王都
1
センシアル王国の首都である王都グランエンド。白い石畳が奇麗に敷き詰めらた王都の入口は広く、そこから伸びる道の幅もまた広い。ただ広いというだけでなく、キスクやウィンジストリアに比べても、その建築技術の高さが伺えるほど整然としている。
グランエンドの入口を入ってすぐのところに商店などはなく、王都入口の警備を任されている軍隊の詰め所と思わしきシンプルながらも気質の高さが見える角ばった建物が並んでいる。
馬車がさらに王都の奥へと進んでいくと、商業施設が見えてくる。ここの道も広く、白い石畳の上を馬車や人が数多く往来しているが、それでも煩雑さを感じさせないのは、王都自体の巨大さと高い建築技術がなせるキャパシティーの大きさからくる優雅さだろう。
「到着しましたよ。長旅お疲れ様でした」
馬車の寄り合い所に停まり、御者が真達に声をかける。
「はい、ありがとうございました」
御者に声をかけられて美月が返事を返す。それに続く様にして他のメンバーも御者に挨拶をして馬車から下りる。
流石に二度目ともなると馬車に降りてからぐずぐずせずに御者と馬に別れを済ます。
「凄いね……」
美月が圧巻の声を上げる。目の前に広がっているのは、理路整然とした大きな街並み。敷き詰められた白い石畳もそうだが、幅広に取られた道の両端に並ぶ建物の立派なものだ。どの建物も他の建物に比べて遜色がない。一定以上の品質と気高さが確保されていた。
「ああ……想像以上だな……」
真も目を丸くして立ちすくんでいる。現代日本建築からすれば、真達の目の前に立っている建物は決して大きくはない。だが、街が一体となってその気品を醸し出している。それは王都という街が一つの大きな芸術作品を思わせるような魅力を持っていた。
「この街って……どれくらいの広さがあるんだろう?」
華凛も王都グランエンドが放つオーラともいうべき、圧力に押されていた。狭い道路に高いビルを建築する窮屈な日本の街とは違い、堂々とした佇まいの街だ。
「そういえばさ、お城はどこなの? 王都なんだからお城があるのよね?」
一人だけ王都の持つ優雅さに気圧されることなく、というより気にしていない翼が素直な疑問を浮かべる。
「翼ちゃん、ここから見えるほど狭い街じゃないと思うよ……」
王都なのだから当然、その中心には王城があるに違いないが、入口に入ってきたばかりでもこれだけの広さを誇る街だ。いくら王城が大きくてもここから見えるような超巨大建造物ではないだろう。ここから見えるとすれば、ドレッドノート アルアインが棲み処にしてた現実世界の超高層ビル、アクレスくらいのものだろう。
「さぁ、これからどうするか……」
一応当初の目的である王都グランエンドに行くという目標は果たされた。
「今回はミッションも何もないわよね……」
美月が口元に手を当てて考え込む。王都に来たのはいいとして、ここからの予定がまだ立てられていない。
「ミッションに関することは通知にはなかったな」
真がバージョンアップの内容を思い出す。大した情報量ではないが、それでも今回は今までで一番通知の内容が多かった。
「だからと言って、攻城戦には不参加の方針だしね……」
華凛も小さく言葉を出す。どうしていいか分からないのは華凛だけではないにしろ、何もアイディアが浮かばないことに少し不安を感じていた。
「まずは周辺探索でいいんじゃない? 馬車に乗れたおかげで効率的にここまでこれたんだしさ。そんなに慌てて何かする必要ないわよ」
翼が物怖じしない声を上げる。あまり深く考えていないだけといえばそうなのだが、それでもどうしていいか分からない時には、こういう深く考えすぎないという性格も役に立つ。
「そうだな。それしかないだろうな……。攻城戦に関する情報をどうやって知るかも確認したいし、王都の周りに何があるかも把握しないといけないからな。周辺探索から始めようか」
真がギルドメンバーに対して指示を出すようにして声を出す。何をどうするにしてもまずは情報収集が先決だ。
王都まで来ている現実の人はまだまだ少ないだろうが、馬車が通っているのであればこれからどんどん入ってくるだろう。共有できる情報があればそれに越したことはない。
「でしたら、まずは王都の把握からですね」
彩音が少し嬉しそうに声を出す。ウィンジストリアもそうだったが、王都は更に都会で大きく奇麗だ。情報収集という名目ではあるが、それでもその街を見れることに心が躍らないわけがなかった。
「うん、それがいいね!」
美月も彩音と同様にキラキラとした瞳をしている。奇麗にな街を見て回りたいという気持ちが溢れんばかりに出ていることが見て取れる。
「じゃあ、明日から王都探索を開始するか」
真としてはまず、王都の周りにどんなモンスターがいるのか知りたかったが、それを言ったところで即座に反対されるのが目に見えるため、後回しにする他ないだろうなと諦観の面持ちで返事をした。
2
真達が王都グランエンドに入ってから以降も続々と現実世界の人々が王都に到着していった。ウィンジストリアに残る人もいたが、馬車に乗れば連れて行ってくれるというのが大きく、主要なギルドの多くは王都に向けて移動していた。
ギルドが大きくなると方針を決めるのにも時間がかかる。センシアル王国領に行くことを決めるまでにも時間のかかったギルドは多い。それでも新エリアであるセンシアル王国領に行くと決めた理由はやはり、ウィンジストリアに留まっていても何も進展はないということや、ドレッドノート アルアインのように突然襲い掛かってくる凶悪モンスターに対して有効な防衛手段は新しいエリアで装備を一新して、さらに強いモンスターを倒して自己を強くすることが有効な手段に他ならないから。
対人戦エリアや攻城戦といった不安要素は残るものの、それら不安要素に関する情報がなければどのように対処していいかも分からない。そうなるとやはり、新エリアであるセンシアル王国領に行って情報を集めるのが得策と言えた。
そうして、真達を含む先発組に遅れるも次々に王都に人が流れてきたのである。
そんなウィンジトリアから王都に来た人々が非常に驚いたことがあった。それは、エル・アーシア以外の地域からも王都に人が来ているということ。
かつて、キスクの街にマール村やヴォルフ村、リンド村から来た人が合流したように、王都グランエンドに各方面から人々が移動してきたのだ。
一つは真達がいたエル・アーシアという高原の大地から来た人々。もう一つはゴ・ダという広大な砂漠地帯から移動してきた人々。最後にコル・シアンの大森林からやってきた人々。この三つの地域から王都へと人々が大勢集まってきたのだ。
当然、エル・アーシア以外の地域から来た人々も、自分たちの地域外から人が来ていることに驚いていた。
ちなみに、ゴ・ダ砂漠はラクダに乗ってセンシアル王国領ツヴァルンに行き、そこからは馬車で王都に向かう。コル・シアン森林から来た人は、籠のついた大きな鳥に乗って大森林を越えてから、馬車に乗り継ぎ、王国領アインスフェルでさらに王都行の馬車に乗り換える。
その地域の特色に合わせて、それぞれの移動手段で王都までやってきた。
そんな、各地方から王都にやってきたギルドの中には攻城戦に積極的なギルドもある。攻城戦への思惑はギルドによって様々。何を思って戦場に足を踏み入れようとするのかも、ギルドによって違う。だが、そんなギルドもやることは他と同じで、まずは情報収集から。
攻城戦とは即ち戦争である。情報が最も有効な武器となりうる戦争において、まずは情報を集めることが優先されることは自明の理だった。
そして、王都に人が流入しだしてから数週間が経過した頃。攻城戦によって最初に支配地域を手に入れたギルドが現れた。