表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/162

64.【上巻】白雪姫ト悪イ魔女

挿絵(By みてみん)

【まっくろくらいの白雪姫・上巻(4/6)】

 誰も知らない、戸を叩くまで。扉を叩いた、その手はだあれ?

 とんとんとん、“幸せ”かしら(だーあれ)? とんとんとん、“不幸せ”なの(だーあれ)



 騒動の幕開けは、白雪姫(ブラネージュ)の寝所の前が舞台でした。

 白雪姫の猫、片前足のない黒猫(ネーロ・カッツェ)が、姫の寝所の扉に(はりつけ)にされたのです。


 可哀そうな黒猫(カッツェ)を見つけたのは、姫の朝の支度(したく)のためにやって来た侍女でした。運の悪い侍女(カメリエラ)は、死んだ猫を見た途端ひっくり返り、頭に大きなこぶをこさえてしまいました。

 猫は胴を断たれ、お腹の中身を(ほど)けたリボンようにぶら下げて、噛みつこうとするように歯を()いたまま、手首を釘で扉板に打ち付けられておりました。そして、片方の目玉(オリオ)(えぐ)られておりました。


 けれども、侍女を人事不省にしたのは、猫のむごい死に様ばかりではありませんでした。あろうことか、扉に猫の血で(まじな)いの印が描かれてあったのです。



 城の人々は驚くやら怖れるやら。むかしむかし(アルタ・パサド・)のあるところ(アルタ・ルオーゴ)では、呪い(パドレア)は向けられた者に不幸(ミザリー)を、ことによれば死をさえ招くと、信じられておりました。

 白雪姫は●●●者(カジモド)と言えど、この国の王女(プリンツェスィン)。姫へ(まじな)いを掛ける、ということは、姫に刃で切りつけるのと同じこと。



 それは王家への反逆(トラディーオ)に他ならなかったのです。




 ***********************************


 さて、その夜、夕餉(ゆうげ)の席でのこと。


 王様(ロワ)は白雪姫を好いてはおりませんでしたし、料理番(コシネッロ)給仕役(カマレーロ)も姫を(さげす)み、お后(レジナ)も姫が傍らに居ては心地が良くありませんでしたが、今朝の恐ろしい出来事のために、みな少しなりと白雪姫を気遣わしく思い、重苦しい時を過ごしておりました。


 沈黙は前触れもなく、(ポルコ)のような叫びに破られました。


 心臓が喉までせり上がり、振り向いた途端、お(きさき)は悲鳴を上げ、王様さえ驚きの声を漏らしました、それは、驚きと恐怖に、真ん丸に開かれた白雪姫の口、舌の上に――


 目の玉(オリオ)が乗っかっていたからでした。


 それは翡翠の緑の目ジェード・ヴェダ・オリオ(えぐ)られていたカッツェの目の玉でした。白雪姫が吐き出した猫の目は、スープ皿にぷかぷか浮かんで、テーブルの一同を見返しておりました。まるで、「僕はどこにいるんだろう?」と不思議がっているようでした。

 白雪姫はじっとスープの目玉を見つめていたかと思うと、雪の白い顔(ブラン・ネージュ)からなおのこと血の気(ルータ・サン)が失せ、椅子から転げ落ちてしまいました。

 けれども白雪姫は、絨毯(じゅうたん)に伏せて気を失う前に、居合わせた誰もが心から震え上がる言葉を口にしておりました。



 「魔女(ウィケッド)の仕業……」と――……




 ***********************************


 (とこ)()せた白雪姫の下には、お城の人々(サバント)が、次から次に見舞いに来ました。お城の人々が白雪姫を好いていないとは言え、あの呪われた悪魔の情婦(ラマーネ)である魔女(ウィケッド)を前にすれば、●●●者(カジモド)とて立派な国教会(レギリーオ)の徒でした。


 ●●●者(カジモド)は忌まわしいだけ(・・)でしたが、魔女は忌まわしい()なのです。


 白雪姫が生まれてから今まで誰一人姫のために祈ったことはありませんでしたが、今は誰もが姫の(そしてその十倍も自分達の)身を案じておりました。


 白雪姫(ブラネージュ)は雪の肌もなお青白く、結んだ●●●●の唇ばかり赤く、怯えて力ない様子でした。そして部屋に来た人々に、必ず――

「ああ。こんなに恐ろしいことは、今まで(・・・)起きたことがない」

そう嘆いて聞かせるのでした。



 白雪姫の身を襲った不吉は、本当に魔女(ウィケッド)の仕業かもしれない。



 お城では、上は大臣(ミネスト)隊長(カピタン)、下は女中(セルバンジェ)馬飼い(バケーロ)まで、それはもうカオリンチュの尻を蹴飛ばしたような大騒ぎで、口さがない噂が、至るところでひそひそ交わされておりました。


 あれは、本当に魔女(ウィケッド)の仕業だろうか?

