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コトレットさんの不思議なお仕事~こちら異世界管理局~  作者: 胡散臭いゴゴ
まっくろくらいの白雪姫・二つの下巻
72/162

68.【下巻/サイド・レアレテ】白雪姫ト七人の――……

挿絵(By みてみん)

【まっくろくらいの白雪姫・下巻/現実編(レアレテ)(2/7)】

 百万のルビー(ルブラ)、千万のダイアモンド(デアマン)

 本当に埋まっているのやら、運を天(デイオス)に任せて掘り続けるのさ!



 「さあ、次に紹介するは、パックとペックだのう。二人は兄弟で、(つくろ)いや(こしら)え物をするんよ。飾りから(かご)から、器用ないい指をしておるよ。その代わり、足がちといかんのだのう」

そう言われ、パックとペックを見ると、さすがの白雪姫もあっと叫びそうになりました。と言うのも、兄と弟は二人(トゥエ)一人(エン)一人(エン)二人(トゥエ)、腰から上は二人分揃っているのに、胴が腰でくっついていて、そこから下は一人分しかなかったのです。


 「俺達ゃ兄弟、バックと」

 「ペック。とっても仲良し」

 「いつでも一緒。何をするにも」

 「どこへ行くにも、いつでも一緒の」

 「仲良し兄弟。だって俺達、どうにもこうにも」

 

 「「離れられない間柄!」」


 同じ顔、同じ声、ひとつの体で二人は笑い、白雪姫も平気な顔をしているのが楽ではありません。リトル・ジョンが首を振り振り、

(やっこ)さんらを初めて見りゃ、誰だって仰天(ぎょうてん)するさ。俺だって、てめえの●●●(カジモド)、棚に上げて腰抜かしたもんさ。(わめ)き散らさないだけ、人間ができてらあ」



 「それで、(やっこ)さんらや先生(サヴァン)(こしら)えた物、俺達の掘った物を、町で食べ物やら入り用の物と換えてくるのが、あっこの隅に座ってる奴の仕事なのさ。俺達ん中では、一等見てくれが上等だからな」



 そう言われたのは、()き火から少し離れて胡坐(あぐら)をかいた髭面(ひげづら)の男。なるほど、顔に斜めに傷跡が走るのと、左の手首から先がないのとを除けば、まともな人間と変わらない見目をしておりました。白雪姫は、たぶんこの男は刑罰を受けた罪人(クレミネオ)だろう、と見当をつけました。


 男は白雪姫をちらりと見ると、こう名乗りました。

ガタゴトうる(ルンペルシュテ)さい柱小僧(ィルツヒェン)だ」

白雪姫はぽかんとしましたが、そんな名前は小鬼(ゴブリン)のもの、からかわれたのだとすぐ気づき、口元に微笑み、目で(とが)めてやりました。すると男も、姫の利口なことを知って、恐ろしげな面相に思いがけない人懐っこい笑みを浮かべて、(うやうや)しく会釈をするのでした。



 白雪姫はリトル・ジョンに(たず)ねました。

「けれども、その隣に座っている人は、もっと見目がいいのに」

手なし男の横におりましたのは、金色の髪の一本も損ないのない、●●●者(カジモド)達と一緒にいるのが不思議な、きれいな若者でした。

 若者は静かに微笑んで、()き火の揺れるのを見つめておりました。けれどもリトル・ジョンはまた首を振り振り、

「ああ。あれはばかの(トプシー・)ハンスといって、頭が弱いんだ。あれは自分の鼻も見つけられねえばかだから、商い事はハンスの仕事じゃないのさ」


 そう言いました。見るとなるほど、ハンスは幸せそうな顔をして、自分のズボンの中に小用を足しているところでした。




 ***********************************


 こうして焚き火の七人(トルチャ・シエテ)は仲間の紹介を終えると、今度はお客の娘さん(トランジッテ)のことを知りたがりました。そこで姫は、まず隠し事したことを()びました。


 「驚かせると思い、申しませんでした。私は白雪姫(ブラネージュ)、この国の王女です」


 そう明かすと七人は騒ぎ出し、リトル・ジョンが身を乗り出して叫びました。

「知っているぞ、知っているぞ。この国のお姫さんは俺らと同じ●●●者(カジモド)だと、町方の衆が話すのを聞いたことがある。あんたが噂の●●●(カジモド)姫の白雪姫か」


