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コトレットさんの不思議なお仕事~こちら異世界管理局~  作者: 胡散臭いゴゴ
まっくろくらいの白雪姫・二つの下巻
83/162

73.【下巻/サイド・パンタシア】白雪姫ノ罪ト罰

挿絵(By みてみん)

【まっくろくらいの白雪姫・下巻/幻想編(パンタシア)(7/7)】

 むかしむかし(アルタ・パサド・)あるところに(アルタ・ルオーゴ)――

 雪のように白くブラン・スース・ネージュ血のように赤い(ルータ・スース・サン)お姫様(プリンツェスィン)がおりました――……



 白雪姫は嫉妬(ジェロス)の言う意味を考えて、ふと、自分が法廷の真ん中で七人の悪魔(フェルテート)に囲まれていることに気づきました。

 法廷はますます赤く燃えていて、暑く、煙で目が痛み、(カロ)が焼ける匂いがしました。けれどもそれは美味しそうな(ローストターキーの)匂いではなく、火炙り(トルチャ)の匂い、人の焼ける匂い、王様やお后やお城と町の人々、姫が悪魔に引き渡した人々の焼ける匂いでした。


 「このような者の(クレム)は何か?」


 「嫉妬(ジェロス)――」


 七人の悪魔が宣告する(クレム)は、法廷に響いて、まるで百人千人(ヘカト、ミュレ)の悪魔が叫ぶようでした。



 白雪姫は、もう悪魔達が親切でも優しくもなくなったことを知りました。親切も優しさも偽りの衣(ファルシータ)で、その衣はすっかり脱ぎ捨てられて、悪魔達は本当の衣(ベルダー)を身に纏ったようでした。悪魔達は、もう……最初から白雪姫の友達ではありませんでした。悪魔達は、最初から、おとぎラコンテの親切な小人ではありませんでした。


 七人の悪魔(シエテ・フェルテート)七人の悪魔(シエテ・フェルテート)であって、七人の小人(シエテ・ドワーフ)ではなかったのです。


 「嫉妬(ジェロス)の者、いかにすべき?」


 白雪姫は何もかも知って、後ろを向いて逃げ出しました。たくさんの笑い声が白雪姫を追いかけてきて、槍となり(かぎ)となり、背中に突き刺さり、引き倒そうとしました。



 走って行くうちに、白雪姫の艶やかな黒髪(ネーロ・ハウル)は色を失い、また雪のように白くブラン・スース・ネージュになりました。(オリオ)(ラベオ)は、血のような赤(ルータ・スース・サン)でした。

 白雪姫が走れば走るほど、悪魔から贈られた偽りの祝福はひとつずつ()がれ落ちて、背中は曲がり、腕は()じれ、右手の指は四本(クアル)で左手の指は六本(セース)に戻りました。


 白雪姫(ブラネージュ)はそれでも、●●●(カジモド)の足で、小踊りするように(ひょこひょこと)走りました。

 小踊りするように(ひょこひょこと)走っても、笑い声(ラーフ)は少しも遠くなりませんでした。


 こぉーん、木槌の音――……


 白雪姫(ブラネージュ)は、小踊りするように(ひょこひょこと)走りました


 こぉーん、木槌の音――……


 「七つ罪(レイヴァタ)の手に委ねるべき――」


 悪魔達(フェルテート)が口々に叫ぶ声が、地鳴りとなって響きました。




 ***********************************


 いつの間にか、白雪姫が駆けているのは、波が寄せて帰す真夜中の海辺(ミニュイ・プラジュ)でした。(マーレ)は黒々とうねり、真っ白な砂(ブラン・アレナ)が行く先と来た後ろに、始まりも終わりもなく続いておりました。


 白い砂には白いかけらが散らばり、大きいのも小さいのもありました。


 白雪姫は、かけらに(つまづ)きました。見るとかけらは人の頭の骨(クラニ)でした。砂と思ったのは、人の骨(オス)のかけらでした。砂浜と思ったのは、墓場(セメテリ)でした。白雪姫の周りには、幾千もの墓碑(ラーピデ)が、始まりも終わりもなく立ち並んでおりました。


