2日目・・・ あれは夢? それとも記憶? なんだっていい、もう一度…。
少し息があがった、やっぱ年にはかなわない、公園で遊んでいた頃のような体力はない、
でも、あの頃よりは俺だって確実に成長はしている、
身長だって平均よりは少し高いし、それにメタボ…って体型でもない、
髪の毛だって…、だっ 大丈夫だ、多分 今のところ…は…。
自分で言うのもなんだが、モテ…る訳もなく、まぁ その他大勢のごくフツーな奴だが、
俺もあんなイケメン先生みたいなら、楽しい人生を歩んでいただろうなぁ…。
子供の頃は自転車で移動していた距離だったが、想像よりは早く目的地についた。
あの、時計台の前に…。
「何か飲み物 買っておけばよかったなぁ…」
夏本番はまだ先なのに、今日は蒸し暑い、急いでいたせいでかなり汗が流れていた、
昨日の今日で時計が直るわけもなく、相変わらず時計台の時間は止まったままだった。
カバンの中から手頃な大きさのタオルを取り出し汗を拭い 息が整うのを待った、
手に持ったタオルをポケットに入れて、そして あの時のこと必死に思い出した。
よく考えてみれば、今日は夢を見る事より状況説明のことしか考えてなかった、
病院の先生に状況を聞かれると思っていたんだ、
リアルな夢の話なんてしたら…とにかく恥をかかない程度に説明しようと、
そう思って状況を整理して挑んだつもりだったが、
その結果が、その努力が、 今晩 両親の酒の肴になるのである、う~ん…。
えっ~と、白昼夢だがなんだか言ってたな、さっきの先生の言葉を思い出していた、
今日の診断は あの イケメン先生 ではなく、もっとベテランの先生だった。
結果は聞いていたんだが、母さんの反応がどうも気になって集中が出来なかったんだ、
だからテキトーに聞いた内容通り、安静にして経過観察すればいいんだって思っていた、
あの時、先生は夢の事にふれていたのに、もっとちゃんと聞いておけばよかった、
再現する条件の参考にできたかも知れない、まぁ 今さら遅いけど…。
昨日の時間が近づく、昨日の状態も思い出してきた、多分 行動の再現は出来る。
どうする? 試してみるか? でも、無意味に終わるかもしれない、
携帯電話の時間も時計台の時間に近づく、どうする… どうする…。
「あ〰️どうにでもなれ〰️!」
携帯電話を握りしめ、俺は両手を打ち付けながら頭を預けるようにして時計台に寄りかかった。
「……やっ…た…ぜ」
言葉を言い終えるか…ってところで、目の前が真っ白になった…。
「やったぜ、成功だ~!」
「『成功だ~』って何が? ゲームでもしてた?」
「えっ、あっ、いやその…、え~っと、あれ、何してたんだっけ?」
「…ホント 昨日から大丈夫? なんか変だよ、絶対 何か隠してるでしょ…」
「そっ そんなことはないよ、あっ~、えっと 今 何時だ?」
香織さんが目の前にいる、あの頃のまま、相変わらずの口調で、俺の側に…。
「具合が悪いならもう帰ろうか?」
「えっ そんなことないよ、全然平気 …で、今は何してたっけ?」
昨日と同じで 突然のことに状況が把握出来ない、夢のくせにやっぱリアルだ、
とりあえず、ここは会話でごまかしながら、探りを入れる、
テキトーに聞いていたときとか、つじつま合わせによくやる方法だ、
さりげなく辺りを見回す、ここは… 郊外にあるショッピングモールか?
なんとなく見覚えがあった、今回は携帯電話を手に持っていたので覗き込むと、
携帯電話の時計は 《20××年7月2日 15:31》 を指し示している、
また昨日と同じで、疑いの眼差しが飛んでくる、ホンと変わらないあの頃のままだ…、
話半分の時はいつも見破られるんだ、やっぱ先生にはかなわないや…。
「別に、興味がないんでしょ、昨日もそうだし…」
「えっ?」
〝昨日も…〟って、まさかこの夢って話がつながってるのか?
思わず出そうになった言葉をあわてて止めた、そして昨日の夢を思い出す、
これって、過去にあった出来事を断片的に見てるんじゃないのか、あの頃は確か…。
「特に急いでないし、そんなに調子が悪いなら、今日はもう切り上げて帰ろうか?」
「そんなことないよ、それよりなんか 喉が乾かない?」
「さっき飲んだばかりじゃない…」
「えっ あっ なんか暑いからかなぁ…、待ってて ちょっと買ってくる」
香織さんを残して俺はその場を離れた、まだちょっと話を合わせられるまでの状況じゃない、
もう少し、状況を把握する必要があった、歩いていたら わりと近くに自販機があった。
多分、香織さんはこれで…、俺はテキトーに選んで、香織さんの元に歩き出した。
昨日の夢は確か 花火大会の話しをしていた、実際の過去だと あの年の花火大会は…
あの後〈夢の中の俺〉は彼女と何を話したんだろう、やっぱ 夢がつながってるのか?
〈現実の過去〉と〈夢の中の過去〉の話がリンクする、頭の中がいまいち整理できない、
ベテランの先生がなんか言ってたな、白昼夢? とか フラッシュバック? とか、
記憶の回想? とかなんとか… これって 明晰夢 ってやつじゃないのか?
