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53.番外・パイロ、愚者の黄金(2)

挿絵(By みてみん)

【“カランポーのはぐれ狼(11/11話)】

 カランポーの眠りを覚ます、狼王。

 たったひと()えで夜も眠れず、なんてねェ――……



 人間様ァ(トサカ)にきてなさるが、群れの連中は腹が(ふく)れるようになって万々歳で。そうなりゃあ現金なもんで、初めからこうしてりゃあ良かったァなんて、御頭(おかしら)の苦労も知らずに無責任なもんでねェ。


 御大(おんだい)、少々御髪(おぐし)に白いモンが増えておられやしたなァ。


 一度なんざ(くだん)の弟さん、ひょっこりこっそり戻ってこられて、御頭(おかしら)に忠言のひとつも(てい)して行かれたようだが――……


 群れァもう、後戻りのできねえとこまで来ておりやしたんで。



 え、そりゃあ全部アタシの描いた絵だったんじゃねえかってェ?



 お前さん、そいつァ買い被りですや。アタシなんざ所詮の小物、何の絵が描けましょうや? 描いたところで絵に描いた餅、大物()かして盤の差し手(・・・・・)気取る器じゃござんせんや。



 アタシのしたことと言やァ、ただ坂の上の石ころチョンと突いただけのこと。どこをどう転がっていくかなんざ、知る(よし)もねえ。ただじぃッと転がる先ィ見てるしかねえんで。ホント……



 悔やんでも悔やみ(・・・・・・・・)切れませんやな(・・・・・・・)




 ***********************************


 ロボの御頭(おかしら)ァ、伊達(だて)魔獣(ベスティエ)呼ばわりされてねェ、神出鬼没で用心深く、いかな人間様たってぇ、そう易々(やすやす)とふん(じば)れる相手じゃねえのさ。怖いネェ。


 けど、怖いのは身内にも言えるこって。


 狼王(ロボ)が率いてンだ、御頭(おかしら)に従ってりゃ滅多なこたァねえ、って裏ッ返しゃあ、誰に御頭(おかしら)に逆らう度胸がありますかッてハナシよゥ。従いやすよ、怖えんだもン。


 ただの一匹、別にしてねえ。


 何のこたァねえ、他ならぬ奥方でござんすよゥ。()れた弱みってェ奴なんでしょうかねえ? 男女の仲っての(オンとメンのこと)は、アタシみてぇな朴念仁(ぼくねんじん)にゃピンと来ねえが、ま、カランポーの魔獣ともあろォ御方が、女房様にゃあちいと甘え顔、なんて聞きゃあ微笑(ほほえ)ましいたァ思いやせんか。



 ところがこいつが裏目ンに出たねェ。



 手下(てか)ン中にゃ御頭(おかしら)の言いつけに(そむ)く奴ァいねえ。ンなことしてみなせェ、こッ(ぴど)い目に遭わされまさァ。ところが奥方ァ話が別よゥ。

 (くだん)の“百匹”ん時だって、奥方一緒だったんでアタシもお叱りで済んだんだ。


 てなもんで、奥方ァ時々勝手をなさる。御頭(おかしら)も苦え顔するばかりでね。

 その日も奥方、御頭(おかしら)に断りもなくプイと出掛けて――



 人間の罠に掛かっちまったンだ。



 御頭(おかしら)がついてりゃあ、いやさ、御頭(おかしら)の言いつけ聞いてりゃあ、罠になんざ掛かりゃあしなかったろうに。


 それで御頭(おかしら)ァどうしたって?

 いやはや、あんな御頭(おかしら)、初めて見たねェ。


 奥方様が捕まったって聞いて、御頭(おかしら)ァ取り乱しましてねぇ。まさか大胆不敵の御大(おんだい)が、って群れの連中も吃驚仰天(びっくりぎょうてん)さァ。

 まァね、昔ッから英雄が身ィ滅ぼすなァ、色と相場が決まっておりやして、御頭(おかしら)も御多分に漏れなかったんでございますな。群れェおッ放り出して、半狂乱で奥方探し回ったァ挙句(あげく)――


 とうとう御頭(おかしら)までとッ捕まっちまったんでございます。



 これがカランポーの魔獣、稀代(きたい)の狼王、ロボの最期なんでございますよ。



 ()れた女ァ助けに行って、討ち死にされちまうなんざ、あんまり芝居掛かってるもんだから、群れの連中もポカーンとしちまってね。こう、作り事みてえで実感が湧かねえんでござんすな。


 まあ、そう言って御頭(おかしら)ァいねえワケでね。(ボス)がいねえじゃ群れが立ちいかない(ハナシにならねえ)。仕方ねえってンで役ゥ振られたのが――


 (はばか)りながら、アタシってワケで。



 ***********************************


 何のこたァねえ。年の功とちぃとぱかし小知恵が回るッてんで、面倒事ォ押し付けられた塩梅(あんばい)でね。それでも、まァ、正直嬉しくねえこともなかったんで……最初の内は、ねェ?