 白雪姫は恐れによろめいて、傍らの墓碑(ぼひ)に手を着きました。するとその墓石には、“ブラネージュ”と自分の名が彫られてありました。驚いた白雪姫が隣の墓石(ラピーデ)を見ると、そこにも自分の名がありました。

 白雪姫は心臓(コラソ)の凍る思いがして、違う名を刻んだ墓を探しましたが、どの碑銘(ひめい)葬られたの(モルトウエ)白雪姫(ブラネージュ)だと申し立てました。白雪姫の胸は鍛冶屋の(ふいご)のように膨らみ、心臓は鍛冶屋の(つち)のように打ちましたが、どれだけ走ろうと、姫の名を刻まない墓はありませんでした。



 そして彼方から、白雪姫に向かって、英雄の放った(ランチェ)のように、海を砕いて迫る者がありました。

 それは、(マーレ)を煮立たせ、渦を巻かせ、荒れ狂わせました。それはサタナスにさえ支配されず、傷つけられず、怖れ(ミエド)さえ知らない誇り高き暴君、白痴(はくち)の獣でした。


 それは嫉妬の叫び(ジェロス)、悪魔レイヴァタでした。


 レイヴァタは(くら)い海から踊り上がると、天地を揺るがすほどの咆哮(ルッジード)を上げ、白雪姫をひと呑みに、また泡立つ海原に身を沈めました。その時の水柱は王都中の血を洗い流して、天国(カエルム)まで届いて天使達(アンジェ)を驚かせて、“いと高き方”の衣の(すそ)にさえ、飛沫(しぶき)が掛かって濡らしたほどでした。



 レイヴァタが海に消えると、今度こそ沈黙(クイエート)があらゆるものの上に降り、何もかも覆い隠しました。




 ***********************************


 こうして白雪姫は、その罪深さ(トプシー)のために、自らも地獄(ゲッヘナ)へ落としてしまいました。


 ただ、白雪姫は悪魔達のものになりましたが、罪の家(カーサ・クレム)のあの金の鍵の扉、悪魔達が開けてはならないと言いつけた、あの扉に挟み、金色になった左手の小指だけは、フェルテートには持ち去ることはできませんでした。

 七人の悪魔は金色の小指(オウロ・デード)一瞥(いちべつ)して、ふんと鼻を鳴らすと、申し分のない収穫(ハヴェスタ)に満足して家路に着きました。


 七人の悪魔の後ろで、お城が、町が(カルーシアが)、何もかもががらがらと崩れ落ちて、瓦礫(がれき)の山になりました。そこにはただ、金色の小指(オウロ・デード)が残されるばかりでした。



 やがて崩れ果てた町に、青き衣のミシエルと赤き衣のジブリールが訪れました。二人の御使(みつか)いはこの場所でどのようなことが行われ、どのようなことになったのかひと目で知りました。御使(みつか)い達は、罪深き者を救えなかったこと悔い、信仰薄き者達が(しゅ)恩寵(おんちょう)を失い、堕ちた者達の囚人となったことを嘆き、涙を流しました。

 ミシエルとジブリールは、白雪姫の黄金の小指(オウロ・デード)と、二口齧られた林檎(ポワソ・レインガゥ)を見つけて、そっと拾い上げ、持ち帰りました。



 栄光の王国(カエルム)では、神様が深い悲しみと苦しみに、御顔を手で覆っておられました。“いと高き方(デイオス)”は下界から戻った御使いから、黄金の小指(オウロ・デード)林檎(レインガゥ)をお受け取りになり、それを御手に乗せて考え込まれました。

 主は恵み少き●●●者(カジモド)に生まれた(フィーユ)を思われ、与えられねば満たされない心、本当はただ幸せになりたかった魂を思われ、人というものの愚かさ(トプシー)哀しさ(テレッサ)を思われました。


 神様(デイオス)は長いこと、そのように佇んでおられましたが、やがて頭を振ると、棚から小箱を取って、白雪姫の小指を入れると、他のたくさん(アルタ・オウ)の金色の指(ロ・デード)と一緒にしまい込まれました。




