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80.リープ・エ・アテレラ~その“瞬間”へ~(視点ザッピング)

挿絵(By みてみん)

【狼なんて怖くない!(7/9)】

 【ユマ視点】


 やってくれるじゃねーか、魔獣使い(ナッド・ダム)――……頼りの相棒(レイス)は、あのキツいの貰っちゃしばらく戦線離脱だ。さーて、少々ヤバくなってきたぞ。


 ナッド・ダムは、俺よりも強い。


 奴の“獣降ろし(スキル)”は能力強化系(ラフォルツァ)だ。正直にぶつかれば間違いなく力負けする。その上に厄介なのがスピードで、俺が“お節介な(トリビアル・)時間干渉”(タイムリープ)でやり直す“瞬間”に、あいつの速さは間に合ってしまう。そうなると、むしろ不利なのは俺だ。



 そもそも“巻き戻し”は俺の奥の手で、出せば勝ちの切り札、今までこれほど連発したことも、使える限界を意識したこともなかった。だが、どうやら際限なく使い続けられるものではないようだ。


 さっきの3連続の時に、一瞬見当識を失いそうな、嫌な兆候を感じている。


 このまま“お節介な(トリビアル・)時間干渉”(タイムリープ)を使い続ければ、どこかで俺は必ずミスをする。しかし、使わなければナッドに追い越される。未来を見てからやり直す、()わば“後の先”の俺と、ナッドの“先の後の先”がちょうど互角。この追っかけっこを制するには、後もう一手が欲しい。



 その一手をレイスに期待したいのだが、しかし……




 ***********************************


 【レイス視点】


 ユマが助けを求めているのを、痛いほど理解している。

 しかし私の体は、私の思うようにはならない。


 そうだ。いつだって私の体は、肝心な時に思うようにはならない……

 今までも……そして、これからだって、きっと――……



 この胸の痛みは……ユマ、(ゆる)せ……!




 ***********************************


 【ユマ視点】


 時間は俺が望めば巻き戻る。しかし、決して止まることはない。


 だったら、擦り切れるまで繰り返させ続け(リープさせ)てやろうじゃねーか。

「さァ、転移者(トランジッテ)同士の一騎打ちだ。盛り上がってきたな」

ナッド・ダムが開いた右掌(みぎてのひら)に、左の拳を音高く撃ち込んだ。

「今度は、こっちから行くぜ」

言うや、真正面から跳び込んでくる。俺の動きは見てからで対応できると思ってやがる。その自信家ぶり、ムカつくが、決して(おご)りではない。



 俺は正眼で待ち受ける。まずは1回目、“()”るんだ――



 ナッド・ダムは槌籠(カタナ)の間合いに入る直前で、斜め左に沈み、旋風のような裏拳で俺の(あご)を吹き飛ばしにきた――これが、このままなら訪れる(・・・・・・・・・)1秒後の未来だ。


 そうか――……理解(わか)った。

 1秒……お前を倒すために、もう1秒だけ時間を巻き戻そう。


 ナッド・ダムの速さに、もし俺の剣が届いたとして、渾身(こんしん)の一撃を当てることは難しい。でき得る限りの(はや)さで振って、捉えられるか、否か。仕留められるほどの威力の峰打ちを、打ち込む余裕はない。つまり……刃を当てなければ、奴に手を負わせることは成らないということだ。だが……


 天羽“黒革(アマハ“クロカワヅツ)包拵”槌籠(ミコシラエ”ツチグモ)――その刃が触れれば、奴のその部分(・・・・)は確実に失われる。槌籠(こいつ)は、そういう刀だ。己に問う。人の、自分と同じ“異世界転移者”の体の一部か、或いは命を奪う覚悟はあるのかと。己に答える。既に、人一人(ひとひとり)の“世界(オルト)”を破壊したことがあるのだと。



