72. 【下巻/サイド・レアレテ】七人ハ死者ヲ運ンデ
葬列がやって来る、Hi-Ho! Hi-Ho!
火葬場目指して行進だ、Hi-Ho-Ho!
さて、白雪姫と七人の小人に、また一人加わり、焚き火の九人になって、しばらくして――……
王都の城壁の門番は、森から賑やかに街道をやって来る、おかしな一団に目を留めました。はて、何だろう、旅回りの一座だろうか? 目を凝らした見張り番は、やって来る者達を見て仰天して、あんまり大きく目を見開いたので、顔から二つの目玉が零れ落ち、道をころころ転げていきました。
●●●になった見張り番の横を、おかしな一団は通り過ぎていきました。都市城壁はパレードを阻むことはできません。なぜなら、市門には、
『来る者は拒まないが、去る者は決して赦さない』
と彫られた銘板が掛かってあるのですから。
一団が王都に乗り込むと、粉挽きも、お百姓も、女中も、旦那様も、仕立屋も、鍛冶屋も、兵隊達も、おかみさんも、坊やも、嬢ちゃんも、ロバも、犬も、猫も、鼠も、鵞鳥も、しらみまで、町中あやうく目玉をなくすところでした。
と言いますのも、おかしな一団は七人の小人を従えた、美しい魔女の率いる葬送だったのです。
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ウィケッドは三人のドワーフの担ぐ輿に乗り、身に纏う黒い衣は町を出る時に着せられた粗末な麻ではなく、この上ない上等の絹で拵えてありました。魔女は輝石で指を飾り、巧みな細工をした見事な杖を手にしておりました。
そして小人達どもはと申しますと、どんな出来損ないの●●●者でも、これほどではないだろうと思えるような、恐ろしい体つきをした化け物どもで、奇妙な服を着て、鈴の下がったの帽子を被り、羽飾りを身につけ、足には重い枷を嵌められておりました。
パレードの先導するひとつ目の小人は、心惹かれる不思議な匂いの香を焚き、魔女の行く手に花びらを撒きました。
手なし男、顔溶け男、微笑む男が担ぐ輿の後ろからは、二人と見れば一人で、一人と見れば二人の二つ胴の小人が、ひとつの頭は笛を吹き、もうひとつの頭は鐘を鳴らして歩きました。
しんがりの二人は可笑しいほどのおっきいのとちっさいので、後ろと前になり、大きいのは腰の下、小さいのは頭の上で台を担いでおりました。そうすると、ちょうど高さの釣り合いが取れたのです。
そして王都の人々が十字を切ったことには、台の上には黒い棺が乗っておりました。おかしなおかしな一団は、行き合う人々を震え上がらせながら、お城を目指して行きました。
おかしな一団がお城に着くと、門番は槍を構えてパレードを止め、
「いったいぜんたい、どういうつもりなんだ? ここは見世物や旅芸人、お前達のような者の、来るところではないのだぞ」
大きな声で呼ばわりました。お城の門番は、心のお皿が空っぽになるまで、勇気を掻き集めておりましたが、本当は怖くて仕方ありませんでした。
そこでウィケッドは言いました。
「門をお開けなさい。私は王様の言いつけで、ドワーフどもを退治してきたのだ」
これを聞いた門番が魔女の顔をよくよく見ると、立派な姿になっておりましたが、見覚えのある痩せっぽちの娘だと知って、飛び上がって王様に知らせました。
魔女の行進は、王様の前に通されました。
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さて、おかしな一団がお城の大広間に召し出されますと、王様は噂に聞くドワーフというものを前にして、その気味が悪いことに驚きと怖れを隠すのにひと苦労でした。魔女に仕立てた小娘が、本当の魔女になって戻ってきたことにも、心穏やかではありません。
お后は紙より白い顔をして、誰の目にも心の内が露わな有り様でした。
ウィケッドは輿を降りると、恭しく跪きました。
「王の仰せの通り、悪しき妖精の女王を退治し、残りの者どもは我が魔法で虜にして参りました」
魔女はドワーフどもに命じて、王様の前に黒い棺を運ばせました。王様が家来に蓋を開けさせると、白い絹で内張りした中に、●●●者の亡骸が横たわっておりました。お城の人々は、その死人を見て息を飲みました。
