表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

虹のどんぐり

作者: いぬっころ

 昔、この森には、たくさんの虹がかかりました。

 逆さまの虹です。

 なので、この森は『逆さ虹の森』という名前で呼ばれていました。

 でも、この森に棲んでいる動物たちは、逆さまの虹なんて見た事がありません。

 怖がりのクマが言いました。


「ボク、虹が見てみたい」


 暴れん坊のアライグマが言います。


「はん、お前みたいな臆病な奴に虹が見れるわけがないだろう」


 お人好しなキツネが言います。


「そういうなよ。良いじゃないか。僕だって虹が見てみたいさ」


 食いしん坊の蛇が言います。


「そうは言っても、どうやって?」


 悪戯好きのリスが言います。


「ずっと、空でも見ているかい?」


 みんなでうんうん言いながら考えてみても、良い考えが思いつきませんでした。

 歌上手のコマドリが言いました。


「そうだ、どんぐり池でお願いをしてみたらどうだろう」


 この森には、どんぐり池というとても大きくて綺麗な池があって、そこにどんぐりを投げ込んでお願い事をすると叶う。という噂があるのです。

 怖がりのクマが不思議そうな顔をして聞きました。


「でもボク、どんぐりなんて、見た事がないよ」

「確かに」「見た事」「ないな」「どんぐりの木って」「どこにあるんだろう?」


 誰も、どんぐりがどこにあるのかを知りませんでした。

 お人好しなキツネが言いました。


「じゃあ、探してみようよ。どこかに、どんぐりがあるかもしれない」


 怖がりなクマは、森のいつも散歩するところをくまなく探してみました。自分が気づいていないだけで、どんぐりがあるかもしれないと思ったからでした。

 どんぐりは、ありませんでした。

 お人好しなキツネは、落ち葉の下を探してみました。もしかすると、どんぐりが隠れているかもしれないと思ったからでした。

 どんぐりは、ありませんでした。

 食いしん坊の蛇は、岩の隙間を探してみました。どんぐりがころころ転がって、隙間に落ちているかもしれないと思ったからでした。

 どんぐりは、ありませんでした。

 悪戯好きなリスは、木の上を飛び移って森中の木を見て回りました。どんぐりの木があるかもしれないと思ったからでした。

 どんぐりは、ありませんでした。

 歌上手のコマドリは、空の上から、逆さ虹の森も、隣の森も、その隣の森も見て回りました。どんぐりの木がどこかにはあるだろうと考えていたからでした。

 どんぐりは、ありませんでした。

 暴れん坊のアライグマは、オンボロ橋の向こう側、入ってはいけないと言われている所を探してみました。怖がって誰も探さないだろうと思ったからでした。

 どんぐりは、ありませんでしたが、変な物を見つけました。


「みんな見てくれ。どんぐりはなかったけど変な物を見つけた」


 暴れん坊のアライグマは、ふうふう言いながら、どんぐり池の前まで、変な物を引っ張ってきました。


「それは何だい?」


 怖がりのクマが聞きました。


「それはロボットだ。隣の森のコマドリに聞いたことがあるよ。すっごく頑丈で重たくて、ずうっと眠っているんだって」


 歌上手のコマドリが答えました。


「へえ?これがそうなの?」


 悪戯好きのリスが、ロボットをつんつん突きながら言いました。


「小さいね。まるっと丸呑みにできそう」


 食いしん坊の蛇が言いました。


「止めなよ。リスが怖がってる」


 お人好しのキツネが言いました。


「怖がってないよ!」


 悪戯好きのリスが強がって、ロボットをバシバシ叩きながら答えました。

 かちり。

 という音がしました。


「ふわぁぁ。よく寝た」


 ロボットが、むくりと起き上がって言いました。


「うわぁぁ!動いたぁ!」


 ロボットが急に動き出して喋ったので、みんな驚いて逃げてしまいました。


「あれ?ここはどこだろう?」


 ロボットが言いました。

 周りには誰も居ません。


「誰も居ないの?」


 ロボットが周りを見てみても、誰も居ません。

 とても静かな様子の森の中です。


