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20.アルマ・エ・ミラ~伝説の武具と魔法の鏡~

挿絵(By みてみん)

【“封鎖区~監視人の依頼”(7/8話)】

 古都(パライオン)に足を踏み入れても、小道や路地裏を行ったり来たり。同じような街並みが続き、実際同じところを繰り返し通るものだから、いつしか不思議の国にでも迷い込んだような、ふわふわした気持ちにもなってくる。


 隠された道を求め、ウサギの足跡を辿(たど)って駆けるアリス(ルシウ)を追いかけて、

「そう言えばさー、そもそも何で俺なの?」

俺は手持ち無沙汰に黒頭巾を(つま)み、引き下ろした。

「るああ?!」

異世界管理局(クーストース)はカルーシア中を監視してるんだろ? 幾らでもいるだろ、何て言うか、チート な“世界観”の奴が」

「るああ! 放せ、放せっ!」

人差し指と親指を輪っかにして、後ろから銀髪を二つ括りに捕まえると、幼女が頭を振って抵抗した。


 ふはは、バカめ! もがけばもがくほど、お兄ちゃんの(ツインテ・)ちょっかい(フィンガー)はより強く貴様の髪を締め付け――

「るあっ!

「うぼっ」

レバー殴られた。



 ルシウは俺の(いまし)めから逃れると、水浴びした犬のように頭をぶんぶん振り、髪を手櫛(てぐし)でざっざと整えながら、真っ白な歯を()いて(にら)んでくる。

「なーふ……まずカルーシア(こっち)の人間はダメだ」


 「“世界”が幾つもあるって概念は、異世界転移者(オルト・トランジッテ)は仕方ねーとして、やっぱあんまり知られてーことじゃねーんだよな。ユーマには、不本意ながら管理局の存在を知られちまったから、そういう意味では適任だってのがひとつ」

そこで言葉を切ると、今度は頭の上でひとつ纏め(パイナップル)にした俺の手を振り払う。

「なーふ! それと、お前くらい強い転移者(・・・・・・・・・・)は、そうはいねーんだよ」

「持ち上げても何も出ねーぞ。異世界転移(オルト・トランジ)してきた奴が他にもいるんなら、それこそ“チートスキルで異世界最強!”みたいなのいるんじゃん?」

「うーぷす。ダメなんだよ、そーゆー奴は」


 「”封鎖区”に“自分設定(チート)”――”世界観(イマジカ)”は持ち込めねーんだ」



 ルシウは両方の指で、俺に乱された銀髪を撫でつける。

「るああ。アタシの“権限”(エルーカ)と同じことさ。チート能力だの、ステータス最強だの、セラドではそんな“薄っぺらいの”は通用しねーの」

納得したらしく毛繕(けづくろ)いを終えたが、正直あんまり変わってない。

「いわゆるチートで後付けた力は、”世界観”に属している。だから別の“世界”には持っていけない。けど、鍛えた剣の腕、学んだ魔法の知識は、その所有者に紐づいてる。どんなオルトへ行こうとも、持ち主から切り離されることはねえ」


 髪を直してやろうと手を出すと、幼女に威嚇(いかく)された。

「なーふっ! お前の持つ”力“は、バカ正直に訓練して、クソ真面目に経験積んだ成果。今時の異世界転移者(トランジッテ)で、ちゃんとレベル上げする奴は意外といねえ」

()められてる気がしねーな」

そう言うと、ルシウはちょっと真剣な顔で首を振った。

「“封鎖区”では(いつわ)りや紛い物は全て見破られ、残るのは本物だけ。ユーマあ、お前は”世界(オルト)”に打ち()つ“可能性”なのさ」


 少女(フィーユ)は赤い目をきゅっと細め、白い歯を見せて笑う。その笑みのまま、とことこっと俺を置き去りにして、小走りに数歩行って、外套(がいとう)とスカートを(ひるがえ)してくるりと舞う(ターン)

「あ、そうそう。“お節介な(トリビアル・)時間干渉”(タイムリープ)は持ち込めねーから」

満面の笑顔でそう言った……マジか。



 “お節介な(トリビアル・)時間干渉”(タイムリープ)――……異世界転移で備わった、俺唯一の固有スキル。効果は“攻撃を受けるとひと呼吸分の時間が巻き戻る”こと。相手の出方を見てからやり直せる、事実上の予知能力、カードを覗くイカサマだが……

 無事使用禁止。幼女にからかわれるバカ正直のクソ真面目だから、戦い方は、スキル頼りにはならないように心掛けてはいるけど。


 ううん。ないとなると、急に不安になる……


 俺の戦力ダウンに、幼女はすごい悪い顔で笑っている。えーと、お嬢ちゃん(チッカ)? 他人事じゃないって理解(わか)っているのかな?