小人の女王、その怖ろしい死に顔は誰あろう、忘れるはずもない見紛うはずもない、あの白雪姫のものだったのです。
白雪姫の顔は生きていた時よりまだ白く、目を閉じ、四本と六本の指を胸で組んで、まるで眠っているように死んでおりました。
玉座から立ち上がり、死せる娘を長いこと見ていた王様は、胸の中で正反対の思いがぐるぐる踊りましたが、やかて腰を下ろし、長い長い息を吐きました。怖れと不安の種だった白雪姫が、目の前で確かに死んでいることを我が目で見て、胸を針で刺す小さな小さな痛みと、寒い冬の日に暖炉の前でぬくぬくと毛布に包まる安堵を、同時に覚えました。
継母は、この世で最も怖れていた者がいなくなって、心を覆う雲が晴れたように思い、頬が紅を差したように染まり、雪解けを迎えて春の訪れを喜び綻ぶ花のようでした。これを見て王様は、なお気を良くして、
「うむ、確かにこれこそ、小人の亡骸。見事な働き、大儀であった」
それから思わず顔を背けたくなるような化け物どもを指差し、訊ねました。
「して、このおかしな者どもは何とした?」
そこで魔女が畏まって申すことには、
「この者どもは森の妖精でありますれば、人にはない知恵を持ち、人には作れぬ品物を拵え、人の知らぬ薬を煎じます。埋もれた財宝の在り処も知っておりますし、呪いも心得ておりますので、王様の家来になさればさぞかし役に立とうと思い、私の魔法で逆らえぬように戒め、召し取って参ったのです」
これを聞いて、王様は考えました。
なるほど、この者ども、見目は悪いがそれに目を瞑れば、魔法を業する家来なら、城中の家来を集めたよりも役に立つだろう。ドワーフがいれば、どんな国と戦争をしても打ち負かせよう。
それで王様はますます上機嫌になり、大喜びで言いました。
「そなたは、余の期待以上の上首尾を収めたな。約束通り、そなたは自由の身だ。いや、そればかりではないぞ。これほどの働きには相応の褒美を与えねばならん。何でも申してみよ。四つの馬車に積んだ黄金か、それとも領地がよいか? そなたさえ望めば、余に仕える魔法使いとして、誰より高い身分で召し抱えよう」
「さ、望みは何ぞ?」
私の望みはただひとつ。
私から奪い去ったもの、そっくり返して欲しいだけ――……
魔女の娘は小さな声で呟きました。けれどもその叫びは小さすぎて、小人達にしか聞こえませんでした。それに、魔女は知っておりました。割れてしまった卵は、王様の家来を集めても、馬をみな牽いて来ても、二度と元には戻せないことを。
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その時、ひと際小さな小人が歩み出て、甲高い声で魔女に何やら耳打ちをしました。ウィケッドは我に返って、頷くと、また畏まって、
「王様、ドワーフどもが王様にお仕えする証として、妖精に伝わる秘術の中の秘術を、ご覧に入れる許しを願っております」
とひれ伏しました。王様は思わず身を乗り出して叫びました。
「何と、妖精の秘術とな?」
王様も、お城で一等物知りの博士や学者だって、誰も本物の魔法を見たことはありません。しかも、ドワーフの秘術だというものですから、見てみたくない人などありません。
レジナも気持ちが軽くなり、何とも楽しい気分で、魔女の魔法で虜にされているなら小人も怖れることはないと思い、そのように珍しいものなら是非見てみたい、と言いました。そこで王様は問いました。
「宜しい、やってみせよ。して、魔女よ。その秘術とは、いなかる魔法か?」
これを聞くと、魔女は声を立てて笑いました。私もその時お城の広間にいたのですが、その笑い声は何と冷たく恐ろしかったことでしょう。
それはこの世の復讐を集めて出来たような笑いで、今しも罪人の首に斧を振り下ろす首切り役人の笑い、罪もない人に魔女の烙印を捺す司祭の笑いでした。そして魔女はこの時、まさしく首を打ち落とそうとしていたのです。
魔女の娘は答えました。
「はい、王様。死人を生き返らせる魔法にございます――……」