「誰も居ないの?」


 ロボットは、急に一人ぼっちになってしまったような気がして、悲しい気持ちになってしまいました。

 涙があふれてきました。


「ど、どうして泣いているの?」


 こっそり様子を見ていた怖がりなクマが聞きました。大きな背中が茂みからはみ出しています。


「一人は嫌だ、悲しい、寂しいよ。みんなどこに行っちゃったんだ」


 ロボットが一人で泣き叫びました。

 怖がりなクマは、ロボットが言っていることが、よくわかりました。

 怖がりなクマも、一人で居るのは嫌で、悲しくて、寂しいのです。

 怖いロボットかと思って隠れていた怖がりなクマは、えい、と勇気を出して、ロボットに近寄りました。


「ボクも、一人は嫌なんだ。ねえ、ロボット君。ボクと友達になってよ」


 と、クマは言いました。


「僕は怖いロボットなんだ。それでも本当に友達になってくれるのかい?」


 ロボットが聞きました。


「ボクはクマだけど、友達になっちゃいけないのかい?」


 クマが答えました。足が少しだけ震えていたのは、秘密です。


「ありがとう!」


 ロボットはお礼を言って、喜びました。

 クマとロボットの様子を見ていた皆が戻ってきました。


「かっこいい所があるじゃないか」


 暴れん坊のアライグマが言いました。


「見直したよ」


 悪戯好きのリスが言いました。

 皆が、クマの事を褒めました。


「じゃあ、みんな友達だね」


 お人好しなキツネが言いました。


「良いの?」


 ロボットが不安そうな表情で聞きました。


「いいさ、丸呑みしなくて良かった」


 食いしん坊の蛇が言いました。


「みんなありがとう。でも、僕は仲間を探さなきゃならないと思うんだ。ねえ、僕とそっくりのロボットを見かけなかった?」


 ロボットが言いました。


「そっくりの」「ロボット?」「いいや」「見たこと」「ないな」


 クマも、暴れん坊のアライグマも、お人好しなキツネも、悪戯好きのリスも、食いしん坊の蛇もわからないと言いました。


「隣の森のコマドリが何か知っているかもしれないよ」


 歌上手のコマドリが言いました。ロボットの話を聞いたことを覚えていたからです。


「本当に?」


 ロボットが聞きました。


「もちろん」


 歌上手のコマドリが言いました。


「じゃあ、僕は仲間を探しに行かなくちゃ」


 ロボットは、手足をぎしぎし鳴らしながら、ゆっくりと立ち上がって言いました。


「もう、お別れなの?」


 クマが聞きました。


「うん。みんなとお友達になれて、すっかり元気が出たんだ。僕は仲間を探しに行かなくっちゃ」


 ロボットは答えました。ほんの少しだけ、足が震えています。


「そうだ!隣の森までボクの背中に乗せてあげる!ボクは力持ちだからね」


 クマが言いました。


「おいおい、いけるのかよ?」


 暴れん坊のアライグマが聞きました。


「行けるさ!」


 胸を張って、クマが言いました。


「いいや、心配だ」


 食いしん坊の蛇が言いました。


「確かに」


 悪戯好きのリスが言いました。


「道がわかるのかい?」


 歌上手のコマドリが言いました。


「じゃあ、みんなで行こうよ」


 お人好しなキツネが言いました。


「みんな本当にありがとう。とっても嬉しいよ」


 ロボットは言いました。


「何か、お礼がしたいな。何でもいいから、僕にお願いしてよ。僕は誰かのお願いを叶えるのが大好きなんだ」


 ロボットは、えへんと胸を張って言いました。手足が、ぎぎっと鳴って、ぽろぽろと錆が落ちました。

 みんな考えますが、お願いと言われても、急には思いつきませんでした。

 新しい友達ができたことが嬉しくて、すっかり忘れてしまっているのです。


「なら、どんぐりがどこにあるか知らないかい?」


 クマが、思い出しました。

 みんな、虹を見たくて、どんぐりを探していたのでした。


「どんぐり?」


 ロボットが聞きました。


「そうさ、どんぐり池にどんぐりを投げ込んで、お願い事をすると叶うんだ」


 悪戯好きのリスが言いました。


「逆さまの虹が見たいってお願いをするんだよ」


