか…って、凹むなって」
「電車の中でもこんな感じでさ、で、どうする、俺 ちょっと疲れたわ」
「すみません、一眞さん」
拓哉は申し訳なさそうな顔をした、あの病院での爽やかイケメンはどこへいったのか、
もうすっかり俺たちの仲間になったんだな拓哉。
「そう言えばハヤト、おばさんにお土産買ってきたよ」
「えっ、お土産って 何?」
「続けてで悪いけどケーキだ、なんか限定品らしい、後輩が教えてくれたんだ」
「後輩?」
「その話は報告の時にな、今日もハヤトの家に行っていいか?」
「ちょっと待った」
“俺の家に行く” で話がまとまりそうだったのに、一眞との話を止めたのは智仁だった、
そう言えばさっき〝ごはん食べたいけど…〟とか言ってたなぁ。
「えっ、どうしたトモ」
「さっきハヤトとも話してたんだけど、あんまり頻繁にご馳走になるのはどうかと」
だからさっき話の途中で俺の言葉をさえぎったのか、ここ1週間は人の出入りが多かったもんな、
でも、一番 母さんの手料理を食べたのは智仁だろ、お前が言うのか? って感じだけど。
「別に、母さんなら喜ぶと思うけどな」
「だけど頻繁には大変だろう」
「どうかな、大丈夫じゃないか 母さん騒がしい方が好きだし」
「ものは相談なんだが…」
美味しそうにケーキを食べていた拓哉も、話を聞いていた一眞も、一瞬 動きを止めた、
智仁の相談を聞いて、それから俺たちが出した答えが…。
「あ~、すごく可愛いよ、可愛くてたまらない」
なんだかんだ 俺の家に 全員で集合 になった。
ただ、なぜが 本物の柴の子犬 が全員のなかに含まれるている。
カフェで母さんに電話をした後 俺たちは、わりとすぐに会計をして集まったんだが…。
これは狙って? いや、絶対 天然だ、またも 拓哉がキラースマイルで何人かの女性客と、
女性店員をノックアウトするのを、俺は冷めた目で見ていた。
二人もまた俺と同じような顔をしていた、多分 似たようなこと考えていたんだろう。
〖子犬のようなスマイル、天然イケメン恐るべし…〗
しばらくはこの店に来たら 俺たちでも人気者になるかもしれないな、拓哉のこと聞かれて。
店を出てそれぞれ必要な準備を、そして、母さんさんたちへのお土産を持って集合になった、
一眞と拓哉は買い出しに、智仁は後輩のとの約束を果たしに、
そして俺は、一眞のお土産を持って一足先に母さんに説明かねて先に帰宅した。
そもそも俺たちが、俺の家に行くこととなった決め手、カフェでの智仁の〝ものは相談〟とは…。
「それがさぁ、後輩の 子犬 を預かる約束をしちゃって、だから俺んちにしない?」
「トモ だからお前 この間 俺に部屋を片付けさせたのか」
「いや、偶然だって、ぐ・う・ぜ・ん」
「なんで 子犬を預かることになったんだ?」
「それが… 休みを取るために ちょこっとな」
智仁は一眞の追及に苦笑いをしていた、どうやらこの有給を取るために交換条件をのんだらしい、
その条件を出した相手が この子犬の飼い主 智仁の後輩だった。
「じゃあ その後輩にとっては渡りに船だったんだな」
「あぁ、ペットホテルも結構するらしい」
なんでも その後輩のアパートが緊急で改修工事をすることになったらしく、
ホテルは手配してもらったが、ペットがダメで、それであわてて預ける手配もしたら、
預ける相手にドタキャンされて困っていたらしい。
まぁ、俺たちとしては話さえ出来ればどこだって構わないのだか、
俺が外泊となると、乱闘騒ぎのあとだけに、さすがに両親は快く思わないだろう、
で、一応、外泊連絡がてら母さんに電話を入れてみたところ…。
「あ~、すごく可愛いよ、可愛くてたまらない」
「抱っこして写真とりますか、おばさん」
「撮って 撮って、智仁くん、ねぇ、お父さん 家でも飼わない?」
「家は颯太の面倒だけで十分だ」
「ちょっと、父さん…」
と、こうなった訳である。
そういえば、カフェで電話したときも、母さんは子犬という言葉を聞くとすごく興奮していた、
それはもう電話越しなのに鼻息が聞こえるんじゃないか ってくらいに、
心なしか父さんの目尻も下がっているようだ。
今度は 本物の子犬が両親をノックアウトするのを 俺たちは見ることにもなった。
その子犬が なぜか急にスマイルの覚醒した拓哉の元に行ったようだ、拓哉が抱き上げる、
なんだか拓哉の側に行った子犬が耳ピーンんとして誇らしげに見える、
見える、俺には見えるぞ 拓哉も、耳ピーンのしっぽブンブンが、もう仲良しだな。
ああ、どさくさ紛れて母さんが写真を撮っている、さながらモデルを撮るカメラマンように、
ありがとう、智仁の後輩くん、そして子犬、両親もご機嫌、母さんは完全にノックアウトだ。
手分けをする必要もなかったかな? まぁいいか。
アレだけ騒ぎが続いてるし、しかも 何回もみんなが泊まりに来ている、
俺たちは一応 警戒して、ご機嫌をとる準備を手分けしてしていた、
母さんたちへ準備したもの、それは一眞の手土産と、食料 と 労働。
「なぁ、拓哉、ご飯まだ、俺 腹へったよ」
「あっ ごめん智仁さん、つい 子犬が可愛くて、すぐに仕上げるね」
拓哉は一度リビングを出てから、キッチンに戻って来た、どうやら手を洗ってきたらしい、
ん~ 律儀だな、そして料理を再開した。
それにしとても一番最後に着いた智仁が腹へっただからな、
ホンとドンだけ食い意地が張ってるのか。
全員のが揃ったところで俺たちは、手分けして今夜の宴の準備を始めた、
拓哉はキッチンで料理、一眞はリビングでテーブルセッティング、智仁は子犬の寝床づくり、
俺は二階の自室に戻りあいつらの寝具を準備することになった。
荷物を持って部屋に戻る、部屋に入りベッドサイドに荷物を置いて改めて部屋を見る、
ベッドぐらいはキレイになっていたけど、部屋はほとんど出かけた時のままだった、
今朝、この夢の話を 俺があまりにもぶっ飛んだ告白をしたときのままだった、
俺、過去でちゃんとやれたかなぁ…、明日は うまくいくだろうか? ふと思ってしまう。
ちらかしたままのテーブルの上を、飲みかけのカップやペットボトルをまとめて、
ノートパソコンはデスクに戻して…、
嫌でも目に入った、過去を封印した収納箱が朝のまま置いてあった。
あの書類やメール 今はどうなってるんだろう、さっき書いたメモ書きは、指輪は…。
すごく気になった、そういえば過去にダイブしてから過去のこと確認していない、
マスターの記憶だって変わっていたんだ、もしかしたら箱の中身も…。
「いや、止めておこう」
デスクの収納箱の蓋を少し開けて、そのまま蓋を戻した、見るのが怖いのもあるが、
もし万が一、みんなの記憶が俺の記憶と違っていたとしても、また説明すればいい、
あんな無茶苦茶を信じてくれた仲間だ、絶対また信じてくれるだろう。
「さっ、布団を用意って、あいつら今夜は寝るのかなぁ」
なんだかんだ報告が盛りだくさんだもんな、今夜も長くなりそうだ。
それから俺は用意出来るだけの来客用の寝具とかを持ってきて、
片付けられるだけ片付けてから、カップやゴミを持って部屋を出てリビングに向かった。
「母さん、これ頼むわ、 あとさ、来客用の布団 借りたよ」
「そう、干しておいて良かったわ、こんなにすぐ、みんなが来てくれるなんて」
俺は手に持ったカップを母さんに渡した、母さんが流し台のところにいたからだ、
どうやら料理は拓哉が担当しているらしい、キッチンで並んでまるで息子と料理…と思ったら。
「お母様、これ 味付けはどうですか?」
「えっ、どれどれ、あっ すごく美味しい、ホンと拓哉くんは料理上手なのね」
「そっ そんなことはないですよ、僕、お母様の料理 大好きですし」
「あら、嬉しい、でも 颯太も誉めてたのよ、『もう嫁レベルだ』って」
「えっ “嫁レベル” ですか? それは嬉しいな、でも、僕は 男 ですよ」
「そうよね、でも拓哉くんてば、イケメンなのに意外に女子力高いんだもん、
お嫁さんと話してる気分になっちゃって」
「ちょ、ちょっと 母さん」
ついこの間まで、この手の話には 微妙な反応をしていたのが拓哉が、
なんだか爽やかなスマイルを繰り出し手慣れた感じで切り返しをしている、
なんだ? やっば なんか覚醒したのか? 俺が過去に干渉したせい…な訳ないよな。
嫁、姑の話には息子が入らない方うが幸せかも、誰かそんなこと言ってたっけ、
仲がいいから ちょっと意味は違うかも知れないけど、俺はその場を退散した。
リビングのテーブルは前回同様に来客用のテーブルが出されていた、
智仁の部屋の一部を使った子犬の仮小屋づくりも終わったようだ、
覗き込んで見ると、家にあったペットボトルの段ボールをもらったのか、
段ボールとペット用のキャリーケースを使って、
器用に床や壁を汚さないように囲いを作ったようだ、ご丁寧にペットシーツが敷いてある、
子犬はさっきの状態よりは落ち着いているようだ、ただ…。
「なぁ トモ、これじゃ高いから圧迫感がないか?」
「ん~ さすがにネットやゲージはないからな、急に飛び出すよりはいいだろ」
そんな話をしていたら、父さんが風呂から上がってたことを俺たちに伝えに来た、
〝夕飯が出来たら呼んでくれ〟と言い残してリビングを離れていった。
拓哉はまだ料理中、俺たち三人は順番に風呂に入ることにした、まずは智仁が風呂場に向かった。
一眞と二人 残りのテーブルセッティングを始める、皿とグラスと…、後は…。
「母さん、テーブルには、後は何を用意すればいい?」
「人数分の食器を出したら 颯太、ホットプレートプレート出しておいて、大きい方の」
「ああ、来客用のね、わかった出しとく」
智仁がリビングに戻ってくる頃にはテーブルの準備も終わった、
入れ替わりに一眞がリビングを出た、智仁は戻るなりダイニングの椅子に腰をかけた。
「はぁ~シャワーだけなのに、やっば夏だな、早く飲みたい」
「とりあえず これで我慢してください」
キッチンからカウンター越しに拓哉が冷たい麦茶を差し出している、
俺もついでに飲み物をもらい智仁の側でたったまま喉を潤した。
「なぁトモ、あの子犬のメシはあるのか?」
「あっ そうだった、とりあえず、水はやらないとな、飼い主から預かったんだ」
智仁はグラスの飲み物を少し飲んでから椅子から立ち上がると自分の荷物のところに向かった。
「ごはんは終わってるんだってさ、さぁ 喉乾いたろう」
囲いの中の子犬にペットの水をあげてみた、美味しそうに飲んでいる、可愛いなぁ、
水からから離れた子犬を思わず抱き抱え頭を撫でる、あれっ なんだか最近…、
そうだ、拓哉の頭を撫でた時だ、なんとなくそんな感じがする。
「なぁ トモ、この子犬の名前はなんて言うんだ?」
「えっ 名前、えっ~っと 聞いてなかったわ」
「はぁ~」
「そう言えば アイツのモテ話ばっか聞かされて、イラっとしてたら聞き忘れた」
「トモ~、まぁ お前らしいけど」
何でも後輩くんは犬好きで飼い始めたらしい、
すると、とたんにモテ期到来 彼女持ちになったらしい、
今夜はデートだそうだ、確かにそんな自慢は要らんよな うん。
「あっ 颯太、これが使えないか?」
「えっ 父さん、わっ ちょっと」
待ちくたびれたのか父さんがリビングに戻って来た、と思ったら、
手にはアウトドア用の小さめな蚊帳を持っていた。
それよりも驚いたのは抱き抱えていた子犬である。
「なんだか急に この子犬が急に動きだしたんだけど」
「急にって、何かしたのかハヤト」
「わっ また、なんで?」
「…かして…、 あっすみません、おじさんこれホントに使っていいんですか?」
智仁は何かをつぶやいてから、父さんから蚊帳を受け取り広げてみている、
蚊帳は穴が空いていて修復しないと使えないらしく、処分か考えていたそうだ。
「おじさん、ありがとうございます、なんとかなりそうです」
「ああ、構わないよ、私も触っていいかな」
「はい、どうぞ、ハヤトいいか?」
「あっ また、耳がピーンってなってる」
俺は父さんに子犬を手渡した、それにしてもずっと子犬って言うのもなぁ…。
「おじさん、そのまま押さえていてくださいね、行くぞ、ハヤト、ハヤタ、ハヤテ」
「………ワンっ」
「…いったいナニをやってるんだね、智仁君」
「名前を聞き忘れてしまって、多分 ハヤテだ、なぁ、そうだよなハヤテ、
おじさんも呼んでみてください」
ちょっと唖然とした父さんだったが、子犬を床におろすと少し離れて子犬を呼んでみた。
「おいで ハヤテ」
「ワンっ」
「おっ~」
名前を探り当てた当の本人、智仁が一番驚いているけど、名前があった方が呼びやすいよな、
駆け寄られた父さんは…、今度の休みあたりにペットショップに行きそうな勢いだ。
父さんからお古の蚊帳をもらった智仁は子犬を父さんに任せて子犬の仮屋の手直しを始めた。
「あれっ トモ 子犬の寝床作り 終わったんじゃなかったっけ?」
「ああ、カズ、おじさんに良いもの借りたんだ、手伝ってくれ」
「ふ~ん なんかよくわからんが、とにかく次はハヤト 行ってこいよ」
父さんにお礼の一言をかけて一眞が風呂からリビングに戻って来た、俺に次を伝えると、
智仁の言葉に協力を始めた、俺は二人とメロメロの父さんを置いてキッチンに向かった。
「母さん、そっちどう? 拓哉は風呂どうする? なんなら変わるけど」
「お母様、どうしますか?」
「颯太じゃ物足りないけどなぁ、拓哉くんも疲れたでしょ」
「じゃ、お言葉に甘えて…」
その言葉を聞いて俺はすぐに手を洗いに行った、
キッチンに向かうすれ違いの廊下でこの後 何をするか聞いて拓哉を背中を見送った、
さっきのカフェでは落ち着かなかったけど、もう大丈夫そうだな…、
案外 見合いも平気だったんのか? って、そう思うほど拓哉は普通に見えた。
「母さん、何を手伝う?」
「じゃ 洗い物と盛り付けやって、母さん料理を仕上げるから」
拓哉がかなり手際がいいのか洗い物は少なかった、とはいえないわけではない、
流し台で俺は洗い物を始めた、隣で母さんは料理を分けたりと忙しそうだ。
「それで颯太、今朝の拓哉ちゃんの話ってどうなったの?」
「今朝の話って、いや それより拓哉ちゃんってなんだよ 母さん」
「あっ、間違えちゃった、なんだか、樹のお嫁さんの時のように感じちゃって つい…」
「義姉さんと全然タイプが違うじゃん」
「そう、拓哉ちゃ…、じゃなくて拓哉くんの方が可愛いぐらいよ、で…、どうなのよ」
「俺は聞いてないよ、でもホンと、あんまり騒がない方がいいんじゃない」
「あんなに楽しそうにしてたし もしかしたら おめでたいかも知れないじゃない」
「何のために一眞が付き添ったんだよ、さっき電話でカフェにみんなでいるって言ったろ、
その時は可哀想なぐらいげっそりしてたよ、そっとしてやりなよ」
「そうなの、じゃ 聞くのは我慢しよう、絶対 聞いたら教えなさいよ颯太」
調理に使った道具を洗いながら母さんと話をしていたら、
〝拓哉ちゃん〟って、いったい 何をやったらそうなるんだ?