もう少しで話せる距離だ、香織さんは荷物を持っていないようだな…、
〖多分、今の状況、答えはこれだ〗 俺は腹をくくった。
「お待たせ …で、えっ~と、浴衣は何処に見に行くんだっけ?」
〖当たりか? それとも やっちまったか?〗 これが俺が歩きながら出した答えだった。
でも、この夢ではその答えでいいのだろうか? 俺の過去の記憶…、あの時は確か、
〈花火大会の浴衣を選びに一緒にショッピングモールに行った〉だ、
せっかくの楽しいデートの夢が、彼女の機嫌をなだめるだけになるのはゴメンだ。
「…一応、興味はあったんだね」
そう言うと、香織さんは俺の買ったジュースを受け取りキャップを開けて飲み始めた、
よっしゃ~! 俺は心の中でガッツポーズをしていた、楽しいデートになりそうだ。
緊張も取れた、俺も買ってきた お茶を飲む、あぁ冷たくて旨い。
「何も言わなかったのに、私の好きな飲み物 覚えていてくれたんだ」
「もちろん、よく飲んでたじゃん」
ショッピングモールの通路にある長椅子に二人で並んで腰掛けて、
ペットボトルの飲み物を飲みながら、流れる人たちをなんとなく眺めて、
そんな のんびりとした時間は、二人だけの楽しい時間に変わって行く、
香織さんのご機嫌は完全に直ったようだ。
「なんだかもう大丈夫そうだし、あのね ここに浴衣を見にいきたいんだけど いい?」
店内のガイドマップを指先ながら、香織さんが行きたい店を指し示す。
「うん、じゃあ そこに行こうか」
時には、大人っぽく、でも、時にはちょっとだけ子供っぽく、あぁ なんて…。
“……が、午後4時をお知らせしました”
「もうこんな時間だ、行こう 明日も仕事だし遅くなっちゃう」
唐突に耳に入ったショッピングモールの店内アナウンスが時を告げたのをきっかけに、
俺たちは移動をはじめた、せっかく盛り上がってたのに…。
「実は、ちょっとこのお店の浴衣が気になってて チェックしてたんだ~」
目的の店はわりと近くだった、店舗というより特設の浴衣コーナーらしい、
女の子たちが楽しそうに浴衣を選んでいるのが見える、
香織さんも嬉しそうに目的のブランドの浴衣のところに俺を導く。
「選ぶのつきあってくれるって思ってなかったから、一人でネットをチェックしてたんだけど、
えっ~と、あっ あった、こんな感じどうかなぁ…、あっ あれも カワイイなぁ…」
ヤベっ、スゲー楽しい、 俺 今 絶対に にやけてる…。
この夢の中では俺は香織さんより もちろん年下だ、でも今の中身は同じぐらいの年なんだ、
大人っぽく見えていた彼女が すごく可愛く見える、俺もおっさん化したのかなぁ…、
浴衣を選ぶのに夢中な香織さんがいろんな浴衣を楽しそうに俺に見せてくる、
あ~、めっちゃ かわいい。
「ねぇ、どんな感じがいいと思う」
来た、世の中の彼女持ち男子が、返答に四苦八苦するお決まりのフレーズ!
あの、〝どうせ決まってるくせに〟とか〝参考にしないんでしょ〟とか、
女子が、ただただ同意を求めたいだけだと言う噂の 試験的な アレ だ!
そんなこと、彼女としたことない俺にとっては、そのことすら愛おしい…。
「う~ん、俺はねぇ…、あんな感じの色合いがいいかなぁ」
俺はあえて、不機嫌スイッチをオンにするかもしれない答えを選んだ、
離れたところにある別にディスプレイの、しかも違う色合いの浴衣をあえて指差した、
彼女は年齢にあった感じの物を選んでいたけど、どうも色合いが地味というか…、
それが年相応なんだろうが、せっかくの可愛さが半減しそうな物ばかりだったからだ。
「えっ、じゃあ こんな感じかなぁ…」
多分、自分で気に入った浴衣なのだろう、何枚か腕にかけるようにしてキープしたままで、
少し移動すると、俺の薦めた色合いがあるハンガーラックの前で浴衣を選びはじめた。
「それ、持とうか?」
「えっ? あっ うん ありがと…」
なんか言いたそうな歯切れの悪さがあったが、
手に持っていた浴衣を俺に渡して、彼女はまた楽しそうに浴衣を選びはじめる。
「こんな感じかなぁ、今日はなんだかすごく優しいし、決めてもらおうかなぁ…」
〝すごく優しい〟ってそうだっけ? 俺、いつも通りのつもりだったけど、
中身が実年齢と違うからか? あの頃の俺ってどうだっけ? ちょっと考えてしまう、
そういえば…。
「ねぇ、颯太くん、いくつか選んで見たんだけど、どれがいいかなぁ…」
「う~ん そうだなぁ…、柄とかも… あるよなぁ…」
朱色系、水色系、藍色系、俺の選んだ色あいも含めて、香織さんが俺に聞いてきた、
でもさぁ、これって 夢の中 だけど 過去の回想 のようなものなんだよな、
ここで真剣に選んだって未来の結果が変わる訳じゃないんだよなぁ。
そう そういえば だよ、現実の話 あの年は確かに彼女と買い物をしたけど、
俺、彼女と一緒に来て どうしたんだっけ? 浴衣は一緒に買った? 何色を?
そもそも、花火大会の日 待ち合わせ…して…、それ…で、
あれっ、これって 夢みたいなもんなんだろ? それなのに、何で苦しいんだ?
花火大会…、待ち合わせ…、遅刻……、
交 通 事 故 !!
「うっ、うっわ~」
「えっ、ちょっ…ちょっと、ねぇ 大丈夫、ねぇってば!」
嫌だ…、イヤだ…、見せないでくれ、思い出させないでくれ、
胸が苦しくなる、頭が… 体が… 血の気が引いていってるのか? 思うようにならない、
これって夢なんだろ、過去の記憶だろうがなんだろうが 現実じゃないんだろう、
今は楽しいままでいさせてくれ、嫌な記憶を見せないでくれ、
イヤだ、嫌だ、止めてくれ~、悪夢なんて見たくない 頼む見せないでくれ。
香織さんが、あわただしく俺にかけより声をかけている、
心配そうな顔が近く、ごめん、心配かけてゴメン、
ちょっと苦しくて、香織さんの顔、見えなくなって…きた…、
「ゴメン、ごめん…なさい……」
「……あれっ?」
なんか見覚えが…って、病院の しかも、今日 退院したばかりの病室じゃないか?
