虹のどんぐり
昔、この森には、たくさんの虹がかかりました。
逆さまの虹です。
なので、この森は『逆さ虹の森』という名前で呼ばれていました。
でも、この森に棲んでいる動物たちは、逆さまの虹なんて見た事がありません。
怖がりのクマが言いました。
「ボク、虹が見てみたい」
暴れん坊のアライグマが言います。
「はん、お前みたいな臆病な奴に虹が見れるわけがないだろう」
お人好しなキツネが言います。
「そういうなよ。良いじゃないか。僕だって虹が見てみたいさ」
食いしん坊の蛇が言います。
「そうは言っても、どうやって?」
悪戯好きのリスが言います。
「ずっと、空でも見ているかい?」
みんなでうんうん言いながら考えてみても、良い考えが思いつきませんでした。
歌上手のコマドリが言いました。
「そうだ、どんぐり池でお願いをしてみたらどうだろう」
この森には、どんぐり池というとても大きくて綺麗な池があって、そこにどんぐりを投げ込んでお願い事をすると叶う。という噂があるのです。
怖がりのクマが不思議そうな顔をして聞きました。
「でもボク、どんぐりなんて、見た事がないよ」
「確かに」「見た事」「ないな」「どんぐりの木って」「どこにあるんだろう?」
誰も、どんぐりがどこにあるのかを知りませんでした。
お人好しなキツネが言いました。
「じゃあ、探してみようよ。どこかに、どんぐりがあるかもしれない」
怖がりなクマは、森のいつも散歩するところをくまなく探してみました。自分が気づいていないだけで、どんぐりがあるかもしれないと思ったからでした。
どんぐりは、ありませんでした。
お人好しなキツネは、落ち葉の下を探してみました。もしかすると、どんぐりが隠れているかもしれないと思ったからでした。
どんぐりは、ありませんでした。
食いしん坊の蛇は、岩の隙間を探してみました。どんぐりがころころ転がって、隙間に落ちているかもしれないと思ったからでした。
どんぐりは、ありませんでした。
悪戯好きなリスは、木の上を飛び移って森中の木を見て回りました。どんぐりの木があるかもしれないと思ったからでした。
どんぐりは、ありませんでした。
歌上手のコマドリは、空の上から、逆さ虹の森も、隣の森も、その隣の森も見て回りました。どんぐりの木がどこかにはあるだろうと考えていたからでした。
どんぐりは、ありませんでした。
暴れん坊のアライグマは、オンボロ橋の向こう側、入ってはいけないと言われている所を探してみました。怖がって誰も探さないだろうと思ったからでした。
どんぐりは、ありませんでしたが、変な物を見つけました。
「みんな見てくれ。どんぐりはなかったけど変な物を見つけた」
暴れん坊のアライグマは、ふうふう言いながら、どんぐり池の前まで、変な物を引っ張ってきました。
「それは何だい?」
怖がりのクマが聞きました。
「それはロボットだ。隣の森のコマドリに聞いたことがあるよ。すっごく頑丈で重たくて、ずうっと眠っているんだって」
歌上手のコマドリが答えました。
「へえ?これがそうなの?」
悪戯好きのリスが、ロボットをつんつん突きながら言いました。
「小さいね。まるっと丸呑みにできそう」
食いしん坊の蛇が言いました。
「止めなよ。リスが怖がってる」
お人好しのキツネが言いました。
「怖がってないよ!」
悪戯好きのリスが強がって、ロボットをバシバシ叩きながら答えました。
かちり。
という音がしました。
「ふわぁぁ。よく寝た」
ロボットが、むくりと起き上がって言いました。
「うわぁぁ!動いたぁ!」
ロボットが急に動き出して喋ったので、みんな驚いて逃げてしまいました。
「あれ?ここはどこだろう?」
ロボットが言いました。
周りには誰も居ません。
「誰も居ないの?」
ロボットが周りを見てみても、誰も居ません。
とても静かな様子の森の中です。
「誰も居ないの?」
ロボットは、急に一人ぼっちになってしまったような気がして、悲しい気持ちになってしまいました。