 食いしん坊の蛇が言いました。


「だけど、この森にはどんぐりがなくて、困っていたんだ」


 お人好しのキツネが言いました。


「隣の森にも、その隣の森にもないんだ」


 歌上手のコマドリが言いました。


「ロボット君。どんぐりがどこにあるか知らない?」


 クマが聞きました。


「僕、どんぐり持ってる!」


 ロボットは嬉しそうに言いました。


「本当かよ?」


 暴れん坊のアライグマはびっくりして言いました。


「ほら見て」


 ロボットは、お腹をぎぎっ、と開いて、みんなに見せました。

 ロボットのお腹の中には、綺麗な虹色のどんぐりがありました。


「すごい!」「虹色の」「どんぐりだ!」「こんなの」「みた見たことも」「ないよ!」


 みんな、初めて見た虹色のどんぐりを見てとても驚きました。


「じゃあ、このどんぐりでお願いしよう」


 ロボットが言いました。


「でも」


 クマが言いました。


「でも?」


 ロボットが聞きました。


「それはロボット君のどんぐりだろう?ロボット君のお願いに使った方が良いよ」


 クマは答えました。

 ロボットが言います。


「僕のお願いは、みんなのお願いを叶えることだよ。だから、僕にどんぐりはいらないんだ」


 ぎぎぎっ、と手足を鳴らしながら、ロボットはどんぐり池のすぐ近くに、とてもゆっくりと歩いてゆきました。


「さあみんな、太陽の方を見て。どんぐりは僕がきちんとどんぐり池に投げ入れる」


 ぽろぽろと錆が落ちています。


「見逃したら大変だ。だからずっと空を見ているんだよ?」


 ロボットが、水辺に立ってみんなの方を見ました。


「それと、願い事が聞こえなかったら大変だから、大きな声で続けて三回、お願いするんだ。そしたらきっとお願いも叶うよ」


 みんなは頷きあって、ロボットの言う通りにすることにしました。

 自分のどんぐりを、みんなのために使うというロボットの優しい気持ちが、嬉しかったからです。


「準備はいいかい?」


 ロボットの声が聞こえました。


「「「「「「良いよー!」」」」」」


 みんな、虹を見るために空を見上げています。


「せーの!」


 ロボットの声が聞こえました。


「「「「「「虹が見たい!」」」」」」


 ロボットが言う通り、とても大きな声でした。

 ドボンと言う水音が、聞こえたような気がしました。


「「「「「「虹が見たい!!」」」」」」


 どっかーん!という、とても大きな音が聞こえました。

 みんなが聞いたことのない音でしたが、ロボットの言ったとおりに、あと一回、願い事を言わなければなりません。


「「「「「「虹が見たい!!!」」」」」」


 空に、虹がかかりました。

 大きな大きな、ロボットのどんぐりとそっくりな、まん丸の綺麗な七色の虹がかかりました。


「すごいすごい!」


 悪戯好きのリスが言いました。


「本当に虹が見えた!」


 食いしん坊の蛇が言いました。


「でも」


 歌上手のコマドリが言いました。


「逆さまじゃないな」


 暴れん坊のアライグマが言いました。


「丸い虹だね」


 お人好しのキツネが言いました。


「丸でもすごいよ!ねえロボット君!本当に虹がかかったよ!」


 クマが言いました。

 返事はありませんでした。

 クマは、ロボットが立っていた水辺を見ました。

 ロボットはいませんでした。

 さわさわと、雨が降ってきました。


「そうかロボット君は、仲間を探しに行ったんだね」


 お人好しのキツネが言いました。


「もしかしたら、もう会ってるかもしれないぜ」


 暴れん坊のアライグマが言いました。


「なんで?ロボット君どこにいるの」


 クマが言いました。さっきまでロボットのいた、水辺に駆け寄ります。


「どこなの?ロボット君!ねえ!」


 クマが叫びました。手も、足も、目も震えていました。

 だって、まだロボットにお礼を伝えていません。

 どんぐりを僕たちのために使ってくれて、願いを叶えてくれてありがとう、と伝えたかったのです。


「どんぐり池を見なよ」


 食いしん坊の蛇が言いました。