 リトル・ジョンがまじまじと姫の顔を覗き込んだものですから、鼻欠けが小人の頭をこつんとやり、

「失礼じゃねえかい。お姫様を、そうじろじろと見るもんじゃない、この礼儀知らずめ。しかし……なんだな。●●●者(カジモド)といってもお姫様なら、俺らとは違って、みんな大事にしてくれて、美味(うま)い物も食えて、さぞ幸せ(フェリーシ)なんだろうな」


 しみじみと言いましたので、白雪姫はお腹の中でほくそ笑み、顔に悲しみを浮かべました。

「いいえ、王族(ロアーレ)に生まれた●●●者(カジモド)なぞは、何にもまして(みじ)めなもの――……」



 そうして白雪姫(ブラネージュ)は精一杯哀れな様子で、お城を追われることとなった顛末(てんまつ)を語りました。(うと)むのは実の父(ペーレ)(あざけ)るのは家来達(サバント)……白雪姫は人の心の掛け金を外して、するりと内へ入り込むことを心得ておりましたので、お城での辛い暮らし、意地悪な継母(ウィケッド)、あわや王様の罠(カヴァリオロ)に殺されかかった経緯を、一幕の物語(ラコンテ)のように語って聞かせました。


 ですから身の上話が終わる頃には、七人のお人好し達は、もうすっかり白雪姫に同情して、一人残らず姫の味方になっておりました。

 こうして勇敢な賢いお姫様は、まずは少しだけ、焚き火の七人(トルチャ・シエテ)の心の扉を開いてみせました。



 白雪姫(ブラネージュ)の身の上話を聞いた焚き火の七人(トルチャ・シエテ)は、もうすっかりこの可哀そうな女の子に同情しておりました。

 ひとつ目(エン・オリオ)先生(サヴァン)は黙って話を聞いておりましたが、やがて立ち上がりますと、目に涙さえ浮かべて姫を抱き締めました。

「もう心配はいらんよ、お姫様。ずっとここにおればいい。ここの連中は見目は(まず)いが、みな親切だから、お前さんに辛く当たる者はおらんよ。だから悲しいことは忘れて、わしらと楽しく暮らすといい」

先生が言ったので、残る六人も口々に、一緒に暮らすように言いました。

 白雪姫は女の子(フィーユ)だから、お料理と糸紡(いとつむ)ぎができるでしょう。白雪姫がここに住めば、七人ももっと暮らし良くなるでしょう。


 リトル・ジョンが喜んで言いました。

「みんな、町暮らしが嫌で集まった口だ。そりゃあ森の中はお城と同じって訳にゃいかないが、なあに、住めば都ってなもんさ」

(リーレ)がある。踊り(バイレ)がある」

と声を上げたのは鼻欠け。

雨露(あめつゆ)をしのぐにゃ、見捨てられた古い教会(イグレシア)がある。後は酒がありゃあ言うことなし。何より仲間がいる。これ以上、何を望むってんだ?」

そう言うと●●●者(カジモド)達は肩を組んで、体を揺すって歌い出しました、


 サヴァンも笑って、白雪姫の肩を叩きました。

「ここには幸せ(フェリーシ)がある。●●●者(わしら)が町では見つけられなんだ、幸せ(フェリーシ)がここにはあるのじゃよ」



 ところがです。


 白雪姫はこの気のいい連中をぐるりと見回すと、ふんと鼻で笑って、罰当たりにもこんなことを言ったのです。

幸せですって(フェリーシ)? あんた達は、こんな暮らしで満足していて、幸せ(フェリーシ)だって言うの?」




 ***********************************


 ●●●者(カジモド)達の歌が止みました。()き火の七人は用心深く白雪姫を見ました。

「何て言ったんだ?」


 今だ、と白雪姫(ブラネージュ)は思いました。


 飛んできた鳥を捕まえるように、この時を捕まえなくちゃならない。巧くやってのけなくちゃならない。この連中を舞台に上げて、踊らせて、しっかり心に(クネロ)を打ち込んでやるには。さあ、心して掛からなくちゃならないぞ、と。

「だって、そうでしょう。そりゃ、町にいた頃と比べたら、ここでの暮らしは幾らかましでしょう。けれど、町で一番貧しい男だって、あんた達ほど惨めじゃない」


 「こんな森の奥に追っ払われて、木の実を集めて暮らしていて、それを幸せ(フェリーシ)と言っていて満足なのかしら?」


 「もう口を利くんじゃないよ、お嬢さん(ダミナーレ)