 ***********************************


 と、不意にお嬢ちゃんが真顔に戻り、大きな釣り目を見開いた。

「うーぷす! “持ち込めねー”で思い出したぞ!」

「?」

怪訝(けげん)な顔で先を促すと、輝くようなドヤ顔が帰ってきた。

「ユーマあ、“そんな装備で大丈夫か”!」

「……“大丈夫だ、問題ない”……?」

「フラグが立っちまうじゃねーか」

いきなりのフリに戸惑いつつボケ返すと、ルシウは妙に高いテンションで――



 何もない宙空から、ひと振りの、朱塗り(さや)刀剣(カタナ)を引き出した。



 おれにはあまり道具(・・)(こだわ)りはない。


 命を預けるのだから、軽んじはしないし手入れは欠かさないが、特に物を選んではおらず、使えれば割と何でもいいと思っている。と言うか、まずモノの良し悪しが判らない。

 俺を剣敵(ライバル)視してい……こほん、親切な知人の名門貴族の坊ちゃん、レイス・オランジナは、それも気に入らな……こほん、心配してくれるようで、

「腕に見合った得物を持て」

と忠告をくれるが、大きなお世話……こほん、“大丈夫だ、問題ない”。


 そんな俺だ、刀剣(カタナ)なんて(こしら)えがどうとかさえ判らない。

 だけど、そんな俺にさえ理解(わか)る――……


 この刀はヤバい(・・・・・・・)


 この空間に現れた瞬間から、場の空気が震えている。

「装備を“一番いいの”にしとこーぜ。武器の性能もそれ自体の性質だからな、“封鎖区”に持って行ける。いひひ、別の世界に奥の手(チート)持ってく裏技だぜ」

ルシウが“一番いいの”とやらを差し出した。


 練習用の木刀と同じくらい、長さ的に打ち刀になるだろう。もちろん真剣を持ったことはなく、しかもこの刀、明らかに只事でない鬼気を放っていて、(さや)の上からでも指を持ってかれそうで怖い。躊躇(ためら)いつつ、刀剣を受け取る。

「え……こんなに軽いものなのか? 竹刀ほどしかないぞ……?」

確か日本刀って1kg以上、竹刀の3倍くらいは重いと聞いた覚えがあるが……



 「天羽緋緋色“(アマハヒヒイロ“ア)荒神切”桜花(ラガミキリ”オウカ)――……」



 監視人が、何やら呪文のような言葉を口にした、

「ア……アマハヒヒイロ……?」

「アラガミキリ、オウカ。この”世界(オルト)”に存在する、最も切れる剣だ」

『……小僧、力が欲しいか……?』

「待って待って、何か言い出した」

「るああ。気のせいだろ」

そうか……じゃあ、鞘越しに「ウォォン」って刀身が(うな)ってるのも、たぶん気のせいだな。


 右手で柄を取り、左手で鯉口を握って、ゆっくり袈裟懸(けさが)けに振ってみた。普段使っている細身軽量の片刃剣(スティール・サーベル)と比べても、格段に軽い。

「るああ。魔力なら“絶界の至宝・獅子王剣エスカ=レイツィア”の方が上かもだけど、ありゃ重いし、剣術使いのユーマには、切れ味で勝るこっちがいいよ」

「どっちもすげえ名前だけど、やっぱ、(いわ)れのある武器だったりするの?」

「なーふ。実在すら定かではないとされ、世界中の冒険者(チェルカトレ)が追い求めて止まないという、東方七つ秘宝イスト・シエテ・バオルがひとつ。そのひと振りで国が買えるクラスだな」