 ナッド・ダムが、俺の間合いの外で左斜めに身を沈めた。俺は……大上段に振り上げた槌籠(つちぐも)の“峰”を、思いっ切り叩き下ろした。

「峰ェ?! お前、どこまで甘ちゃんだ、そんな大振りで俺が――……」

狼男が上半身で破壊の円弧を描く、その瞬間、体を硬直させた。“お節介な時間干渉”――俺は1秒前に、この光景を“()”ていたんだ。



 お前が左側に踏み込むのを。腕を(むち)としならせ、俺の(あご)を打ち砕こうとするのを。そのお前の背後で、レイスの指から、“(きら)めく何か”が放たれるのを。




 ***********************************


 【レイス視点】


 我が主君、プリンツェスィン・ブラネージュ・ロアーレ・アルカネット・オー・カルーシア殿下。さすが、慧眼(けいがん)であらせられます。

 痛みに胸を押さえた指先に触れた、殿下より(たま)わりし銀食器のナイフ――狼男の弱点と言えば、純銀製の刃。(おお)せの通りでございました。


 このレイス・オランジナ、姫殿下にお仕えしていて本当に良かった……それから趣味で投げ矢遊戯(ダーツ)(たしな)んでいたのも良かった……




 ***********************************


 【ユマ視点】


 この一撃を、狼男に届かせたのはお前だ、レイス。


 ナッド・ダムの背に突き立ったらしいレイスの投擲(とうてき)は、痛くもないような傷と、致命的な一瞬を奴に与えた。

「く……そんな、バカな……」

もう、お前は俺の“瞬間”に間に合わない。全身全霊の峰打ちを、ナッド・ダムの右の脇下へと――肋骨(あばら)は全部覚悟してくれ――力任せにぶち込んだ。


 「が……は……ッ!!」


 床で跳ねたナッドの腹に、不安だったので、フル・スイングの蹴りを追撃(オマケ)してみた。夕食を開陳したので、まあまあ効いたんだと思う。うつ伏せの背中を踏み、喉元に槌籠(つちぐも)を押し当て、俺は小さく安堵の息を漏らす。

「げほ……かはッ……お前……うッ……い、意外と容赦ないな……」

慎重(ビビり)だからな。本当は、トドメ刺したいんだぞ?」

「く……それは勘弁しろ、判った、降参だ……」

「なら犬を止めろ」

「ちッ……来るな、ヴィクトル」


 御主人様の大事と飛び出した金色の獣が、その場でびたりと床に伏せた。と、犬の体がすっと縮み、通常のレトリバーの大きさに戻る。なるほど、犬達の異常な巨体や戦闘力も、それも魔獣使い(ビースト・テイマー)のスキルによるものだったか。


 ともあれ……ぎりぎりだったけど、何とかなったようだ……



 背後に気配を感じた。

「レイス、無事か」

「……我ながら不甲斐(ふがい)ない。結局は君に全てを押し付けてしまったようだ」

痛撃を貰った左胸を押さえつつ、レイスが申し訳なさそうな顔をする。

「何言ってんだ、決め手はどう考えてもこれ(・・)だろう」


 俺は身を屈め、ナッド・ダムの肩甲骨の下に刺さったナイフを抜いた。

(いて)っ」

「って、これ、食事用のナイフか?」

「ああ?! てめぇ、そんなオモチャでこの俺を……」

「純銀製みたいだぞ、ナッド・ダム」

俺の言う意味に気づき、ナッドは悪態を吐いた。レイスがようやく表情を緩め、差し出した俺の腕に腕をぶつけ、また痛みに顔を(しか)めた。




 ***********************************


 【レイス視点】


 狼男ことナッド・ダムを後ろ手に(かせ)()め、油断はできないが、ひとまずは胸を撫で下ろす気持ちだ。ユマはああ言ったが、この捕縛劇は彼の手柄。私もせめて官憲(かんけん)の仕事くらいは、果たさねばなるまい。


 私は床に胡坐(あぐら)をかいたナッドを見下ろした。傍らには金色の犬……む、いつの間にか足の短いのも登ってきている……む、いつの間にか大きさが縮んだな。

「それで、ナッド・ダム。一連の狼男騒ぎは、そなたの仕業に相違ないな?」

「まあ、“狼男騒ぎ”にしたのは、周りの勝手だがな」

「その、そなたの“能力”で、盗みや傷害を?」

「一応言うと、俺の狙ったのは貧民街(トゴリオ)悪人(クズ)ばっかだぜ」

ナッドは悪びれることもなく、にやっと笑った。

「むしろ衛兵(あんたら)の手間を省いてやったよーなもんさ」


 私は半ば呆れ、思わずこう口にした。

「そなた、それほどの力(・・・・・・)を何故そんなくだらんことに使う?」

するとナッドの顔から薄笑いが消え、物凄い目つきで(にら)み返してきた。

「力……だと? “魔物を従える()まわしき力”とパーティを追放された、この俺の能力(スキル)が何だって……?」



 さて、ナッド・ダムが、滔々(とうとう)と問わず語りにしたことには――……



 元々ナッドは、とある冒険者(チェルカトレ)のパーティに属していたらしい。彼らは様々な依頼を請け負い、また探索行をし、長く冒険を共にしていたが、ただナッドは魔物を使役する異能ゆえに、仲間内では若干軽く扱われがちだったという。

