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海賊討伐 Ⅰ

小林と再会し、『フレンドシップ』のギルドマスターとサブマスターに出会った、その日の夜から『フォーチュンキャット』は『フレンドシップ』と一緒に行動することが多くなった。


『フレンドシップ』でアンデットの海賊討伐に参加してる人は22人。その内、真達と同じ船に乗り合わせたのは10人だった。


そこに真達が加わって合計15人のグループが出来上がる。船の大食堂で食事をする時には『フレンドシップ』と一緒に食べるようになっていた。


人付き合いが苦手な真ではあったが、信也はそんなことお構いなく、勝手に真をギルドの輪の中に入れてしまい、強引に引っ張っていく。真以上に難儀な華凛も真が引っ張って行かれればそれについていく。


美月や翼に関しては問題なく『フレンドシップ』の輪の中に入っているし、彩音も一緒にその中に入っている。


余談ではあるが、美少女達のギルドと知り合いで、しかも橋渡し役になった小林は『フレンドシップ』の男達から英雄として扱われ、盛大に酒が振舞われた。


真からしてみれば、疲れるが今までなかった感覚に戸惑いながらも海賊船を探す船旅は続き、八日目の夜を迎えた時だった。


空には雲の切れはしから三日月が顔を覗かせている。少し風がきつく、船体を揺らしながらも帆はしっかりと風を受けて波をかき分ける。


夜になっても闇に包まれることなく、周りの景色が見えているということは、今いる海域は現実世界ではなく、ゲーム化した海の上なのだろう。海という自然の上では現実なのかゲームなのか、それを判別する術は、夜になっても視界が失われないかどうかで判断する以外に方法はない。


外の空気を吸いに甲板に出ていた真が大きく伸びをした。時刻からすればもう寝る時間だ。ただ、この一週間は何もすることがなく、ただ船に乗っていただけで、疲れるようなこともない。いつもならもう寝ているころだが、少々風が強くても気分転換に外に出てきていた。


(こんな風にして、寝る時間が遅くなっていって、学校にも行かなくなったんだよな……)


真は高校の時に始めたMMORPGのことを思い出していた。この世界の元となったゲーム、『World in birth Online』。それにハマったことで真が学校に行かなくなった。


(でも、今俺が生きてるのは、そのゲームのおかげなのか……。どっちにしろ、俺の人生に大きな影響を及ぼしたことには違いないな……)


真の強さは『World in birth Online』で作ったキャラクターの強さ。装備やレベルをゲームからそのまま引き継いでいる。


(どうして……俺だったんだ……)


最初にラーゼ・ヴァールに止めを刺したから。説明された理由はそれだけ。ただのゲーム特典でしかないと思っていたもの。


「真、どうしたのこんなところで?」


美月の声に真の思案が途切れた。茶色いミドルロングが少し強い風に煽られ踊っている。それを片手で抑えながら美月は真の方へと歩いてきた。


「ああ、何も起こらないからな。寝つきが悪くなってるんだよ」


「そっか。確かに何もすることないよね。海賊が現れる兆しもないし。最初の頃は私も夜は緊張して寝れなかったんだけどね。最近は真と同じ理由で寝れなくなってるよ」


ふふっと笑いながら美月が話す。どこか楽しそうにも見えるのは気のせいだろうかと真は思った。


「俺はさっさとアンデットの海賊を倒して帰りたいんだけどな」


「真って、人が多いところ苦手だもんね。『フレンドシップ』の中に入ってるのも疲れてるでしょ?」


「苦手って……ほどじゃないけど、まぁ……あのノリはあまり付いていけないかな……」


ギルド『フレンドシップ』のメンバーは非常に社交的な人が多い。生真面目な女性サブマスターの千尋も、冗談を言わないにしても輪の中に入っている。教科書に出てくるような正統派の充実したグループというのが真から見た『フレンドシップ』だ。


一つの目標に向かって、みんなで力を合わせて頑張って活動をする。非の打ちどころがない、絵にかいたような理想の集団。それが真には眩しかった。


「実を言うと、私もちょっと辛いかも……」


「そうなのか!?」


美月の発言は真にとっては意外だった。翼に次いで美月が『フレンドシップ』に溶け込んでいると思っていたが、そうではないようだ。


「何て言うかさ……結局自分は今まで何をしてきたんだろうって考えちゃうのよね……。真に憧れて、強くなりたくてミッションもやろうって決めたけど、結局は真に頼ってばっかだし……」


