表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/162

24.ダミナーレ・エ・“フラグ”~銀色の少女と“恋愛要素“~

挿絵(By みてみん)

【“封鎖区~虚構の城~”(3/9話)】

 「なーに、惚れた(・・・)女のためだったら、腕の2本や3本惜しくねーさ」


 「るあ?」

 「うん?」


 あれ……今、何を言った、俺……?


 そうっと視線をルシウの方へ向けると、(まなじり)のやや上がった赤い瞳がまん丸に見開かれていた。

「る、るああ? ()れ……??」

顔から血の気が引いた。すぐに倍プッシュで上がって来た。

「い、いや! それは、その……アレだよ、うん!」

「うーぷす! そ、そーだよな! 判ってる、大丈夫!」

どっちも何を喋っているか判っていない。


 お互いむやみに慌てて、やがてルシウがぽつりと、

「るああ……嘘です、よく判りません……」

「ですよね……」

僕にもよく判りません。“封鎖区”で出会いを求めるのは間違っているんです。



 ルシウは両手をきゅうと握ると、しばらく顔を隠した。


 やがて手を外すと、かなり取り澄ました顔になっている。ただし銅色の頬は心なしかいつもより赤い。

「うーぷす。な、何だよー、お前、アタシのこと好きなのかよー?」

ルシウは腕組みして、にやっと笑い、上からマウントで来た。ただし声が若干上擦(うわず)りつつ、目がきょろきょろ踊っていては、成功しているとは言い難い。

「えーと……その、 “はい”……?」

思わずそう答えてしまったが……


 うん、まあ、ルシウは可愛いよ。見た目かなり可愛い、けど……


 異世界監視人(オルト・クストーデ)にもう一度会いたいと、王都を(たず)ね歩いた、それ(・・)ってそう(・・)なの? やや(まなじり)の吊り上がった大きな目、明るい褐色の頬、白に僅かに灰色を溶かした薄い銀髪が、とても印象に残ったのは、ひと目惚(めぼ)れと言われればそう(・・)なのか?


 いや、それよりよ。


 元の世界では高校生の俺、少女……いや、幼女相手に、それ(・・)どう(・・)なの? いろいろとマズい気がする。案件になる。



 少女はよそを向き、横目で俺を見つめていたが、不意にきゅっと両目を閉じた。

………………(仮初の欺く瞳を塞ぎ、)………………(心に我が心の影を映す)

聞き取れない声で、口の中で小さく呟き(ルーフェン)、胸の前で手を重ねる(アルア)



 すると――……




 ***********************************


 ……――次の瞬間、俺と同じ年頃の、銀色の乙女(ダミナーレ)がそこに立っていた。


 ルシウは黒頭巾をうなじに落とし、後ろ髪にしなやかな指を差し込むと、ふわりと襟から送り出した。背中まで届いた(アルジェ)の髪はさらさらと流れる。薄暗い地下道で褐色(マラン)の頬に、僅かに朱の差すのが判る。真っ赤(ルータ)な瞳は、ついさっきよりも近い高さから俺を見ている。