涙があふれてきました。
「ど、どうして泣いているの?」
こっそり様子を見ていた怖がりなクマが聞きました。大きな背中が茂みからはみ出しています。
「一人は嫌だ、悲しい、寂しいよ。みんなどこに行っちゃったんだ」
ロボットが一人で泣き叫びました。
怖がりなクマは、ロボットが言っていることが、よくわかりました。
怖がりなクマも、一人で居るのは嫌で、悲しくて、寂しいのです。
怖いロボットかと思って隠れていた怖がりなクマは、えい、と勇気を出して、ロボットに近寄りました。
「ボクも、一人は嫌なんだ。ねえ、ロボット君。ボクと友達になってよ」
と、クマは言いました。
「僕は怖いロボットなんだ。それでも本当に友達になってくれるのかい?」
ロボットが聞きました。
「ボクはクマだけど、友達になっちゃいけないのかい?」
クマが答えました。足が少しだけ震えていたのは、秘密です。
「ありがとう!」
ロボットはお礼を言って、喜びました。
クマとロボットの様子を見ていた皆が戻ってきました。
「かっこいい所があるじゃないか」
暴れん坊のアライグマが言いました。
「見直したよ」
悪戯好きのリスが言いました。
皆が、クマの事を褒めました。
「じゃあ、みんな友達だね」
お人好しなキツネが言いました。
「良いの?」
ロボットが不安そうな表情で聞きました。
「いいさ、丸呑みしなくて良かった」
食いしん坊の蛇が言いました。
「みんなありがとう。でも、僕は仲間を探さなきゃならないと思うんだ。ねえ、僕とそっくりのロボットを見かけなかった?」
ロボットが言いました。
「そっくりの」「ロボット?」「いいや」「見たこと」「ないな」
クマも、暴れん坊のアライグマも、お人好しなキツネも、悪戯好きのリスも、食いしん坊の蛇もわからないと言いました。
「隣の森のコマドリが何か知っているかもしれないよ」
歌上手のコマドリが言いました。ロボットの話を聞いたことを覚えていたからです。
「本当に?」
ロボットが聞きました。
「もちろん」
歌上手のコマドリが言いました。
「じゃあ、僕は仲間を探しに行かなくちゃ」
ロボットは、手足をぎしぎし鳴らしながら、ゆっくりと立ち上がって言いました。
「もう、お別れなの?」
クマが聞きました。
「うん。みんなとお友達になれて、すっかり元気が出たんだ。僕は仲間を探しに行かなくっちゃ」
ロボットは答えました。ほんの少しだけ、足が震えています。
「そうだ!隣の森までボクの背中に乗せてあげる!ボクは力持ちだからね」
クマが言いました。
「おいおい、いけるのかよ?」
暴れん坊のアライグマが聞きました。
「行けるさ!」
胸を張って、クマが言いました。
「いいや、心配だ」
食いしん坊の蛇が言いました。
「確かに」
悪戯好きのリスが言いました。
「道がわかるのかい?」
歌上手のコマドリが言いました。
「じゃあ、みんなで行こうよ」
お人好しなキツネが言いました。
「みんな本当にありがとう。とっても嬉しいよ」
ロボットは言いました。
「何か、お礼がしたいな。何でもいいから、僕にお願いしてよ。僕は誰かのお願いを叶えるのが大好きなんだ」
ロボットは、えへんと胸を張って言いました。手足が、ぎぎっと鳴って、ぽろぽろと錆が落ちました。
みんな考えますが、お願いと言われても、急には思いつきませんでした。
新しい友達ができたことが嬉しくて、すっかり忘れてしまっているのです。
「なら、どんぐりがどこにあるか知らないかい?」
クマが、思い出しました。
みんな、虹を見たくて、どんぐりを探していたのでした。
「どんぐり?」
ロボットが聞きました。
「そうさ、どんぐり池にどんぐりを投げ込んで、お願い事をすると叶うんだ」
悪戯好きのリスが言いました。
「逆さまの虹が見たいってお願いをするんだよ」
食いしん坊の蛇が言いました。
「だけど、この森にはどんぐりがなくて、困っていたんだ」