「マジか……てか、持ってきちゃっていいのか? みんな探してんだろ?」

「るああ。アタシは何処にあるか、全部知ってるからなー」

「台無しだな、いろいろと」

俺は“荒神切”とやらを、改めて掲げ見た。


 このひと振りで、国ひとつ……使っちゃっていいものなのか、コレ……? 価値半減しない? 抜く決心もつかず、鞘に納まったままの桜花を(いじ)ってると……




 ***********************************


 「るああ。そんで、これ防具な」


 ふわりと布が頭に被された。手に取ると腰丈ワンピ(チュニック)というのか、鈍色(にびいろ)をした長袖のシャツのような衣服である。

「ユ●クロのヒ●トテックくらい薄いんだけど……」

「ティラトーレの鎖衣(シリヨン)――かの名高きエルフの賢君、“運命王”フォルティシモ・デクレシェンドに、ドワーフにこの人ありと(うた)われた工匠、グリトグラ・“ヘパイストスの(つち)”・ガラガラドンが献上したと伝わる、ミスリル銀の微細な鎖(チェーノ)で編まれた神器クラスの逸品だぞ」

「鎖……うわ、本当だ。編み目ぇ全部、超細かい鎖だ、これ」

「るああ。並大抵の刃は通さねーし、打撃も分散するから、巨人族にドツかれてもたぶん大丈夫だ。魔法や火炎に対する耐性もあるから、レッドドラゴンが出ても安心だな。その革服(クオイオ)の下にでも着込んどけ」

「それはもはやチートじゃないのか?」

「るああ。作り手の技術(タクジニア)鉱物(オリクト)の性質だからセーフだ」

「その辺りの境目が、もう俺にはよく判らん」

「それから、こいつは“忘れられし民”ニカ族が、黎明竜(れいめいりゅう)レーゼの革と鱗から作り上げた……」

「伝説の装備過ぎだろ。俺のステータス画面どうなるんだ」



 こうなった。


 E.武器:天羽緋緋色“(アマハヒヒイロ“ア)荒神切”桜花(ラガミキリ”オウカ)

 E.防具:ミスリル銀のチ(ティラトーレ)ェーンメイル(のシリヨン)

 E.兜 :黎明竜レーゼ(アマネセル・ドラギオ)革頭巾(カペロ)

 E.盾 :黎明竜レーゼ(アマネセル・ドラギオ)革手袋(レガン)



 「るああ。元の装備はアタシが預かっとくなー」

ルシウは某猫型ロボット(ぼくド●えもん)よろしく、腰のポーチに装備一式を押し込めた。

「仕事が終わったら返す。申し訳ねーが、そっちの装備は謝礼に譲りてーのも山々なんだけど、さすがにそのまま世に出しちまっていい代物じゃねーからなー」

いいと言われても貰えるか。いや、もうマジでいらない。


 何かこう……何だろう。


 RPG(ゲーム)やってて、鋼の剣とか買おうかってくらいの時に、いきなり裏技で最強装備を全部手に入れてしまったような、この()に落ちない感じは。

「うーぷす。いいから着とけって。危ないから」

ちょっと寒い日に厚着させようとする母ちゃんか。

 うーん……俺の異世界生活、チートを使わないことに、ちょっと自負があったんだけどな。



 だが理解(わか)る。自分が確実に強くなったことが。


 何より身が軽い。武器の重量から解放され、かつ防具の性能が保証されるなら、それで戦術は一変する。籠手(こて)小型盾(バックラー)に代える戦い方ひとつ取って、竜革の手袋が信頼できるほど、もう一歩深く、(はや)く切り込めるだろう。


 それに……剣帯に、桜花の下げ緒をちょいと結んで、侍気取り。正直心躍る。

「うーららぁ。似合ってるぜ、ユーマあ」

(おう)っ!」

思わず返事も漢字になる。



 そうして意気を上げながら――……


 お、幼女の外套と頭巾も、いつのまにか黎明竜(レーゼ)仕様になってるな……と思いつつ角を曲がる先導に続くと、はたしてそこはまたも袋小路であった。

「おい、ルシウ……」

「うーぷす。幾らアタシでも、同じ冗談は二度やらねー」

幼女はぐいっと平たい胸元に手を突っ込むと、何かを引っ張り出した。



 それは見るからに(いわ)くありげな、古びた小さな手鏡(ミラ)だった。




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