それにしても、兄さんのお嫁さんもキレイな人なんだけどな、
なんで拓哉の方が可愛いになるんだ? 拓哉が聞いたらきっと驚くだろうな。
でも、母さんにしてはすごく我慢したんだな、本人に直接、朝の話を聞かなかったんだから。
「でもホンと、拓哉くん、その辺の女の子よりずっとお嫁さん向きみたいね、料理すごく上手」
「だろ、スゲー美味かったもん」
「拓哉くんにその話したら喜んでたわよ 颯太」
「話したの?」
「そうなのよ、それでね 颯太」
「なんだよ、急に真面目な顔して」
「拓哉くんが颯太をもらってくれるなら母さんは大歓迎よ」
「…さらっと爆弾発言しないでよ 拓哉に嫌われるよ 母さん」
ここに拓哉がいなくてよかった、どんな反応を… んっ? どうだろう。
まぁ、冗談もほどほどにしないと いい加減 拓哉も怒るよな、
料理も少しづつ出揃ってきた、テーブルに出来たものを運ぼう、
まさかこんなに早くみんなで集まれるとは思っていなかった。
「お母様、先にお風呂頂きました、次、颯太さんどうぞ、僕 代わります」
「あぉ、じゃ頼むわ、よろしく」
二人を残して俺は風呂に入ることにした、拓哉と交代するようにキッチンを出る、
着替えを取りに自分の部屋に入ってすぐに風呂場に向かった、早くしないと待たせるからな、
脱衣場で包帯を取り、ガーゼを外して、服を脱いでカゴへ…、鏡に映る俺の姿が目に入った。
「あと、1回か…」
なんだが今が楽しくて、さっきまでの事が霞んでいくようだった。
あれだけ俺を悩ませた続けた過去、その原因の1週間が、苦しんだ七年間が、
もしかしたら明日で無くなるのかも知れないって時なのに、俺、何がしたいんだ?
鏡に映った俺の顔を眺める、鏡の顔に触れてみる、そして今度は 反対の手で自分の顔に、
あの夢、いや、ダイブした過去の俺がやった時のように、今度は間違いなく俺の顔なのだが、
毎朝 見ている、いつもの顔、幼さが抜けている社会人の顔、香織さんのような大人な顔、
そして…、その顔は 今の香織さんが知らない顔。
俺の時が止まっていたように、いや 香織さんの時はそこで完全に止まっているのだ、
もし 本当に別の時が動き出したら、香織さんは俺のこの顔を見るのだろうか?
そしてその時、彼女は… 俺は…。
俺は手をおろして視線を鏡から外した、洗面台の水を出して顔を洗おうとして、その手を止めた、
そのまま鏡を見ることなくシャワーを浴びに風呂場に向かった。
「じゃ、全員揃ったところでいただこう、乾杯」
「乾杯、いただきます、あ~うまい」
「カンパ~イ あ~美味そう いただきま~す」
「乾杯、いただきます、皆さんのお口に合うといいんですが」
「大丈夫よ絶対、美味しいもん、じゃ乾杯、いただきます」
「ワンっ」
「乾杯、いただきます、って また俺だけ麦茶」
この家のルールを知らないはずの子犬 ハヤテ まで参加して宴が始まった。
週の半ばだと言うのにちょっとした騒ぎだ、明日が休みで感謝だろう、
前回はデリバリーや出来合いが多かったが、今回はがっちり手料理だ、
拓哉がいるお陰か、いつもとは違う感じに仕上がっている、
今日は多国籍な料理に縁があるんだな、
韓国料理を中心とした、焼き肉パーティーとなった、スゲー美味そうだ。
特に喜んでいるのが…。
「拓哉くんありがと、一度食べてみたかったのよね」
「いいえ、お役に立てて嬉しいです、でも意外ですね お母様が食べたことがないなんて」
「こういう流行りの料理とかあまり食べに行かないし、作り方がね どうも…」
あ~だからいつも流行が遅れて料理が出でくるんだな、スムージーの謎が解けたようだった。
「拓哉、ドンだけ頑張ったんだよ、いったい何品作ったんだ」
「えっ、何品だろう、なんか作ってるうちに楽しくなっちゃって、でも切っただけのもあるよ」
何品だ、父さんへの配慮か おつまみはあっさり系で固められている。
トマトと豆腐のサラダ? に、ビールにド定番の冷奴と枝豆、あとは、ナムルだっけ、
後はと言えば、母さんのリクエストなのかチーズがふんだんに使われている料理が、
韓国料理のチーズダッカルビがメインらしい、そのチーズを生かして焼き肉をフォンデュで
それだけじゃない、チヂミにあと、これなんだっけ。
「なぁ拓哉、ご飯はキンパだけか? これだけじゃ足りないよ」
「智仁さんならすぐにご飯かなぁって思って作ったんですけど、
もちろんご飯もありますよ、でも焼き肉のシメのご飯もいいかなぁって思うんですが」
「なぁ、拓哉、ビールに合いそうなつまみ他にできないか?」
「えっ、そうですね… こんなのはどうですか? 一眞さん」
どれだけくつろいでるんだよ二人とも、子犬ハヤテはもう食べ終わってると言うのに。
俺の思い出せなかったのが キンパ ってわかったことよりも二人の食欲が気になった。
拓哉は立ち上がると残ったチーズを持ってきた、そしてテーブルにあった野菜とかを使って
ホットプレートで焼いて、あっという間につまみを作った。
ホンと嫁レベル、女子だったらスゲーモテそう、いや、男でもモテてるか。
「ホンと、手際がいいわよね スゴいわ、颯太のお嫁さんに欲しいぐらい」
「もう酔われましたか? お嫁って 僕は 男 ですよ」
「でも女の子でもね…、家にはね 樹って言う颯太より上の息子がいるの、
もう結婚して家を出てるんだけど、そのお嫁さん…キレイでいい人なのよ、でも…、
キャリアウーマンって感じで、会話を楽しみながら料理って感じじゃないのよね…」
そして例の如く、一時間もすると…、
「拓哉くんが颯太をもらってくれたら安心よね お父さん」
「ああ、颯太のようないい加減でだらしないタイプには拓哉くんのような人がいいかもな」
「もう、貰うだなんて、お二人とも飲み過ぎですよ? 僕は…」
「本人が幸せなら 私は構わないと思うよ拓哉くん」
「ちょっと、父さん、絡みすぎだよ」
珍しく 父さんが言葉を遮ってまで母さんのような爆弾発言をしている、どうしたんだ二人とも、
智仁たちは… 全く聞いてないようだな、助けを呼べないが、絡まれることもないだろう。
父さんはそばによってきた子犬を抱き抱えると あぐらをかいた膝の上に乗せて話を続けだ。
「颯太はあの日から人と接するのを避けているように思えて…な」
「えっ?」
「そうよ、やっと外に出てくれたけのはいいけど、いつまでたっても彼女をつれてこないし、
それはモテないからもあるだろうけど、でも、人をここに呼ぶこともしなくなった」
「一眞さんたちもですか?」
「以前はあんなにお友達を連れてきたてのに、最近はこの家には親戚しか来てくれなかったの、
特に7月は…、とにかくこんなに賑やかなのは久しぶりなの、きっと拓哉くん達のお陰だわ」
「もう貰ってくれとは言わないです、
ですが、一眞くんたち同様に、こいつのことをよろしくお願いします、八代さん」
「……はい」
「ちょっと、父さん、母さん」
冗談だと思っていたのに、二人の言葉に 俺はそれ以上言葉が思い浮かばなかった、
こんなに、俺 この二人を心配させていたんだな。
父さんと母さんは拓哉に軽く頭を下げると、その後、母さんは拓哉の料理をひたすら堪能し、
父さんは子犬と至福のひとときを過ごし始めた。
「そろそろシメのご飯にしましょうか」
「シメ? メシ~ 待ってました」
「あっ、おじさん デザートがあるので」
照れ隠しのように黙り混んだ俺の両親をよそに、
まるで何事もなかったように、拓哉はシメの準備を始めた、
メシの言葉に即座に智仁が反応して一眞との会話を止めて俺たちの近くに戻って来た、
二人なら食い付きそうな会話だったのにいったい何を話していたんだろう。
「ふぅ~美味かった、ごちそうさま、やっと拓哉の料理 食べれたわ」
「そういえば智仁さんは始めたでしたね、口にあって何よりです」
「ホンと、こんなメシ毎日食えたらいいな、嫁に欲しいわ、家にこないか? なんてな」
「なんだか今日は 僕の女子力かな? スゴイ人気ですね」
「ダメよ智仁くん、拓哉ちゃんは家の嫁になるんだから、ねぇ~」
「えっ お母様、もう 今夜は酔いすぎですよ、お水 持ってきますから」
母さん 酔ってるのか、突然 母さんが拓哉に絡んできた、拓哉は立ち上がると、
母さんをもとの席に座らせてからキッチンに水を取りに行った。
「なぁ、ハヤト、おばちゃんの〝拓哉ちゃん〟ってどうしたんだ?」
「あ~、拓哉は俺の嫁候補だったのに」
「あ~もう、母さん…」
頭を抱えるまではいかないが、俺は額の辺りに手を当てた、こりゃ参った、またいじられる。
拓哉が母さんに水を渡して俺たちのそばにやってきた、
額に当てた手のお陰で とりあえず二人から離れる理由を思い付いた。
「『拓哉ちゃん』って、ホンとお母様、酔ってしまったんてすね、悪酔いしないといいけど」
「なぁ、拓哉、さっきさぁ おば…」
「拓哉、これ頼むよ」
「えっ 包帯、いいよ 救急箱ある?」
「あぁ、持ってくる」
俺は言葉を遮って立ち上がりその場を離れた、
確か救急箱は2階にあったはずだ、すぐ取りに向かった、
部屋に戻るともう9時を過ぎていた、下が凄く賑やかなのに、ここは…。
母さんたちはそんなことを考えていたんだな、つくづく思った、
〝人を避けている〟か、 俺 どこか避けていたのかな、
新しく手に入れようとして 失う怖さ…から。
「拓哉 これって、もうお開きか?」
「はいっ、お父様は明日もお仕事ですし、ここに座ってください」
救急箱と薬を持ってリビングに戻ると、両親をテーブルに残して一眞達が片付けを始めていた、
拓哉は戻った俺を見つけると、片付けの邪魔にならないように、
ダイニングの椅子を引いて座るように手招きした、拓哉に手に持った物を渡して腰かけた。
「キズはだいぶキレイになりましたね、薬は飲みきってください」
「拓哉、ここ病院じゃないって」
キズの抜糸は来週、飲み薬も残りあとわずか、来週には仕事にも復帰…できるはず、だよな。
今までの日常が戻ってくる、たまにはこうしてみんなで集まって、ばか騒ぎしたり…、
一眞と智仁が母さんたちと話ながら片付けをしているのを眺めながら、なんとなく考えていた。
ここに、香織さんが入るのかなぁ…なんてことを。
「はいっ 終了です、何だか今日は大人しいんですね」
「ありがとう 拓哉」
俺の肩をポンッと軽く叩いて拓哉は終わった合図をして、救急箱と宴の片付けに入った。
俺も後を追うように片付けを手伝った、でも 俺は気が付いていなかった、根本的なことを。
「なぁ、夜にケーキって なんかこれ、女子会 みたいだな…」
「パジャマパーティーってやつか? 男四人で?」
「…はぁ…むなしいな…って、このネタ前回もしなかったか?」
そして俺の部屋で四人でデザートである。
母さんたちはまだ少し飲むようだ、そして 父さんは子犬を離さなかった、意外だ。
俺たちと言えば、前回同様、片付けが終えて、飲み物や食い物を持って俺の部屋に集まった、
違うのは、寝具はアウトドア用では無いこと、最初から酒もつまみも用意されてること、
そして…。
「前のケーキも美味かったけど、これなんかスゴいな」
「だろ、なんたって、ホテルのカフェの限定品だぜ、メシも美味かったんだ」
「ホテルのって、拓哉の見合い場所のか?」
「見合い…」
「んっ? 拓哉 大丈夫か?」
俺と智仁がベッド側に、一眞がデスク側に、拓哉が入口側にちょっと変則的に座っていた、
初めて拓哉が来た来た日の夜同様 大人しくケーキを食べていたが、拓哉の動きが止まった、
なんだかうつむいて、テーブルのケーキの皿の上にフォークを置いた、そして。
「一眞さん、どうしよう、助けてください、智仁さん、颯太さんも」
「おっ、おいちょっと 待てって」
近くにいた一眞が、拓哉に肩辺りを両手で揺らされ皿を落としそうになっていた、
かろうじて皿をテーブルに置いて拓哉を引き離す。
拓哉に至っては、戻ったのか? 爽やかモードは終了したようだ、なんで?
