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ドレッドノート Ⅱ

        1



「ガアアアアアアアアアアアーーーーーーッ!!!」



焼け爛れたように赤く染まる夕焼けの空から火球のごとき急降下でドレッドノート アルアインは真を襲撃してきた。


「ぐ……ッ!?」


真は辛うじて身をよじると、大剣を盾にように構えてドラゴンの直撃だけは免れることに成功したが、それでも大空から突撃してきた竜の巨体から放たれる衝撃は凄まじく、真の身体は蹴りだされた小石のように弾き飛ばされてしまった。


「くそがッ……」


不意打ちの攻撃をギリギリのところで防ぐことができたのは勘が当たったから。一瞬逃げたのかと思ったが、咄嗟に考えを修正して刹那の差で間に合わせることができたにすぎない。敵の攻撃を予測して適切な行動をもって対応することができたわけでなく、博打要素が強かったことに真は毒づいていた。


(初見だから仕方ないとはいえ、後手後手だな……)


ダメージを負っているのはドレッドノート アルアインの方だが、手の内が分からないというのはどうしても不安が残る。慎重に戦っているつもりではあるが、やはり対処が遅れがちになってしまっていた。


だが、そんな苦言をドラゴンが聞いてくれるはずもなく、真は弾き飛ばされた体勢を持ち直して、さきほど空からの強襲をしてきたドラゴンの方に目を向ける。


ドレッドノート アルアインは空中庭園の芝生を抉り取るようにして膨大な運動エネルギーを相殺し、ほとんど衝突するような形で着地していた。


真とドレッドノート アルアインは互いに戦闘態勢に戻ると、向き直り、目線を交差させる。


「おおおおおおおおおおーーーッ!!!」


「ガアアアアアアアアアアアアアーーーーッ!!!」


一人と一匹の雄叫びが地上70階の屋上に響き渡ると、両者が猛然と走り出した。


<レイジングストライク>


再度使用するまでの時間が経過したベルセルクの攻撃スキル、レイジングストライクで真が先手を取る。


先ほど真がやられたことのお返しとばかりに、空中から襲撃してくる猛禽類のような鋭い突撃で一気にドレッドノート アルアインまでの距離を詰めると同時にダメージを与える。


真の攻撃を受けたドレッドノート アルアインは初手の時と変わらず、一切の動揺もなく、驚きもなく、ただ単に向かってきた敵に向けて剛腕を振り下ろしてきた。


この攻撃は真も何回も見てきた攻撃。大きく振り上げられた腕から振り下ろされる狂爪。鋭く、そして正確に打ち下ろされる攻撃だが、その分単調で避けやすい。知らない攻撃ならいざ知らず、通常の攻撃であればもはやチャンスでしかない。


<ソードディストラクション>


回避と同時に真が飛び上がり身体ごと斜めに一回転させて大剣を振るう。剣撃から放たれるのは破壊の権化ともいうような強烈な衝撃。


ソードディストラクションはベルセルクが持つ範囲攻撃スキルの中では最も攻撃力が高く、加えてスタンの効果もある、非常に強力な攻撃スキルだ。


(まぁ、スタンは入らないよな)


追加効果としてのスタンはこういうボス格の敵には効果が発揮されないことが多い。当然のことながらドレッドノート アルアインにしても動きを止める様子は見られない。


だが、ソードディストラクションはスタン効果を抜きにしても強烈なダメージを与えることができる。範囲攻撃スキルではあるが、その威力の高さから、単体との戦闘であっても使用することができる状態であれば、使わずに眠らせておくにはもったいないスキルだ。


ドレッドノート アルアインは真からの苛烈な攻撃にも関わらず、一歩も下がることなく再び剛腕を振りかぶり、大きく横薙ぎに鋭い爪を振るう。まるで列車が高速で通過していくような勢いと力強さを持っているが、真は冷静に大剣を盾にして踏みとどまる。


そして、大振りの攻撃は真にとって攻撃のタイミングでもある。防御姿勢を解くと、一気に踏み込んでからの斬撃を入れて、そこからの連続攻撃スキルを叩き込む。


既にこの辺りはパターンとなっているため、真としては落ち着いて戦闘をすることができていた。


するとドレッドノート アルアインは急に大きな翼をバタつかせ始めた。


(これはちょっと嫌なんだよな……)


真は内心愚痴をこぼすと、後方へと飛び退いてドレッドノート アルアインとの距離を取った。ドレッドノート アルアインが大きな翼をバタつかせると、その次に来るのは強烈な尾撃。鞭のようにしなり、高速で飛んでくる尾撃は喰らえば弾き飛ばされてしまう。


そのため、尻尾の届く範囲内から出ようと後方へ飛び退いたのだが、


バシーーーーンッ!!!


