不審な男3
昨日に続き二日連続の夜勤明けで、朝、駅に降り立った映美は、公園にいる男のことを思い、川沿いを通って帰ることを少し躊躇したが、桜の魅力には負けた。
「もう満開だな」
見上げる桜は勢いよく咲き誇っていた。
「幸せだぜ」
仕事帰り、天気も陽気も良く気分は最高潮だった。川沿いを覆うように咲き誇る桜の花は圧巻だった。しばらく一人桜の花々に映美は見とれた。
「今日もいるんだ」
公園を覗くとやはり、男は昨日同様、同じベンチに座っていた。
男は足元にじゃれつく野良猫たちに、何かパンの切れ端のようなものを与えていた。その表情は、とても穏やかで優しいものだった。
「良い人なのかも」
映美はその時初めてそう思った。それに、見慣れてくると、男がそれ程特異な人間とも思えなくなってきた。
「あの人、そんなに悪い人なのかなぁ」
家に帰ってから母に映美は呟いた。
「えっ」
「ほら、公園の」
「決まってるだろ」
「でも、なんか今日猫に餌やってた」
「山田さんはこないだ睨まれたって言ってたよ」
「ほんと」
映美は味噌汁を飲む手を止めて母を見た。
「ほんとよ、いきなり睨まれたって。本当に怖かったって。それにゴミもいつも無茶苦茶に出すらしいわ。とっても迷惑しているって」
「そうなんだ」
でも映美には、なんだかあの男がそれ程悪い人間には思えなくなっていた。