「まぁ、待てって拓哉、その為の限定ケーキなんだから、食わせろって」
「その為って、何か考えがあるんですか?」
「一応な」
「ホンとですか? 僕、皆さんと会ってカフェで甘いもの食べてから
もうダメかもって思って ちょっとヤケになってて、料理して忘れようとして」
ヤケになってた? あれで? どうすることも出来なくなったら全く顔に出さず、
むしろ爽やかモードに変わるのか? なんだか今日は 拓哉は色んな表情を見せるな、
二人もちょっと唖然として拓哉の顔を見ている、また同じか?
〖ヤケになるとさらに爽やかになるのか イケメンってややこしい あ~モテ力半端ねぇ~〗
「料理で忘れられるなら助けなくていいよな、だいたい、上手くいくかは別もんだ」
「んっ 拓哉」
「そんな、意地悪しないでください 助けて、助けてください一眞さん」
あっ また、完全に戻ったな、ちょっと涙目になって また拓哉は一眞の肩を揺すっている、
俺たちが見ていたのは こっちの拓哉だもんな、医師の顔と両方の拓哉だ。
「からかうのはその辺にしてやれよ、で、どっちから結果を話す?」
「そうだなぁ~」
智仁が本題に入った、もうケーキを食べ終わって飽きたらしい。
「俺はハヤトたちがなんだか面白いことになってた時に、ちょっとカズから聞いてるからな」
「トモはどっちから話すべきと思う?」
「んっ、俺はねぇ…」
俺たちは一応 酒も持ってきてあったのだが、みんな自発的? にソフトドリンクを選択した、
コーヒー、ジュース、麦茶、それぞれ様々だがみんな冷たいものだ、酔いざましにいいだろう。
「落ち着いたか、じゃ 拓哉の話からな」
一眞が話始めた、智仁は 拓哉の話 を選択した、いったいどうなったんだろう。
「まずは写真な、けっこうかわいいぜ」
「えっ、どれどれ」
「マジっ、相手かわいいんか」
遠くからだが写真を撮ったらしい、探偵かって感じだ、いいのかこれ。
確かに可愛い感じの女の子がスマホの画像に写っていた、可愛いのに何の不満があるんだ。
「あとさぁ 拓哉、ちょっと病院で聞いたんだけどさぁ、拓哉の病院の病院長って…」
「あ~ そんな話は聞いた事があります」
「それでだ、後輩からもらった この写真だ」
「えっ 何の写真ですか?」
俺たちは一眞が後輩から送って貰ったという写真を 携帯電話を回しながら一人づつ見た。
一眞によると、昼間 俺たちと電話をするためにカフェを出た時に 偶然 後輩にあったらしい、
パティシエとして勤めているそうだが、その後輩が見合い相手を知っていたのだ、
ある業界では結構 有名な人物らしい、その情報を貰って、この写真を送ってもらったらしい。
「なっ、ケーキ買ってよかったろ、で、作戦だけど… どうする?」
「やります、颯太さん、約束通り助けてください」
「えっ 俺、 それって一眞とかの方がいいんじゃないの?」
「いえ、颯太さんで、いや、颯太さんがいいです、お願いします」
「あぁ わかったよ、約束だからな」
ちょっと強引な約束だったけど、拓哉のお陰で今こうして退院出来て集まっているんだ、
約束は果たさないとな、後は明日に…ということになった、俺の用事の前に済むことだ、
でも、なんで俺なんだろう。
それからは本題に、にわかには信じられない俺の話に移った。
「じゃ、今度は俺らの番な、えっと、どう話せばいいんだか…」
「とりあえず…そうだ、紙に書き出したんだろ、見せてくれよ」
俺は立ち上がって、カバンに入れていた用紙と思い出の品の箱を持って元の場所に座った、
そして一眞に、今朝 書き出した用紙を一眞に渡した。
「どれどれ… で、どうだった? 今日もタイムスリッブは無事に出来たのか」
「あぁ、トモに助けて貰ったからな、でも上手くやれたかは わからん」
「えっ、ちょっと待ってください、今 タイムスリップって言いました?」
「ああ、拓哉はまだ聞いてなかったの、この間 話したろ リアルな夢の話、
どうやら、俺が過去にタイムスリッブしてたみたいでさ、どうりでリアルなワケだよな」
「……へっ?」
「また さらっと爆弾発言して、拓哉が目を丸くしてるだろ」
一眞は俺に確認してから、書き出した用紙を読んでいたる、こんなんでわかるのか?
そういえば拓哉だけは タイムスリッブの 過去へのダイブの話はしてなかったな、
智仁が言うのも もっともだった、まだ拓哉は固まってる、
こんな話はインテリには受け入れは難しいかもな。
一眞が用紙の内容に目を通して、拓哉にバトンタッチするまで、
俺たちはいまだに用意していた酒に手を付けず、つまみを食べながら待っていた。
「昼間 ハヤトと香織さんの勤め先に行ってコーヒー飲んできたんだ、
そこのマスターの話を聞いてたら、なんかちょっとムカついてさぁ」
「えっ、なんでトモ」
「マスターはスゲーいい人だったよ、でもさぁ ハヤトのヤツ…、
香織さんにめっちゃ大事にされてんの 年上もいいって思うほどにだぜ、
なのにコイツったらさ、ホンと聞いてたらムカついてきたよ」
「ムカつくというよりはひがみだな 香織さんかぁ、確かにいい人だったよな」
拓哉が俺の話を信じるかは別だが、二人が読み終わる頃に智仁が切り出した。
「読んでも、なんだかわからないところもあるが、なぁ、なんか変わったところがあるか?」
「ちょっと見てみるよ、これが思い出の品が入った箱、俺が封印してた箱な」
これに人ひとりの人生がかかってるかもって思うと、ちょっとは緊張するな、
けど、もう この箱を開けることに以前のような抵抗は全くなかった、どころか、
過去にダイブした俺はちゃんと出来たか まるでその答え合わせをしている気分だった。
俺が箱を中身を出し始めると、智仁がテーブルの上を片付けてスペースを作ってくれた、
とりあえず 箱の中身を適当に出してテーブルに乗せた、必要なものは社会人の…。
「この人が香織さんですか?」
「えっ、ああ そうだよ」
中身に一番早く反応したのは拓哉だった 写真を手に取って見ている、
理解しようとしてるのか? それとも俺の過去を興味があるのか? ゆっくり写真を眺めている、
拓哉にもわかる程度に、何回もみんなに話したことを 俺はまた話はじめた。
「俺ずっと 気絶して リアルな夢を見てるとか せめて夢でもとかって言ってだろ、
だけど、俺、気が付いたんだ、過去にタイムスリッブしてることに」
あれっ 大丈夫か? 話ながらちょっと戸惑った、
そうマスターだ、すっかり忘れていたけどマスターの過去の記憶は変わっている、
みんなの記憶はどうなんだ? 変わってるとか? このまま話を続けていいのか?
「なぁ、気が付いたきっかけって なんなんだハヤト」
少し固まってた俺を見て一眞が話を続けてきた、さっきも報告の話をしてたもんな、
どうやらタイムスリッブの話は そのままみんなの記憶として残っているらしい、心配し過ぎか。
「えっと、きっかけはこの書類と指輪なんだけど」
俺はテーブルに出した思い出の物の 社会人の頃の物だけをより分け手元に集めながら、
今朝 智仁に話した説明を始めた、
ずっと避け続けてきた事故直後のこと混ぜて、指輪のこと、そして 現在への影響のことを、
もう完全に過去に動揺しなかった、すでに理解してる人への話はちょっとだけ説明も早い。
拓哉は聞きながら他の思い出の物も眺めてる、ガキの頃を見られるのは ちょっとハズいな。
「そうか、そんなことがあったんだな、あの頃 俺たちは近づけなかったもんな、なぁトモ」
「事故後だろ、確かに凄かったもんな」
〝近づけなかった〟か、考えてみれば、俺の記憶が部分的に曖昧なのも、
しばらくは独りだったからかも…。
二人は俺のうつ病が落ち着いてから連絡をとってくれたんだ、
会ってからもこの辺の話は二人とも俺に気遣って避けていたようだし、
俺は勝手に、嫌な光景だけを悪夢のように自分に刻み込んで記憶していたのかもしれないな。
「一応 順番に書き出しだんだけど、痕跡って 大体は俺宛へのメッセージなんだ」
拓哉が見終わった思い出の品を放り込むように箱に戻して、もう少しだけスペースを広げた、
手元により分けた物をそこに乗せると、全員がテーブルに近づいて来た、
俺たちは 今朝 俺が書いた用紙、宝石店の封筒、そして指輪を囲んだ。
一見 中身は同じように見えるが、封筒の中身はどうだろう、変わったりしてるのか?