 ()き火の七人は怒り出しました。

「お前は、俺達がここに逃げ込むまで、どんな辛い目に遭ってきたか、ちっとも知らないじゃないか。そりゃ、あんたは確かに可哀そうなお姫様だろうさ」

●●●者(カジモド)達は腹を立て、親切の気持ちをすっかりなくしてしまいました。

「けれども、お前さんは食うに困ったこともなけりゃあ、寒さに震えたこともない。お前さんは、本当に辛いことを何ひとつ知らないくせに、よくもそんな口が利けたもんだ」


 焚き火の七人(トルチャ・シエテ)はこの恩知らずな娘を、今にも暗い森に叩き出さんだかりでした。



 けれども白雪姫(ブラネージュ)は、平気な顔をしておりました。



 さあ、お前は背中をしゃんとして、しっかり(きも)を据えないといけないぞ。飛んできた鳥を捕まえろ、舞台に上げて踊らせろ。白雪姫は立ち上がると、七人の険しい目つきを跳ね除け、逆に(にら)みつけました。

「ああ、私は知らない。あんた達が遭ってきたという、辛い目なんて、ちっとも知りはしない」


 「けれども、私は知っている――……●●●者(あんた)達が幸せ(フェリーシ)と呼んでいるものなんて、たかが人並みの暮らしにも及ばないってことを。一国の王女(プリンツェスィン)に生まれる幸せ(フェリーシ)は、よその●●●者(カジモド)よりましってくらいのものでは、ないことを」


 焚き火の七人(トルチャ・シエテ)は、お姫様の堂々とした振る舞いに驚いて、腹を立てていたのを忘れ、話に聞き入りました。白雪姫(ブラネージュ)は首尾よく舞台を支配したことに、満足しながら続けました。

「そなたらは、不幸せの泉にとっぷり浸かって、心まで●●●(カジモド)になりかかっているのだ。私は違う。私は諦めない。私は本物の王女(プリンツェスィン)の喜びを、私を見下した者どもに、全て報いを与えることを諦めない」


 「けれども、私の望みを叶えるのは、私一人の力では足りないのだ」


 姫がずいと踏み出したので、()き火の七人は、慌てて後ろに下がらねばならず、太っちょのビッグ・ジョンなどは尻もちをつきました。白雪姫は声高く言います。

「私は報いる――……」

 

 「私は必ず報いる。仇には仇(ベンデ・レ・ベンデ)恩には恩(ベネフ・レ・ベネフ)で。私はそなたらの助けが欲しい。私はそなたらを梯子(はしご)の下まで連れて行こう。しくじったら奈落の底(アビス)まで真っ逆様だけど、登り詰めればお月様(セレイネ)にも手が届く」


 そう言って、()き火の七人を見据えた白雪姫の、掛け値なしの王女の威厳(いげん)を見て、●●●者(カジモド)達は王様の前に引き出されたような気持ちで、(おそ)れにぶるぶる震えるしかありません。

「さあ、選びなさい。このまま一生鼠みたいに森を這い回り、凍えて(みじ)めに死んでいくか、それとも、今の小さな幸せ(フェリーシ)をそっくり失う覚悟で賭けて、そなたらには望むべくもない高みを目指して、私についてくるか」



 白雪姫が口上を(しま)うと、●●●者(カジモド)達は静まり返り、焚き火(トルチャ)にくべた枝がぱちぱち鳴って、八つの影を無気味に揺らしました。七人の●●●者(カジモド)達は顔を見合わせて、ばかのハンス(トプシーテ)さえ、神妙な顔で押し黙っているのでした。


 誰も何も言えずに、長いこと立ちました。


 すると出し抜けに、先生(サヴァン)が笑い出しました。仲間達がぽかんとしているのを尻目に、サヴァンはお腹の底から、さも愉快そうに笑いました。

「気に入った!」

サヴァンは叫びました。

「まったくもって、気に入りましたぞ、お姫様(プリンツェスィン)。あんた様はまったく、たいしたお人、(おそ)れ多いお人ですわい!」

残りの者達も、サヴァンと同じ気持ちでした。()き火の七人は、もうすっかりこの●●●者(カジモド)のお姫様に、心の内に入り込まれておりました。



 こうして白雪姫は、七人の小人と仲良くなり、一緒に暮らすことになりました。




次のお話は【幻想編(パンタシア)】の第2話。

物語は【現実編(レアレテ)】と【幻想編(パンタシア)】を交互に繰り返します。


挿絵(By みてみん)

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