 やって理解(わか)った身に染みた。群れのボスってェのは、やってくれるッて御方にお任せすンのが一番だってねェ。

 いやはや、聞いて極楽生き地獄、ボスってなァ傍目(はため)で見てるほど結構なもんじゃござんせんぜ。責任だァ何だ、乗ッ掛かってくるモンばっか重くって、いざとなったら命懸け、返ってくるって言やァ尊敬だ信頼だ、屁の突っ張りにもならねえもんばっかで。腹も(ふく)れねェや。


 群れの食い扶持(ぶち)も、ましてや仲間の命も、そうそう抱え切れるもんじゃねえ。それを抱え切って当然、取り落とすと文句が出てくんのがボスなんで。アタシゃ器じゃなかったんだねえ。思い知ったというワケさァ。


 それで気づいたンだ。


 アタシゃ転がってく石ころの先ィ見たかったんで、手前が石ころになりたかったんかじゃなかったんだって、ネ。


 と、ここまでが先だってのオハナシだ。




 ***********************************


 こっからが今日のオハナシでね。


 ボスだ御頭(おかしら)だと担ぎ上げられてまだ日もねえんだが、アタシゃもうすっかり嫌ンなっちまッてましてねェ。いやさ、そうじゃなくッてね……

 大変なァ大変だ、辛ェのも辛い。けどネ、アタシゃ何より飽きちまッたンでさ。思ったより面白くなかったンで。ロボの御頭(おかしら)、よくもまァこんな面白くも可笑(おか)しくもねえの、真面目にやってらしたや。

 それでねェ、もうヤメちまおうかな。誰かに押し付けちまうか、群れェおっ放り出してやろうかしらん、なんてね、一匹で森ィ歩いてたんで。



 するってェと、誰に会ったと思いやす?

 それが奥方様なんで。



 そりゃあもォ、驚くの驚かねえの。

 腰ィ抜かして、お助け、迷わず成仏(じょうぶつ)ッ、てなもんで。


 でもまあ、気ィ取り直して脚ィ数えてみりゃあ、 ひいふう(エン、トゥエ、)みのよの(ウルア、クアル)、ちゃんと四本揃ってござる。何をどうやったか知らねえが、奥方、人間様ンとこから生きて戻ってらしたんで。

 口ィあんぐり開けてると、こっちゃあ陰になっていたからか、奥方様ァアタシに気づかず通り過ぎていちっまった。けど、アタシは気づきましたネェ。


 奥方様、腹にお仔がいらっしゃる。



 嬉しかったネエ。すぅーっと気持ちが軽くなりましたよゥ。


 奥方ァ身持ちが固え。奥方様の腹にお仔がいるなら、御頭(おかしら)のタネに間違いねェ。御頭(おかしら)ァ跡目をちゃあんと遺していかれたんで、こんな嬉しいことはねェや。アタシも群れに不義理せず、御役御免に(あずか)れやすからね。

 本当なら、ボスの座ァ奥方にお返ししてネ、二代目後見して差し上げんのが筋かとも存じますがね、やっぱり草臥(くたび)れちまってね。新しい石の転がる先、見てみてェ気もするが、このまま楽隠居(らくいんきょ)決め込んじまおうかッてね。


 ですからね、御親切は有難(ありがえ)えが――……




 ***********************************


 ……――その肉ゥ、知ってて食おうとしてましたんで。



 人間様の置いたモノだとね。ま、そういうこッてございます――



 これがこの世の食い納め、いやさ浮世の悔い納め。止めて下すったアンタの御親切、一生恩に着ると言いてェところだが、生憎(あいにく)幾らも残っちゃいませんや。

 吝嗇(ケチ)な野郎の()(ごと)世迷(よま)(ごと)、これを最期の仕舞(しま)(ごと)、お付き合い頂きまことにありがとうござんす。それじゃア、これにて――……



 御免なすって――……



 (次ァ何処の“世界(オルト)”へ行きやしょうかねェ――……)




 ***********************************


Pyro[パイロ]:

「火の」、もしくは「熱の」の意


Pyrite[パイライト]:

黄鉄鉱。ハンマーで叩くと火花が散る性質から、ギリシャ語で「火」を現す“Pyr”に由来する。

真鍮(しんちゅう)色をしているところから黄金と間違われることがあり、別名“愚者の黄金”とも呼ばれるが、所詮は価値のない紛い物でしかない。

                            挿絵(By みてみん)

                   ~“番外・パイロ、愚者の黄金”・完~

【次章“月下の傭兵”】


荒くれ者だがどこか憎めない男、“荒獅子”ユージン・ヴァンダルハーツ。大酒飲みの傭兵が、ここしばらく酒を断っている、その理由とは……


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] なんで、こいつら、イチイチこんなにハードボイルドなんだよ・・・・・・。 かっこよかったです!!
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