「これが 俺が過去にダイブして 過去で購入した指輪なんだ」
さぁ、答え合わせだ、そんな気分はかわらなかった、テストの答えを確認するかのように、
一つづつ俺が過去へダイブしたときの痕跡を探っていく、
まずは手始めに指輪の箱を開けて、指輪をもう一度 見てみた。
若干メンバーは変わってるけど また あの夏に 勉強会をした中にの夏みたいだ、
香織さんとの出会いの夏、俺たちはスゴいガキで、ただつるむのが楽しかった、あの頃。
あの頃の俺はこんな未来を想像もしてなかった。
「スゴい高そうな感じだな」
「ああ、当時はちょっと奮発したからな」
同じような反応だ、指輪の石は、俺の過去と違う話を裏付けるようにやはり台座に付いていた。
次は封筒だ、封筒の中の書類を取り出して三人に見えるようにテーブルに置いた。
「ほら、ここ、ここに複写で、変な落書きがあるだろ」
「これか? “ろ グッドラック!!” なんか中途半端だな」
「これな、“俺を信じろ グッドラック!!” って俺が用紙に書いたんだ、その複写部分だよ」
俺が過去にダイブしたときの痕跡はそのまま残っていた、昨日と同じだ、
変わっていない、ならば、携帯電話のメールも変わらず残っているだろう。
「それで、過去にタイムスリッブしてるって思って、
俺、昨日 とにかく飛び出したんだ、おとなしくするつもりで時間がなかったから」
「それでまた搬送されたんだな」
「ああ、でも飛び出したお陰で間に合ったよ、それで このタイムスリップってさぁ、
いわゆるアニメや映画のように俺が直接過去に行く…って言う感じじゃなくて、
俺の意識だけが過去へ、過去の俺の意識の中に入って自由に動いてるって感じなんだ」
「過去の自分の意識の中に入る だから ダイブ するか」
「智仁にも確認したけど、過去の俺 と 未来の俺 は入れ替わっていないらしい、
過去に行って一時間ほど過ごしてる、でも 現在ではわずか数分なんだ」
「そうですね、搬送の時も特に変なところはなかったですよ、あの乱闘騒ぎ以外は」
「…ホンとその時は、迷惑かけてごめん」
拓哉も話を聞いている、こんな話を受け入れたのかな? 表情からはわからなかった。
それから俺たちは俺の書いた用紙の順番に “俺が残した過去の痕跡” を見ることにした。
ダイブした俺の痕跡、あぁ、ここに過去の俺が、
俺だけではなく過去の俺が 明日の予定でも残してくれてたらいいのに。
「それから、今朝 一眞に言われて俺が過去に残したメッセージを見つけたんだ」
「どれだ」
一眞も拓哉も俺を疑うようなこともせず、言われるまま成り行きを見守っているようだ、
俺は一応、携帯電話の内容を確認してから、二人に見せた、
消えたりしてないかすごく気になってたから。
「えっと、ハヤトが過去で直接なにかを残し始めたのは3日目からで、
それが指輪を購入した日か」
〝データバックアップの設定をしたのは俺だ、
俺は知っている、お前が選んだ指輪はサイズが大きいことを
失敗したくないだろ? 告白を成功させたいなら俺を信じろ〟
さすがに、一字一句と言えば記憶に自信はないが、俺が伝えた内容はやっぱそのままだった。
「なぁハヤト、なんでこんなメールを送ったんだ」
「それは、トモにも話したけど、“指輪のサイズ” のことがずっと引っ掛かってて…」
「壊れたときの記憶が嫌だったんだよなハヤト」
「ああ、大きすぎが壊れた原因だから、同じものを買いたくなかったんだ」
「でも、このメッセージじゃ 内容は伝わらない感じだが」
智仁が今朝の俺との話を引き合いに合いの手を入れた、今朝の記憶は変わっていないんだな。
確かに一眞の言う通り、ズバリ内容を伝えた方が確実でいいハズ とも思ってはいたんだ。
それにしても、いったい何を境に人の記憶が変わるのだろうか? よくわからない。
「確かに最初はズバリの方が伝わると思ったよ、
けど、間違いとかイタズラとかで片付けられたら、意味がないだろ、
だからメールしたんだ、意識のない時間から意識のある時間の俺に、過去の俺に」
「確かにそう言われれば そうかもな」
「で、脳ミソをフル回転させて考えたのが この文章だ」
「どの辺が?」
「俺しか知らないことを書くことで信憑性が増して信じるかなぁって」
「それって “プロポーズ” のくだりか?」
まさにその通りだ、携帯電話の設定が勝手に変わったこと、内緒にしてたプロポーズのこと、
この二つは俺自身しか出来ないし、知らない内容なんだ、だから気になるだろうって考えた。
「颯太さん、香織さんのこと そんなに真剣だったんですね」
「えっ、ああ、当時はな、プロポーズって言うよりは結婚を前提かな、若かったんだよ俺も」
ずっとおとなしく見守っていた拓哉が、香織さんのことを口にして少し驚いた。
残りの二人は…、いつもならツッコミそうなとこなのに、携帯電話から目を離していなかった。
「それからの続きは このメールか?」
「えっと確かその前に、メモにメッセージを書いたんたけど、さすがに残ってないんだろうな」
「なんだ、まだなんか痕跡があるのか? わっ、この指輪高いな」
もう一度 封筒と書類を調べてみた、そこに、あったんだ。
なんだかボロボロだけどダイブした俺が書いたボストイットが、あの電話を切られた日のメモが。
「なぁ、トモ、今朝これってあったっけ?」
「えっ、どうだったかなぁ、俺、パソコンを見てたし」
“お前を助けたい、俺のために”
封筒の中の領収書の裏側に張り付くようにして、俺が書いたボストイットが出てきた、
メモよりも、一眞は智仁同様に指輪の金額にビックリしているようだか。
「“お前を助けたい、俺のために” か これが花火大会を断った時のメッセージか」
「ああ、そうだ、4日目になるな、電話で花火大会に行くのを断ろうとした日だ
未来の俺 なんて使ったらいけないと思って書いた、でも あの日は何も出来なかったな」
それにしても、ん~ 今朝はこれは無かった…はず、今日ダイブしてまた未来が変わったのか?
領収書を見終わった一眞が俺に聞いてきた。
「そのあとがこのメールなのか? 確か、そうここ、5日目」
「病院で乱闘した日だな、なんだか文章がスゴイ短いな、なんでだハヤト」
〝今週 落雷がある、仕事のデータは細かくセーブしておけよ〟
俺の書き出しだ用紙を見ながら一眞が訪ねてきた、智仁も気になるようだ。
「とにかくあの日は、可能性があるならって後先も考えず家を飛び出したろ、
でも、いざ過去へダイブしてみたはいいが、何すればいいか解らないし、
過去でも時間がなかったんだ、そしたらなんだか焦って」
「『焦って』か、過去で時間がなかったって なんかあったのか」
「ダイブした過去で俺は注文した指輪を受け取ってた」
「なぁハヤト、確か事故のことを どストレートに言った日だったよな」
「ああ、焦ってて あれこれ策を考えられなくて 直接 香織さんに伝えにようとした」
そう、タイムスリッブに気が付いて、とにかく急いで飛び出した昨日、
あの日はホンと何も考えてなくて、それで 何にも考えず香織さんに言って嫌われたんだ。
「香織さんに会いにいく途中で、他に何かないかって考えて、それで あのメールを送った」
「それで、あの短い文章か」
「それってお前の記憶と…って、あれ? 購入した指輪は違うから…」
「そうだろ、変だろ、指輪が違う時点で過去は変わってるはずなんだ、
確かに過去を細かく覚えてないけど やっぱ 俺の記憶してる過去とは全然違うんだよ」
周りの人の記憶は変わってるのに、俺たけが違う記憶を持つ違和感、訳が解らない、
さすがの一眞も少し混乱しているように見える。
「でも伝えられなかったんだろ、香織さんに」
「ああ、伝えられなかった、どうしても言葉が言えなかったんだ」
言葉を遮られた感じ、あれこそが一眞の言っていた タブー なんだろうな、
あの時の俺は動転してて、余裕が無かったんだろう、
アニメとかでよくあるパターンなのに、そんなところまで頭が回ってなかったのかもな。
「香織さんにも、過去の俺にも事故のことは言ってない、いや、言えないんだろうなって、
カズの言っていた通り これが タブー なんだろう」
「それで次が今日の話か、香織さんの勤め先の喫茶店だっけ? なんでそこに行ったんだ」
「あっ、それ俺も聞きたい」
智仁は ずっと黙って俺に着いてきてくれたけど気にはなってたんだな。
事故の日からずっと足を運ばなかった思い出の場所、もちろん意図的に避けていたんだが、
行ったお陰で目的以上の成果を得られた。
「確かめたかったんだ」
「確かめるって何を?」
「二人とも過去の7日間は俺と会ってないだろ、過去の俺を見た人に会いたかったんだ」
「ん? そうか、ダイブしたハヤトと話した人に会いたかったってことか」
「ああ、そんな感じだな、誰も過去へのダイブの証明は出来ないからな、答えが欲しかったんだ」
「で、この用紙の通りか…」
急いで書き足した感じそのままだった、ちょっと殴り書きだけど、
そこにはマスターの証言、いや 言葉が書いてあった、香織さんの行動、そして思い。
「ホンと聞いててさ ちょっとムカついてきてさ」
「だからそれは腹立たしいじゃなくて、モテない男の僻みだろ、さっきも言ったけどさ」
「だってカズも読んだらそう思うだろ、リアルにノロケ聞いてた身にもなって見ろって」
「マスターそんな話方してたか?」
「そんな話し方はしてないマスターはいい人だ、でもさ、ハヤトも聞いてたろ、
香織さんは『マスター、聞いて下さい』って決まって三浦くんの話をするんだって」
「話しかけるときはそんなもんだろ」
「ハヤト、お前ドンだけだよ、感情豊かに…って言ってたろ、それって香織さんも脈ありだろ」
「えっ、そうなの」
「ハヤト、そんなんじゃ 一生 彼女出来ないぞ」
智仁は額の辺りに手を当てて首を左右に降ってる、俺そんなにあきれるほど鈍感ってことか。
「じゃ、もし告白していたら、成功間違いなし だったんですかね」
「拓哉はそう思うんだ、でも、やっぱ違うんじゃないか、たぶん 姉と弟 的な感じだろ」
「でも、颯太さんの方は “結婚を前提で…” って思ってたんでしょ」
「まぁ、そうだけど」
なんだか拓哉は 俺と香織さん の話にやたら興味があるようだ、見合いのせいか?
