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『ただ一つわかるのは』

作者: れのん
掲載日:2017/01/17

あなたの目に触れて、何か意味を持てたら

「オムライス食べたい」

何気なく思ったそれを口に出したらもっと食べたくなった。


 オムライスは私の大好物だ。


 三度の飯よりオムライスが好き……とは言えないかもしれないが、二度の飯あたりだったらちょっと迷ってしまう自分がいる。それくらい好きだ。


 ちなみに私は料理が得意ではない。この町に来る前はせっかくの一人暮らしなんだから自炊をしようと息巻いていたが、実際に一人で暮らしてみると二日と続かなかった。


 だけれども、オムライスだけは私でも作れるはずだ。

 なんたって大好きだし……? それに優斗が作ってくれているのを横で何度も見ていたからだ。


 だから……私にも作れるはず。料理はしていないけれど、たまに手伝っていたし? 「調理補助! 時給無し! まかない有り!」だったし?


 さて! まあ、何事もチャレンジだよね!

 ご飯を炊いてゴー!

 




 さてさて~。オムライスの食材は? 卵と玉ねぎと……鳥のもも肉と……。あと何だ? 

優斗は他に何入れてたっけ? 調理補助の記憶よよみがえれ!


……なんかキノコ入れてた気がする。何て名前だったっけ?


エノキ? エリンギ? ちょっとこの二つの名前紛らわしすぎでしょ……。ごっちゃになるわ!


まぁいいです。いいのです。なんたってスーパーナウなんだから! いや、なんかスーパーナウってめっちゃ今! みたいなノリになっちゃってそうだぞ……。


あれだ……スーパーにいるんだから現物を見れば流石の私でもどっちだったかくらいは分るでしょう。


卵は家に買い置きがあるので、それ以外の先ほどオムライスの食材の候補として上がった奴らをスーパのカゴに放り込んでいく。へっへっへっへー。全て私がおいしく食してくれよう。


ちなみにキノコはエノキでもなく、エリンギでもなく、マッシュルームでした。いやー、そんな気もしてたんだけどね?




ピッ。「158円が一点」

ピッ。「136円が一点」

ピッ。「188円が一点」

ピッ。「321円が一点」

「合計で803円になります」

 あっ、321円はケーキです。スーパーにある、二つで三百円くらいのショートケーキ。

うふっ。甘いもの~。

それ以外の食材は、普段買わないから安いのか高いのかはあんまり分からないけれどまあこんなものでしょう。

さあ、あとはこの調理補助のプロたる私が料理の腕前を見せるだけですね!




さて、やってまいりました。私、見吉香耶の約三十分クッキングのお時間です。

先ずはですね~……。とりあえずフライパンに火をかけますか。油を引いてっと。そんで弱めに火をつけて温めときましょうか。


んでんで。そうチキンライスを作るんだからその具材を切らなきゃね。鶏肉は細かく切って余りは冷凍しときましょうか。玉ねぎは……。半分くらい? 使うかな? わかんね。とりあえずやっちゃえ!


 先ほど買ってきた鶏肉をパックから出し五十グラムほどを切りだし、それ以外をとりあえず冷蔵庫にしまう。冷凍したいとか言ったけど、お前らにかまっている時間は無いんだ! すでにフライパンが嫌な感じに熱されてきたのでいったん火を止める。段取りって大切だね……。気を取り直して、その後一センチ半くらいの大きさへと鶏肉をきざんでいく。


玉ねぎも半分に切り、皮を剥いた物を横に2、3回ほど切り込みを入れてから縦に切ると細かく切ることが出来るのだ!


そして再びフライパンを火にかける。熱されてきた頃を見計らって取り合えず切り終えた鶏肉と玉ねぎを放り込み炒める。


「ふう……。まだチキンライスもできていないのに疲れてきたよ……」

これは……。なかなか厳しいですね……。


ええっと、炒めている間に次の準備をせねば。次は――ご飯をケチャップで味付けしながら炒めるのかな。だったら買い物に行く前に炊いたご飯をお皿に移しとこうか。あとはケチャップ。


