67.【下巻/サイド・レアレテ】白雪姫ト暗イ森
るああ。さあ、復讐劇の幕が上がるよ――……
勇ましく賢いお姫様は、自らの運命をその手で切り開く。それはそれなりに、現実的な物語だ。むかーしむかし、あるところに――……
雪のように白く、血のように赤い、●●●者のお姫様がおりました――……
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森の住み人、夜の住み人。月の道を歩いてくるよ。
坊やはお家へお帰りなさい。
さて、白雪姫は森の奥へ奥へ歩いていると、やがて日も暮れ、薄暗い森はますます真っ暗に沈んでいきました。
けれども姫は、ちっとも怖くはありませんでした。
白雪姫は森に住むという小人やお化けの話なんて、ちっとも信じておりませんでしたし、もしそんなものが本当にいたとしても、白雪姫の顔を見ればあっちが逃げ出すか、さもなくば仲間と思うかのどちらかだろうと、鼻で笑っておりました。
姫が心配しているのは、狼だのに出くわすことの方でした。
森の動物達ならば、食べ物の見た目に贅沢は言いますまい。そこで白雪姫は、よじ登れそうな木の上か、潜り込めそうな洞で夜を明かそうと、探しながら歩いておりました。
白雪姫は幸運でした。今までの不幸の分、幸運を取り分けておいたかのようでした。とうとう日が沈み、森が夜に沈む頃、姫は行く手に小さな焚き火の明かりを見つけたのです。
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ですが賢いお姫様は、喜んで一目散に駈け出したりはしませんでした。
なぜって、こんな森の奥で焚き火を囲んでいるのは、ならず者か人殺しか、いずれ世を憚る身に決まっています。そういう連中ときたら、人が指に嵌めている指輪を盗むのに、手首ごと斧で切り落とすような輩なのです。
ですから白雪姫は、相手に見つからないよう、用心して近づくことにしました。
少し近づくと、焚き火の周りに人がいるのが見えました。もう少し近づくと、どうやら人影が七つ数えられました。白雪姫はとても用心していたので、焚き火の七人に見つからずに、向こうの顔が判るほど近づくことができました。白雪姫は焚き火の七人の顔を見ると、これなら姿を見せても大丈夫だろうと思いました。
焚き火の七人は、誰も彼も、白雪姫と同じ●●●者だったのです。
ブラネージュは考えました。
弱い者は、弱い者と身を寄せ合う。だから、自分達と“異なる者”には心を閉ざすけれど、自分達と“同じ者”には心を許す。もし町から来た者が、連中の姿を見れば命はないが、町を追われた者なら、彼らは焚き火の前に座らせるだろう。
もし訪れた者が、自分達と同じ●●●者ならば……
そこで白雪姫は、この●●●者達の前に、歩み出ることに決めました。
枯れ枝の踏み折られる音に、焚き火の七人は一斉に振り向き、ばね仕掛けのように立ち上がりました。その恐ろしい面相は、見た者に悲鳴を上げさせるのに少しも不足はありませんでしたが、白雪姫には鏡を見ているのと変わりはありません。
七人は突然の来客が自分達と同じ●●●者の娘と見ると、少し肩の力を抜きましたが、まだ用心した目で白雪姫を睨んでおりました。
そこで白雪姫は心の内の不安をおくびにも出さず、刺すような視線を浴びながら、舞台役者のように堂々と焚き火の前へ歩み出ますと、七人をぐるり見渡すと、スカートの端をついと持ち上げてお辞儀をしました。
「仮面舞踏会は、こちらで宜しかったのかしら?」
●●●者達はこれを聞いて呆気に取られましたが、すぐに錆びた鋸を引くような笑いが弾けました。笑いが治まると、一番年嵩の、この一座の団長らしき男が、膝を叩きながら言いました。
「いかにも、いかにも。お嬢さん、わしらの仮装もたいしたもんだが、あんたもどうして見事なもんだ!」
こうして賢いお姫様は、七人の●●●者の心を捉え、暖かな焚き火の前に居場所を占めることができました。
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白雪姫が火の前に腰を落ち着けると、年嵩の男が隣に座り、温かい食べ物を差し出しました。この男ときたら、白雪姫にも劣らない物凄い●●●で、背中は●●●で曲がっている上、ひとつ目で左目のあるべきところは肉で埋まっておりました。
「まずはお食べ。それで人心地着いたら、無理にとは言わんが、良ければこんな夜更けにこんな森の奥、あんたみたいな娘さんがどうしたのか、この年寄りに話してはくれんかね?」