「それでハヤト、今日は何をやったんだ」
「ここまでが今日のダイブまでの話だもんな、それでどうなんだハヤト」
「トモと話したことを一応やったけど… どうなんだろう」
みんなが見ていた携帯電話を手元に戻した、一応データの復元を試みる、でもどこにも。
「俺、過去にメッセージ残すの最後のつもりで、メールしたはずなんだけど…無いな」
「あれだけ残ってたのに今回はないのか? どんなことをしたんだハヤト」
「それは…トモと話した 過去の情報収集 をしただけだけど…
俺さぁ、あれだけ調べたのに 失敗したんだ」
俺は話した、智仁と話し合って 過去の情報 行動や手がかり を探ったこと、
これで事故の回避に繋がれば未来は変わるかもしれないから、でも。
「失敗? なんかやらかしたのか」
「ああ、覚えてるか 当時 落雷で大規模停電があったろ 今回はまさに停電前後だった」
「停電、なんかそんなことあったな、それが何の関係があるんだ?」
智仁はネットを見てたから知ってるが、一眞は覚えてるようだ さすがだな、
でも なんで今までのようにデータが残ってないんだ、バックアップは有効だったようだけど。
「あの落雷の停電で予定が変わったんだ、勤めていた会社のパソコンがほとんどやられてな」
「パソコンがやられたって、ハヤトんとこそんなに大変だったんだ」
「ああ、でも俺、ニュース見て思い出したんだ、あんなに大騒ぎだったのに記憶にないなんてな、
俺の記憶では パソコンがやられてデータ完全にぶっ飛んで仕事やり直しになったんだ」
「で、ダイブした時も落雷があったと」
「そうなんだ でも、俺、未来を知ってたのに、仕事のデータセーブ出来なかった」
「えっ、なんで」
二人とも驚いている、そうだよな…、せっかくのチャンスを無駄にするなんて、
何のために智仁といろいろ調べて準備したのか…、後悔しても遅いけど。
「また、時間が無かったのか? それとも他になんかやったとか」
「ああやった、でも、そんなことが原因じゃない、単純に気をとられ過ぎたんだ、
過去で俺はデータを携帯本体に保存しまくった、けど心配で、
外部メモリーを雨の中 買いに行って、そこにもデータ残したんだ」
「なら そこに残ってるんじゃないか?」
俺は一眞のその言葉に 携帯電話の電源をOFFにしてメモリーカードを調べてみた。
「ん~、このカードじゃないな、メーカーもGB数も違うよ」
さすがについ数時間前の話だ、はっきりと記憶に残っている。
「他のところにあるんじゃないのか?」
「そうだな、ちょっと探してみるよ」
俺は立ち上がった、そして、思いでの品が入った箱を持ってデスクに向かった、
デスクの上に箱を置いて、引き出しや、仕事のカバンなど調べてみた。
ヒマだからか、智仁は部屋を出て行った、残りの二人はいつでも寝られるように準備をしている。
「ハヤト、見つかった?」
「ん~ダメだ、他のメモリーカード類は全部あるのにな」
「じゃ、とりあえず座れよ、ちょっとぐらい飲んでもいいだろ なぁ 拓哉、寝酒だ」
「えっ、見ないことにします」
戻って来た智仁は手に氷を入れた容器を持っていた、ついでに子犬の様子を見てきたそうだ、
下で二人ともが面倒をみると言っていたらしい、明日は父さん二日酔いじゃないといいけど。
とはいえ俺たちは明日全員休みだ、寝酒だと言いつつも結構しっかりと飲むことになった、
俺は麦茶やジュースしか飲んでなかったから ありがたい、とりあえず元の場所に戻った。
「ちょっと待って、これしまうわ」
テーブルの上に散らばってた書類や指輪を手に取った、
メールの内容は口頭で話してもいい内容だけど、みんなにこれ以上付き合わせても悪いよな、
せっかくの休みに集まってくれたんだから。
そのままもう一度デスクに向かい、書類を封筒にしまって、元通りに戻すため箱を開けた。
「あった…」
「えっ、どうしたハヤト」
「あった、あったよトモ ここに入っていた」
今朝は乱暴に片付けたから、必要ないと思ってさっきは箱から出してなかったものがあった、
社会人の頃の封印した品の1つ、最初、指輪の書類の封筒や紙袋が入っていた紙袋だ。
紙袋は中身を出していたから特に調べなかった、封筒や予備の紙袋をしまっていた時のように、
全部 紙袋にまとめようとしたら、予備の紙袋の中になにかあることに気がついた、
購入したメモリーカードにセットでついていたカードケースが入ってた、
その中にメモリーカードと、細かくおたたんだメモのようなものが入っていた。
「ハヤト、それで間違いないのか?」
「ああ、間違いないよ、数時間前に買った、7年前のメモリーカードだ」
「それってなんだか変な感じだな、なぁ、飲み物はこれでいいか?」
智仁が比較的アルコールの弱いフルーツ系の缶チューハイをグラスにいれてくれた、
さっそく俺はメモリーカードを携帯電話に入れて復元を試みた。
「どうだハヤト なんか出てきたか?」
「ちょっと待ってな… ん~なんにも出て来ないな…」
「なんにも記録されていないのか?」
カードの容量を調べてみた、どうやらメモリーカード中にはなにかが記録されているようだった
「何かに使用してるようだけど、データが読み込めない」
「パソコンなら出るんじゃないか」
「そうだな、やってみる」
立ち上がってデスクにあるタブレット型ノートパソコンを取り出してデータのの復元を試みる、
みんな、なんだか静かになってきたな、大人しく飲んでる 本当の寝酒になりそうだ。
「どうだ、なんか出てきたか?」
「ああ、読み込めたようだ…、ちょっと待ってくれ」
「おい どうしたハヤト 急に、それなんだ? 何が…っておい、なに泣いて…大丈夫か」
みんなが酒の肴をつまみながら飲んでいる中、俺は呼び出したデータに目を通した、
データは携帯電話の俺が保存した内容を、わざわざパソコンで読み込めるよう直したものだった。
そこには俺が 過去の俺宛に送ったメッセージとか、過去の香織さんとのメールとか、
写真とか、あの指輪の写真も混ざっていた、俺が知りたかった事が様々保存されていた、
そしてケースに一緒にしまわれていた紙、
それは俺が休憩室でメッセージを書いたレシートだった。
俺は涙を拭って、心配そうに覗き込んでいる智仁に手に持った紙を手渡した。
「えっ、これを見ればいいのか?
“マスターに聞いてた、香織さんが怒ってるの俺のせいだ、ごめんな、俺“ なんだこれ」
「これ、今日 ダイブしたときに、過去の俺宛に書いたメッセージ なんだ、
俺が事故の話をしたせいで気まずくなってるかもって、マスターに電話して聞いてたんだ」
「なにを聞いたんだ」
「香織さんの様子を、でも、途中で電話が切れると思ったからメモに残したんだ
電話が切れても電話中の内容が少しでもわかるようにって」
「でも、喧嘩にしたならそのままの方がよかったんじゃないか?
そうすれば花火大会に行くの中止になるかも」
確かにそうだ、喧嘩別れしてしまえば花火大会の約束ごとがなくなるのかも知れない、
でも、知らない内に喧嘩別れって…、それに 同時に思ったんだ。
「相手の行動は大きく変えられないと思ったんだ、多分これも タブー なんだと
もし変えられるのなら、花火大会にいかないって言ったときに中止になったと思う」
「確かにそういうこともありえるよな」
「これを見てくれ」
俺はパソコンを一眞に手渡してからベッドの上にみんなを避けるように座り直した、
まただ、またみんなの目が見れない。少し高い位置だからみんなの動きは見えた、
三人はにじり寄るように固まっている、パソコン画面をみている、
なにかを宣告されるのを待つような そんな気持ちになった。
「ハヤト、これって」
「なんでだろうな、なんで後悔してからあがくんだろうな、それじゃ遅いのに」
「まだだ、まだ遅くないハヤト、お前にはまだチャンスがあるだろ」
一番早く読み終わった一眞が俺のそばにやって来た、
そして俺の正面に立つと片膝をつくようにしてベッドに乗ると俺の両肩を両手て掴んだ、
そして軽く俺を揺すって、俺の顔を、前を向かせようとした。
「無理だよ、どんなにあがいても 所詮ムダなんだ 運命には逆らえないんだ」
また俺はうつむいた、もう大丈夫だって、もう二度と…って思ったのに、残酷だ、運命って残酷だ、
期待を持たせて また 突き落として、なら はじめから期待を持たせないで欲しかった。
「イテっ えっ?」
「お前、寝言は飲んでから言え、飲みが足りないぞ」
「ちょ、ちょっとトモ」
目の前に一眞が居たから見えなかった、いつの間にか二人も近くに来ていた、
ベッドに乗っかって智仁が俺の頭に チョップ? したのか、驚いて思わず頭に手をあてた、
しかもなんだ? 拓哉が俺のグラスを智仁に手渡している、拓哉、飲むなって言ってなかったか?
「ほらなカズ、ハヤトは粗っぽいのが好きなんだって」
「そうか、ハヤトはMだったんだな」
「ちっ チゲ~よ」
「落ち着いたら説明しろ、俺 ギブアップ」
俺が顔を上げたのをみると解散するようにみんな席に戻り始めた、俺も床に座り直す、
拓哉は俺の肩をポンッって叩き、手に持った酒の入ったグラスを手渡してから戻った、
俺はそれを半分ほどごくごくっと勢いよく飲んだ、あ~染み渡る、
お陰でちょっと落ち着いた。
「ほら、飲みが足りなかったんだろ、で、これ説明してくれよ」
「気持ちはわかるような気もしますが、僕もちょっとギブアップです、教えてください」
「これって 過去のハヤトからお前宛のメッセージなんだろう、知ってたのか」
「いや、知らなかった、だから動揺した、ごめん、でも、どう話せばいいんだか…」
「ん~、話すとしたらマスターとの電話の辺りとかかな」
みんなこんな俺の話にまだ付き合ってくれるんだ、俺ってホンとに…、
なぁ過去の俺、お前はどうだ?
俺の知らない過去、俺の記憶と違う過去を過ごした別の俺の未来は、
俺と同じ結末だった。
「マスターとの電話だよな、香織さんとのメールやり取りされてない理由を調べたんだ、
それは事故の事を告げようと “死” というキーワードを言ったことが原因だったようだ」
「言葉が出なかったって言ってたあれだろ、でも 言えなかったんだろ」
「確かに言えなかったんだけど、やっぱあの時に香織さんを怒らせてたようだ、
でも、過去の俺はそのことを全く知らないだろ、だから半分はマスターに任せた感じになった」
「お前がダイブで意識に入ってる間、過去のハヤトはその情報がないんだもんな、
仲直りするときの手がかりにってことか、なるほどな…」
それよりも驚くべきは、どういう風の吹き回しか知らないが、
過去の俺が ダイブした俺の存在に気がついたようだ ということだ、
いつ残したのかまではわからないが、過去の記録を 違う過去の俺がパソコンに残していた。
過去の記録に混ざって、過去の俺から半信半疑なメッセージが 俺宛に記録されていた。
見たことの無い誰かへ
俺はいったい誰にこのメッセージを残しているだろう、
誰か読むのだろうか よくわからないけど、読むとすればメッセージの送り主だろう
メッセージの送り主、望んでいたものはこれでよかったか。
おかしなことが起こり初めたのは7月に入ってからだ、
突然 話が繋がらなくなる、何をしていたかわからなくなる、スゲー怖かった。
そんなとき、訳の解らないメールが突然が入ってきたんだ、
自分の携帯から自分の携帯へ、送った覚えもない、訳がわからない。
ある日、会社にいたはずなのに、突然 約束した宝石店についていた、
それに いつの間にか違う指輪が購入されていた。
気付いたら目の前の電話が振動して 確認したよ、確かに大きい指輪だった、
手書きのメッセージを見ても訳わかんないし、そのまま契約しだけど なんでわかったんだ?
あの時 店員に心配されたよ 俺は具合が悪そうだって、大丈夫か、それとも俺が病気なのか。
それからもおかしなことは続いた、突然 香織さんに怒られたり、本当に散々だったんだ、
「今日で最後」ってメッセージが残ってたとき、これで安心だと思ったよ、
もう意識が飛ぶことはないんだって、訳のわからん、こんなバカげたことから解放されるって、
でもそうじゃなかったんだな。
花火大会の日、遅刻した、電車が遅れたんだ、携帯もバッテリー切れしそうで電源切ってた、
指輪を変更したのはこの為か、なら、もっとはっきりと言ってくよ、俺にはわからなかった、
もし指輪が大きかったらどうなってたんだ、もっとひどいことになったのか。
あの日から悪夢にうなされて記憶がとぶんだ、しかも どんどん他も記憶も曖昧になっていく、
ショックのせいなのか、整理がつかないんだ、どうすれば これから逃げられるんだ、
とにかく逃げたくて 嫌な記憶を連想させる物を隠すことにした、
訳もわからず手当たり次第に箱に放り込んだよ、その時に見かけたんだ、あのレシートを、
何かに紛れるように箱に落ちた、違和感があった、何かが引っ掛かってた、そのまま蓋をした、
後でその理由がわかったんだ、コーヒー、久しぶりに嗅いだコーヒーの匂いで。
たしか事故の前日だったよな、意識が戻ったら、なぜか 休憩室にいて 体はずぶ濡れで、
マスターと電話してた、目の前にコーヒーが、俺の苦手なブラックコーヒーがあった、
目の前にあった書いた覚えのないメモ、そして最後のメール、あの日の出来事のものだ。
俺がこのメッセージの意味に気がついていれば何かが変わったのか?
「やっば苦いわ ブラック苦手だろ、今でも苦手だぜ、俺は」
箱を完全に封印したら嫌なこと全部忘れられるかな、悪夢もすべて封印されてくれるかな、
あの日 あの日の光景も、後悔も全部、 俺と同じ苦しみを、お前も味わったのか?
なぁ、メッセージの送り主、お前はどうだ、俺は本当に病院に行くことになったよ、
今でも…って、ブラックコーヒーが少しは飲めるようになったのか?
もしかして…、まさかな、でも、
グッドラック、いつかの 未来の俺
「なんだかこれ、後悔が、見え隠れしてる感じの文章だな」
「ストーリーの大筋は変えられないか、こうしてみると、…だな」
違う過去だから確証はないが、話の大筋、そう 交通事故 は避けられなかったんだろう、
一眞の言う通り、俺 同様にこの文章には後悔のが感じ取れた。
「なぁ、ところどころに メールの内容があるようだけど、それってこれか?」
〝ここに残してほしかった、お前の気持ちもお前の行動も、
だけど、振り回して悪かったな、お前へのメッセージも 多分今日が最後だ
明日本番だろ? 絶対に遅刻するなよ 成功を祈るぜ、俺〟
〝やっば苦いわ お前もブラック苦手だろ、今でも苦手だぜ、俺〟
「そうだ、俺が最後のつもりでメールしたんだ」
「最後って、明日はダイブしないのか」
「ダイブした俺が 明日メールを送ってもだろ…、でもさ、何が正しいんだろうな」
メールは明日 時計台からダイブして送っても、出来事は変わらないと思った、
一眞の言葉に俺がした返事で、ちょっとしんみりしてしまった、みんな酒が進んでいる。
明日、もう一度時計台に行って過去へダイブする、どの時間に飛ばされるんだろう、
多分、いや ほぼ確実だろう、そうとしか考えられない。
俺はあの光景をもう一度見るのか、それで確実に未来は変わるのか?