「ケチャップどこにしまったっけな……」


たまにしか使わないので毎回探すところから始めている気がする。

この汚い机の上とキッチンの周りにないってことは……。


「さてはケチャップ。お主冷蔵庫に隠れていやがるなぁ?」

いやまあ、しまいっぱなしだっただけだけど……。


 うーん。発見したケチャップの量が……。いまいち心もとないな……。まあいいや、大体出少し水を加えて最後まで使えばいいでしょ。


 少しすると鶏肉にも火が通り、玉ねぎも色がアメ色へと変わり始めてきたのでご飯を先ほどのフライパンへと投入する。そしてヘラでフライパン全体へとご飯を軽くなじませてからケチャップをその上にかけていく。最後まで使うために少し水を入れてから使い切って後は容器をゴミ箱へ。


「うーん。なかなかそれっぽくなって来ましたよー」

ご飯にケチャップを絡ませながら思う。あとはこれが終われば卵を焼くだけである。


ところがどっこい。その最後の行程が難しい。


チキンライスをお皿に移して別のフライパンを用意し、油を引いてバターを溶かす。

そうして卵を割り、皿へと一つ、二つ。


「卵の殻と同時に黄身も割れてる……」

この時点でもうね。不吉な予感がする。


 卵をお箸でといてバターが解け終わったフライパンへ。

きれいに広がってジューという音と共に段々と端から焼けていく卵。そして私は卵焼きでする様に丸めようと試みる。


「むっ……」

まだ火が通りきっていなかったのか切れてしまった。だってオムライスと言ったらトロトロの卵だし……。


それから何度も試みるが、ようやく丸めることが出来たのはトロトロとは程遠い状態になってからだった。


「まあ……味には関係ないし……?」

口から出たのは完全なる負け惜しみであった……。


 お皿に先ほど作った卵を載せてオムライスの完成である。





 うん。私にしては頑張ったとほめてもらいたい。食してみると味の方は「まあ……、そこそこ」といったところである。


 オムライスマスター(食べる方)の私から言わせてもらうと、ご飯がべちゃべちゃだし、卵は固いし……といったように味以外の要素が悲しい出来だった事を実感する。やっぱり腕だよなぁ……、としみじみ思う。メニューさえキチンとして、手順通りに行えば味は食えない程にはならないと思う……。


 ただそれ以外の所に問題が出てきている。

 そうだ。一人暮らしの初めの頃はクックパットなどを参考に作っていたのだが、こういった腕の問題で上手くいかなかったりという事が辞めた一つの原因であった。


「はぁ……。優斗のオムライスおいしかったなぁ――」

優斗の話を友人にした時があったが、その際に友人に「毎回料理を作ってくれる彼氏なんてなかなか居ないよ! うちの彼氏なんて米を洗剤で洗おうとするんだからね!」と何故か怒られた事を思い出した。そういえば「大切にしなよ!」とも言ってたっけ。


 

「寂しいな……」

優斗の事を思い出していたら無意識の内に声に出していた。


 たぶん嘘偽りのないほんとの気持ちなんだろう。普段は明るい性格をしているといわれるし、実際にその通りだと思う。


 ただ、ふとした時にとっても悲しくなったり、寂しくなったりする様になった。


 優斗と別れてからだ。別に平気だと思ってた。今は辛いだろうけど、その内忘れられると思っていた。


 だけど、いつまでたってもこの悲しみは居なくなってはくれなかった。ぽっかり空いた穴は、いつまでも空いたままで。ふとした時に、それは痛み出す。



 もう……。なんで優斗の事で悩まなければ、こんな気持ちにならなければならないのだろう。そう段々と腹が立ってくる。そう気持ちの方向を変えなければ壊れてしまいそうだった。