「ちょっとまて、今って…」
俺はあわてて時間を調べた、サイドテーブルの引き出しの中に携帯電話が入っていた、
電源を入れる。
「…戻ってきたんだな」
手帳型のケースを開き、電源を入れた画面は《20○○年7月2日》を指し示していた、
過去でも、昨日でも、未来でもない、現在の日付そのもの あの時とまた同じだった。
またどこかケガとかしたのだろうか? 点滴が腕に刺さっていた、
どこか状況がつかめたような… そうじゃないような… なんとも。
「あっ、ヤバい…」
握りしめた携帯電話が振動する、無料通信アプリのメッセージが入ってきたようだ、
内容は見なくてもわかる、たぶんあいつらが結果を待っているんだ、
そう あの 〝明日、報告な…〟だ。
ここは病室だ、今の状態じゃ携帯電話を操作する訳にはいかない、すぐに電源を切った。
そしてまたベッドに横になった、今日は帰してもらえるだろうか?
あいつらに、なんて報告をしようか、夢の話をするか? 笑われるだろうな、
あぁ、また 家に連絡しないと、あんなキレイな看護師さんがいるなら、
まぁ、また入院でもいいか…なぁ…、でも…、
「あっ、お目覚めになられたんですね」
ぶつぶつと一人でつぶやいていた訳ではないが、
いろいろと頭の中が整理出来ないまま、窓の外を眺めていたら、
看護師さんがやってきた、さすが、大きい病院、また別の若い看護師さんだ。
「ちょっとすみません、先生を呼びますね」
そう言うと、ベッドの上にあるナースコールボタンを押して、先生を呼ぶ話しをはじめた。
お決まりの状態チェックを受けていると、あのイケメン医師がやってきた。
「どうも、担当の八代です…って、あれっ あなたは、今日 退院したと聞いてましたが」
「先生~ こちらの患者さん、また今日 救急車で搬送されたんです~」
「すみません ちょっと診させてください、もう少ししたら、担当の大塚先生が来ます、
詳しくはそちらの先生からお話がありますので、まだ ここで安静にしていてください」
若い看護師の媚びたような語尾がちょっと気になったが…。
イケメン八代先生はまったく相手にしていない様子だ、やっぱモテるんだなぁ、
よしっ っと言わんぱかりに簡単な診察を終え、先生が俺の側を離れようとしたとき、
病室の入り口の方から先生たちに声がかかった。
「おっ 八代君か、来てくれたんだね」
「えっ、あっ 大塚先生 お疲れさまです」
「診察をしてくれたのかい?」
「はいっ、特に変わったところはないようです」
「じゃ、帰っても問題ないかな、君を疑う訳ではないが、一応 診させてもらうよ、
すみません、もう一度 診させてくださいね」
そう言うと、昼間のベテラン先生がもう一度 俺の体を調べはじめた、
その側で八代先生が様子を見守っている、多分 研修中なんだろう。
「まったく君は…、入院の準備までして戻って来てしまうとはね。
そんなに入院したかったのかい? 八代先生に会いにとか…?
八代君は男女問わず人気だからなぁ…」
「せっ 先生、じょっ 冗談は止めてください!」
そんな、他愛もない冗談をさえぎったのは、そう、俺ではなく八代先生である。
どうやら苦労しているんだなぁ、イケメンも良し悪しってことか…。
「何を言っているのかね、君は老若男女問わず、人気じやないか」
「へぇ~、そうなんですか、確かに八代先生はイケメンですし、俺 全然OKですけど」
「…へっ?」
先生同士の話に俺の突然のカットインで八代先生は
〝えっ?〟でも〝はっ?〟でもなく〝…へっ?〟っと訳のわからない言葉を返してきた、
なんだか複雑な顔をしている。
あぁ、あの若い看護師は俺のことを睨んでいる。
「……って、やだなぁ 冗談ですよ、俺としては
昨日 最初に来てくれた、あのキレイな看護師さんとか好みですよ」
「おっ、君も冗談が通じるクチだね、どうも八代君は真面目過ぎていかん、
患者さんがリラックスできるぐらいのトークでも出来ればいいんだが」
「そっ、それは…」
「それは大塚先生が軽すぎるんですよ、先生の場合はもはやハラスメントです」
ここぞ… とばかりにあの看護師が話しに割って入る、八代先生への援護のつもりだろう、
看護師のしたたかさが見え隠れしているが、援護された本人は全く気付いていないようだ、
イケメンも欠点があるんだな、気づけばすぐに彼女が出来そうなのに、
多分 俺と同じで “彼女なし“ だな。
「はっはっはっ、また怒こられてしまったなぁ、
それにしても、君とは話しが合いそうだ、それに好みもな」
「えっ、そうなんですか?」
「そうそう、若くキレイな看護師もたくさんいるんだか、佐々木さんはなぁ」
「昨日のキレイな看護師さんは、佐々木さんというお名前なんですか?」
「ああ、君の言っているのは、年の頃にして…」
「大塚先生!!」
「おっと、また怒られてしまったなぁ、この話しはまた今度ゆっくりと話そう、
…では、真面目な話しをしようか」
……で、もちろん怒られた、昨日の今日の話しだ、言われた通りに家で安静にせずに、
結果、救急車で運ばれて、迷惑をかけているのだから当然である。
「…ではこの話しはこれぐらいにして、それで今の状態についてですが、
搬送されてきたので、また検査しました、今朝の状態と変わった様子はありませんでした。
昼にお話した通り、後日 再検査でいいでしょう、ただし 急激な症状、
例えば、激しい頭痛など、気になる症状があれば、すぐに病院に来てください」
「はい 先生、ご迷惑おかけしました」
「詳しくは後日 改めて判断したいのですが、現在 軽い症状が続いているようですし、
昼に伺ったことを考えると、専門医に診てもらってもいいかも知れませんね、
もしご心配であれば、数日お仕事をお休みすることも考えてみてはいかがですか?」
「仕事をお休み ですか…」
「えぇ、もし必要なら診断書も発行出来ますから、相談してください、
今日はご自宅に戻られて大丈夫ですよ、でも あまり無理はされませんように、
では、お大事になさってください」
「八代君、引き継げるかな」
「はい 先生」
軽く頭を下げて、若い看護師さんと俺を残して先生たちは病室のドアへと向かった、
歩きながら引き継ぎをしているようだ。
しばらくして戻ってきた八代先生は看護師さんに指示をすると、
看護師さんは病室から出ていって、俺と八代先生と二人になった。
「あっ えっ~と、その… これからについてですが…」
「…はい」
んっ? なんか歯切れが悪いなぁ、スマートに仕事をこなす感じがみられないような…。
「僕が点滴を外しますね、ちょっと失礼します…」
えっ 先生が外すの? なんか珍しいんだけど… 何か違和感をおぼえた、