“あんたみたいな”、がどういう意味かはさておき、白雪姫はこの人の良さそうな男に、できるだけ哀れっぽく訴えました。
「あなたがたも御存じでしょうが、町の人達は●●●者に優しくはありません。私も日々の辛さに堪えかねて、森へ逃げてはみたものの、すっかり日も暮れ、心細く途方に暮れていたところ明かりが見え、藁にも縋る思いで参ったのです」
白雪姫が涙のひとつも浮かべると、七人はすっかり話を信じて、同情でいっぱいの顔をしたので、姫は笑い出すのを堪えねばなりませんでした。
ひとつ目の男は、長く伸ばした顎髭を摩り摩りしながら言いました。
「それは辛かったじゃろうな。じゃが、ダミナーレ、もうちっとも心配はいらないよ。ここにいる者達は、誰も同じ苦しみを知っておるでな。今夜はここで眠るがいいし、お前さんさえよければ、ずっとここにいてもいいのじゃよ」
ひとつ目男が仲間達を見やると、誰も彼も口々に、白雪姫にここで暮らすよう勧めました。
仲間の賛同を得て喜び、ひとつ目の男は姫の肩を叩きました。
「ここの連中は、町で見世物やら物乞いやらになっとったのが、一人、二人と類が友を呼び、今ではそれぞれが仕事を分担しながら、一緒に暮らしておるんじゃな」
「憚りながら、わしはちいとばかり薬草学を心得ておってな。森に生えておるものなら、たいてい役に立つようにできる。だもんで、ここの連中は先生などと呼んでくれとるが、本当の名前も忘れたよって、お嬢さんもそう呼んでおくれね」
う言って先生が足元の草をちぎって、焚き火に放り込むと、嗅いだこともない不思議な、けれども素晴らしい香りが辺りに漂いました。
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さて、お次は俺だとばかり罷り出ましたる男――この男は顔が炙った蝋燭のようで、鼻がなく、手と足にぼろ布が巻いてありました。
「よう。俺はここじゃあ“鼻欠け”って呼ばれてる。ご覧の通り、梅毒さ。だから嬢ちゃん、この通りの色男だが、間違っても俺と寝ようなんて考えちゃいけない。俺ァ体の先っぽから、どんどん蝋燭みたいに溶けてって――」
「終いにゃ、こいつみてえにちっちゃくなっちまうのさ」
そう言って鼻欠けが肘で突いたのは、背丈が子どもくらいしかない小人でした。男は子どもの体に大人の頭が乗っていて、目のぎょろりとした鼠みたいな顔で、笑い声もやっぱり鼠に似ているのでした。
「きっきっ、そうさ、今に俺様よりちっちゃくなりやがれ、この間抜け! やあやあ、お嬢さん。俺は小っちゃなジョンだ。体は小さいけど、腕っぷしには自信があってね。鼻欠けと太っちょのジョンと一緒に、鉱山掘りをやってんだ。俺は小せえから、誰より深く坑道に潜ってけんだよ」
「そうそう、ビッグ・ジョンってなあ、そこのでっかい奴さ」
今度の●●●者は、白雪姫の三人分、リトル・ジョンの五人分はあろうかという、でぶの大男でした。ビッグ・ジョンはまるでまん丸の肉団子のようで、だぶだぶの顔を真っ赤にして、姫に向かって頻りに唾を飛ばしました。
「お、お、おれの、な、名前、じょじょお――……」
「ビッグ・ジョンはひどい吃音なんだよ」
鼻欠けが口を挟みます。
「だから、あんまり口を利きたがらないんだけど、いい奴だし、歌が上手いんだ。不思議なもんで、歌う時は何でか●●りゃしねえ。すらすら歌うんだなあ」
「はあーい、ほおおう!」
ビッグ・ジョンが出し抜けに大声を張り上げ、鼻欠けとリトル・ジョンがにやりと顔を見合わせて、木切れを叩き、酒瓶を鳴らし、足踏みをして調子を取りました。
掘れよ、掘れよ、俺達の鉱山。掘れよ、掘れよ、朝から晩まで。
百万のルビー、千万のダイアモンド。
いつになったら出てくるか、そいつは俺達にも判らねえ。
本当に埋まっているのやら、運を天に任せて掘り続けるのさ!
掘れよ、掘れよ、俺達の鉱山。はああーい、ほおーおう!
●●●者達の歌を聞き、ビッグ・ジョンが素晴らしい声をしていると知り、白雪姫は哀れに思いました。いっそみっともない姿に相応しく、ひき蛙のような声なら良かったのに。あの見事な歌声は、体の不出来を引き立てて、黙っているより酷く見える。
若い連中が手拍子足拍子で歌うのに、合わせるには年寄りで、父親のようにひとつの目を細める先生は、更なる仲間を姫に引き合わせます。
この次の仲間と言いますのが、先の三人には片方の眉さえ上げなかった白雪姫でも、思わずあっと叫びそうになるような、恐ろしい●●●者であったのです……