「電話してやる」

そう決めた。別に出ない事は分っている。だって仕事中だろうし。


 嫌がらせだ。電話だけ入れといて、後で何か連絡してきたら無視してやる。ただなんとなく、そう決めた。


 ケータイのコール音が一回、二回と響く。三回目は響かなかった。

 優斗が電話に出たからだ。


「どうしたの!? 香耶ちゃん!」


「えっ、へっ?」

仕事中だと思っていたのでまさか優斗が電話に出るとはみじんも思っていなかったので、慌ててしまった。


「あのええっと……。アレ、今仕事中じゃないの? 大丈夫?」

そう。だから電話したのに……とは言えないけれど。


「大丈夫だよ。あそこの職場、辞めちゃったから」


「えっ! 嘘っ、あそこ給料いいって自慢してたじゃん!」

「人を金持ち自慢する屑男みたいに言わないでよ……」


「いや、そうじゃないけど、昔から憧れてて入ったんでしょ!」

そう私が聞くと優斗は少し困った様にこういった。


「うーん。月並みな答えになっちゃうんだけど、なんか俺のやりたい事ってこれなのかな……って思ってさ。それで転職したんだ」

そう言ってから、「それで今の仕事はお給料は安いんだけど、人の為に働ける所だからさ。満足してるよ」と言った。


「そっか……。あれから十か月以上経ってるもんね……」

前に進んでるんだ。優斗は。


「うん……そうだね。色々考えたんだ。俺もあれから」


「応援してるよ。優斗がちゃんと考えて決めた事なら私は応援する」

――って、別れた彼女が何を偉そうに言っているんだか。


「ありがと。頑張るよ。それで――」

優斗は少し言いにくそうにした後、言葉を続けた。


「どうしたの? 何かあった?」

 思い出していたら寂しくなって――なんて言えるわけないなぁ。


 あ――そうだ。

「あれね。さっきオムライス自分で作ってたんだけど、上手くできなくてさ」

嘘は言っていない。


「えっ、香耶ちゃんがオムライス!? えぇー食べたかったなぁ」

もう……。コイツは……。


「誰がやるか」

思わずそう言っていた。

 なぜそんな事を別れた彼女に対して言うのだ。少しドキッとしてしまったのが悔しい。とても悔しい。


「だって俺が料理作ってばっかりで香耶ちゃんの料理全然食べた事なかったんだもん!」

それは確かに申し訳ない……。


「適材適所ってあるじゃん! そういう事よ。でもまあ、食べたくなったから自分でも作ってみたんだけど全然おいしくできなかったからさ、レシピとか作り方とか聞こうかなーって」


「ああ、そんな感じなんだ……。何かと思ったよ全く。いいよ。材料は何使ったの?」

「ええっとね。優斗が作ってる時の材料とおんなじだよ? チキンライスは玉ねぎと鶏肉を炒めて、その後ご飯入れてケチャップで味付けて、後普通に卵だけど……」


「えっ、キノコは?」


んっ。

「あれ、キノコ買ったんだけど入れるの忘れてたじゃん! マッシュルーム!」

「買ったのに忘れたのかー。残念だね」

そう言ってはいるが電話越しにも関わらずかなり笑っているのがわかる。おそらくは『残念だね』を『馬鹿だね』という意味合いで使ってそうだ……。


「笑うなクソ! エノキかエリンギにしなかっただけ誉めなさい!」

クソムカつく。

「あーでも、マッシュルームじゃなくても、エリンギでも美味しいよ? あれって食感を変えるためのものだから」


「えっそうなの? じゃ、エノキは?」

「エノキはねー。細いし、焼くと萎びちゃうからあんまり合わないかな……」


普段から料理しているだけあり、優斗はこういう事には詳しい。


「後はねー。香耶ちゃん。バターは使った?」

「卵を焼くときに使ったわよちゃんと!」

もちろん。それくらいは知っている。


「バターはね。卵を焼く時にも引くんだけど、チキンライスの前の鳥肉とか玉ねぎの焼く時にも使うと、香耶ちゃんの好きな味になると思うよ」

むむ。卵だけではなかったのか……。


「まあ、それくらいかな。わかるのは。後は香耶ちゃんの料理の腕前によるものとしか言えません」


「はい。先生……。精進します……」


「後で洗い物もちゃんとやるんだよ。今の内から水に付けとくと洗いやすくなるから」


「えー。やだ。もうやりたくない。明日するー。買っといたケーキ食べるー」


「あっ、ケーキあるんだ。いいなー食いたい」

「ダメですー。私はこれから至福のケーキタイムなので電話切りまーす」


「切っちゃうの!? まってまって、ひとこと言わせて!!」

なにさ。この男は。


「なによ。短く済ませてよ?」

「もう……。そっちから電話してきたのに。んじゃ短く」


「誕生日おめでとうね。香耶ちゃん。電話しようか迷ってたから。そっちから電話来た時ビックリしちゃった」


 ホントに。なんなんだろうこの男は。

 期待しちゃうじゃん。昔みたいにって。


「あのさ、ウチくるならケーキ食べてもいいよ」

返事は聞きたいような、聞きたくないような。

あなたはなんて答えるのかな。

 ただ一つわかるのは――




――私がまだあなたを好きでいる事くらいで


最後まで見ていただいてありがとうございます!


仲が悪いわけではないけれど、別れてしまった二人

お互いの別の道を歩み、別の所で過ごし、そして生きてゆく。


ただどこかで少しだけ、再び交わったなら


あなたはどんな結末になると思いますか?

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