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コトレットさんの不思議なお仕事~こちら異世界管理局~  作者: 胡散臭いゴゴ
まっくろくらいの白雪姫・二つの下巻
74/162

69.【下巻/サイド・レアレテ】白雪姫ト秘密ノ目論見

挿絵(By みてみん)

【まっくろくらいの白雪姫・下巻/現実編(レアレテ)(3/7)】

 (シルワ)の深くのその奥に、小人(ドワーフ)達の棲むと言う。

 ()き火を囲んだ小鬼(ゴブリン)の、(オヴラ)を誰ぞが見たと言う。



 「それにしたって、俺達は何をして差し上げたらいいんだい?」


 白雪姫をすっかり気に入った焚き火の七人(トルチャ・シエテ)は、姫の考えていること、どうやったら自分達の手が貸せるのか知りたがりました。白雪姫はそれには答えず、手籠から革袋を取り出すと、()き火の前に中身を空けました。

 すると中から銀貨(アルジェ)(こぼ)れて、()き火で照らされ白く光りながらブラン・スース・ネージュ、降り積もりました。七人は仰天(ぎょうてん)して、鼻欠けなどは思わず手を伸ばし、リトル・ジョンにぴしゃりとやられる始末でした。

「これで食べ物と飲み物を買ってきなさい。まず、それが手始め(エン)。それから、飲んで食べて、歌って踊って、夜毎に大騒ぎをなさい。それが下拵え(トゥエ)。ただし、焚き火(トルチェ)を囲むのは、ここじゃない……」


 「もう少し、森を出て、もう少し、町に近いところ。ひょっとしたら、町の者が迷い込むかもしれない辺り。それが、我々が食べたり飲んだりするところ」


 びっくりしたのは七人。

「おいおい。飲み食いはいいが、そんなところで騒いだら、町の連中に見られちまうぜ」

すると白雪姫は隠し事の笑みを浮かべて、

見られなければ(・・・・・・・)意味がない(・・・・・)

そう言うと、手籠からもうひとつ革袋を取り出して、銀貨の横に空けました。すると今度は金貨(オウロ)(あふ)れ出て、焚き火に赤く照らされて(ルータ・スース・サン)、それは銀貨(アルジェ)の十倍もきれいに降り積もりました。()き火の七人は言葉もありません。


 「ガタゴトうる(ルンペルシュテ)さい柱小僧(ィルツヒェン)!」


 呼ばれた傷の顔の男は、冗談で口にした名前を、白雪姫が一遍で覚えていたので飛び上がりました。白雪姫はルンペルシュティルツヒェンに包みを渡しました。罪人が包みを開けると、姫が騎士と御者から()いだ、剣やら服やら靴やらでした。

金貨(オウロ)で上等の服と帽子を七人分、靴と腕輪と耳飾りを七揃い(シエテ)……おや」

白雪姫はパックとペックの仲良し兄弟を見て首を傾げました。

「ズボンと靴は、六つ(セース)でいいかしら。それから、包みの中身は、見目の派手な布と針と麻糸に換えてきて。金と銀の鈴(トインカ)もいるわね。リトル。ジョン。お前は(パサロ)を捕まえて。お前は鳥を捕まえられるかしら?」


 「ほい来た、おいらにお任せさ。そんなの小人にゃ、朝飯前」


 そう言ってリトル・ジョンは銀貨の山(アルジェ)から一枚取ると、丸っこい手の上に乗せ、握って開くと、銀貨は消えておりました。それから鼻の先を(つま)む仕草をすると、また手の中にコインが現れて、何もないところから掴み出したように見えました。

 白雪姫は小人(ミジェス)の器用なことに感心して、これなら満足な仕事をするだろうと思いました。

「おやおや、たいしたものね。お前、お城の道化師(アルレキーノ)になれるわね。それじゃあ、パックとペック。お前達は鳥の羽(プレザ)で羽飾りを作って頂戴(ちょうだい)。お前達は羽飾りを作れるかしら?」


 「ほい来た。俺らにお任せさ。そんなの」

 「俺らにゃ朝飯前! 細工も仕立ても」

 「お手の物。だって俺らはパックと」

 「ペック。仲良し兄弟、手が四本! けど、どうすんだい?」

 「羽飾りなんて作ってさ?」


 七人(シエテ)白雪姫(ブラネージュ)を見つめました。きれいに着飾って、飲み食いしたり歌ったり踊ったり、それでどうすればお月様(セレイネ)に手が届くのでしょう? 白雪姫はただ笑っているだけです。

