表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/162

37.イマジカ・オー・セラド~“封鎖区”の“世界観”~

挿絵(By みてみん)

【“封鎖区~破局の因子~”(7/10話)】

 柄を握る桜花(カタナ)の、“切る”の概念が変わった……ような気がした。



 判らないままに――“ある”と思えば“ある” ――桜花(おうか)を切り上げる。むろん、刃の軌跡は彼我(ひが)の空間を過ぎるが――“切る”と思えば“切れる” ――“生きた闇”の胴部分が裂け、緋色ならぬ漆黒の花が咲く。

「……――ああ、なるほど」

「るああ! っしゃあッ、ユーマあ!」

やはり“世界観”の法則と同種の力だ。扱い方が似ている。


 鳥が渡り、蜘蛛が巣を張るように、“切れないモノ”の切り方は本能的に、『言葉』ではなく『心』で理解できたッ!


 だが、“その子”も悠長にしていない。黒く濡れたような腕が瘴気(しょうき)()いて、振り下ろされる手が握るのは――

曲刀(スパーダ)……ッ?!」

無造作な一撃を、桜花(おうか)で受け止める。ブーツが祭壇(さいだん)を踏み砕き、(すね)まで瓦礫(がれき)に埋め込まれる。


 見上げれば、“生きた闇”が泥人形のように形を変えていた。


 元の数倍もの巨体で俺を見下ろすのは、“コワイオカアサン”、闇で(かたど)られた黒い女神は、更に絶望も深く濃い。

 響いた剣戟(けんげき)は金属同士の音ではなかった。“闇の子”の曲刀が物理的(・・・)なものだったなら、反転した桜花(・・・・・・)では受けられなかったかもしれない。そう思い至ると、背中にどっと冷汗が噴き出る。



 と、微かな安堵を引き裂いて――

「きィいやああアアああァァあああッッッ――!!」

「……うあッ?!」

漆黒のカリイの口から、魂のちぎれるような叫びが(ほとばし)った。これは、前庭の巨人(ヒガンテ)束縛の叫び(バインド・ボイス)……!

 今更の小細工、即座に拘束を振り(ほど)いたが、それでも、もう片方の曲刀(スパーダ)を打ち下ろすには十分な隙が生まれる。


 「なーふ! “()みつけ、ティアティコの蛇”!」


 異世界監視人が背後から叫ぶや、文字通り連なる蛇体(セルペンテ)の如き小さな爆発が、闇のカリイの曲刀から手首、ぼぼぼぼっと肘から腕を吹き飛ばしながら、数珠繋(じゅずつな)ぎに駆け上ったと思うや――


 顔面でひとつに合わさり、眩いばかりの大爆炎(イクスパロテ)が咲いた。


 神殿遺跡の柱崩しや、広間で鬼女の曲刀を弾いた時とは比較にならない、俺なら消し飛んでしまうだろう大魔法(マジッカ)に、

助かったぜ(オーリ・アーチェ)、ルシウ。今のは凄かったな」

肩越しに振り向くと――……



 ……――ルシウは己が(てのひら)を見つめ、顔色を失くしていた。

「うーぷす……おかしい、魔法の威力があり過ぎる……」

少女を背に(かば)いつつ、鬼女から形を戻した“生きた闇”に、精神で刃を突き込む、その先に、聖母の硝子板(バリア)が光った。砕けるか――そう思うと同時に「やっちまった」に気づく。


 障壁(イスクト)に桜花を弾かれる。


 心で切るには迷い(・・)は禁物だ。疑いを差し挟んだ途端、“できない”と思えば“できない”、“砕けない”に性質が固定されてしまう。反動で二三歩退(さが)り、幼女が背に触れる。