「美月……」


「『フレンドシップ』の皆は自分達にできることを一生懸命頑張って、嫌がらせを受けても、諦めないで活動を続けて……。それは凄いなって思うけど……。それでも、やっぱり私は強くなってこの世界を何とかしようっていう気持ちは変わらないんだけど……。なんだろうね上手く言えないよ……」


「美月は……その、なんていうか、すごく頑張ってると……思う」


「ふふっ、ありがとう。真ってほんと、こういう時に上手く言えないよね」


「う、うっせえな」


「ごめん、ごめん。でも、嬉しいのは本当だよ。真は口が上手くないけど、気持ちはよく伝わるから」


少しはにかんだ顔で美月が笑う。真は揶揄われたようにも思ったが、少し照れくさそうにして頭をかいた。


「それにさ、真とこうやって二人で話をするのも久々だよね……。私の悩みを聞いてもらうのも、凄く久しぶりな気もするし、それも嬉しいなって……」


「そ、そうだったか? 美月とはいつも話してるだろ……」


「真、もしかして照れてる? ねえ、照れてる?」


美月が楽しそうに真の顔を覗き込もうとするが、それを躱すようにして真が顔を背ける。


「べ、別に、て、照れて――なんだ?」


真が顔を背けた先の空に白く光る何かが昇っていくのが見えた。それは地上から70~80メートルほどの高さにまで上ると一気に炸裂し、光を放った。


光が発生したのは真達が乗っている船から数キロメートル離れた場所。数秒遅れて、ドンッという爆発音が聞こえてくる。


カンカンッ! カンカンッ! カンカンッ! カンカンッ!


空に白い光が炸裂してからすぐに船の鐘がけたたましく鳴らされる。何か慌てているかのように忙しなく、何度も何度も鐘が打たれる。


「海賊船だー! 海賊船が現れたぞーー!!!」


見張りのNPCが絶叫するかのようにして声を上げる。そして、何度も鐘を打ち付けてから、再度海賊船が出現したことを叫ぶ。それを繰り返す。


「向こうだッ! 準備しろー!!」


「急げ―! もたもたするなッ!」


鐘の音と見張りの叫び声を聞いたNPCの船員たちが続々と甲板へと出てくる。それに遅れて、依頼を受けた現実世界の人達も甲板へと出てきた。


「真ー! 美月ー!」


甲板に出てきた翼が声を張り上げた。翼の後ろには彩音と華凛も一緒にいる。二人ともかなり不安そうな顔をしているが、翼に続いて、真と美月に方へと駆け寄ってきた。


「この船の近くじゃない。まだ少しだけ距離はある。他の船が海賊船を見つけたから、今はそっちに向かっている最中だ」


真が華凛を含め、翼と彩音にも現状を説明した時だった。再び、白い光の球が上空に向かって登って行った。そして、炸裂して夜空に白い光を輝かせる。


「あ、あれですかね……」


打ち上げられた合図の花火を見て、彩音が呟いた。海賊船を見つけた船が合図の花火を打ち上げるというのは聞いていた通だが、やはり、現代の花火とは全く違う。どちらかと言えば閃光弾を打ち上げたといった方が正確だろう。


「蒼井! お前らも全員来てるな。よし、準備はいいか? 少し距離はあるが、そんなに時間がかかるわけじゃなさそうだ」


真達に声をかけてきたのは信也だ。『フレンドシップ』のメンバーも全員が甲板に集まっている。真達が全員いることを確認して信也が大きな声を上げた。


「俺と千尋と小林が前に出る。他は前に出過ぎるな。ソーサラーは範囲攻撃、他は各個撃破と回復役の護衛だ」


信也は複数の敵を想定した的確な指示を出している。普段はいい加減で、細かいことは全く気にしない大雑把な人間だが、ここという時はしっかりと指揮を執る。


これがリーダーの器なのかと感心していた真の方に信也が近づいてきた。


「蒼井、小林が話してたんだが、お前相当強いらしいな。海賊程度なら相手にもならないだろうってな」


「まぁ、海賊くらいなら……」


「ははは! そうか、なら俺の指示は無視して、お前は好きに暴れろ!」


バシッと真の肩を叩くと信也は笑いながら自分のギルドの方へと歩いて行った。





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