過去と未来、俺たち二人でががりであがいても変えられたなかった 運命 が。
「なぁ、ハヤト」
「んっ、なんだよトモ」
「なぁ、なんでそこで ブラックコーヒー なんだ?」
「って、そこ?」
みんなを吹き出すように笑いだした、とはいえもう夜中だ、すぐにみんな声を押さえた。
トモのお陰でしんみりムードが一掃して会話がもどった。
「なんでウケるんだよ いいだろ気になったんだから」
「トモらしいわ、そういえば、ブラックコーヒーを買ったきっかけは トモだよ」
「えっ、俺 なんで?」
「昼間、マスターに会いに行ったとき、俺のコーヒーの飲み方見てさ
『もはやカフェオレじゃないのか』っていったろ、それを思い出したんだ」
「なんで? 買うまでの話でもないだろ、苦手なんだし」
「ちょっと 俺たち に気合いをいれたかったって感じかな」
あの時、俺はあえてブラックコーヒー選んで買って飲んだ、
でも、コーヒーとメールこそが 過去の俺 が 俺の存在 に気づくきっかけになったようだ。
「過去のハヤトにも ってことか、でもさ、店ではどんな飲み方したんだよ」
「聞いてくれよ、ハヤトさぁ、ミルクとシロップを3つづついれてんの」
「マジか、それで飲めるようにって、その店のマスターってホンといい人だな」
「そうだよな カズもそう思うよな」
「えっ なんで」
こだわりについて説明された、言われてみれば ヤバっちょっとハズいかも…。
当時の俺ってホンとおバカだよな、当時は香織さんに会いたい一心で、通ってたんだよなたぶん。
「そういえばマスター、挑戦するとか言ってたような」
「だろ~、わかるわ~ コーヒー嫌いへのチャレンジ だ」
「さぁ、まだお酒ありますよ、今夜はとことん飲みましょう」
拓哉がなんだか急に積極的になってきた、みんなに酒を進めて、自分も結構 飲んでいる、
なんかを吹っ切ったのか、いや、大人の男が4人もいればこんなもんだろう、
そして大騒ぎしない程度の宴は、眠くなったものから次々脱落していって、お開きになった。
「こらっ、酔っぱらいども、起きなさい、休みだからって気を抜かないの」
「わっ、びっくりした、おはよう母さん」
「起きたら早くご飯食べちゃいなさい」
相変わらず、嵐のように言うことだけ言って、母さんは去っていった。
「おはよう、みんな、イテッ~、こりゃ二日酔いかな」
「あ~右に同じ、夕べは飲み過ぎた~、おはようみんな」
「おはようございます、一眞さん、智仁さん、颯太さん」
「おはよう、みんな大丈夫か?」
それぞれが起きたようだ、昨日の騒ぎのあとはそのままになっている、
布団が足りなくて二人づつに別れて眠っていたが、俺の横には智仁が寝ていたようだった。
「おはようございます、颯太さん、今日はよろしくお願いします」
「おっ、おう、任せておけって」
「はい」
拓哉は俺に近づいてきてあいさつをすると、今日のことを頼むと言って笑った、
拓哉、なんで、なんで平気なんだ、夜中のことはもうなんとも思って無いのか?
拓哉は何事もなかったようにしてるのに、俺は 拓哉の顔を直視 出来なかった。
それから俺たちは着替えを済ませると 昨日の宴の片付けをしながら順番に洗面所に行った。
全員が洗顔を済ませた頃、だいたいの片付けも終わり グラスやゴミ等を手分けして持って、
リビングに向かった、リビングのドアを開けるて、キッチンの母さんに宴の洗い物を渡した。
「お父さんはもう仕事に行ったから、こっちでご飯 食べなさい」
「ああ、わかった、みんな…って」
ダイニングテーブルでご飯を食べるように言われたが、みんなは子犬のところに集まっていた。
「トモ~、こはんだよ~」
「食う~って、犬を呼ぶみたいに言うなよハヤト」
それを合図にみんなテーブルに集まった一番早くテーブルのそばに来た智仁はキッチン側に、
その向かい側には拓哉に一眞、俺は朝食を出す手伝いをしてから智仁の隣、一眞の前に座った。
今日またお粥か、典型的な和食メニューにしっかりスムージーもある。
「じゃ、いただきます」
「やったお粥、おばさんいただきます」
「じゃ俺も、いただきます」
「いただきます、お母様」
「どうぞ、召し上がれ、今日は二日酔い対策メニューよ、どうせみんなそうなんでしょ」
どうやら父さんも二日酔いでやられたらしい、ダルそうに出勤したと母さんは言っていた、
やっぱ悪酔いしたんだな 子犬を離さなかったし、でも 父さんが犬好きとは、知らなかった。
「でもさ母さん、こんながっちり和食なのに、なぜスムージー」
「そんなの決まってるじゃない…」
「おばさんおかわり、美味ければ何だっていいじゃないか ハヤト」
「あら、ありがと智仁くん、でも、これもちゃんと二日酔いメニューなのよ」
「さすが、おばちゃんだね、美味しいです」
二日酔いと言いつつあっという間に食べ終わって茶碗を出す智仁、合いの手を入れる一眞、
母さんはキッチンカウンター越しに茶碗を受けとった、智仁は今日は何杯食べるんだろうな、
おかわりの茶碗を受けとると また書き込み始めた、熱くないのか?
「みんな食後にコーヒー飲む? 私も飲むから入れるわよ」
母さんがコーヒーを飲むらしい、みんなも口々ににお願いいている。
「母さん、俺も… 飲みたい」
「えっ、颯太が、いいけど… 珍しいわね」
その場にいた三人は えっ? っていう間を置いて俺の方を見つめた、無理もないことだった。
事故後、俺の体調が悪くなるにつれて 何かを察したのか 家族みんながコーヒーを避けていた、
しばらくはコーヒーを俺に見せないようにしていたぐらいだった、みんな好きなのに我慢して、
落ち着いた頃から、徐々に食卓にコーヒーが出るようになった、俺はずっと飲んでなかったけど。
そんなな中でも 拓哉だけは大人しく話を聞きながら食事をしていた。
「そういえば、おばさん ハヤテにごはん 出してくれたの?」
「えっ、颯太にごはん?」
「そうじゃなくて ハヤテ 子犬の名前… らしいんです」
「あっ あの子犬 ハヤテなの、ずっと ワンちゃん って呼んでたから 私も酔ってたかしら、
子犬のごはんはね、お父さんがあげてから出勤したのよ、二日酔いのくせにね」
母さんは笑った、ホンとドンだけ犬好きなんだ父さん、俺はいつもとは逆に、
父さんが母さんに 犬を飼いたい とねだっている姿を想像してしまった。
「それで みんな、今日は休みなんでしょ、何か予定があるの」
「今日も拓哉の付き添いに出かける予定なので、ハヤトを借ります」
「えっ、拓哉ちゃんの付き添い」
母さん、食いつき過ぎだって、目が好奇心でイッパイですって言ってるって、
週刊誌のゴシップ好きの主婦の部分がガッツリと出てるって、そっとしてやれって。
「颯太さん達に助けてもらって “見合いを断り” にいくんです、お母様」
「えっ、そうなの、せっかくのお話なのに、合わなかったの?」
「いいえ、ステキな方でしたよ、でも やっぱり僕 まだ結婚は考えられなくて、
仕事の手前、断るのも角がたちそうで、僕だけだとちょっと上手く断れそうになくて…
いい加減な態度は彼女にもっと失礼ですし、それでみなさんの手を借りたんです」
「そうなの…、でも拓哉ちゃ…、拓哉くんならいつでも大丈夫よね」
母さんはやっと 言い間違いに気がついたらしい、拓哉 ちゃん から くん に直していた。
「そうだよ、母さん、そういうのってタイミングが大事だろ」
「そうね…、タイミングねぇ…、 タイミングと言えば颯太がこんなに元気になったし
拓哉くんが颯太の嫁になら大歓迎なのに…、 颯太 足を引っ張るんじゃないわよ」
「なに言ってんだよ 母さん、まだ酔ってるの」
またさらっと、母さんが変なことを言ってる、拓哉 気を悪くしてないかなぁ…、
チラッと拓哉の方を見た、聞かないことにしたのか拓哉はお粥を掻き込んでいた。
「俺たちも頑張ってるのに~ おばさん」
「そうよね、ごめんなさい智仁くん、お詫びに次は 玉子がゆ にしてあげるから」
「やった~、おかわり」
「僕も颯太さんの嫁になりたいです… なんて、お母様 僕も 玉子がゆ 食べたいです」
「……はっ、はい おかわりね、ちょっと待って二人とも」
突然の発言に驚いたのか、それとも拓哉の爽やか笑顔にやられたのか、
母さんがあっけにとられている、結局、全員がおかわりして玉子がゆにありついたんだが、
なんだ拓哉、カフェの時みたいにイケメンパワーが全開だぞ、大丈夫か? ヤケになったのか?