先生は看護師さんの置いていったワゴンの道具を使い点滴を外しながら話しを続ける。
「これから迎えの方を呼んでいただきたいのですが、
今 一応 確認してもらっていますが、多分 こちらでお待ち頂いて大丈夫です」
「別に、待つのはロビーとかでも大丈夫ですよ、自分で帰ってもいいぐらいだし…」
「それはダメです、大塚先生に『ご家族と一緒に帰すように』と言われています」
「そんな、別に パレなければ大丈夫でしょ、先生も真面目だなぁ…」
「僕が心配なんです、それにしても西山さん確認が遅いなぁ、僕 聞いて来ます」
点滴の処理を終えると、俺とワゴンを残して、あっという間に病室を出て行った、
と思ったら、すぐに戻ってきた、どうやら途中で会ったらしい、看護師さんが嬉しそうだ。
「先生、そんなに慌てなくても、私、ちゃんと先生の元に戻って来ますよ~」
「君、ベッド使用は大丈夫だって言ってたよね、
じゃ、後は僕が説明しておくから、仕事に戻ってください」
「………はぁ~い」
相変わらず、あざとさが全開の看護師さんの語尾が気になったが…、
その語尾に反して看護師さんは、先生のそっけない態度に、えっ? っとした表情をして、
キッっと睨むように先生を見つめたかと思うと、今度はちょっとあきれた顔で返事をして、
ワゴンを押して病室を出て行った、あぁ…終わったなぁ…。
それにしても、おいおいっ 患者の前であの態度は、ツッコむとこじゃないのか?
「確認が取れました、このまま安静にしていただいて大丈夫です、
ご家族がいらっしゃったらこ案内いたしますが…
よろしければ迎えの連絡はこちらからいれましょうか?」
「いえ、これ以上ご負担をかけるのは申し訳ないですし、やはりロビーで結構ですよ」
「ベッドは 今 片付けても、後でも対して変わりません、気にされなくても大丈夫ですよ」
「…では、とりあえず連絡してみます、ちょっと携帯電話 使ってもいいですか?」
携帯電話を持って病室の外に出ようとしたら、〝メールならここで…〟と止められた、
電源を入れると、すでに家からの着信が入っていた、
どうやら家に帰っていないことに気が付いたらしい、
とりあえずメッセージで “これから帰る“ と入れておいた、
「連絡はできましたか? では 迎えがみえるまで安静にして待っていてください」
「えっ、でも…、ホンと自分で帰れますし」
「ダメです、僕が先生に怒られます、迎えが来られないようであれば入院をしてください、
何も心配しなくても大丈夫ですよ、僕は今晩も勤務してますから、
そういえば、診断書類は作っておきますか?」
…んっ? 先生さっきより、ちょっとテンション上がってないか?
「診断書 ではお手数ですがお願いします、退院の会計の時の受け渡しで大丈夫ですか?」
「いえ、とんでもない、こちらに僕がお持ちしますよ」
えっ、僕がって まさか、さっきの俺の冗談を真に受けたとか?
そんな、頭が固すぎるだろう…、そういえば、〝僕が心配なんだ〟とか言っていたような…。
「いえいえ、そんなにお手数をお掛け出来ません、帰りまで で大丈夫ですよ」
「そっ、そう…ですか…」
えっ、今度はちょっとテンション下がり過ぎじゃないか?
まさか、そっちの趣味があるとか…? う~んちょっと気になるなぁ…。
「ねぇ 八代先生、彼女とかいないんですか? カッコいいし モテるでしょ」
「えっ、彼女? いないですよ、モテる? そんなことある訳ないじゃないですか、
あぁ、もうこんな時間だ、では 書類は手の空いたものに届けさせます、
じゃあ、お大事になさってください」
突然、話しの流れが変わり、先生は明らかな動揺を見せ、要件を告げると、
バタバタと、ちょっとなごり惜しそう? に病室を出って行った、
やっぱさっきの冗談を真に受けたのか? はっきりしないが、まぁ、流しておこう…。
とりあえず、トイレに行くついでに休憩室で改めて自宅に連絡した、
……で、もちろんまた怒られた、家には母さんがいたようだ。
「もしもし」
「もしもし、母さん、俺」
「母さん、俺って、詐欺じゃないんだから、ちゃんとしなさい
……で、帰るって、あんた今、どこにいるの」
「いやぁ~、また救急車で担ぎ込まれてさ~、同じ病院、しかも同じ病室」
「はぁ? また担ぎ込まれた~? 何やってんの 大丈夫なの?」
「今のところは問題ないって、でさぁ、迎えに来てくれる? 来ないと帰れないんだ…」
「何? お金が足りないとか?」
「違うよ! また後で説明するけど、付き添いが必要なんだって」
「えっ、ちょっと、ホンと大丈夫なの? そのまま入院してたら?」
「いや、昼間の先生に『大丈夫だから帰宅』って言われてるから、多分…」
「多分って何?」
「帰りに一人にならないようにってことだと…、前のこともあるし…」
「……そうなの、じゃ、迎えに行くから、どこに行けばいいの?」
「病室にいる、先生が病室で安静にしてろってさ、気を使ってくれたらしい」
「そう、……もう一度聞くけど 帰れるのね、入院じゃなくていいのね」
「うん、心配させてごめん、母さん」
ベッドに戻ると夕食の時間なのか、周りがまたバタバタし始める、
当然ながら俺の夕食はない、とりあえずベッドに腰かけた。
まだ職場に人はいるかなぁ、休まなければならなくなったから連絡を入れないと…。
「失礼します、こちら八代先生から預かった診断書です」
「あっ、ありがとうございます」
「ご家族とは連絡が取れたそうですが どのぐらいで見えられますか?」
「先ほど話しができたので一時間もかからないかと思います」
「そうですか…」
「…何か言いたそうだね、どうしたの?」
診断書を持ってさっきの看護師 西山さんがベッドの側に来た、
診断書を俺に差し出して要件を言い終えると 明らかに不機嫌な態度を見せたので、
書類の封筒を受け取りながら、ちょっと意地悪っぽく聞いてみた。
「いったい 八代先生に何を話したんですか、先生、いつも点滴なんて処置しないのに、
急に『するっ』て言ってみたり、さっきだって 何か落ち込んで書類を持って来て」
「…で、その八代先生はどうしたの? さっき『また来る』って言ってたけど」
「先生はあなたのところには来ないですよ! 急患が入ったんだから
『直接渡しに行く』って言ってたけど、私が止めて途中で引き継いだんだから」
「…それって、八代先生のことで、俺に焼きもちとか~」
「ご家族が来たらお連れしますから、すぐに帰って下さいね!」
西山さんはちょっと語尾をあらげて、
マンガなら怒りマークぐらいつきそうな顔で仕事に戻って行った。
ちょっとだけからかい過ぎたかなぁ、なんか かわいいなぁ、八代先生も罪作りだね…。
よく考えてみれば八代先生って、俺とあまり年は変わらないんじゃないか?