「るああ。どうかな――……?」

異国的な雰囲気を漂わせる、(まご)うことなき美少女。髪の色(アルジェ)肌の色(マラン)目の色(ルータ)は同じなのにまるで別人だ。


 あまりの変わり様に言葉を失っていると、ルシウがにこっと微笑(ほほえ)……



 ……まない。いつものようににっと白い歯を見せて笑う。その表情で、俺の中の“この美少女”と“あの幼女”が音を立てて一致する。

「うーららぁ。どーだ。これでアタシもユーマと釣り合った見た目だろー」

「うん、その……すごく奇麗でびっくりした……」

「るああ。そーだろ、そーだろ」

ルシウは「いひひ」と少年のように笑うが、正直、今の彼女の見た目に、俺が釣り合っていることは全くないと思う。


 ルシウは腰に手を当て、少し前屈(まえかが)みに、下から顔を突き合せてくる。


 ……近い。思わず首が引けて、胸を反らせた体勢を強いられる。そんな男心を知らずか、ルシウは無頓着な距離感で、はにかんでみせる。

「るああ。そりゃあアタシだってさー、好意を持たれて悪い気はしねーよ?」

そ、その顔、表情と距離、どれもが反則(チート)過ぎる。そう思っている目と鼻の先で、ルシウは笑顔のまま、

「でもさー、ユーマあ……」



 「アタシは“こちら側”のモノ(・・)だからさ。そーゆー“好き”とかはさー、ううん、イヤってんじゃなくて、だけど――……ダメ(・・)なんだよね」



 「るああ。だから……ゴメンな」

 「ああ……理解(わか)ってるさ」


 俺と彼女。異世界の旅人(トランジッテ)異世界監視人(クストーデ)。住む“世界”が違うことは、言われるまでもなく、

「……理解(わか)ってる」

別に、彼女とどうこうなりたいんじゃない。たぶん、俺の気持ちはもっとふわっとした――時々隣で見ていたいとか、時々笑って欲しいくらいの……って、これは言葉にするとまるで乙女だな(アオハルかよ)

理解ってるさ(ありがとな)、ルシウ」

「るああ。ゴメンな(ありがと)、ユーマ」



 ルシウは今度は、可憐な顔立ちに相応しく、静かに微笑んだ。

「それで、るああ、だからってんじゃねーけど、この仕事の間だけども、せめてユーマに似合う見た目でいてやろう……いようかなって、そう思ったのさ」

「後半、えらく早口になったな。デレたのか……く」

レバー打たれた。ティラトーレの鎖衣を装備する俺には効かない。ルシウは「べえっ」と舌を出すと、そっぽを向いてしまった。

 その横顔は、子どもみたいないつもの笑い方に戻っているけど、どこか寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。



 ……――この姿は、俺へのプレゼントなんだな。



 すらりとした容姿と、神秘的な目や肌の色が相まって、それは神話の女預言者(プロフェト)異邦の占星術師(アヴグリスト)か。澄ましてさえいれば、その美しさはもはや人とは一線を画し、近寄り難い凄みさえ感じさせる……喋りさえしなければ。その姿を記憶と目に焼き付けながら、俺は静かに口を開いた。

「ルシウ……」



 「元の姿に戻ってもらっていいかな?」




 ***********************************


 「るあ……?」

目を丸くしたルシウに、俺は頭を掻きながら笑う。

「いや……その姿()すごくいいんだけど、元の姿()、ほら、すごく可愛いからさ」

ルシウは目をぱちくりして、

「……うーぷす……」

それから、赤褐色の頬をヒクッと引き()らせた。

「そーか……そーだよな……」



 「そもそも、お前といる時のアタシの年恰好、あの幼女の姿は、お前のイメージっつうか、“世界観”の反映だよ……てことは、おまえは“好き”なのは――……」



 美少女は石壁に手をついて、ずるずると崩れ落ち、屈み込んだ。えーと……ハーレム系主人公じゃないけど、言っていい? “俺、何か変なこと言ったかな”?

「なーふ……つまり、お前の理想は、こっちの恰好の……」

そう呟くと、神秘的な美少女はンコ座りでしゅるしゅると縮んで――……ちっこい異世界幼女、元の可愛いルシウたんに戻った。


 俺の知っているルシウに戻った異世界監視人さん、しばし膝小僧を抱いてしゃがんでいたが、やがて立ち上がり、また高さの離れた俺の顔を見上げて、にっこりチョキをした。

「るああ。そっかあ。お兄ちゃんは、ちっちゃいルシウが大好きなんだねっ」

うむ、俺はどうやら、何かフラグ的なものをへし折ったらしいな。

「るああ。ルシウもお兄ちゃん、だーいすき」

そう言うと、幼女は俺に背を向け、奈落(アビス)から響くような声で呟いた。



 「……ないわー……」



 肩越しにかつてないジト目で、俺を汚い物(●●●)のように下から見下ろす(・・・・・・・)

「なーふ。とっと次行くぞ、次ぃ」

ルシウは立てた親指を2回ほど振って、廊下の先の扉を指示した。恋愛要素(フラグ)どころか、人としての扱いが二段三段落ちた気がする。

 (うるわし)しの異世界監視人(クストーデ)は返事も待たず、すたすたと歩き出した。幼女から立ち上る漆黒(ネーロ)のオーラ的なものに(ひる)みつつ、後に続く、と、ルシウはもう一度肩越しにちらりと振り返って――

「……ないわー……」


 毒を吐くような深い深いため息を吐かれて、俺は――……



 これなら、ドラゴン(ドラギオ)火炎(ブレス)に吐かれた方が、まだマシだと思った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