70.【下巻/サイド・パンタシア】白雪姫ト招カレザル訪問者
葬列がやって来る、Hi-Ho! Hi-Ho!
火葬場目指して行進だ、Hi-Ho-Ho!
ほどなくして、旅から戻った七人の悪魔は、ベッドに横たわる白雪姫と、胸の上の林檎を見て、何もかもいっぺんに知りました。
七人の悪魔は白雪姫の亡骸を黒い棺に寝かせて、その周りで嘆き悲しみました。悪魔達は白雪姫を取り囲み、幾日も幾夜も泣き続けました。七人の悪魔は七日七晩、頭を抱え、喉を掻き毟り、床を叩き、喚き、泣き叫んで――……やがて、笑い出しました。
七人の悪魔は立ち上がり、地獄の罪人達も縮み上がるような大きな声で、天を見上げて笑いました。笑い声で家が揺れ、森が悲鳴を上げるほどでした。
「可愛い娘、愛しい娘。私達は知っていたよ」
「お前が天使どもに誑かされ、天の林檎を食べてしまうことを、お前が死の眠りにつくことも、私達は知っていたよ。全て、私達の思惑通りに運ぶことを。天使どもはお前をうまく騙したが、天使どもを出し抜いたのは我らなのさ」
堕天使達は白雪姫の棺を担ぎ上げ、まるでカーニバルのパレードのように、愉快に森を行きました。悪魔達は交代で棺を掲げ、まるで道化のように周りを飛び跳ね、歌い踊りました。
「さあ、裁判だ、審判をやろう! 神様の真似事をしよう、ひと足お先にやってやろう! いと高き方は最後の日に、死人をみなを生き返らせるのだ! 全ての罪が等しく裁かれるように死人が蘇るのだ! 審判には死人がいるのだ!」
「死人ならここにあるぞ! 死人ならここにあるぞ!」
フェルテート達は白雪姫の亡骸を運んでいきました。
判事は我らだ、原告は死人だ。
さあ、行こう。罪人どもが待っている。
さあ、行こう、お城へ向かって行進だ。
何から何まで真っ逆様の悪魔の審判を始めよう――……
さあ! パレードだ――……
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さて、白雪姫のいなくなったお城では、みな大喜びで、たいそう幸せに暮らしているかと申しますと、そうではありませんでした。
人々は不幸せが去ると、入れ違いに幸いが行進してくるのだと思っておりましたが、不幸せが去ることと幸いが訪れることは、また別の話なのだと、ただそれだけを知りました。
と申しましても、心の苦しみから解かれ、お后にまた元気と美しさが戻ったことは、幸いに数えても良かったかもしれません。
ある日王様は、遠国の王様への書簡にペンを走らせておりましたが、ふと大臣に向かって、
「不幸せというものは、ひとつだけの理由のせいでは、ないのだなあ」
と言いました。
大臣も難しい本から顔を上げて、
「左様でございますなあ」
と言いました。そして王様はまた手紙に向かい、大臣は本に向かいました。白雪姫がいなくなって、人々はただそれだけのことを学びました。
ただ、人々がまだ学んでいないことがありました――
追い払った不幸せというものは、しばしば、別の姿で戻って来ることがあるということを。それは、時には幸せが行進してくることもございましょうが、もしかするともっと奇妙なものが行進してくることも……
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その日は、実に奇妙な一日でした。
その日は夏の一番照り付ける日よりも暑く、冬の一番凍える日よりも寒く、お日様が昇ったのに薄暗い、朝からどうにも気の晴れない日になりそうな様子でした。
そう言えば、今朝は雄鶏が鳴かなかった。そう言えば、今朝は雌鶏が卵を産まなかった。そう言えば、今朝は牛があまり乳を出さなかった。そう言えば……そう言えば……きっと、天気のせいさ、こんな日もあるさ。明日になったら、またすっかり元通りさ。
明日が来れば――……