 ***********************************


 さて、信心深い羊飼い(エルブール)が山から下りてくると、町があったはずのところは瓦礫(がれき)の山で、お城も家もなくなっていて、誰もいなくなっておりました。羊飼いは知り合いの顔を探し、友達の名前を呼びながら、廃墟の町(カルーシア)を歩きましたが、誰一人として見つかりませんでした。

 途方に暮れた敬虔(けいけん)な男は、みんなが帰ってくるのを待つことにして、崩れた城壁(エンシータ)によじ登り、角笛(コルノ)を吹きました。エルブールは町の人々が帰って来るのを待ちながら、いつまでも、いつまでも、角笛(コルノ)を吹き続けました。


 ですから、もし、あなたが悪魔に一人残らず連れて行かれた町、少女が林檎(レインガゥ)ひとつで滅ぼした町を訪れることがあれば、今でも(ひと)りぼっちの羊飼いが吹く、角笛の音が聞こえてくるかもしれません。


 或いは、悪魔の叩く木槌フェルテート・マレッタの音が。



 めでたしめでたしラコンテ・エンデ・ヴィ・フェリーシ――……




 ***********************************


 るああ。めでたしめでたしラコンテ・エンデ・ヴィ・フェリーシ、だ。



 これがこの“封鎖区”(セラド・オルト)物語(ラコンテ)の、幻想的(パンタシア)だと言えなくもない結末(エンデ)だ。


 なーふ。幻想的(パンタシア)っつても、悪魔やらが節操なく出る“世界観”(イマジカ)ってだけで、それ以外はめちゃくちゃ(トプシー・ターヴィ―)だけどな。ま、カルーシアの“世界観”を外れてるから“封鎖区”になるんだ、って話だけどな。


 ところでさあ。


 るああ。お前、このセラドの“核”(クウア)が誰だったか、判ったかあ?

 なーふ、白雪姫(ブラネージュ)? そう思った?


 うーぷす。正解は……今言うのは止めとこうかな。いっひっひ、勿体(もったい)つけるんじゃねーけど、言わせんなよ、また会おうっつってんだよ。



 どっちにせよ、お前は現実的な物語(アルタ・ラコンテ)の結末も読んで(見て)来いよ。なーふ、どっちの結末(エンデ)がお気に召すかな?


 るあっ、もう両方とも(・・・・)読んだって?

 あれ、そうだっけ……? おかしいなあ……うーぷす、やっぱりかあ。


 言っとくけどさ、アタシ、お前にこの話すんの初めて(・・・)だぞ。


 うーららあ、お前ってさあ、影響されやすい方? うーぷす。分裂構造のイマジカ、二つに分かれたセラドに触れて、、どうやらお前の“世界(オルト)”もふたつに分かれちまったみてーだな。


 るああ。お前がさっき話したのは、もう一人(アルタ)のアタシってことか。


 うーぷす。もしかすっと、マズいかもなあ。ちと問題かもしんない(やっちったかな)。アタシがもう一人いるってことは、 別の“世界”(アルタ・オルト)が出来たんだ。帰り道を間違うなよ。あんまりおかしなことになったら、お前の“世界”が“封鎖区(セラド)”になるぞ。


 それは、“異世界監視人(オルト・クストーデ)”の 仕事(・・)になっちまう。



 とにかくアタシはまだ仕事があるからさ。お前も自分の“世界(オルト)”に戻りなよ。まあ、今度はどっちのアタシ(・・・・・・・)に会うか知らねーけどさ、やれやれ。


 るああ。それじゃあ――……

 また別の時に(アルタ・パサド・)、違う場所で(アルタ・ルオーゴ)――……

                            挿絵(By みてみん)

         ~“まっくらくらいの白雪姫”【サイド・パンタシア】・完~

次章【狼なんて怖くない!】


傭兵ユマのところに近衛兵レイスが持ってきたのは、なんと“狼男退治”の助っ人(すけっと)の依頼だった。ちょっと凸凹な二人の道中、どうなることになりますやら?


挿絵(By みてみん)

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