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手掛かり

        1



華凛は何が起こっているのか訳が分からず、目を丸くして突然始まった激闘を呆然と見ていた。


巨大なドラゴン、ドレッドノート アルアインに猛然と立ち向かっているのは、赤黒い髪の毛のすらりとした体形のベルセルク。


ドラゴンの巨大な爪も、凶悪な牙も物ともせずに大剣を振りかざす。豪快な斬撃だが、線の細い身体から繰り出される流れるような斬撃には無駄がなく、しなやかなのに力強い。いつしか華凛の心を喰い散らかした恐怖は霧散し、目の前のベルセルクに見とれてた。


「ガアアアアアアアアァァァァァァーーーーーーーーッ!!!!」


戦いの最中、突然、ドレッドノート アルアインは頭を上げて悲鳴のような咆哮を上げた。その暴力的なほど大きな咆哮に華凛の意識は再び恐怖に引きずり込まれる。


だが、華凛が感じた恐怖とは裏腹に、ドレッドノート アルアインは大きな翼を広げて飛び上がると、そのまま空の彼方へと消えていった。


後に残されたのは、大剣を持ったまま大地に立っているベルセルクと腰を抜かして動けなくなっている華凛。


「大丈夫か?」


赤黒い髪をしたベルセルクが振り返ると華凛に近づいて来て声をかけた。


「えっ……!?」


華凛は近づいて来たベルセルクを見て驚きに声を失くした。赤黒い髪をしたショートカットの美少女。気の強そうな顔をしているが、奇麗な顔立ちをしている。年は自分とそれほど変わらないだろう。16、17歳といったところか。


「立てるか?」


「え、ああ、あ、はい……」


華凛の混乱した頭がまだ正常に機能していない。ドレッドノート アルアインが突然襲ってきただけでもパニックを通り越して錯乱した状態になっているところに、そのドレッドノート アルアインを追い払ったのが自分と同い年くらいの少女だった。まるで意味が分からなかった。


「真ーっ!!」


華凛とベルセルクは声のした方向へ顔を向けた。走ってこちらに近づいてきているのは三人の少女。声を上げているのは茶色いミドルロングの髪が奇麗な少女。あどけなさの残る顔はかなり心配している様子が伺える。その横を走っているのが紺色の癖毛が特徴的な少女だ。どこか猫っぽい感じがする。そして、遅れて走ってきているのはメガネをかけた長い黒髪の少女。こちらは大人しそうな印象を受ける。揃いも揃って美少女だ。