「失敗した……で、そっちは何がどーした?」

ルシウは背中にぺたんと手を当て、煮え切らない口調で(うな)った。

「なーふ……さっきの魔法(マジッカ)なあ、咄嗟(とっさ)詠唱(ルーフェン)もテキトーだったんだが、どうもアタシ本来の力(・・・・・・・)に近いのが出てるんだ」

「いいんじゃないのか?」

「るああ。アタシ本来の力(・・・・・・・)、いこーる、“権限”(エルーカ)だぞ。もしかすると――……」



 「“封鎖区”とカルーシアとの境界線が、破れそうになってるかもしれねえ……?」




 ***********************************


 ここでもう一度、“封鎖区(セラド)”と“権限”(エルーカ)の話をしよう。


 “封鎖区(セラド)”とは、“世界(オルト)”と相容(あいい)れない異質な”世界観(イマジカ)”を持つ“異世界”(アルタ・オルト)で、通常なら異世界管理局(オルト・クストース)が魔術的に隔離し、管理下に置いている。


 “封鎖区”でも、“破局の因子”(エンデ・イマジカ)――“世界”自体を滅ぼす“可能性の世界観”――を持つものは、外側に“終焉(しゅうえん)”が波及する恐れがあるから、場合によっては“封鎖区”そのものを破棄する必要が生じる。


 この作業の助っ人が、異世界監視人・ルシウから俺への依頼だ。


 異世界監視人には、“世界(オルト)”を管理する“権限”(エルーカ)がある。少女の“管理する世界”では全能に近い“権限”だが、管理外の“封鎖区”で行使することはできない。


 ルシウが力を取り戻しつつあるということは――


 ルシウの“世界”(カルーシア)と“封鎖区(セラド)”の隔たりが、曖昧(あいまい)になりつつあるということ……?



 と、長い説明をしている間にも、“生きた闇”の弾けた腕、飛び散った闇が再凝集し、形を作り、巨大な手を伸ばして、心許(こころもと)ない足場を崩さんとする。

「あっちもこっちも、忙しいな! 聖母の障壁(イスクト)割れるか?」

「うーぷす。“射抜け、長腕のルーの石礫(いしつぶて)” “強撃のタスラム”!」

幾つもの光弾が小結界を打ち砕き、そのまま闇を刺し貫く。

「うーぷす……やっぱ魔力(マギカ)が変に強え。このまま“世界”間の隔離が破れちまったら、“生きた闇”(コイツ)が外に出ちまう……」

と、ルシウはちょこんと黒頭巾を(かし)げた。

「るああ、待てよ? そうなりゃ“権限”(エルーカ)が戻るんだから……それこそ一発で片がつくんじゃねーか……?」


 桜花の柄を両手で高く掲げ持ち、“切る”というイメージを研ぎ澄まして、

「どうするんだ、時間稼ぎすればいいのか?」

降りてくる闇の手を迎え討つ。

「るああ、待て、ちょっと待って……あれ? 発動した“破局の因子(エンデ・イマジカ)“権限”(エルーカ)はどっちが優先されんだ? 確か“監視人就業規定”に書いてあったよなあ……? ん、“安全教育読本”だっけ?」

相手の動きに逆らわず、刃を流して、闇を肘まで一気に(さば)く。

「資格取り消されろ。攻め込んだ方がいいのか?」

後ろで悩む黒頭巾の幼女、前で暴れる闇の幼児。


 始末の悪い幼稚園(キンダー・ガーデン)の、お次は粘土細工の時間のようだ。俺が作った“その子”の腕の裂け目に、(デンテ)が生じて(ザンナ)と成り、(ラング)まで形が出来て……骨肉を(きし)ませて作られていく、その形(・・・)には見覚えがある……

「ルシウ……早く決めて……」

「る、るああ。じ……時間稼ぎで!」

「かしこま!」




 ***********************************


 “闇の子”の右の腕が具現化した黒いドラゴン(ネーロ・ドラギオ)の頭が、灼熱のブレスと煙草の匂いを撃ち出した。神殿遺跡の本家より苛烈な火炎砲だが、桜花で縦横に切り払い、(しの)ぐ、(しの)ぐ、(しの)ぐ――


 と、炎を払っていたはずの刀身に、がくんと重みが加わった。

「く……」

吐き気が突き上げた。見るより先に、嗅覚で理解する。煉獄(れんごく)の炎から、身を焼きながら何体もの飢えた死者(グール)が這い出してきていた。セラドの“世界観”総浚(そうざら)えだ、いよいよ節操がなくなってきた。


