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最初のミッション Ⅰ

        1



― 繰り返します。本日正午を持ちまして、『World in birth Real Online』のバージョンアップを実施いたします。バージョンアップの内容につきましては、皆様それぞれにメッセージを送付いたしますので、各自でご確認ください。 ―


声はそれで終わった。


(今日の正午ってもうすぐじゃないかよ!なんでバージョンアップの告知が直前なんだよ!)


MMORPGをやっている者にとって、バージョンアップは楽しみの一つだ。ゲームの仕様が変更されたり、新たなスキルや装備、ダンジョンが追加され、世界がさらに広くなる。当然、事前に告知があり、いつバージョンアップが実施されるかも知らされる。


だが、このバージョンアップは直前まで伏せられていた。今の正確な時間は分からないが太陽の位置からほぼ正午であるというこは推測できた。


(一旦村に戻るか)


バージョンアップの内容をゆっくりと確認したいし、外にいるよりは村に戻った方が他の人から情報も手に入るかもしれない。


真はゴブリンたちの生息する地域を離れて、平原に足を踏み入れた。その時。


【メッセージが届きました】


真の頭の中に声が響いた。正確な時刻は分からないが、正午になったのだろう。バージョンアップが実施されて、その内容が記された文書が送られてきたに違いない。真は目の前に浮いているレターに触れてみた。


【バージョンアップ案内。本日正午を持ちまして、『World in birth Real Online』のバージョンアップを実施いたしました。バージョンアップの内容は以下の通りです。


1 ミッションの追加。


2 新たなダンジョンの追加。


3 封鎖区画の封鎖解除。なお、封鎖を解除するための条件として、1のミッションをクリアしていただく必要があります。ミッションは村長から話を聞くことで開始することができます】


バージョンアップの内容は以上だった。


「これだけっ?」


真は驚いていた。内容が薄すぎる。どんなミッションが追加されて、どんなダンジョンが追加されて、どこの封鎖区画の封鎖を解除できるのかが全く記されていない。普通のMMORPGであれば攻略法までは情報公開しないまでも、大まかなミッションの内容や、ダンジョンにいるボス、落とす装備の情報は予め開示されているのが普通だ。さらに、封鎖されている区画を開放するのであれば、それに期待をよせるプレイヤーもいるので、どこの封鎖を解除してどこに行けるのかという情報があって普通だ。


このゲーム化による浸食を受けた世界と商業目的のゲームを一緒にすること自体が間違っているのかもしれないが、情報が少なすぎる。


(まぁ、もともと村に戻るつもりだったしな。バージョンアップの案内にも村長に話しを聞けって書いてあるし、戻るか)


真は不親切なバージョンアップ案内に不満を抱きつつも、村に戻ることにした。



        2



一時間ほど歩いて真が村に戻ってくると、ちょっとした騒ぎになっていた。大きな混乱が起こっているわけではないが、ざわついている。戻ってきたばかりで状況がつかめていない真はとりあえず村長を探すことにした。


(村長ってどこにいるんだろ?やっぱ、村の中心かな?)


ここ一週間、真はほぼというか、すべてソロプレイをしてきた。そのため、他の人と情報交換をするということは皆無であり、村長の居場所など知るわけもない。


村の中心に行くとさらにざわついていた。何人もの男たちが話し合っている。


(ミッションのことかな?)


真は話し合いの輪の中には入らずに、話声の聞こえる位置まできて聞き耳を立てた。


「やるしかないんじゃないのか?」


「ゴブリンって危なくないのか?人を襲ってくるんだろ?」


「山砦にいるってことは、組織立ってるってことだと思います。こっちも人数揃えて行かないと駄目でしょうね。」


「そもそも、ゴブリンっていうのがよく分かってないんだが」


「ファンタジー小説や映画で出てくる、邪悪な妖精みたいなやつですよ」


予想通り、ミッションのことを話しているようだ。気になる単語は『ゴブリン』と『山砦』。この二つがキーワードだろう。


(山砦に行って、そこにいるゴブリンを退治してこいっていう内容だろうな)