お人好しのキツネが言いました。
「隣の森にも、その隣の森にもないんだ」
歌上手のコマドリが言いました。
「ロボット君。どんぐりがどこにあるか知らない?」
クマが聞きました。
「僕、どんぐり持ってる!」
ロボットは嬉しそうに言いました。
「本当かよ?」
暴れん坊のアライグマはびっくりして言いました。
「ほら見て」
ロボットは、お腹をぎぎっ、と開いて、みんなに見せました。
ロボットのお腹の中には、綺麗な虹色のどんぐりがありました。
「すごい!」「虹色の」「どんぐりだ!」「こんなの」「みた見たことも」「ないよ!」
みんな、初めて見た虹色のどんぐりを見てとても驚きました。
「じゃあ、このどんぐりでお願いしよう」
ロボットが言いました。
「でも」
クマが言いました。
「でも?」
ロボットが聞きました。
「それはロボット君のどんぐりだろう?ロボット君のお願いに使った方が良いよ」
クマは答えました。
ロボットが言います。
「僕のお願いは、みんなのお願いを叶えることだよ。だから、僕にどんぐりはいらないんだ」
ぎぎぎっ、と手足を鳴らしながら、ロボットはどんぐり池のすぐ近くに、とてもゆっくりと歩いてゆきました。
「さあみんな、太陽の方を見て。どんぐりは僕がきちんとどんぐり池に投げ入れる」
ぽろぽろと錆が落ちています。
「見逃したら大変だ。だからずっと空を見ているんだよ?」
ロボットが、水辺に立ってみんなの方を見ました。
「それと、願い事が聞こえなかったら大変だから、大きな声で続けて三回、お願いするんだ。そしたらきっとお願いも叶うよ」
みんなは頷きあって、ロボットの言う通りにすることにしました。
自分のどんぐりを、みんなのために使うというロボットの優しい気持ちが、嬉しかったからです。
「準備はいいかい?」
ロボットの声が聞こえました。
「「「「「「良いよー!」」」」」」
みんな、虹を見るために空を見上げています。
「せーの!」
ロボットの声が聞こえました。
「「「「「「虹が見たい!」」」」」」
ロボットが言う通り、とても大きな声でした。
ドボンと言う水音が、聞こえたような気がしました。
「「「「「「虹が見たい!!」」」」」」
どっかーん!という、とても大きな音が聞こえました。
みんなが聞いたことのない音でしたが、ロボットの言ったとおりに、あと一回、願い事を言わなければなりません。
「「「「「「虹が見たい!!!」」」」」」
空に、虹がかかりました。
大きな大きな、ロボットのどんぐりとそっくりな、まん丸の綺麗な七色の虹がかかりました。
「すごいすごい!」
悪戯好きのリスが言いました。
「本当に虹が見えた!」
食いしん坊の蛇が言いました。
「でも」
歌上手のコマドリが言いました。
「逆さまじゃないな」
暴れん坊のアライグマが言いました。
「丸い虹だね」
お人好しのキツネが言いました。
「丸でもすごいよ!ねえロボット君!本当に虹がかかったよ!」
クマが言いました。
返事はありませんでした。
クマは、ロボットが立っていた水辺を見ました。
ロボットはいませんでした。
さわさわと、雨が降ってきました。
「そうかロボット君は、仲間を探しに行ったんだね」
お人好しのキツネが言いました。
「もしかしたら、もう会ってるかもしれないぜ」
暴れん坊のアライグマが言いました。
「なんで?ロボット君どこにいるの」
クマが言いました。さっきまでロボットのいた、水辺に駆け寄ります。
「どこなの?ロボット君!ねえ!」
クマが叫びました。手も、足も、目も震えていました。
だって、まだロボットにお礼を伝えていません。
どんぐりを僕たちのために使ってくれて、願いを叶えてくれてありがとう、と伝えたかったのです。
「どんぐり池を見なよ」
食いしん坊の蛇が言いました。
大きなどんぐり池を尻尾で示しています。
「ロボット君を探さないと!」
クマは嫌な気持ちになっていました。悲しい気持ちになっていました。寂しい気持ちになっていました。