「さあ、どうするのかしら? そうね。やってみれば、判るんじゃない?」

それから、少し考えて、こう付け加えました。



 「そうね。私達のような●●●者(カジモド)が、真夜中の森の中(ミニュイ・シルワ)、派手に装って踊っていたら、もしかすると人間には見えないかもね――……」




 ***********************************


 さて、焚き火の七人(トルチャ・シエテ)八人(ユイト)になって、しばらくして、カルーシアの町では子どもらがこんな戯れ歌(シエルツ・リート)をするようになりました。


 (シルワ)の深くのその奥に、小人(ドワーフ)達の()むと言う。

 粉屋の主人(ムニエッロ)の言うことにゃ、

 ()き火を囲んだ小鬼(ゴブリン)の、(オヴラ)を誰ぞが見たと言う。

 木樵の親方(タリアレーニャ)の言うことにゃ、

 見るもおかしないでたちの、小人(ドワーフ)の踊るを見た言う。

 (シルワ)の深くのその奥に、小人(ドワーフ)達の()むと言う――……


 近頃では、町の人々は顔を合わせれば、森に住むという妖精、ドワーフの噂をしておりました。



 鹿(セルポ)を追って森へ入り込んだ狩人(カチャトーレ)が、不思議な香りに誘われて行くと、羽飾りの帽子を被り、体のあちこちに鈴を()わえたドワーフ達が()き火の周りで、跳んだり跳ねたりしながら歌っているのを見て、命からがら逃げてきた、というような話がそこここで(ささや)かれました。


 ある行商人(コメルシアンテ)なぞは、小人相手に(あきな)いをしたそうな。


 商人の話したことにゃ、馬を()いて森を抜けようとしていると、出し抜けに木陰から子どもほどの身の丈の小人が飛び出して、酒を売って欲しいと言ったそうな。

「このたびドワーフの女王様(クィン)が、森に帰っていらした。だから、祝いの酒が欲しいんだ」

行商人は恐れて酒瓶を差し出し、貝殻の髪飾りを、どうぞ女王様に差し上げてくださいと渡しますと、小人は大喜びで、空中から魔法(マジッカ)のように金貨(オウロ)(つま)み出して気前よく払ってくれ、こう言ったと。

「お前さんさえ良ければ、お礼に宴に招待しよう」

これを聞いた商人、飛び上がって逃げ出しましたが、背中から小人の笑いを浴びせられ、町に辿(たど)り着くまでまったく生きた心地がしなかったと。

 それから商人は町の人々に小人の金貨(オウロ)を見せましたが、間違いなく本物の、上等の金貨でした。


 話は(またた)く間に広まって、みんな小人の女王様の噂で持ち切り。商人は話を聞きたがる人々に品物を売りつけ、大いにポケットを(ふく)らませました、とさ。



 こうして、噂は口に乗り風に乗り――……




 ***********************************


 やがて、お城(カステーロ)にも届きました。


 白雪姫のいなくなったお城では、新しいお后(ヴェリオ・レジナ)の病もすっかり良くなって、誰もが幸せに暮らしておりました。王様(ロワ)も、お(きさき)が元気になり、美しさを取り戻したことを喜んでおりましたが、その心には人知れず、小さな棘(エピヌ)が刺さっておりました。


 王様の気掛かりとは、帰らぬ騎士、もたらされぬ知らせ。王様は、騎士は白雪姫を殺したものの、恐ろしくなって逃げたのだ、姫は確かに死んだのだと、自分に言い聞かせておりました。

 それに、もしも白雪姫は生きていたとしても、二度とお城には戻るまい、自分の前に姿を見せるまい、そうも考えておりました。


 ところが……


 ドワーフの噂が耳に入り、王様は青ざめました。白雪姫が消え行った森、森から迷い出た小人の女王の影。


 まさか、まさか。されど、まさか……


 白雪姫(ブラネージュ)が、生きているのかもしれない。

 ドワーフの女王とは、白雪姫なのかもしれない。



 白雪姫が化け物(ドワーフ)どもを引き連れて、復讐(ベンデッタ)にやって来ることを恐れました。王様は眠れない夜を重ね、やっと訪れた短い眠りに、恐ろしい(レーヌ)を見ました。白雪姫がドワーフの兵隊を率いて、お城に攻めてくる夢を。叫んで飛び起きた王様は、何とかせねばと思いました。



 森からドワーフどもが攻めてくる前に、何ぞ手立てを打たなければ。

 森からドワーフどもが攻めてくる前に、ドワーフの女王(ブラネージュ)を殺さねば――……




次のお話は【幻想編(パンタシア)】の第3話。

物語は【現実編(レアレテ)】と【幻想編(パンタシア)】を交互に繰り返します。


挿絵(By みてみん)

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