全員が食事が終えてテーブルの食器をキッチンカウンターにおいた、
そのまま母さんが片付けてくれるようだ、すぐに食後のコーヒーをいれてくれた。
「ねぇ、母さん、なんで俺だけコーヒー飲料」
「だって颯太、飲むの久しぶりだし、ミルクとかいっぱいいれるでしょ、これで十分よ」
「母さん…、まぁ、美味しいからいいか」
まぁ、読まれてるというか、よくご存知で。
「それで智仁くん、あのワンちゃんいつ連れていくの?」
「はいっ、ご迷惑でしょうから、一緒に連れて帰りますよ」
「それじゃ もう飼い主に返すの?」
「いえ、まだ預かる予定です これから俺んちに連れていきます」
「これから外出するんでしょう、ワンちゃんを家にひとりにしちゃうの?」
「ええ、まぁ そうなりますね」
「なら、まだ家で預かっていい?」
結局、智仁は母さんに子犬を託した、母さんは昨日の電話の時のように鼻息荒く喜んでいた、
〝父さんにメールしよう〟だって、これは父さん何かグッズでも買ってくるかもしれないな。
コーヒーも飲み終わり、ごちそうさまを言うと、いったんみんなで俺の部屋に戻ることになった。
「あっ 颯太、戻る前にこれ持っていきなさい」
「えっなに?」
俺だけ母さんに呼び止められて、洗濯した服を渡された、これ、この間のか一眞の服だ。
「カズ、これありがとう、母さんが洗濯してくれた、……パンツも持ってくか?」
「あっ、すっかり忘れてた、パンツ? ん~ 一応もらっとくわ」
部屋に戻ってすぐに一眞に借りた服を返した、ごめん、パンツは新しいの買うから…。
それからすぐに、俺たちは身支度を整えて、目的地に向かった。
二日酔いの対策と 俺のキズのケアも智仁にしっかりとしてもらって。
「じゃ、みんないいか? 行くぞ」
「すまない、後で交代するから」
今日は一眞の車を借りて俺が運転することになった、二日酔いと無縁なのは俺だけだったからだ、
昨日はみんなかなり飲んでたし、アルコールが残っていたらやっぱまずいよな。
助手席に智仁、俺の真後ろに拓哉、その隣に一眞、男四人でのドライブが始まった。
「なぁ、もう一度 確認するけど本当にいいんだな 拓哉」
「はい、まったく問題ありません、そういうレースに巻き込まれたくないんです」
「ドラマみたいなことはあるんだな、本人同士が気に入れば別だけど まぁ しょうがないな」
一眞と拓哉がこれからのことを話している、
イケメンだからなのか? 将来有望とか? 派閥とかなんとかってホンとウザいよな、
やるなら勝手にやれ、巻き込むなって感じだけど、そうもいかないのが…、勤め人だ。
「ん~、これでたぶん上手くいくと思うけど、拓哉、変な噂がたつかもしれないぜ」
「それも問題ありません、おもいっきりやって下さい」
「そうか、なら問題は 拓哉ご指名のハヤトの演技力 ってどころか」
「そんなに脅かすなよ、でもさぁ 拓哉、自分で言うのもなんだけど、
カズの言う通り こういうの適任じゃないと思うぜ 俺は」
運転に集中していたから 二人の会話はよく聞こえなかったが、目的地の下調べをしてるようだ、
カーナビの指示に従って向かう俺をおいて、車内では話が続いていた。
特に役割がない智仁は隣で寝てる 時折 後部座席の様子をミラー越しに見てみる、
拓哉は今 どんなふうに思っているのだろ、表情がここからだとわからない、
なんだか、こんなに近いのに距離を感じる、
一眞も智仁も気が付いているのだろうか? 昨日の拓哉と俺のこと、
色んな意味で運命の日だ、まもなくそれぞれの思いを乗せた車は最初の目的地に着いた。
「あ~やっと着いた」
「って、寝てただけだろトモは」
「バレてたか、でもお陰で酔いは醒めたぜ 帰りは運転できる」
見合い相手との待ち合わせ場所に近い駐車場、寝起きの智仁はおいておくとしても、
俺たちはこれから見合い相手に断りを、そして その親、部長にその結果を言いに行くのだ、
この辺で昼食して帰っても十分 俺の事に間に合うだろう、もうすぐ10時になるところだ、
とりあえず合図は…、合図は飲み終わった食器を下げるために大きくずらすに決まった。
「じゃ、行ってこい拓哉、後でな」
「はい、行ってきます」
いい天気だ せっかくのデート日よりなのに、これから彼女はフラれるんだな、
待ち合わせのカフェのオープンテラスに一人座る拓哉は、回りの女子の視線を独り占めしていた。
「なんだか俺、緊張してきたよカズ」
「拓哉と約束したんだろ 諦めろ」
男三人なにをするでもなく、カフェの付かず離れずの距離で拓哉の合図を待っていた。
彼女が現れたようだ、なんの不服があるんだって思うほどの、可愛い感じのお嬢様だ、
立ち上がりエスコートする拓哉、席に座る二人は中々いい感じで、また回りの目を引いていた。
何かを話している、彼女との会話も弾んでるようなのに、拓哉はタイミングをはかってるのか。
出た、合図だ、さりげなく だけど 確実にわかるように飲み終えたグラスを動かした。
「じゃ 玉砕してこい ハヤト」
二人に送られて俺は拓哉の元に向かう、彼女さん、ごめんね、たぶん泣くよね…。
そういえばやることは聞いていたけど、彼女のことは可愛いしか聞いてなかった。
俺は役割は、偶然を装い拓哉に声をかけて、連れ出すだった、俺って適任じゃないよな。
別れさせるなら 彼女が居るって彼女役の女性を見せる、勝手にそんな想像をしていた、
てっきり女装させられるって覚悟してた、俺の女装じゃクオリティーが低すぎだけど、
病院関係者は頼めないから俺で手を打ったんだと思ってた、
でも俺の想像したこととは違うようだ、そのまま行って話を合わせればいいって言われたけど。
声をかけた俺を拓哉は立ち上がって迎えた、それから、俺の紹介を彼女に始める、
そして、横に並ぶように立って、俺の背中から手を回し、肩を軽く抱き寄せるように引き寄せて…。
「俺たち こういう関係なんです」
「えっ? あっ、そうなんです、だからその…、」
拓哉はおもいっきり彼女に言い放った、
えっ、拓哉 もうヤケなのか? 回りの視線がコワい…見ないでおこう。
彼女がうつむいて少し震えている、そうだよな、無茶な設定にも程があるよな、
「……うとい」
「えっ、何? なんて言ったんですか?」
「尊い…、尊いです、私、お二人を応援します」
「えっ… あっ はい」
正直、動揺するとか、泣かれるか、最悪、人として拒絶、そういうお嬢様の姿を想像してた、
でも 全然そんなことなかった、というより スゲー目を輝かせて喜ばれた、なんで?
拓哉は彼女に今回のことを謝ると、彼女から上手く断って欲しいとお願いをした、
それから彼女の耳元で何かを告げると、俺をその場に残して会計に向かった、
彼女と二人って なんかずっと見られて、気まずいっていったらこの上ない、
それから俺と一緒に店を後にして その足で二人の元に一緒に向かった。
「上手くいったか? じゃ 次に行くぞ、後は拓哉次第だ、上手くやれよ」
間髪いれずとはこの事だろう、そのまま訳のわからない俺と智仁は先に車戻り、
一眞と拓哉は、見合い相手の父親のいる大学病院に歩いて向かった、近かったんだなここ。
少し待機した後で、今度は智仁の運転で二人を迎えに行った。
「お待たせ、どうだった二人とも」
「ああ、たぶんもう大丈夫だろう、あの部長も もう オイタ は出来ないだろう」
再び二人は合流して、一眞から順番に後部座席に乗り込むと、車は走り出した。
とりあえず自宅のある方に向かっている、えっ また? また俺だけ理解してないの?
「なぁ、カズ 説明してくれよ、みんな知ってるんだろ」
「そうだよな、悪かったハヤト、ただ、お前が聞いたら上手くいかないと思ってな、でな…」
「えっ 彼女 ソコソコ有名なコスプレーヤーで、しかも ガチの腐女子 なんだって~」
俺がいない間に智仁には説明していたらしい、俺はその説明を受けて驚いた、
えっ、彼女が? ああ… 俺のお嬢様のイメージが…、。
どうやら 昨日 俺たちが公園で電話した時に一眞が久しぶりに会ったと言っていた後輩が、
その方面が好きで、彼女のことを覚えていたらしい、この情報を調べてくれたそうだ。
別に 俺たちは彼女がそうでも問題ではない、むしろ可愛いから大歓迎だが、
さらに驚くのはそのあとで、そう、問題は オタクじゃない、大学にあったんだ。
「看護師さんから聞いたんだけど、ここの病院の院長さぁ、なんだか頭が固いらしい」
「ええ、僕もウワサ程度には聞いていたんですが、こういう趣味が嫌いらしいです」
「こういう趣味って」
「だからさぁ、オタクとか、腐女子ネタとかだろ、特に2次元、BL、とかが嫌いってことか」
「よくは知りませんが、なんだか、その辺が 勉強もせず堕落してる…とかみたいです」
拓哉も病院長のことは知ってたんだな、遠回しの言葉に智仁がストレートに教えてくれた。
コスプレ写真も、まぁ 可愛く写っているのに、ソコソコなのは親に隠れてたからってことか。
「そういえば、ちゃんと言ったんだよな拓哉、たぶんそれで噂は広がらないだろう」
「はい、言いました」
「えっ、また俺だけ、何 なんて言ったの 教えてよ」
聞けば、拓哉は一眞のアドバイスに従って、彼女に言葉を付け足したそうだ、
〝二人のために、内緒にしてください、彼のためにも病院に勤めていたいんです〟と、
あえて彼女の耳元でささやくように言ったのも指示らしい、…さすが一眞。
それから拓哉を利用しようとした外科部長にも言ったそうだ、外科部長室で…。
「ご指示通り お嬢様にお会いして参りました」
「そうか、どうだ 娘は可愛いだろう、これで君が息子になれば…
安心したまえ、これで君も将来も約束されたようなものだ」
「いいえ、今回はお嬢様からお断りがあるでしょう、これ お預かりしています」
「預かる? いったい何をだね」
「まぁお父様ならご存知とは思いますが これでも気をつかったんですよ、
嫌がる友人に頼ん… いや 無理矢理 協力させて、
可愛いお嬢様を傷つけないために、ホンと骨が折れましたよ。
外科部長、お互い コース は外れたくありませんよね、
この話、いや ”こういう話“ は無かった、それでよろしいですよね、
この意味…もちろんご理解頂けるかと思いますが、もちろん次は…。
僕も目指すとこがあります、互いのためにならないことはやめましょう、互いのために…ね」
彼女はしっかりブログ等で活動もしてた、コスプレ写真や同人誌、それらは簡単に手に入った、
彼女の活動内容を見せて、まぁ、平たく言えば部長相手に脅しをかけたってことだよな、
この趣味は出世コースから外れる、秘密にしてやるから 二度と関わるな って。
「すごいドキドキして、一眞さんの言うようにドラマみたいで…、いやぁ いい経験しました」
「拓哉の “はったり” ちょっと見たかった気もするけど、でも いいのか拓哉。
一応、彼女には趣味に合わせて口止め、部長には、“協力” の振りで逃げ道を作ったけど、
リスクがあるだろ、お前も無傷ってわけにはいかないだろ」
「リスク無いとは言えないですが…、でも 弱いですが弱点を握ったのは僕ですし、
外科部長も無理はしないでしょう、そこまで考えない人ではないと思います、それに…」
「それに、何?」
「それに 颯太さんが相手なら 僕は話が広がってもいいです」
「拓哉、何を言ってるんだよ」
「言うようになったな、拓哉」
後部座席で少し興奮気味に一眞と結果の話している拓哉に、前から二人でツッコミを入れた。
「これも皆さんのお陰です、僕一人だったら断れなかった、いや また利用されたかも」
「また、利用って?」
「僕の回りには…、その…自分のことだけしか見ない人が多かったっていうか…、
僕はいつも都合のいい人間って感じにしか扱われたことないんです」
「拓哉を都合のいい人間って すごいヤツもいるもんだなぁ」
「すごいもなにも 今回だってそうです、いつもは適当に距離を取るようにしてるんですが、
あれだけ露骨なのも珍しい、本当に助かりました」
「距離って他にもあるのか」
「よくあるのは、例えば…合コン、合コンに必ずこいって言われますよ、で、すぐ帰れって、
人数合わせで呼ばれたり、もう そういう人ばっかりで」
〝すぐ帰れ〟は人数より、その場の女子全部持っていかれるからだろ、そう思うよな普通、
イケメン置いとけば合コンのセッティング率上がりそうだけど、いたら邪魔だもんな、
でも、友達にそんな扱いしかされないなんて、せっかく一緒ににいても イヤな感じだな。
「あ~、ごめん、俺も合コン誘いたい派、嫌だったか なら…」
「いいえ、智仁さんとなら飲みたいです、智仁さんは僕を人数合わせに利用しないでしょ」
「えっ、人数? いや イケメンは利用するでしょう、普通」
「そうやって僕に話している時点で、利用出来てないですよ、僕の嫌がることは出来ない」
「確かに嫌がることをするつもりはないけど」
俺の隣で智仁は苦笑いをしていた、ナース合コンは無しだなこりゃ、でもまた飲みに…。
「僕は、いつも、どこかで人と距離を置こうとしていました、その方が…楽だから、でも…」
「でも、何」
「これからは、人と距離を取り続ける必要はないって、きっと皆さんと出会えたお陰…です」
「俺たち特には何も、今回だって解決したのはお前だろ拓哉」
もうここまでくれば、患者との話も問題ないし、先生との話も合いそうですよ、大塚先生。
俺は大塚先生が心配していたことをふと思い出した。
「皆さんのお力あってですよ、僕は、僕はどこか避けていた、僕を知ってもらうのを避けてた…」
