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コトレットさんの不思議なお仕事~こちら異世界管理局~  作者: 胡散臭いゴゴ
まっくろくらいの白雪姫・二つの下巻
78/162

71.【下巻/サイド・レアレテ】白雪姫ハ胸ニ林檎ヲ

挿絵(By みてみん)

【まっくろくらいの白雪姫・下巻/現実編(レアレテ)(5/7)】

 トランプの王様(キング)は、逆様(さかさま)にしても同じ顔。

 王様そうして呑気にしてたら、道化(ジョーカー)が山札から飛び出したとさ!



 魔女の娘(ウィケッド)(はか)り事を見抜かれて、汲み立ての井戸水に肩まで浸かったような心待ちでした。けれども可哀そうな娘は、ここには死にに来たのだと思い出し、自分の傍らに大鎌を担いだ年寄り――死神(トート)が立っているのを見た思いで、ひと思いに林檎の酒を飲むことにしました。


 ところが、瓶の口が魔女の唇に触れる(キスする)や、四本指の手が飛んで、酒を払い落としました。地面に転がった毒に、驚いて顔を上げた魔女を、白雪姫はまじまじと見つめました。

「なぜ、飲もうとする? それは毒の酒(ポワソ)なのだろう。そのように、躊躇(ためら)いもなく自ら命を絶とうとする、その(あきら)めの理由は何だ?」

「何だって、毒の酒だって」

白雪姫の言うのを聞いた()き火の七人は、びっくりして騒ぎ出しましたが、姫は本当に連中の女王様であるように、ぴしゃりと黙らせました。


 白雪姫は恐ろしく(ゆが)んだ面相を、ずいと魔女の娘に近づけて言いました。

「話せ。いずれにせよ、お前はここで死ぬのだ。訳を話せば、せめて苦しまぬよう殺させよう。毒を飲むよりは、楽に死ねるようにしてやろう」

(あわ)れな娘はいよいよ死神が鎌を振り上げたと見て、胸の掛け金が外れ、閉ざした扉が(きし)みました。



 魔女は心の(たが)が外れて、わっと泣き出すと、白雪姫と七人の小人に、これまでのことを洗いざらい打ち明けてしまいました。




 ***********************************


 魔女の娘の身の上を聞き、親切な●●●者(カジモド)達は情けを起こしました。白雪姫は考え込むよう、黙っておりました。先生(サヴァン)が口を開きました。

「どうだろう、姫様。聞けば、気の毒な娘さんじゃないか。この娘さんを、ここに置いてやってもいいのじゃないかね」

白雪姫は左の眉を上げました。


 仲間達は先生の言うことに賛成しかかりましたが、ガタゴトうる(ルンペルシュテ)さい柱小僧(ィルツヒェン)は顔を(しか)めて、手首のない腕を振りました。

「俺は反対(ノーエ)だ。いいか、ここは●●●者(カジモド)の集まった●●●者(カジモド)の国だ。けれど、そこのお嬢さんは、まともな人間だ。まともな人間は、●●●者(カジモド)の国じゃあ●●●(カジモド)さ。ここに置いとけば、良くないことを招きかねんよ」

みんなは、ルンペルシュティルツヒェンの言うのも一理ある、と(うな)りました。



 これを聞いていた魔女の娘は、この気味の悪い人達はドワーフなんかじゃない、とうてい人間には見えないけれど、それでも人間なのだ、町で暮らせず追われてきた、●●●者(カジモド)なのだ、と理解(わか)りました。

 そこで魔女の娘は、もし自分に残された居場所があるなら、ここをおいてはありえないと思って――


 「見てください、私も●●●者(カジモド)です、私も●●●者(カジモド)です」


 言いながら服を脱いで、みなに背中を見せました。七人の小人(シエテ・ドワーフ)は息を飲み、白雪姫は右の眉も上げました。魔女の娘の白い背中には、(むご)たらしい責めの跡と、魔女の目印、()された焼き印が付けられていたのです。



 七人の小人は声も出ず、恐ろしい仕打ちから目を(そむ)けましたが、白雪姫は目を()らさず、やがて薄笑いを浮かべました。

「ふうん。城と教会の年寄り(アーヴォ)どもか、連中のやりそうなことだ。あはは、これはいい。この国の王(ロワ)に、この国の法(リヒト)に、この国の人間ども(カルーシア)に、●●●(カジモド)にされたか。あはは、あはははは……」

白雪姫は笑いながら、この娘は私の役に立ちそうだ、と考えました。



 心に深い傷を負った者は、必ず私の役に立つ――……



 焚き火の七人(トルチャ・シエテ)を振り返った姫の顔からは、もう笑みは消えていました。

「この娘は●●●者(カジモド)さ。立派なものだ。何しろ、魔女(ウィケッド)は一等の罪人(クレミネオ)●●●者(カジモド)だ。この娘は、ここに置く。不服があれば、この国の王女が聞きましょう」