俺とのあまりの違いに、ちょっと凹んだ…。
しばらくしてから、病院着を着替えてカバンの荷物をまとめて身支度を整えた、
着替えがあってよかった、などと思っていたら母さんが迎えに来た。
「もう、あんた、何やってんの! 人様に迷惑かけて」
「ごめん母さん」
「謝るのは私じゃないでしょ」
母さんは俺の頭を押さえつけようとして、また手を引っ込める、包帯様々だ、
俺も準備は終わってたし、周りのベッドの方に簡単に挨拶をして二人で病室を出た。
ナースステーションに向かい、カウンター越しに退院について確認をお願いする、
昨日の看護師さんいないなぁ…、あっ、西山さんだ、作り笑顔で手を振っておいた、
あぁ、睨んでる、手続きの連絡をしてもらい、夜間受付に向かった、
会計時間外なので、夜間の支払処理らしい、後日の手続きの説明を受け病院を出た。
「車を回して来るからここにいなさい」
そう言うと母さんは俺を残して駐車場に向かった。
「とりあえず会社に連絡するか」
日も傾いている…、それなりに丁寧な言葉を選んで、
“会社を明日から数日休みたい、詳細は勤務時間内に連絡する”という内容をメールした、
会社にはもう人がいないかもしれないからだ、
診断書もあるし、今回の結果が出るまでは俺も休みたいと思っていた。
「お待たせ さあ乗りなさい、じゃ 帰るわよ」
「うん、ありがとう」
お礼の声をかけてから、白いボックスカーの助手席に乗り込んだ。
俺は お願いをするタイミングを図っていた、失敗したらまた怒られかねない、
ちょっと 沈黙が続く…、口火を切ったのは母さんだった。
「あのね、夕食なんだけど」
「夕食? 今日は何 病院の食事はどうもあっさりで…」
「いや、材料は買ったんだけど、あんたを迎えに来たから、
作る時間がなかったのよ、途中で買って帰っていい?」
「ごめん、余計な手間をかけて」
「…で、何を頼みたいの?」
「えっ、さすがわかってる~、あのさぁ、ショッピングモールで買って帰らない?」
「はぁ、何 言ってんの 遠回りじゃない、お父さんも待ってるんだから、却下。
第一 あんたは仕事も休んだんでしょ、自重しなさい」
「やっぱダメかなぁ…」
「ダメよ、今日は帰って早く寝なさい」
「だよね…」
「その代わり、早く元気になるようにあんたの好きなご飯にしてあげるから」
願いは叶わず、特に これって ものもなく 適当に通り沿いで買って帰ることになった、
家に着くまでの間、母さんの話は話し半分で聞いていた、俺はあることを考えていた…、
「あんたは先に入っていなさい、ちゃんと お父さんに報告するのよ」
「ああ わかった、ありがとう母さん」
しばらくして家に着いた、母さんから俺一人で先に降りるように言われた、
言う通りに降りて、後部座席にあった自分の荷物と夕食を持って玄関に向かった、
玄関のドアの鍵を開けると、待ちかねていたとばかりに父さんが部屋から出てきた、
俺の顔を見るなり、なんでもない素振りをして出迎えてくれた。
「ただいま」
「あぁ お帰り、大丈夫か?」
「うん、とりあえず中で話すよ、あと これ晩メシ」
玄関先で長話って訳ではないし、父さんに夕食の入ったビニール袋を渡して、
靴を脱いでリビングに向かった、追いかけるように母さんもリビングに入ってきた。
「あ~疲れた、ただいま~っと、あっ あなた、さっきはごめんね」
「あぁ、別に構わないよ、大丈夫だったか」
「あっ、颯太、そんなところでお茶飲んでないで、昨日はお風呂入ってないんでしょ、
シャワー浴びて来なさい、その間にご飯を用意しておくから」
「うん わかった、なんか喉が乾いちゃって 飲んだら入るよ」
俺はリビングに入るとすぐに自分の荷物をその辺において、キッチンに向かい、
テキトーなコップを使って、冷蔵庫から冷たいお茶を出して立ち飲みしていた、
そこで母さんに声をかけられた、
なんだかんだ言って昼から水分補給してなかったし、のどがカラカラだった。
「あっ 間違っても、包帯を濡らすんじゃないよ」
「そうだ 忘れてた、じゃ 入ってくる」
日が暮れて過ごしやすくはなったが、かなり汗をかいていたようだ、
ひととおり喉を潤すと、荷物をもってリビングを出て そのまま2階の自分の部屋に向かった、
リビングのドアを締める時、二人の話し声が聞こえたけど…、
あれか? 昼間 言ってたあの〝今晩、その話しで飲めるわ〟か?