 紫煙の匂いが、人の肉の焦げる異臭に変わったことに(ひる)むと――


 死者達(モルトウエ)は己の指が、(あご)が切れ落ちるも構わず、ひと塊になって桜花に取りつき、食いついて、

「しま……っ――……」

ついには俺の指からもぎ離して、そのまま雪崩を打って、唯一の足場から身を投げる。躊躇(ちゅうちょ)なく、桜花もろとも、何処とも知れない無明の虚空(エスクデオ)へと……

「ごめん、ルシウ。武器なくなった」

「るあっ?!」

丸腰で振り返る俺と、焦燥(しょうそう)したルシウが顔を見合わせる。


 何となく、お互いにちょっとだけ笑ってしまった。笑うしかなかった。これはこの土壇場(どたんば)に来て得物を失くした、だけのことじゃないんだ。



 天羽緋緋色“(アマハヒヒイロ“ア)荒神切”桜花(ラガミキリ”オウカ)――……


 東方七つ秘宝イスト・シエテ・バオルのひとつ、価値はひと振りで国が買えると聞いている。異世界監視人から預かり、命を預けた名刀だ。蛍の恋煩(こいわずら)い、身を焦がす片思いは承知ながら、この半日で、俺はこの刀に心底()れ込んでいたんだ。


 あ、ちゃんとルシウたんも好きですよ。


 しかしその桜花を、俺は取り返しのつない闇の底へ落としてしまった。ヤバい、喪失感が尋常(じんじょう)じゃない。“世界観”が折れそう。腹切って詫びようにも、その刀がねえって話だよ、クソめ。



 そんな頭上で、“闇の子”の片腕がドラゴンの尾と変じた。

 くッ、切腹している暇もないらしい。



 蛇か(むち)かと襲い掛かるのを――鬼女戦の曲刀(スパーダ)の時にも試みた覚えがあるが――黎明竜(れいめいりゅう)の革手袋で受け止めるべく、腰を落とし、奥歯を食いしばる。

「いけるか――……?」

「いけるか、ドアホ! “(かか)げよ、百人隊のスクテゥム”!」

突き出した(てのひら)の前に、光が円盾(シルト)(かたど)った。“ずどん”、打ち下ろされた衝撃を、肩で押し返す。

「なーふ! “回避”のコマンドも使え、このアホめ!」

「や、お前が後ろにいるし……気合でなんとかなるかなーって」

「なるか。日本人の悪いとこだぞ、それ。で、何だっけ……」



 「そうか、武器だな……」



 ルシウは拳をきゅうと丸めると、赤褐色の頬を関節でぐりぐりしていたが、やがて、不安と希望と迷いが綯交(ないま)ぜの、何とも言えない目で俺を見つめた。

「るああ。ユーマ、今から“権限”(エルーカ)で強力な武器を召喚(サマンス)してみる。けど、“権限”を使うんだから、この術式が成功しちまった時(・・・・・・)は、つまり、“封鎖区”とカルーシアの壁が、もう相当に薄いってことだ」


 「もし武器が召喚出来ちまったら(・・・・・・・)、その時には考えがある。ちょっと時間が欲しい。しばらく一人で(しの)げるか?」

「……やってみる(かしこま)

 

 ルシウは頷いて、平たい胸元で複雑な印(アルア)を組みながら、詠唱(ルーフェンを)を紡ぐ。相当高度な術式を動かしているようなのに、ルシウ自身の魔力も、周囲の空間への影響も全く感じられない。成功していないのか、それとも……


 ”世界(オルト)”の構文を当り前に(・・・・)支配する“権限”(エルーカ)。異世界監視人の権能が、もし発現したら、その瞬間こそ待ったなし、カウント・ダウンの号令だ。

「るああ……“ルシウ・コトレットの“権限”(エルーカ)()いて“世界(オルト)”に命じる”……」



 「……“我に与えよ、死せ(Deadman‘s )る剣聖帝の贖い”(Cllection)――……」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