天気が悪いからおかしいのではなく、おかしな日だから天気が悪いだと、始めに知ったのは王都の都市城壁の門番でした。
門番は、森から賑やかに街道をやって来る、おかしな一団に目を留めました。はて、何だろう、旅回りの一座だろうか? 目を凝らした見張り番は、やって来る者達を見て仰天して、あんまり大きく目を見開いたので、顔から二つの目玉が零れ落ち、道をころころ転げていきました。
●●●になった見張り番の横を、おかしな一団は通り過ぎていきました。けれども門番は、
「後のことの見えなくなった俺は、町一番の果報者だ」
と思いました。なぜなら門番は●●●になる前、おかしな一団を追うように、森から真っ赤な雲が広がりながら空を覆い尽くししていくのを見ていたからでした。
一団が王都に乗り込むと、粉挽きも、お百姓も、女中も、旦那様も、仕立屋も、鍛冶屋も、兵隊達も、おかみさんも、坊やも、嬢ちゃんも、ロバも、犬も、猫も、鼠も、鵞鳥も、しらみまで、町中あやうく目玉をなくすところでした。
と言いますのも、おかしな一団は七人が七人、喪服を身に纏った奇妙な葬列だったのです。
七人は弔いの装束を着てはおりましたが、何とも愉快で堪らないという様子で、笛を吹き、鐘を打っておりました。七人の楽しげなことといったら、衣装さえそれほど不吉でなかったら、町の人々も思わず一緒に踊り出したことでしょう。
七人に率いられた赤い硫黄の煙が空を焦がしていなかったなら。
町はたくさんの松明に照らされたようで、誰の顔も赤く見えました。それはもう、血塗れのように真っ赤でした。そして王都の人々が十字を切ったことには、七人はまるで神輿を担ぐように、滑稽な仕草で黒い棺を担いでおりました。
おかしなおかしな一団は、行き合う人々を震え上がらせながら、お城を目指して行きました。
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おかしな一団がお城に着くと、門番は槍を構えてパレードを止め、
「いったいぜんたい、どういうつもりなんだ? ここは見世物や旅芸人、お前達のような者の、来るところではないのだぞ」
大きな声で呼ばわりました。お城の門番は、心のお皿が空っぽになるまで、勇気を掻き集めておりましたが、本当は怖くて仕方ありませんでした。
ところがおかしな一団は、まるで幽霊のように門番の傍らをすり抜け、閉じた門さえすり抜けて、お城に入ってしまいました。おかしな行進の、行く手を阻むことのできる者は、ありませんでした。誰もこのおかしな者達の服の裾を掴むことさえ出来ないものですから、七人は喇叭を吹き鳴らして、
「審判だ、審判をしよう! 生きている者も、死んでいる者も、墓から出てきて、みな集まれ!」
と囃したて、跳んだり跳ねたり行くのでした。
こうして黒衣のパレードは、王様の前までやって来ました。
お城の大広間は、窓の外の真っ赤な雲が映えて、まるで火事で燃えているように見えました。扉が開け放たれ、賑やかで奇妙な道化達が踊り込んで来ると、王様は悲鳴を上げたお后の肩を抱き、腰の剣に手を掛けました。
王様の前には十人の騎士がいて、それぞれに剣を抜きました。ところが気味の悪い道化どもは、幻のように、騎士の剣をすり抜けて跳ね回るので、騎士達はまるで道化どもと踊る、舞踏会の乙女にしか見えませんでした。
王様は心の底から驚きましたが、まだ声に王様らしい威厳が、僅かにも残っているよう願いながら、
「そなたらは、何者か? 国王たる余に何用か?」
と問い質しました。王様の声には、ほんの少しだけ、王様らしい威厳が残っておりました。すると道化どもが一人が進み出て申しますには、
「これより審判を執り行う。我らは、汝らが罪を裁くためにやって来た」
王様の百倍も威厳に満ちた声で宣言しました。
この声、この言葉を聞いて、この七人の道化が何者なのか、理解らなかった者は一人もありませんでした。