ということは、晩メシの時にからかわれる? それとも説教?
2階に上がって自分の部屋に入る、すぐにベッドで横になりたいとも思うが、
言われた通り風呂に入ろう、ベッドのそばにカバンをテキトーに置いてから、
携帯電話をポケットから出して手に取った。
「やっぱSNSメッセージが入ってるわ」
昨日からの分も含めていくつかメッセージが入っていた、仕事の方は何も入ってないのに。
バディ “あれからどうなった? ちゃんとい・け・た・か?”
ナイン “ちゃんといったよな、絶対に報告しろよ”
バディ “おーい、返事なしか?
ナイン “とにかく明日でいいから報告しろよ”
バディ “マジか! 昨日からスルーか?”
バディ “はっ? 会社休みだと! おーいどうした?”
ナイン “えっ? なに? あいつサボり? マジで?”
バディ “ああ、なんか連絡があったらしい”
ナイン “はぁ? マジか!!”
バディ “おーい生きてるか? スルーすんな”
ナイン “怒らないから、返事しろ~”
“とりあえず生きてるよ、あそこには行った”
“まぁ、ちょっと救急車で病院送りになった”
“報告は晩メシ食って両親の説教くらってからな”
“おちてたらよろ~“
手短に返事をいれておいた、さぁ、風呂にいかないと説教が増える、
着替えを用意して、カバンから使用した汚れ物も持って風呂に向かった。
部屋を出て階段を降りる、1階に着くと閉めたはずなのに、リビングのドアが空いていた、
また両親の話している声が聞こえた。
「あなた、先に飲む?」
「いや 颯太が来てからでいいよ、にしても…」
「いろいろあったし、しんみりするより笑い飛ばしてやろうって思ったたけど、
また先ね…、今回のことあまり怒らないでやって…」
「で、どうなんだ?」
「本人から聞いてみないと なん……」
立ち聞きって訳ではないが二人の話しが少し耳に入った、やっぱまだ心配しているようだ、
ちょっとだけ、ちょっとだけゆっくりとリビングのドアの前を通って、風呂に向かった。
ドアを開け、脱衣場に入り、手に持っていた物を洗濯物カゴに分けて入れた、
それから、服を脱ぎ始めると、自然と洗面所の鏡が目に入った。
別にポーズをとったりはしないが、頭の包帯が気になった、
嫌でも目に入るぐらい結構はっきりと巻かれている、
どのぐらい切ったのかな? キズを見たわけではなし、先生は浅いキズとは言っていたけど、
後が残るのかなぁ… ちょっと失敗したなぁ、これじゃしばらくは、帽子が必要かなぁ。
「……おっ、それっていけるかも!?」
自分のキズを見て、凹むほど ”ナルシスト“ じゃない、状態さえわかればいいんだ、
手短に鏡の前から離れて、さっさっと服を脱いで、風呂場に入った。
「あ~、湯船に入ってゆっくりしたいなぁ…」
〝頭部はけっこう血が出る、切った場所が太い血管だったら危険だった〟とか言ってたな、
やっぱ湯船にお湯が張ってある、けど しばらくは入らないほうがいいらしい…、
入浴でキズ意外はキレイにはしたほうがいいとか言ってが、また大量出血じゃ洒落にならない、
いったいどんな切り方をしたんだか…、ホンとかなり大きなキズじゃないといいけど。
シャワーの湯の温度を確かめて、気をつけてながら体を洗いはじめた、
ちょっと意識しておかないと、うっかりかけてしまいそうだ、
それにしても、帰りの車の中でも気になっていた、昨日のからのこと、あの夢のことが、
なんかバタバタして細かく考える余裕がないし、考えがまとまらなかった、そもそもだ…、
あれは 夢 なのか、 それとも 記憶 なのか。
俺、なんか病気とか? それとも やっぱ心的にヤバかったのか? それに…。
あの 夢 は話しがつながってるのか?
たまたま見た夢ぐらいに思ってた、でも、なんかいつもと違ってカラフルだったし、
俺が普段見る夢なんてあんなにリアルじゃない、起きたら忘れるぐらいテキトーだ、
何よりも、あの日から一度も俺のところに現れない、現れてくれないんだ、香織さんは。
「おっと、あまり長く入ると、晩メシを待たせてたんだ」
とりあえず、病院で言われたように洗えるところだけ洗って風呂場を出た。
脱衣場に用意されていたタオルで体を拭き、持ってきた部屋着に着替えた、
鏡を見るかぎり、とりあえず 包帯は大丈夫そうだった、換気扇を回して、
濡れたタオルを洗濯物カゴに入れ、脱衣場を後にした、そしてリビングに向かった。
「風呂、上がったよ~」
声をかけながらリビングの中に入る、もう食事の準備は出来たらしい。
「あっ やっと出てきた、今日は晩酌はやめて早く寝なさいよ」
「あぁ そうするよ、父さん 待たせてごめん」
「待ってはないよ、さっき、ご飯が炊けたから、出来は保証せんがな」
「迎えがあるから父さんに頼んだの、ホンと迷惑ばかりかけないようにって あ~包帯が邪魔」
さっきから髪をグシャグシャにできず、イライラがつのったようだ、
母さんは俺を怒る時によく頭をグシャグシャとやってるからな。
「まぁまぁ、暖かいうちに食べよう」
「そうね、颯太 あんたも早く食べて、父さんに報告しなさい」
「いや 食べながらでいいよ、いいよな母さん」
「まぁ いいけど、じゃあ 食べましょう」
父さんが炊いたご飯と、大皿に乗ったさっき買ってきた惣菜で食事がはじまった、
二人はご飯より先に晩酌をするようだ、ついに酒の肴になるのか?