 大きなどんぐり池を尻尾で示しています。


「ロボット君を探さないと!」


 クマは嫌な気持ちになっていました。悲しい気持ちになっていました。寂しい気持ちになっていました。


「どんぐり池を見なよ、早く!」


 悪戯好きのリスが言いました。

 クマは、頭を小さな手で叩かれたので、どんぐり池を見ました。


「逆さまの虹だ」


 クマが言いました。

 さわさわと雨が降っています。

 大きなどんぐり池には、大きな逆さまの虹が映っていました。ロボットのどんぐりと同じ、きれいな七色の虹が。


「ありがとう。ロボット君」


 きっとロボットも、どこかで仲間と一緒に、逆さまの虹を見ていました。

 大切な友達の瞳に映る逆さまの虹を。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。

ふと、冬の童話祭りのバナーをポチったら、何か言葉にできない衝動に駆られ、プロット構成、執筆、推敲。合わせて四時間半で書ききってしまいました。遅筆の私にしては珍しい。

童話というジャンルで書こうと思ったことがなく、自分の頭の中にある『童話らしさ』をできるだけ文章で表現する。と言うのはとても面白かったです。

しかし同時に、誰かこれに絵をつけてくれ。と切実に思います。

私は絵心皆無なので描けないのですが、なんか、書きながら頭の中で絵本が出来上がっていく感覚。というかなんというか、そういう感じ?がすごく面白くて、熱中してしまいました。

できれば、お読みいただくときに。こう、なんというか頭の中でクレヨンで描いたみたいな絵をイメージしながら読んで頂けたら、私の稚拙な表現力をカバーできるのではないでしょうか。

もちろん、全力で描き上げましたが。完璧な物ではないのではないか、と言う風に思います。

まず童話、という物に対して、全く勉強していない。言葉や表現が適切か自信が全く持てない。完全に私の先入観によって出来上がっている感がやばいです。

奥深いな童話。いや、本当にすごい難しい。楽しかったけど。

あと、最後の締め。これ、未だにどうしたらいいのか判断出来ずにいます。

最後のセリフ「ありがとう~」以下の文章は必要なのか、蛇足なのか。こう書くと、途端に蛇足なような気がしますね。いらないのかなぁ、分からない!あっても良いような気がするし。

というか、これはきちんと小説として成り立っているのか?見直すとボロボロ悪そうなところに気が付きます。へこむ。

あ、タイトル考えてなかった。今考えます。『ロボットと虹色のどんぐり』まんま過ぎか?『どんぐりを持ったロボット』ネタバレか?『最後のロボット』んん~わかりにくいか。

なんか『どんぐり』って書き過ぎて、字面だけで可愛くてやばいんですけど。なんかタイトルに『どんぐり』って入れたい。『どんぐりの心臓』とか?心臓の字面がエグすぎかな?

『虹のどんぐり』とか?虹を見たいっていう目的があって、キーアイテムにどんぐりを設定したのだから、これが一番妥当な気もしますね。

変に捻ると読後の雰囲気がダメになる?拙作はそんなレベルにないような気もしますが。

よし。『虹のどんぐり』にします。しました。字面がなんかメルヘンチックな気がして雰囲気も〇。だと思うけど、どうだろう?センスに自信が持てない。


まあ、私の今の実力ではこれ以上は、今は無理っぽいです。これが童話として、どの程度の完成度になっているのか、皆目見当が尽きませんが、自分的には、良く書けた。ような気がします。


そもそも、この『逆さ虹の森』の設定や、キャラクターが極めて秀逸であることがわかりました。この短編が短時間で書き上げれたのは、言うなれば元ネタが良かった。これにつきます。

私のオリジナルの作品でも、これくらいキャラが立っていればいいのに。精進します!


このような所まで読み切っていただいた読者様に特大の感謝を。そしてあとがきの乱文っぷりを謝罪します。

それと、もしよろしければ、感想なども頂けたら嬉しく思います。ここが良い。ここがダメ。一言だけでも大歓迎です!大喜びします。


受付期限切れてた!悲しい!でもアップしちゃう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