 侍女(カメリエラ)「そうに決まっているわ」

 では、いったい誰が魔女(ウィケッド)なのだろう?

 大臣(ミネスト)「誰ぞが、姫様と王家に(あだ)をなせと、命じておるのやもしれませんぞ」

 では、いったい誰の差し金だろう?

 隊長(カピタン)「それは我が国の領地を狙う、他国の王(アルタ・ロワ)に決まっておる」

 姫様は、こんなに恐ろしいことは、今まで(・・・)起きたことがないと言う。

 牢番(ドーダ)「へえ、それは確かです。こんなこと、今まで聞いたこともない……」


 では、誰が来てから(どうして)、こんなことが起きるようになったのか?


 その時、指先に刺さった小さな棘(エピヌ)のように、人々の心に刺さった小さな棘(エピヌ)、白雪姫がいつかさりげなく打った(クネロ)が、みんなの胸をちくりと刺しました。



 お后様(レジナ)は、魔女(ウィケッド)かもしれない――……




 ***********************************


 お后(レジナ)はお城の中で、不意に吹いた北風(魔女(ウィケッド)はお前だ)に気づきました。



 お城の人々(サバント)は、うわべこそ(うやうや)しくも、今までのようにお后に優しく、親切にしてくれなく(魔女(ウィケッド)はお前だ)なりました。そればかりか、お后の部屋から(マ女(・・)お前(・・)ダ)品物がなくなったり、知らないうちに壊れていたり、下女達(セルバンジェ)の(おマエ(・・・)ダ)陰口が聞こえてきたりしました。

 誰からも愛され、(たたえ)えられることが(オマえ(・・・)が)当り前だったレジナは戸惑い、怯え、まるで冬の寒空に扉を閉ざされた気持ちでした。誰の目にも疑い((カッツェ)を殺シタ)と怖れがあり、お后はいつでも、幾つもの(白ユキ姫(・・・・)の猫)目に見張られているように思え(……異端(レティク))ました。


 やがて(イ端者(ヘレティク)……)お后は、会う人がみな、口々に自分(マじょ(・・・)!)のあらぬ告発していると信じる(マ女(・・)!)ようになりました。程なく声は、一人っきりの時(魔ジョ(ウィケッド)!)にも、誰もいない部屋でも(魔ジョ(ウィケッド)ハオ前ダ!)聞こえるようになりました。



 ある朝、レジナが広間に行くと、そこにいる人々はみな、あの恐ろしい白雪姫の顔をしておりました。そしてたくさんの白雪姫は一斉に振り向くと、翡翠(ひすい)の緑色の目と血の赤色の目で、お后を指差して叫び出したのです。


 マジョ(ウィケッド)ハオマエダ――

 十字架(クロッツェ)を持て、松明(トルチャ)を掲げよ――


 魔女(ウィケッド)は、異端者(ヘレティク)火炙(ひあぶ)り――……



 お后は悲鳴を上げ続け、倒れ、とうとう心を壊してしまいました。



 蜂蜜のような髪は枯れ、エメラルドの瞳は(くも)り、林檎のような頬もやせ衰え、木漏れ日の微笑は雲に隠されたように、お后の美しさは失われました。お后は人を怖れるようになり、祖国から仕える侍女(カメリエラ)の他の者が近づくと、泣いて部屋の隅に(うずくま)りました。


 レジナは寝所に閉じこもり、父上の王様からの婚礼祝いの品、黄金の鏡(オウロ・ミラ)に向かって()り言をするばかりでした。この鏡は偽りを映さず真実を映す、魔法の(ミラ)と伝えられており、女達が映った自分の姿を真実と信じないことから、“信じずの鏡”と呼ばれておりました。

(ミラ)よ、(ミラ)。この世で一番恐ろしい(・・・・)のは誰か」

お后様(レジナ)魔女(ウィケッド)のそなたは恐ろしい』



 『けれども白雪姫(ブラネージュ)は、その千倍も恐ろしい――……』




 ***********************************


 さて、継母(ままはは)の様子を見ていた白雪姫(ブラネージュ)は、ふと目論(もくろ)みの端っこがほつれているのではないか、と気掛かりになりました。


 さてさて、あの間抜けがこうも早く目を回すとは、どうにも見当違い……そしてブラネージュはふと気づきました。お城の人々の心に打ち込んで、思うように仕向けた言葉の楔(クネロ)



 たった一人、打ち忘れていた相手がいたことに……




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