「それでどうなんだ?」
「うん、体は今のところ大丈夫だって、かなり血が出たらしいけど」
「ちょっと、話すのはそれだけじゃないでしょ」
賑やかなんだか、説教なんだか、二人とも安心してのか、酒のせいなのか、
なんだか和んだ感じの食事の時間で、診察の話は からまれずに俺は食べ終わった。
自分の食器をキッチンに運び、冷蔵庫から冷えたペットボトルを一本出してから、
もう一度ダイニングテーブルに戻った、けど、席には座らなかった、そして。
「ごちそうさま、もう部屋に戻るわ」
そう言うと、俺はリビングのドアに向かった
「えっ、あんたちょっとまだ報告が…」
「……母さん」
声をかけて止めようとする母さんを、父さんの声がおさえていた、
おとなしく母さんはしたがっている、ちょっとした沈黙がはしる、
俺はドアノブに手をかけてドアを開きながら、振り替えることなくつぶやいた。
「あのさぁ、よくまだわかんないけど、あそこに行くのだけはもう大丈夫になったよ」
特に反応がなかった、そのままリビングを出ようとしたその時、母さんから声がかかった。
「颯太、おやすみなさいは?」
「えっ、あぁ おやすみなさい」
「はい、おやすみ、早く寝なさいよ」
「あぁ」
俺はそう返事して、ずっと振り替えることなく後ろ手でドアを閉めてそのままリビングを出た。
ありがとう、父さん、母さん 顔が見れなかった、
笑われると思ってたのに、問い詰める訳でもなく、叱るでもなく、普段通りに接してくれた、
ホンと二人には迷惑かけてばかりだ。
そのまま洗面所に向かい、歯磨きを済まし、2階の自室に向かった、
部屋に入って、ベッドサイドテーブルに携帯電話と持って来たペットボトルを置き、
さらに楽な部屋着に着替えて、すぐにでも寝られるようにしてから、ベッドに腰掛けた、
そばにあるペットボトルを開けて口に含んで一息ついて、さっきの風呂場のことを考えた。
あれは 夢 じゃなく 記憶 なら、あの場所は実在の場所だよな?
なら ショッピングモール に行けば何かわかることがあるかも、行きたいよなぁ…、
さっきは止められたけど、〝帽子買いに行く〟とか言えば、行けないかなぁ、
鏡を見ながら思い付いたこと、それは外出の理由だった。
いろいろありすぎてまとめられなかったことが、やっとゆっくり考えられた、
あいつらにもあの後のこと話さないといけないけど、さて どこまで話すかなぁ…、
携帯電話を取り出して、SNSを使って呼びかけた、
“おーい 晩メシ終わった起きてるか?”
“とりあえず、逆鱗は触れなかった”
“…………”
“じゃ、どうなったか書いとくわ”
ナイン “寝てる訳ないじゃん、今ネトゲ中”
バディ “おっ、なになに俺もやる、なら、そこで話そうぜ”
ナイン “じゃ朝までクエストな!”
“えっ、それは、俺、医者に言われた”
ナイン “えっ、マジか! ゲームがダメとかか?”
“いや、早く休めって”
バディ “じゃ、1クエストで解放してやるよ! お前レベル高けーし”
バディ “俺らのレベルあげ付き合えって”
ナイン “そうそう、俺らは、愚痴に付き合ってやっから”
バディ “じゃ町のヴァルザな”
ナイン “早く来いよー”
「…負けた」
なんだかんだ言って、いつもあいつらのペースだ、頼み事もあるし黙って従うか、
携帯電話と飲みかけのペットボトルを持ってデスクに向かう、
デスクに手に持ったものを置いて、パソコンを起動させてから、椅子に腰掛けた、
言われた通りにゲームにログインして、言われた通りゲームの町ヴァルザに転送完了した。
~オンラインゲーム内 町ヴァルザ~
“ラビがログインしました” パソコンモニター画面に俺の名前がでる
言われた待ち合わせ場所に向かった、
さすが土曜の夜、かなりのプレイヤーが楽しんでいるようだ、
画面上で俺に話しかけるものがいた、
リオン:「結構かったね」
ジ ン:「よう、遅かったなぁ」
ラ ビ:「あぁ、ちょっと茶飲んでた、早速チャットで」
三人でグループチャットで話すことにした。
ラ ビ:「まずは、すまん」
ジ ン:「何? 何であやまる?」
リオン:「なんかやらかしたか?」
ラ ビ:「だって昨日付き合ってもらったし、それに連絡も」
リオン:「なんだそんなことか」
ジ ン:「それよりお前、時間ないんだろレベルあげいくぞ」
リオン:「移動しながらでいいだろ、なぁ、何やる?」
ジ ン:「テキトーなダンジョンでも行くか…、」
リオン:「ああ、近めがいいな、…で、話せよ」
そして、俺たちは昨日のことについて話しながらダンジョンに向かった。
ジ ン:「なぁ、もち、看護師さんのアドレスゲットしたんだろ?」
ラ ビ:「しねーよ! それどころじゃなかったし…」
ジ ン:「なんだ、チャンスだったのに、まぁ お前じゃあな」
リオン:「で、かわいい娘はいたか? なら、いつかそっちの病院に行く」
ジ ン:「でも、こいつ年上好きだからなぁ、ちゃんと見てきたか?」
ラ ビ:「若いかわいい娘はいたよ、でも、イケメン先生狙いだった」
ジ ン:「まぁ、そんなもんだな」
リオン:「で、どうだったんだ? 7年ぶりだろ…」
近めのダンジョンは手頃なレベルっぽかった、そのままチャレンジを開始する。
その間に俺は話を続けた。
いつもと違って、ちょっとだけ素直に、まぁ、少し自白めいていたが。
二人と別れてから、マジ倒れるか? って状態で、やっと時計台に向かったこと、
時計台の通りに入ったとたん、以外なほどすんなりと前まで行けたこと、
時計台の前で、避けつづけていた今までを受け入れた けど、後悔も沸き上がって、