「どんぐり池を見なよ、早く!」
悪戯好きのリスが言いました。
クマは、頭を小さな手で叩かれたので、どんぐり池を見ました。
「逆さまの虹だ」
クマが言いました。
さわさわと雨が降っています。
大きなどんぐり池には、大きな逆さまの虹が映っていました。ロボットのどんぐりと同じ、きれいな七色の虹が。
「ありがとう。ロボット君」
きっとロボットも、どこかで仲間と一緒に、逆さまの虹を見ていました。
大切な友達の瞳に映る逆さまの虹を。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
ふと、冬の童話祭りのバナーをポチったら、何か言葉にできない衝動に駆られ、プロット構成、執筆、推敲。合わせて四時間半で書ききってしまいました。遅筆の私にしては珍しい。
童話というジャンルで書こうと思ったことがなく、自分の頭の中にある『童話らしさ』をできるだけ文章で表現する。と言うのはとても面白かったです。
しかし同時に、誰かこれに絵をつけてくれ。と切実に思います。
私は絵心皆無なので描けないのですが、なんか、書きながら頭の中で絵本が出来上がっていく感覚。というかなんというか、そういう感じ?がすごく面白くて、熱中してしまいました。
できれば、お読みいただくときに。こう、なんというか頭の中でクレヨンで描いたみたいな絵をイメージしながら読んで頂けたら、私の稚拙な表現力をカバーできるのではないでしょうか。
もちろん、全力で描き上げましたが。完璧な物ではないのではないか、と言う風に思います。
まず童話、という物に対して、全く勉強していない。言葉や表現が適切か自信が全く持てない。完全に私の先入観によって出来上がっている感がやばいです。
奥深いな童話。いや、本当にすごい難しい。楽しかったけど。
あと、最後の締め。これ、未だにどうしたらいいのか判断出来ずにいます。
最後のセリフ「ありがとう~」以下の文章は必要なのか、蛇足なのか。こう書くと、途端に蛇足なような気がしますね。いらないのかなぁ、分からない!あっても良いような気がするし。
というか、これはきちんと小説として成り立っているのか?見直すとボロボロ悪そうなところに気が付きます。へこむ。
あ、タイトル考えてなかった。今考えます。『ロボットと虹色のどんぐり』まんま過ぎか?『どんぐりを持ったロボット』ネタバレか?『最後のロボット』んん~わかりにくいか。
なんか『どんぐり』って書き過ぎて、字面だけで可愛くてやばいんですけど。なんかタイトルに『どんぐり』って入れたい。『どんぐりの心臓』とか?心臓の字面がエグすぎかな?
『虹のどんぐり』とか?虹を見たいっていう目的があって、キーアイテムにどんぐりを設定したのだから、これが一番妥当な気もしますね。
変に捻ると読後の雰囲気がダメになる?拙作はそんなレベルにないような気もしますが。
よし。『虹のどんぐり』にします。しました。字面がなんかメルヘンチックな気がして雰囲気も〇。だと思うけど、どうだろう?センスに自信が持てない。
まあ、私の今の実力ではこれ以上は、今は無理っぽいです。これが童話として、どの程度の完成度になっているのか、皆目見当が尽きませんが、自分的には、良く書けた。ような気がします。
そもそも、この『逆さ虹の森』の設定や、キャラクターが極めて秀逸であることがわかりました。この短編が短時間で書き上げれたのは、言うなれば元ネタが良かった。これにつきます。
私のオリジナルの作品でも、これくらいキャラが立っていればいいのに。精進します!
このような所まで読み切っていただいた読者様に特大の感謝を。そしてあとがきの乱文っぷりを謝罪します。
それと、もしよろしければ、感想なども頂けたら嬉しく思います。ここが良い。ここがダメ。一言だけでも大歓迎です!大喜びします。
受付期限切れてた!悲しい!でもアップしちゃう。