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私の居場所  作者: 田鼈宮守
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私というもの

【序章】2018年 一月

年が明けてから一層に突き刺さるような肌の寒気を感じながら、私は考えに耽っていた。


大手のメーカーに就職した私はもうすぐ二年目に突入する。

会社の手当てはしっかりしたもので、給料も休みも申し分無く貰っている。


しかし、私は酷く疲れていた。

大きな組織である以上は何事に於いても厳しく統制される。


そんな組織の中に居ることに飽々していた。

そもそも自分には組織が肌に合わない。

精密機械のように仕事の順序が決められ、各週に予定が作り込まれ、迅速かつ的確に進めなければならない。


また、論理的に物事を進めなければならないことも苦手だった私にとっては尚更に苦労がある。

更にはエビテンスやらコンセンサスと、次々にビジネス用語が飛び交う始末だ。

これだけなら、じっくり一つ一つ覚えていけば余程の事でない限りは仕事は着実に覚えていくだろう。


しかし、人間関係は別だ。

これは互いの感性や考え方によって大きく異なる。

前者が善と言っても後者は悪と判断する事はざらにある。


どんなに親しみがあろうと、その奥底では相容れぬ場合が多いだろう。


つまりだ、私は仕事を辞める決意をした。

最低でも二月には退職を済ませたい。

仕事が辛いと感じることが大きな理由ではない。


改めて自身の能力に疑問を抱いたからだ。

そして、自身の精神は何を望むのかと不意に感じたことだった。


健康とは体調だけでなく、心が健全で意欲ある日々を送れることで初めて、健康な状態と言えると聞いたことがある。


私をそこに当てはめたとき、不健康も飛び抜けるほど断崖絶壁の窮地に立っているのだと認識できた。


身も心も磨り減り、なんで生きているのかも分からないと思うほどに、私は追い詰められ、時に死についても考える。


スマホでツイッターを見つめて、タグの中に「#転職を決めたきっかけ」などが、ネットの波を伝わり、溢れ出るような書き込みがあった。


特に人間関係、心の問題が多い印象だった。

「通勤バスが事故れば終わるのに」

「ミサイルが飛んできて当たれば、会社に行かないで楽になれるのに」

「このタイミングでホームに飛べば楽になるのに」

そういった負の感情が剥き出しの書き込みを次々と読み込んでく。


誰かに分かって欲しい、同じ気持ちを共有したい、そんな事が読む度に感じた。

そして、読む方もそれで心持ちを維持しようと必死だ。


しかし現実は非情に時が進む。

ミサイルが飛んできても当たりはしないし、電車は遅れるだけで、会社には自ずと出社することになる。


すると、仮初めの責任感でタクシーを用意したり、遅延証明書を受け取って上司に一報する。

「すいません、~が~で遅れます」

これだ、どうしようもない。


もう帰りたい、会社を休みたい、午前中に退社したい。

そんな気持ちで、結局は出社して仕事をすることになる。


それは少しずつではあるが、心を蝕んでいく。

着実に心は傷ついていくのだ。

逃げ道はまず二つ、会社を辞めるか、死ぬこと。


その場で瞬間的に思い付くのはこの両者だった。

このように果てしない負の螺旋は下へと延び続ける。


決して留まることはないのだ。

二つの選択肢を除いて。

だから私は会社を辞める決意をした。


螺旋から抜け出すためにも、健康的な自分を取り戻すためにも。


そして、何よりも新しい勉強を始めたい。

自分の得意な分野、気になる分野に目を向け、真摯に取り組みたいと思ったからだ。


それに、有名な会社に入って人生を終えることに何の楽しみも感じられなかった。


ありとあらゆる事に触れ、学び、自身の目指すべき終着点を探したいと素直に思ったからだ。


これが本当の人生の始まりである。

そう信じて、あえてこの道を選ぶのだ。


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