訳がわからなくなって、思い余って時計台に触れたこと、
……そして、なぜか意識を失い救急車で担ぎ込まれたこと、
その病院でそのまま検査と入院になり、会社を休むことになったこと、
翌日、診断結果を受けて退院、”家に帰って安静” と言われたこと、
でも、なぜ意識を失ったかが気になって、勝手にひとりで時計台に行ったこと、
…で、また同じ場所だ倒れて、救急車で病院に運ばれたこと、
その結果、数日、休みをとることを進められて診断書もらったこと、
……そして。
リオン:「なぁ、今、体調は大丈夫か?」
ジ ン:「すまん、そんなだと思わず、ネトゲに誘って」
ラ ビ:「いや、問題ないよ、頭部を切って出血しただけだし」
リオン:「でも、意識をなくしたんだろ」
ラ ビ:「精密検査は今のところ問題ないって、ただ…」
リオン:「わかってる、早めに安静だろ、ダンジョン出たら落ちろ」
ジ ン:「ゴメンな」
ラ ビ:「ゴメンの前にジン、明日、休みだったよな? 空いてるか?」
ジ ン:「あぁ、ヒマだけど?」
ラ ビ:「ジン、頼みがある、明日買い物に付き合ってくれ、ランチおごる」
ジ ン:「んっ、なんだよ急に」
リオン:「お前、明日は安静のほうがいいんじゃねーの?」
ラ ビ:「そうなんだけど、気になるんだ」
リオン:「なにが?」
ラ ビ:「…………」
ジ ン:「なんだよ、話せって!」
ラ ビ:「気になるんだ、なんで意識をなくしたか? が」
リオン:「……とその前に、ボス部屋らしいぜ」
いったん話は中断、ボスを倒すことになった、
ちょっとした打ち合わせをして、ボス部屋チャレンジがはじまる、
でも、二人にどこまで話そうか? を考えてなかったから話が中断して助かった、
香織さんや夢の話はちょっと話しづらい、うまく話す方法は…、
リオン:「ラビ、もう疲れたか? 終わったら解放するから」
ジ ン:「さあ、とどめだ」
ボスは倒せた、まぁ、ギリギリだったが、
アイテムをゲットしてダンジョンは脱出魔法で出ることになった、
リオン:「なぁ、ラビ、このまま落ちるか?」
ジ ン:「落ちる前に返事だろ? 明日の」
リオン:「そんなに気になるんか? 後でもよくないか?」
ラ ビ:「確かにそうなんだけど…」
ラ ビ:「ちょっと…しばらくひとりで出歩けないんだ」
ジ ン:「えっ、なんで?」
どこまで話すかまだ決まってなかったが、とにかく話を続けた、
二人は〝ひとりで出歩けない〟ことが気になるようだ、そこ押しで、話を続けた、
ラ ビ:「俺さぁ 意識を失っただろ」
リオン:「で、しばらく休んだほうが良いってことになったんだろ?」
ジ ン:「あぁ、でも何かあるのか?」
ラ ビ:「再発傾向じゃないかって話しになったんだ、で、診断書が出た」
リオン:「再発って、あれか?」
ラ ビ:「ああ、数年前のあれだ、一応、問診で話したから」
ジ ン:「…きついんか?」
ラ ビ:「俺は平気だと思ってる、でも、そのせいで一人で退院できんかった」
ジ ン:「なら、無理しないほうがよくねぇ」
ラ ビ:「キズのせいで帽子がいるし、買い物ついでに付き合ってくれよ」
リオン:「でも、頭をケガしたんだろ? なら…」
ラ ビ:「ケガは、多分、時計台の部品で切っただけで、後は、なんともねぇし」
ジ ン:「なぁ…、ラビ…」
ジ ン:「…男二人で休日デートか?」
ジ ン:「…むなしい、むなしすぎる!」
ラ ビ:「そうだよな、わりぃ忘れてくれ」
ジ ン:「用が済んだらナンパ付き合え!お前が声かけだからな!」
ラ ビ:「!?」
ジ ン:「後、おごりは覚悟しとけよ、めっちゃ高いもの食うからな!」
ラ ビ:「…マジか!?」
リオン:「あ~、仕事じゃなければ俺がいったのに~!!」
ジ ン:「そっか、じゃ、待ち合わせどうする?」
ラ ビ:「俺、車出すわ、多分…借りれる、11時ぐらいでどう?」
リオン:「多分? ダメだろ、相変わらずアメーな」
ラ ビ:「えっ、なんで?」
ジ ン:「だってお前 “安静に…” だろ、俺が出してやるよ」
ジ ン:「家に迎えに行ってやるよ ヒ・メ♡」
ラ ビ:「ハイハイ、俺はいつもアマアマですよ、でも頼むな」
リオン:「お前そろそろ落ちろ、結構な時間だ」
ラ ビ:「ああ、行きたいところがあるんだ、メッセージ入れとく」
ジ ン:「なんかコマイな、まぁ、いいけど」
ラ ビ:「すまん、でも付き合ってね、王子♡」
ラ ビ:「じゃ、二人ともサンキューな、じゃ落ちるわ、おつー」
“ラビがログアウトしました” パソコン画面が変わった、そのままシャットダウンした
また、携帯電話と飲み物を持ってベッドに向かった…。
時計は23時を過ぎていた、喉を潤してから、携帯電話 片手にベッドに入った、
話した通り、SNSのメッセージに待ち合わせの時間といきたい場所、その時間を入れておいた。
明日はあのショッピングモールに行って 夢の中のあの場所 に行ってみよう、
まだあるかなぁ、同じ時期だし、またあそこで浴衣を売ってるのかなぁ、
それで、帽子買って、智仁とランチして、あぁ、何をおごらされるんだろ…。
そもそも、あれは夢なのか それとも記憶なのか、…まぁ、なんだっていいか、
香織さんに会えたのだから、明日、時計台で同じことをすれば、
また香織さんと会えるか…、いや、もう一度 会いたいな…。
また、あの〈リアルな夢〉で時間は流れてるのかなぁ 話しが繋がってるのかなぁ…、
明日… あの〈リアルな夢〉のことで、なんか……わかると…いい……なぁ……、