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不審な男2

「あっ、もうかなり咲いてる」

 最近夜勤の多い映美は、今日も桜の様子を見ながら川沿いを遠回りして歩いた。映美と反対方向に歩いていく、これから仕事のサラリーマンたちの暗い顔とは対照的に、映美の表情は明るかった。

「満開に近いなぁ」

 映美は咲き誇り始めた桜を眺め、春の陽気も相まってなんだか無性に幸せを感じた。咲き誇る桜の下を歩くとそれだけでなんだか、人生得をした気分になった。

「やだ、またいる」

 良い気分で公園まで差し掛かると、男はまた前と同じベンチに座って、何をするでもなく、桜の花には目もくれず、公園に植えられた樹木の辺りを眺めていた。

何をしている人なんだろう。こんな平日の昼間にいつも公園にいるなんて。映美は改めて男を見つめた。

 前回見た時と変わらず、無精ひげが伸び、服装も相変わらず小汚く、ホームレスのようにすらも見えた。頭はもじゃもじゃで、いつ床屋に行ったのやら分からないほど、伸びきっている。一見年を取っているようにも見えるが、実際は自分とそう変わらないのではないか、多分、二十代中頃か、後半といったところかと映美は推測した。

「母さん、今日もいた」

 家に帰りついてから、映美はまたすぐ母に報告した。

「いつもいるんだよ。向かいの矢崎さんもいつも見かけるって」

「そうなんだ。いつもいるんだ」

「なんか気味悪いだろ」

「うん、なんだかね」

「絶対目を合わせるんじゃないよ」

「うん」

 それはなんだか大げさなような気がして、映美は少し笑った。

「笑いごとじゃないよ」

「うん、でも、なんか大げさじゃない」

 自分もそれをしていたこと思い出し、映美はなんだか急に冷静になってきた。

「だって、まだどんな人かも分からないんだよ」

「見た目が怪しいってだけで十分だよ」

 映美の母はにべもない。

「ごはんまだだろ」

「うん」

「用意できてるよ」

「うん、ありがとう」

 夜勤明けの疲れた体に母の作ってくれる、朝食はありがたかった。

「仕事大変なんだろう」

「うん、ちょっと、今人が足りなくて」

「ここのところ夜勤多いね」

「若いし独身だから、どうしてもね。そういう役回りになっちゃう」

「食べたらすぐ寝るかい」

「うん、お風呂に入ってから寝る」

「じゃあ、お風呂の用意もしようね」

 映美の母は、立ち上がるとお風呂場へ向かった。

「ありがとう」

 映美は、母の作ってくれたお味噌汁に口を付けた。

「おいしい」

 相変わらず母の作るお味噌汁は絶品だった。


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