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コトレットさんの不思議なお仕事~こちら異世界管理局~  作者: 胡散臭いゴゴ
まっくろくらいの白雪姫・二つの下巻
76/162

70.【下巻/サイド・レアレテ】白雪姫ト招カレザル訪問者

挿絵(By みてみん)

【まっくろくらいの白雪姫・下巻/現実編(レアレテ)(4/7)】

 幸せ(フェリーシ)不幸せ(ミザリー)を、取り替えましょう、白雪姫の毒林檎ブラネージュ・ポワソ・レインガウで。

 悲しみ(トリステッテ)喜び(アレグリア)を、取り替えましょう、白雪姫の毒林檎ブラネージュ・ポワソ・レインガウで。



 森の道を、黒い衣に身を包んだ、()せた娘が歩いておりました。この娘は魔女(ウィケッド)でした。魔女はこの森に()むと言う、ドワーフを退治しに行くところでした。


 ほんの少し前まで、ウィケッドは正直者のお父さん(ペーレ)と働き者のお母さん(メーレ)、気立ても器量もいい二人のお姉さん(ソロル)と、ささやかに幸せに暮らしておりました。ある日突然、お城の兵隊(ソルダート)達が、乱暴に家の扉を開けて、湯気の立つ食事を蹴り倒して、ずかずかと家の中を踏み荒らして、家族(ハミリオ)を残らず(しば)り上げてしまうまでは。

 家族は訳も理解(わか)らずお城に引っ張って行かれ、そこで自分達に魔女の疑いが掛かっていることを知りました。裁判が開かれ、偉い司祭様達(クレリーカ)が、この者達こそ白雪姫に(まじな)いをした魔女に違いないと言ったので、メーレは悪だくみの張本人として、生きたまま火炙(ひあぶ)りにされました。


 正直な仕立て屋のペーレは、魔女を妻にした男として、首を(くく)られました。

 二人のソロルも、魔女として、ひどい責めを負わされた挙句に死にました。


 末の妹(イルマ)は、命ばかりは助かりましたが、恐ろしい責めと、口には出来ない(はずかし)めを受けて、いっそ死にたいと願うばかりでした。



 こうして、娘の家族と暮らし(フェリーシ)は、いとも容易(たやす)く打ち壊されてしまいました。残ったのは無実の罪と(いわ)れのない罰、魔女の汚名といつ果てるとも知れぬ苦しみだけでした。



 何人かの人がおりました――……


 王様(ロワ)は、実の娘を殺すための、毒を塗ったナイフを欲しておりました。


 教会のお坊様達(クレリーカ)は、白雪姫に(まじな)いをした罪人を探しておりました。その罪人は誰でも、別に本当に罪を犯した者でなくても構いませんでした。

 娘の家族のことを、魔女だと密告したのは、隣の家の商人(コメルシアンテ)でした。娘の大きい方のお姉さん(ソロル)に言い寄って、(そで)にされたのがその理由でした。


 そんなこととは知らぬまま、訳の判らないうちに、娘の家族は残らず死んでしまいました。



 さて、望むこととて死を願うばかりの日々でしたが、ある時、娘は王様(ロワ)の前に召し出されました。王様は、森に小人(ドワーフ)()みつき、悪さをしていると言う。大臣は、これを退治してきたなら、罪を(ゆる)し、自由の身にしてやろうと言う。


 娘はこれを聞いて、小さくひとつ頷きました。


 けれども娘は、命が惜しくて頷いたのではありませんでした。もう、命も自由も欲しくはありませんでした。家族(ハミリオ)をみな目の前で殺されて、生きていて何になりましょう。

 娘はただ、自分から全てを奪ったお城の偉い人達に、最後の銅貨(コプレ)まで取られるくらいなら、自分で持っていく方がいいと思っただけでした。


 小人退治に(おもむ)痩せっぽちの娘(ウィケッド)に、与えられたのは毒の酒(ポワソ・ヴァン)がひと瓶と、ナイフ(ルクトー)が一本きりでした。




 ***********************************


 それで魔女の娘(ウィケッド)は、小人達(ドワーフ)()み処と噂される、森の中の古い教会イグレシアを探して歩いておりました。

 森が深くなるにつれ、暗くなるにつれ、死を願ったはずの身ではありながら恐ろしくなり、木陰から何かがこちらを(うかが)っているのではないか、いきなりおかしなものが飛び出して来るのではないか、とびくびくしながら歩いておりました。