 そしてある時、パーティは探索(クエスト)で致命的な潰走(かいそう)を演じる。原因はそれぞれの失策の積み重ねであったが、仲間の剣士、魔術師、盗掘師から言い掛かりに近い形で責任を押し付けられ、ナッドはパーティを追放された。


 ナッドの方も、彼の力も己らの無力も量れない仲間を見限り、この先は自分の思うがままに“力”を使わんと決め、今に至る――……私はナッド・ダムの身の上話を聞き、言葉もない。

「バカな。これほどの力量を持って、仲間から追放されるとは……」



 「そなた、どんだけ仲間との人間関係を築けていなかったんだ――……?」




 ***********************************


 【ユマ視点】


 おーい! 言っちゃったよ、この人は。


 タムラ・ナオト君も一瞬ぽかんとし、それから慌てて身を乗り出した。

「は? いや、何でそーなるんだ、違うだろ。俺の実力も理解(わか)らず、能力にケチつけた無能のあいつらが、どーかんがえたってオカシイだろ、え?」

ナッドの反論に、レイスは渋い顔で腕組みをする。

「いや、だって一緒に仕事してたんだろう、それなりに長く? だったら普通に生まれるだろう、互いの信頼というものが」

ちょ、正論ヤメて差し上げろ。

「そもそもだ。我ら兵卒もそなたらと同じ、多少人品(じんぴん)に難があっても、仕事ができる者に何も言えない実力の世界だ。それだけ腕が立って、実績が伴えば、仲間もそう軽々しく扱えはしまい」


 するとナッド・ダム、

「いや、だから、魔物の群れに取り囲まれそうな時、俺の能力(スキル)で追い払ってるの奴ら理解(わか)ってねーし、ヤバいモンスターとやり合う時も、俺が後ろから拘束や弱体化ガンガン掛けてるの、気づいてねーし……」

「うん? 何でそれ、仲間に言わない?」

「え、いや、だって、そーゆーのは周りが気づくべきで……」

「そなた、密かに貢献していても、周知せねば実績(・・)はゼロだぞ?」

「うん、ナッド君。さすがに俺も“察してちゃん”だ(それはない)と思うわ」

口を挟むと、ナッドは俺、レイスと見比べ、愕然(がくぜん)と首を落とした。

「……『獣慣らし!』とか、技名言えば良かったのかもなー……」

今更の、どうしようもないアドバイスが、今後のためになればいいな。


 レイスは呆れ顔で肩を(すく)めて、おまけにため息も吐いた。

「そうだな……百歩譲ってそなたの言った通り、お仲間連中がどうしようもない無能で、愚か者どもで、性格も最悪だったとしよう」

ナッド・ダムが一抹の希望を以て、レイスを見た。

「そんなパーティ(ところ)にいたのはそなただろう。さっさと抜ければ良かろうに」

正論の刃で、ナッド君が“黒髭危機一髪”みたいです。レイスは憐れみと軽蔑を込めた目でナッドを見て、最後はこう言い捨てた。


 「いずれにせよ、そなたは今度はこの国からも追放(・・・・・・・・)だ――……」



 滅多刺しで(うつむ)いたナッドが、不意に肩を震わせた。

「く……くくく……そこまでスタボロに言われりゃ、いっそスッキリするぜ……」

そう言って顔を上げると、本当に、どこか晴れやかな顔をしている。

「いや、実際のところ、あんたら二人に会えたのは、いい経験(・・)だったよ。特にユマだっけ……あんたと戦ったのは、実に『いい経験(・・・・)』だった」

その言い方が、何か引っ掛かった。何か……何だ……?

「実に『いい経験(・・・・)』をし、そして俺はひとつ(・・・)成長(・・)』したよ」

く……この二重括弧、妙にジ●ジョっぽい言い回し、何か『ヤバい』……!

「ひとつ、俺自身にも意外だったことがあるんだ……」


 「魔獣使い(ビースト・テイマー)LV.MAX(レベルマ)は、どうやら99ではなく100だったらしいんだよ……理解(わか)るか、俺は“ひとつ(・・・)成長(・・)』した”んだ……」


 「レイス、退がれ! こいつ、新しい能力(スキル)を!」



 レイスを抱きかかえて背後に身を投げると同時に、ナッド・ダムの手枷(てかせ)の鎖が引きちぎれる音がした。

「行くぜ……魔獣使い(ビースト・テイマー)LV100のスキル(・・・)、奥義“獣の悪魔(ベステート)”――……」




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