「チッ……ッ!?」


真の飛び退いた範囲をドレッドノート アルアインの長い尻尾は軽々と超えてぶつけてきた。


それでも、真は直撃を回避することには成功している。武器による防御姿勢のまま後方に飛んでいるため、飛んできた尾撃もガードすることができていた。



        2



巨大なドラゴンと一人のベルセルクが戦う様を空中庭園エアリアルのレストラン街の巨大なガラス越しに美月は固唾をのんで見守っていた。


祈るようにして握られた両手には自然と力が入り、手のひらには汗が滲んでいるが、美月本人はその状態に気が付いてすらいない。目線の先で激闘を繰り広げている真とドレッドノート アルアインから意識を外すことができないからだ。


美月の横で一緒に激闘を見守っている翼や彩音、華凛にしても気持ちは美月と変わらない。だが、美月は真のこととなると心配性になる傾向が強い。


「あッ!?」


真がドレッドノート アルアインの攻撃で弾き飛ばされるたびに美月は声を上げてしまっている。先ほど、ドレッドノート アルアインが空中から真に激突してきた時には飛び出して行きそうになったのを翼が必死で抑えたくらいだ。


「美月! 大丈夫だからッ! 真なら大丈夫だから!」


不安に声を上げる美月に対して翼が手を取って声を上げた。声をかけられたことでハッとなった美月は翼の手に汗が滲んでいることを感じ取った。


「翼……ごめん……私……」


翼の手に滲んだ汗に気が付いたことで、美月自身の手にも相当汗をかいていることにようやく意識が向いた。心配しているのは自分だけではない、翼も必死で不安と戦っているのだと。


「美月さん……気持ちはみんな一緒です。できることなら私だって真さんの助けになりたいです……。でも、私達はあそこには行けないんです……」


彩音が美月の心中を察して声をかけた。彩音にしても、美月や翼と思いは同じ。真について来ているが、戦いを見守ることしかできない自分の無力さが歯痒い。


「分かってる……分かってるけど……」


彩音に言われるまでもなく、今見ている激闘の渦の中に飛び込むのは自殺行為であるということくらい理解できる。


まるで人外同士の死闘を繰り広げている両者であるが、それでも、真がピンチになるようなことがあれば美月は戦いの渦中に飛び込む覚悟はできている。それが、何の意味もなさないとしても、真が危険に晒されるようなことがあれば巨大な化け物にも向かって行くと心に誓っている。


「ねぇ、真君って……どれだけ強いの?」


ずっと黙って激闘を見ていた華凛が唐突に声を上げた。おもむろに発せられた声に美月たちはどう答えていいか分からずにいた。


「あ、ごめん、私あまり空気とか読めない方だから……。その、本当に真君が回復もなしに戦い続けてるから、どうしても気になっちゃって……」


少し気まずさを覚えた華凛が言い繕うようにして言葉を並べる。空気が読めない方だと言うのは言い訳めいているが、事実そうだし、気になったことはこの戦いとは無関係なことではない。むしろ、この戦いの中心は真の強さだと言っても過言ではないはずだ。


「あ、えっとね……真がどれだけ強いかっていうことなんだけど……。正直言うと私達も分かってないの……」


歯切れの悪い言い方で、美月は華凛から少し目線を外して答えた。


「えっ!? でも、ずっと真君と一緒にいるんでしょ?」


「そうなんだけどね……。真の強さがどれくらいなのか、測りようがないっていうか……。ドレッドノート アルアインも真が倒せるって言うから、それを信じるしかなくて……」


美月の不安の根底にあるものの正体はこの言葉に表されていた。美月自身が真の強さを正確に把握することができていない。だから、真が大丈夫と言っても、本当に大丈夫なのかどうか測れるものがない。だから、いくら真が勝てると言っても、ドレッドノート アルアインのような巨大な化け物と戦っている光景は見た目だけで判断するなら、少女とドラゴンの戦いだ。不安にならない方がおかしい。


「でも、少なくとも真君はドレッドノート アルアインよりは強いってことだよね?」


華凛は真の強さの片鱗をこの前見たばかりだ。それでも、ドレッドノート アルアインと互角以上に戦っている真は更に強いのだろうと美月に問いかける。


「……うん。そう、そうだよ! 真はあんな奴よりもずっと強いよ!」


華凛の言葉に美月は意識を改めた。真が勝てると言った相手だ。真の強さがどれだけのものかは分からないが、少なくとも今測ることのできる物差しでは、ドレッドノート アルアインよりも強いと計測することができた。





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