最初のミッションなのでこの程度のものだろうと、真は思った。最弱モンスターの一角であるゴブリンを退治させるのは、ほとんどチュートリアルのようなものだ。誰でもクリアできる程度の難易度しかない、簡単なミッションなのだろう。


(だとしたら、新たなダンジョンっていうのが気になるな)


バージョンアプ案内に記載されていた内容で、『2 新たなダンジョンを追加しました。』とある。それがどこにあるのかは分からないが、もしかしたら、村の外の平原にダンジョンが追加されているかもしれない。なら、ミッションで人々がそっちに目が行っている間に、ダンジョンの方を行っておいた方がいいかもしれない。


(って言っても、ゴブリン退治なんてすぐ終わるだろうけど)


真は、ミッションよりもダンジョン攻略を優先させることにした。


(その前に、飯食ってからにするか)


時間は正午より一時間ほど経っている。まだ昼食を食べていない真は腹が減っていた。最近いつも使っている店があるので、そこで腹ごしらえをすることに決めた。



        3



バージョンアップがあった日の夜。村の中心に近いところにある広場では焚き火を囲んで20~30人ほどの人が集まって座っていた。皆それぞれに真剣な表情をしている。その中に真の姿はない。


「えー、話し合いの結果、仮ではあるが、リーダーということで皆の指揮を取らせてもらう、馬淵健介だ。少しの間だがよろしく頼む」


一人の男が立ち上がって話を始めた。年のころは30代後半から40代といったところか。体つきはがっしりとしていて身長も高い。顔つきは堀が深く、体育会系の風貌だ。


「改めて、話をさせてもらうが、明日の正午に山砦に行き、ゴブリンとかいうやつを倒しにいくメンバーを募集したい。できれば、準備に時間をかけたいところだが、今の状況で準備と言ってもやることはない。この村で手に入る武器は大体の人が持っていると思う。それに、早くこの世界を何とかしたい。俺も妻がどこに行ったか分からない状態だ。このミッションを成功させることで、離れ離れになった人に近づけると思う。だから、急な話だが、明日の正午に作戦を決行する」


焚き火が照らす人々の顔は複雑な思いがあった。馬淵が言う通り、ここに集まっている人は大切な人と離れ離れになっている。その安否が気になって仕方がない。揺れる焚き火の炎と同じように、ゆらゆらと安定せずにこの数日間を過ごしてきたに違いない。


「そこで、正式に作戦に参加してくれる人をこの場で集めたい。もちろん、俺は参加する。無理強いはしないが、できるだけ多くの人に来てもらいたい。だが、待ってはいられない。さっきも言った通り、俺の妻はどこにいるか分からない。一刻も早くこの状況を打破したい。他のみんなもそうだと思う。そのためにみんなの力を貸してほしい」


馬淵の声に呼応するかのようにして焚き火の炎が風に吹かれて勢いを増した。熱で飛ばされる火の粉が高く舞い上がる。


「俺、行きます!」


一人の若者が立ち上がった。この男も大切な人と生き別れたに違いない。だからこそこの場にいる。


「僕も連れて行ってくれ!」


立ち上がった男に続くようにして、他の男が立ち上がった。メガネをかけた20代くらいの男性。この男も思いは同じなのだろう。


「私も行くわ!」


スポーツで鍛えられたような体をしている女性が立ち上がった。体つきは細いが筋肉がしっかりとしている。


「俺も!」


その後に続くようにして、何人もの人が名乗りを上げた。そして、


「13、14、15人だな。よし、これくらいいればいいだろう。他に行く人はいないか?」


馬淵が参加者の人数を数え、最後にもう一度声をかけた。


「私も……連れて行ってください!」


最後に名乗りを上げたのは高校生くらいの少女だった。茶色いミドルロングヘアーが焚き火に照らされて、淡い色をしている。だが、その瞳は炎のようにしっかりとした決意を持った目だった。



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