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ゴミ

 まだ寒い日の初春。始まりはなんでもない、いつもの朝だった。

「映美、ごみ出して行ってね」

「うん」

 母の言葉に答えるのも惜しい出勤前の慌ただしい朝、映美は勢いよく玄関を開け眩しいほどに晴れ渡った空の下に飛び出した。

「あっ、おはようございます」

 映美は玄関前で植木に水をやっていた向かいのおばさんにあいさつすると、そのまま返事も聞かず、ごみ袋を右手に持ち替え急いで駅まで走り出した。

「なんでいつもこうなんだろう」

 映美は自分に腹を立てた。朝は余裕をもって起きるのに、気付けばいつも時間がない。

「あれっ、何だか人だかりができてるな」

 駅に向かう途中のいつものゴミステーションの周りになぜだか人だまりが出来ていた。でもそんなことに気をまわしている場合ではなかった。

「あっ、すみません」

 映美は人をかき分け、カラス除けのネットを素早く持ち上げて予定通り一週間分の燃えるごみをその下に放り込んだ。

「ふーっ、これでよし」

 これで一つ仕事が終わった。ほっとして映美は再び駅へと走りだそうとした。その時、映美はふと、人垣を作っている人たちの視線の先が気になって、そちらに顔を向けた。

「あっ」

 その瞬間、映美は、はっとしてその場に立ち尽くした。公園の石垣脇に設置されたゴミ捨て場のその石垣に、大きな青い鳥が飛んでいた。

「これは・・・」

 それは大きなベニヤ板に描かれた鳥の絵だった。映美は最初それが何か分からなかった。それが誰かの描いた絵だと、そしてそれが圧倒されるほどの美しさだということを認識するまでにわずかだが時間がかかった。それほど、どの場その時間に似つかわしくない気品と美しさを湛えていた。しかし、それを頭が絵を理解しきると、その絵の超現実的な世界に映美は引き込まれ、ただ茫然と見惚れた。

「すごい」

 映美は電車の時間も忘れ、絵に見入った。青い鳥が瞬く星々を目指し飛んでいるその目の悲しさと寂しさに映美は、何か自分の切なさをえぐられるような思いがした。孤独と絶望で心が壊れそうになるその瞬間、鳥は星になろうとしている。その切ないまでの思いが、その絵から溢れ出ていた。

 人垣が晴れ、自分一人になってもその絵を見つめている自分に気付いた時、映美は自分が泣いていることに気付いた。

「どうしたの?何か忘れ物?」

 慌てて出勤して行った娘が再び戻って来て、母は目を丸くして驚いた。

「どうしたのそれ」

 更に母は今度は娘の持ってきた娘の背丈よりも大きな木の板に驚かされた。

「とりあえずこれ、置いといて」

 説明も何もなく、玄関に巨大な板を置いて再び出て行った娘をぽか~んと母は見つめていた。


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