「避ける? どういうこと」
「些細なのかもしれませんが、でも 嫌いだったんです、
裏切る時の人の視線? っていうか、その…眼差しが。
どこか実母と別れたときの眼差しを思い出してしまって」
「あの時の話か」
「初めてみんなと飲んだ時、皆さんの眼差しは…、あのイヤな記憶を忘れさせてくれたというか、
あんなに楽しい自己紹介は初めてなぐらいで、もう、視線から逃げなくだっていいって思えて」
この1週間で、俺も 拓哉も ホンといろいろ変わったよな、そんなことをつい思った。
この四人で過ごすの 結構いいな、そんな風にみんな思っていたんだろう、智仁が拓哉に言った。
「たいしたことしてないけどな、じゃ、まずは合コン無しでまた飲もうぜ」
「はい、ぜひ飲みましょう、またこの この四人で…」
拓哉の言葉がちょっとつまった、俺の後ろで、拓哉はどんな顔をしているのだろう、
今度はミラー越しって訳にも行かず、ただとても楽しそうな声だけを聞いていた、
振り返れないよ 俺。
車の窓から流れる景色をぼんやりと眺めながら、昨日のこと 今日のことを考えていた、
今日の俺の行動で 過去が未来が変わる ホンと何か正しいんだろうな。
「なぁ、これからどうする? 今日は花火大会だろ、たぶん道が混むよな
とりあえず帰る方に向かってるけど、せっかく遠出したのに、うまそうなもんあったのになぁ」
しばらく車で走っているとまだ混雑ほどではないが、同じ方向に向かってる車が多くなっている
途中、追い抜き車線に乗った隣の車に、花火大会に向かうと思わしき人が乗ってるのが見えた。
「なぉ トモの車はどこにあるんだ?」
「俺のはお前の家に近いコインパーキングだ」
「じゃ、そろそろ出さないとだな…」
とりあえず、拓哉の用事は終わった、次は俺だ、この間も乗せて貰ったけど、
気絶したあとは休むところが必要だよな…、走る車の中で話し合って決めた目的地は…。
「どうぞ、口に合うといいのですが」
結局、一眞の家に転がり込んだ、外食でもよかったけど、これから多少は込み合いそうだし、
ここからなら時計台から距離が無いから、車でも電車でも、最悪 歩きでも行ける。
拓哉が手早く作ってくれた昼飯を食べながら俺たちは話していた。
「花火大会ってそんなにスゴいんですか? 僕 こっちに住むようになったの昨年なんです」
「ああ、毎年 七夕の日に開催するんだ、一時、中止になってたけど」
「ああ、あれだ、事故の後、住民の反対…」
「もう 大丈夫だよ俺」
花火大会の中止になった理由を話そうとして智仁が言葉を詰まらせた、まだ気を使うよな、
もう大丈夫だからみんな、だって俺には…、そう、俺には…。
何を悩む? 迷うことなんかないじゃないか? だってあれだけ苦しんだ日々が、
今日のタイムスリップでなくなるんだろ…、でも…なんか…。
気づけば俺は考え込んでいた、黙った俺を3人は見つめていた。
「あっ、ごめん、花火大会の中止の理由だったよな」
「ハヤト…」
「大丈夫、大丈夫だって、あの頃 花火大会廃止を進めた住民がいてさ
理由はもちろん事故だ、俺のように事故を連想する人がいるからって、
でも、賛成の住民の声で存続が決まったんだ もともと花火は、〈鎮魂〉の意味があるからと」
「鎮魂ですか…」
「まぁ、もう騒ぐばかりの意味に変わってるけどな、ほら、大丈夫だろ」
「無理してるんじゃないのか」
一眞の部屋の小さめなテーブル、一眞と拓哉は向かい合うように、
智仁と俺はテレビと向かい合うように座っていた、俺は拓哉に近いキッチン側だ、
意識してしまうのか まだ拓哉の顔を見れない、つい、一眞や智仁の方を向いてしまう、
これで最後かも知れないのに…。
「全然 無理してないよ、ただ、次は俺か って思ったらいろいろと考えちゃって」
「別に、何を考えるんだ、失敗するとか? 大丈夫だろ」
「そうだよハヤト、これで お前の苦しみがなくなるんだろ」
「ホンとにそうなのかなぁ」
過去を変えることもそうだが、やっぱ昨日の夜のこと、拓哉のことだ。
「なぁ やっぱダイブする時間って その …事故の前だと思うか?」
「そりゃそうだろ、これだけやって 結末が関係無い時間じゃ 意味がわからん」
「トモの言う通りだと思うぜハヤト、このダイブに意味があるなら、そこは考えられない」
「とにかく対策で、もう一度 正確な情報 調べておこうぜ」
やっぱ一番早く食べ終わった智仁が携帯電話を取り出し検索を始めた、
次に食べ終わった一眞が、ノートパソコンを持ち出して智仁と検索を始める。
「おいしくなかったですか? 颯太さん」
「いや、美味いよ、スゲーうまい」
「よかった、たくさん食べてくださいね」
拓哉から声をかけられて思わず拓哉の顔を見た、まっすぐに俺を見つめる拓哉の顔は、
とても寂しそうに見えた、捨てられた子犬のように、思わず手を差しのべたくなるほどに。
「なぉ、ハヤト、時間だけど…、どうしたハヤトさっきからなんか変だぞ」
「えっ、そうか特には…」
「颯太さん、もしかして昨日のことですか? なら大丈夫だったでしょ」
「えっ、昨日ってなんの話」
「それは…」
智仁が調べたことを知らせようとしてくれた、話しかけられて動揺してオムライスを掻き込む、
なんか顔に出ていたらしい、なぁ、拓哉、お前はそれでいいのか? 拓哉は洗い物で席を外した。
「なぁ、なんだよハヤト、スゲー気になるだろう」
「あっ、終わりました、よかった 最後に颯太さんの好きなオムライス 全部食べてもらえて」
「えっ、最後って何を言ってるんだよ拓哉、また 作ってくれよ」
「そうだよ、拓哉、また今度 みんなで集まろうぜ、その時は香織さんを…」
「僕、残りの洗い物をしますから、昨日のことを話してあげてください、ねっ 颯太さん」
拓哉は俺の皿を持ってそのままキッチンに向かった、智仁はなんだか興味津々って顔で、
一眞はなんか複雑そうな顔をしている、気づいたのか 一眞。
「なぁ、なんだよ、教えてくれよ、ハヤト」
「それはな、昨日 深夜に拓哉と二人で話したんだ…」
俺は昨日のことを二人に話した。
「おっ、拓哉 お前も起きたのか?」
たまたまトイレに起きたら拓哉が廊下に面した窓から外を見ていて、なんとなく声をかけた。
「どうした 眠れないのか、大丈夫 俺 ちゃんと約束は果たすよ」
「そうですね、颯太さんに任せれば大丈夫ですよね」
「颯太さんは、明日 大丈夫ですか?」
「あぁ、みんなが助けてくれるから、絶対に香織さんの事故 なかったことにしてみせる」
俺はガッツポーズを作るように片手を肩の高さ辺りまで上げて拳を握った、
そうだ これで成功すれば、俺には新しい未来が、香織さんとの未来がくるんだ。
「じゃ、明日はプロポーズだ、成功するといいですね、
でも その時間はもう颯太さんじゃないかもですね」
「プロポーズというより結婚前提の告白な、そうだよな、過去にいるのは一時間ぐらいだもんな、
たぶん、ダイブするのは事故の頃だろう、俺が指輪を渡せないのか、ちょっと複雑だな」
「でも 颯太さんには未来があるじゃないですか 結婚 出来るといいですね」
「どうかなぁ、でも今度 拓哉に紹介するよ、香織さんいい人だから 拓哉も… どうした」
「過去のダイブから戻ってくるのは、どの辺りの時間から始まるんでしょうね」
「どの時間って それはいつも通り時計台で…」
あれっ、えっ、あれっ、なんだ なにかが 引っ掛かる…、
明日、香織さんの事故を阻止したら、香織さんは生きてることになるから、
そうしたら俺、うつ病になることもないし、なら 会社も辞めないで済むのか?
それに 墓参り や 葬儀 だって…、
「たく…や?」
「そうですね、そう思いますよね やっぱり」
絶対 落としてた、何か持ってたら思いっきり落としてたってぐらい 固まった
実際、何も持って無かったから、何も考えられず、ただ固まって 拓哉の顔を見ていた。
「どう考えても 僕との出会いは無くなりますよね…」
深夜なので、なるべく小声で話していたけど、さらに拓哉の声は小さくなった、
まるで消えてしまいそうなほどに、でも その声で我にかえった。
拓哉は何事もないように爽やかに笑おうとしているらしい、でも その目は 表情は…、
とても寂しそうな目をしながら、拓哉は微笑むように笑っていた。
「お話、終わりましたかって、 大丈夫ですか? 二人とも 僕 診ましょうか?」
「拓哉、なんで…」
昨日の俺と同じで二人とも固まっていた、絞り出すかのように智仁が声を出した、
まだ話の途中だったけど、このあとは話さなくてもいいだろう、十分 伝わったはずだ。
「そろそろ行きませんか、ここで遅刻したら意味がありませんし」
「でも 拓哉、お前 このままで…」
「このままでいいも なにも、これには人 一人の未来が 命が かかってるんですよ、
医者の僕が止めろって言うと思いますか?」
「拓哉…」
「大丈夫ですよ、法則通りなら、マスターさんのように記憶は変わるんです、
数時間後には なにも無かったことに、記憶すら残らないはず です…」
さすがの一眞も何を言えばいいのかわからないらしい、しかも 拓哉に諭されて、
弱々しい声を出してうなだれてしまった、智仁もだ、昨日の俺もこんな感じだったんだろう。
まるで何事もなかったように、大したことじゃないように、さらっと済まそうとしてるんだろ、
でも 拓哉、済ませてないよ、いつもは医師って言ってるのに医者って言ってるぞ、
それに、そんなに哀しそうな目をしてたら、全然 隠しきれてないよ…。
時間は一時間以上ある、十分に間に合う時間だ、だけど誰も会話を弾ませようとはしなかった。
一眞の家を出てから四人 歩いて駅に向かう、先頭を切るように進む拓哉の背中を追うように。
駅に着いても、電車に乗っても その状態は続いていた、
花火大会に向かう人で混雑していた、そのせいで会話が弾まないのも不自然では無い感じだが、
みんな どう思ってるんだろうか。
そう言えば、こんなことあったような、そう… 確か中学生の頃だっけ、
楽しい時間を止めることは出来ない、願っても時は止まらない 変わらないって、思ったっけ。
あの頃はガキで 自分で何も出来ない、動かせない 無力だって思ってた、
でも今は大人で、自分で何でも出来るし、しかも 今は 過去を変えようとさえしてる、
なのになぜ? なんでこんな、たった7日間だけど 俺を苦しみから救ってくれた仲間、
一眞や拓哉 両親でも打ち明けられなかった俺の懺悔を 受け止めてくれた大事な親友なんだ、
もうガキじゃない、もう大人だ なのになぜ、手に入れようとすると
手からこぼれ落ちていくんだ?
目的の駅に着いて智仁は一人 自分の車を取りに行った、
待ち合わせを時計台のそばのカフェの駐車場にして、三人で歩いてカフェに向かった。
もうすぐ時計台だ、朝はあれだけ晴れていたのに、ちょっと雲行きが悪くなってきた、
俺たちの気持ちを表すようだった、智仁はもう駐車場についていた、そこに三人で向かった。
「もうすぐ時間ですね 颯太さん」
「ああ」
「今度のダイブて、過去が変わったら、颯太はどこで目覚めるんだ? 俺たちって?」
「どうなんだろうな、選択で分岐するって話はよく聞くけど、実際はどうなんだろう」
「どんな形であれ、きっと皆さんにはいい結果ですよ、香織さんに会えますよ」
「拓哉…」
誰も答えがわからない、それはそうだ、分岐とか一眞がいってるけど、ホンとどうなるんだろう、
俺が、俺だけが、このみんなとの時間を記憶したまま、目覚めるのだろうか?
花火大会の待ち合わせをしてるのか 人が多いようだ、でも過去の事故の日だからか
待ち合わせの人は、時計台に供えられた花を見ると時計台から離れていく。
時間を見てた拓哉に出番だと押し出されるように 俺たち三人は時計台に向かい側に着いた。
「安心してください、ちゃんと颯太さんは三人で支えますよ、ねっ、一眞さん 智仁さん」
「ああ、支える、行ってこいハヤト」
「でも、拓哉」
「颯太さん、さっきも言いましたよね、それでいいんですよ」
拓哉はまっすぐ俺を見てまた爽やかな笑顔を見せた、それはどっちの笑顔なんだよ、拓哉。
一眞は声をかけるとうつむいた、智仁が腕時計を見る、俺も携帯電話を取り出した。
でもいいのか? 三人ともこれでいいのか? 俺、何が正しいのかわからないよ。
「準備しろハヤト、この時計の五分前には香織さんと時計台から離れろ、絶対 巻き込まれるな」
「未来が変わるなら、これが運命へのラストチャンスだ、未来を取り戻してこい ハヤト」
智仁に言われて一眞が俺の背中を軽く押した、思わず一眞の方を向く、すると一眞は
視線を反らし少しうつむいて下唇を軽く噛んだ、なら智仁は、うつむき下げられてた両手の拳は
爪が食い込みそうなほどに握られていた、まるでそれを隠すよう力を抜いてから腕時計を見た、
俺は重たい一歩を踏み出し、手で触れる位置に立つ、二人ともそれでいいんだな…。
リミットは時計台の止まった時間五分前、これが運命のラストチャンス あと少し、もう少し…。
「えっ」
携帯電話を見る俺の手を誰かが強く引っ張った、そのまま背中越しに俺の耳元に顔に近づけた、
そして耳元で、ささやくと、軽く突き飛ばすように時計台に軽く俺を押した、思わず手を付く。
「まっ 拓哉、待ってくれ」
手を付いてすぐに振り返った 三人の体が視界に入る、頼む拓哉と話したいんだ、待ってくれ、
けど、三人の顔が見える位置に視線をあげる前に、俺の目の前は真っ白に変わって行った…。