そう言うと、姫は魔女の頬を、四本指(クアル)六本指(セース)の手で包みました。

「ここにいなさい。お前を●●●者(カジモド)にしたのが私の父であれば、お前はこの私の(イルマ)です」

白雪姫の言葉は、林檎の酒の毒(ポワソ・ヴァン)のように、魔女の心に甘く沁み込みました。七人にも文句のあるはずはありませんでした。


 ルンペルシュティルツヒェンは魔女の娘に会釈(えしゃく)をして、紳士のように暖かな教会の中に招き入れました。




 ***********************************


 さて、古い教会(イグレシア)に入り、椅子に腰を落ち着けるが早いか、口を開いたのはまたもルンペルシュティルツヒェンでした。


 ルンペルシュティルツヒェンは後ろ手に扉を閉ざすと、用心深く声を落として、

「しかし、こいつは厄介なことになったぞ」

と言いました。

「お城から人が差し向けられたってこたあ、王様、俺達を始末しようって(はら)だぜ。今はこんな娘さん一人だったが、次は兵隊を丸ごと(ソルダートを)率いてくるかもしれない。そうなりゃ、俺達みんな」

ルンペルシュティルツヒェンは、ある方の拳を首の後ろに回し、見えない縄を引っ張り上げる仕草をしました。


 「吊られちまう(これだぜ)

 「ううむ、どうしたものかのう」


 先生(サヴァン)が仲間達が青くなっているのを見て、

「姫様、抜け目ないお方、何ぞ考えとりゃせんかね?」

長い顎髭(バルボ)を指で(ひね)りながら、白雪姫に水を向けました。さしもの知恵者(ソフォス)の老人も、人々の恐怖と好奇心を裏表に操り、噂を逆手に取って森から遠ざけた白雪姫の賢さには(おそ)れ入っていたので、今も姫なら良い考えがあるまいか、と思ったのです。



 白雪姫は首を(かしげ)げると、教会の外に出て、ウィケッドの落とした酒の瓶を見つけました。瓶は割れずにおり、酒も半分ほど残っておりました。そこで白雪姫は瓶を拾い上げると――……

「そうね。私はこの酒を飲もうと思うの」

そう言いました。仰天(ぎょうてん)したのは七人の小人(シエテ・ドワーフ)。魔女の娘も慌てて、

「いけません、白雪姫様。それは毒とご存じでしょう? 死んでしまわれます」

と止めましたが、けれども白雪姫は笑って、

「そう。私は死ぬのよ」

と言いました。その微笑みはいつか()き火に照らされていた、森を●●●者(ドワーフ)の領地に変えた、あの魔法の笑顔でした。



 そして白雪姫(ブラネージュ)が笑みを打ち消すと、その時その場所は白雪姫のもの、みな舞台に上げられておりました。


 何もかもが、白雪姫の合図で踊り出そうとしておりました。

「お前達、追い詰められたと思っているな? 違うぞ。今こそ好機なのだ。サヴァンよ、お前の知恵で、地面にしっかりと根を張った木を転ばせられるかな?」

「ううむ。そいつは難しいのう」

「ビッグ・ジョン、お前ならどうだ? お前ほど力のある男なら出来るだろう?」

「だっだっだめだ。おれ、でで、出来ない。むむっ」

大男が顔を真っ赤にすると、姫はにっと目を細めました。

「そうだ。根を張った(アルボ)は転ばせられない。けれども、木が地面から足を抜いて、歩き出したらどうだろう?」


 「八人(ユイト)、いや、九人(ナーベ)で掛かれば、やってやれないことはない。毒林檎の魔女よ、(イルマ)よ。お前にはさっそく、ひと働きしてもらうことになるぞ」

ウィケッドはたじろぎましたが、唇を血の気が引くほどきつく結ぶと、こくりと頷きました。その覚悟の顔を見て、姫は満足げに頷き返しました。

「肝が据わっているな。いい子だ。これなら巧くいく。いいか、よく聞け、我が愛する●●●者(カジモド)どもよ――……」



 「今、城でこの国の王が(くわだ)てをしている。年寄りめ、地に根を張っていればいいものの、自ら地面から足を抜いた。だから、今だ。頭の上に気を取られた、お留守になったその足元を(すく)ってやって、一切合切(いっさいがっさい)ひっくり返してやれ。いいか、しくじるな。この一世一代の大芝居コメディア・デッラルテ、巧くすれば一足飛びにお月様(セレイネ)に手が届く」


 「ひっくり返そ(トプシー・)う、何もかも(ターヴィー)道化者(アルレキーノ)に王冠を被せろ、王様(ロワ)の尻を蹴っ飛ばせ。何から何まで真っ逆様(トプシー・ターヴィー)の、●●●者(カジモド)の国を作るのだ」



 「さあ、行進(パレード)だ!」



 さあ! パレードだ――……




次のお話は【現実編(レアレテ)】の第5話。

物語は【現実編(レアレテ)】と【幻想編(パンタシア)】を交互に繰り返します。


挿絵(By みてみん)

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