 ほどなく森が開けた場所に出て、魔女の娘は、(つた)の絡まる今にも崩れそうな古い教会の前に立っていました。教会は人が訪れなくなって、何年も、何十年も、ことによると百年(シエテリ)も立っているように見え、いかにもドワーフが()むのに相応しく思えました。


 森の空き地の教会はお日様に浮かび上がり、光の当たる方の壁には(つた)が絡み、当たらない方は苔むして(おもむ)き深い(たたず)まいでした。

 建物の周りの草は刈り取られ、(まき)がきちんと積み上げられており、煙突から(かまど)の煙が立ち上っておりました。けれども、怯え切っている娘の目には入りません。辺りに漂うパン焼きのいい匂いにさえも、娘は気づいておりませんでした。


 魔女の娘は心の底から怯えておりましたが、とうとう覚悟を決めると、教会の扉を、ひとつ、二つ、三つ(エン・トゥエ・ウルア)叩きました。



 扉が開いて、中から顔を出したのは、見るも恐ろしい女のドワーフでした。


 その小人ときたら、体は枯れ木のように()じれ、髪と肌は雪のように真っ白ブラン・スース・ネージュ、目と唇は血のように真っ赤(ルータ・スース・サン)でした。

 魔女の娘は女の(みにく)さに驚きましたが、その背中の向こうに見える教会の中が、いかにも居心地良くしつらえられていて、かつて自分が家族と暮らしていた家にそっくりであることに、もっと驚きました。小人とか妖精とかいうものは、暗くてじめじめしたところに()んでいるものと思っていたのです。


 小人の女は、魔女の頭のてっぺんから爪先まで、値踏みするように見ると、

「人間の娘が、こんなところ(・・・・・・)に何の用だ?」

(たず)ねました。恐ろしさに魔女の娘が震え上がっておりますと――


 「おや、これは本当に、きれいなお客さん(トランジッテ)じゃないかい」


 別の声がして、魔女の膝はがくがくと震え、森の木々まで一緒になって揺れるようでした。女の小人の後ろから二人のドワーフが現れ、魔女の後ろからも五人がぞろぞろやって来て、魔女はひとつ目男(エン・オリオ)やら二つ胴男(トゥエ・コルド)やらに、すっかり取り囲まれているのでした。



 魔女の娘は恐ろしさのあまり死んでしまいそうでしたが、お腹に力を入れると、

「私は物売りです。私の品物がお気に召したら、買ってください」

そうひと息に言って、手籠から毒の入った酒(ポワソ・ヴァン)を取り出すと、

「これは林檎のお酒です。どうですか、いりませんか?」

と丁寧にお辞儀をしました。

 するとドワーフの中から、顔が砂糖菓子(リコレット)みたいに溶けかかった男が歩み出て、(あご)を撫で撫で、

「ほう、葡萄(ぶどう)の酒ならよくあるが、林檎の酒(レインガゥ)とは珍しい。どれ」

と手を伸ばしましたので、魔女の娘はどうやら事が上手く運ぶのではないかと、心臓が早鐘(カンパーナ)のように打ちました。ところがです――……


 「……――待て」


 女の小人が六本指の手で、リコレット顔の男の、酒瓶に伸びた手を押さえたのです。女のドワーフの(にら)みつける目つき、その燃えるように赤い目に、魔女の胸は倍も早く打ちました。




 ***********************************


 鼻欠けの手を押さえた白雪姫(ブラネージュ)は、林檎という言葉を聞いて、不吉な思いに捕らわれました。林檎はいけない、野遊びの昼餉(ひるげ)に、愚かな騎士(カヴァリオロ)(ポワソ)を食わせた林檎は。白雪姫は魔女の娘の手から酒瓶を取ると、その鼻先に突きつけました。

「飲んでみせろ」


 「気に入らない、どうにも気に入らないね。ひとつに、お前みたいな小娘(チッカ)が、わざわざドワーフのいる森に、物売りに来るってのが気に入らない。もうひとつに、我らの●●●(カジモド)を見て、驚かないのが気に入らない」


 「お前、もうすっかり判っていて、覚悟が出来ているって顔じゃあないか。お前、何を企んでいるんだい、ええ?」

父が自分を亡き者にしようと決めた時、その目にあった小さい火が、この娘の瞳の中で揺れていました。


 白雪姫は知っておりました。


 (たと)()せっぽちの小娘であろうと、覚悟の決めた者は、間抜けな騎士の何倍も何十倍も恐ろしいということを。




次のお話は【現実編(レアレテ)】の第4話。

物語は【現実編(レアレテ)】と【幻想編(パンタシア)】を交互に繰り返します。


挿絵(By みてみん)

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