「真っ……! ねえ、心配させないでよ……。急にあんな怪物に飛びかかっていくんだもん。ほんともう、見てるこっちが心臓止まるかと思ったわよ……」


茶色いミドルロング少女が苦言を呈している。少し怒っているようだった。


「ああ、大丈夫だ」


「もうっ! 大丈夫とかじゃなくて、いきなりあんな怪物に飛びかかっていかないでってことよ!」


「あ、ああ……すまん」


「ほんと、よくあんなのに飛びかかっていくわよね」


「翼ちゃんも弓撃とうとしてたよね……」


華凛の前で四人少女達がそれぞれにしゃべっている。ついさっきまで、ドレッドノート アルアインがこの場に居たとは思えないような光景。


「あっ……あの……」


華凛は腰を抜かして、大地に座り込んだままで声を上げた。


「あ、すまん。立てるか? 取りあえず街に戻って落ち着ける場所に行こう」


「は、はい……」


赤黒い髪の毛をしたベルセルクが手を差し伸べてきた。奇麗な手だった。指は細くすらっと長い。その手を取って華凛が立ち上がる。


「真っ! あんた何をいきなりナンパしてるのよ!」


「おい、翼っ!? ナンパなんてしてねえよ!」


「ナンパ……?」


華凛は話の内容がよく理解できずに聞き返していた。何故、少女がナンパをしてくるのか。もしかして、そういう趣味の人なのだろうか。


「あ、こいつね、真っていうんだけど、こんな顔してるけど男だから」


「えっ!? 男の人……!?」


指を指されている赤黒い髪をしたショートカットのベルセルクを見て華凛が驚愕の声を上げた。男と言われればそうも見えなくもない気もしないが、やはり顔は女性に近い。


「まぁ、取りあえず街に戻りましょう。ここに置いて帰るわけにも行かないでしょうしね。ナンパしたいのかどうかは知らないけどね!」


「美月まで、おい!? 俺はそんなつもりはねえよ!」


華凛は真と呼ばれたベルセルクが理不尽に責められている様子を見ながら、天啓を授かったような思いでいた。


(ドレッドノート アルアインを退けた……そんなことができるのは……まさか、インヴィジブル フォースと何か関係があるのかも……でも、見た目は女の子にしか……)


華凛は考え込んでいた。インヴィジブル フォースは屈強な男達が揃う精鋭部隊だと聞いている。真は男性だろうが、屈強な男とは程遠い。それに他の三人は女性で間違いなさそうだし、それこそ屈強な男達の精鋭部隊とは対極に位置している。


(でも、ようやく掴んだ手掛かり……見過ごすわけにはいかない!)


かつて所属していたギルド『花鳥諷詠』のギルドマスターである黒崎梓が言っていた、『強い人を見つければ手掛かりになるんじゃないの』という話。これだけが、華凛の持っているインヴィジブル フォースに関する手掛かりだ。半信半疑だったが、実際にドレッドノート アルアインを退けた真を見て、一気に真実味が増した。


「あ、あの……真君。助けてくれて、その、ありがとう……」


華凛は立ち上がり、真に顔を近づけて上目遣いで言った。


「いや、別に大したことはしてねえよ。そ、それよりもさ、早く街に戻った方が良くないか?」


少し照れた表情をしている真に対して、周りの女子が冷たい目線を送る。だが、華凛はそんなことお構いなしとばかりに真の目を見つめる。


「はい……。あの、お願い……一緒に来て」


華凛は引くわけにはいかなかった。インヴィジブル フォースという雲をつかむような話し。それに縋るしか道は残されていなかったが、ひょんなことから糸口が見つかった。


相手が男なら華凛は自分の武器が使える。ここで手放すなどという選択肢はない。



        2



真達と華凛はウィンジストリアに戻ってくると、街の中はかなり騒がしかった。喧騒にも似たざわつきの原因はバージョンアップ。『ドレッドノート アルアインの行動が一部変更された』とあるが、具体的なことは何も分からない。エル・アーシアにいれば安全なのかどうか、今はまだ何も情報がない状態で判断を下すことができずにいた。


そんな落ち着かない街の中心からは少し離れた場所にあるカフェに真達は来ていた。


レンガ造りの壁に木製の椅子とテーブル。古い店だが落ち着いた色合いの内装をしており、店の窓からは街のシンボルとも言うべき大きな風車小屋が見える。客も少ないため、心を休めるのには丁度良い場所だった。


注文したハーブティーを手に華凛は一息ついた。


「えっと、自己紹介がまだだったな。俺は蒼井 真」


「真田 美月です」


「椎名 翼よ」


「あ、八神 彩音です」


「橘 華凛です……。あの……さっきは助けてくれてありがとう」


それぞれに自己紹介をする。美月と翼はなぜか不機嫌そうな声をしている。そんな空気にどうしていいか分からない彩音は目をそらしてハーブティーを飲んでいる。


「いや、大したことはしてないからいいんだ。橘さんも無事で良かった」


「ありがとう……。ねぇ、真君。私のことは華凛って呼んでもらっていいよ」


華凛の発言に美月の頬がピクッと引きつり、翼が眉を顰める。それに気が付いたのは彩音だけだが、何も言えることがなかった。


「あぁ、そうか、分かった。ところで、あれは何だったんだ? あんな大きなドラゴンがいきなり現れるなんて想定してねえよ」


「それにいきなり突っ込む真も想定してないわよ……。でも華凛さんが助かったんだから、まぁ、良かったけど……」


美月が少し不貞腐れている。巨大なドラゴンが少女を襲っていると分かってから、すぐに真がソニックブレードを放ち、その後も即座にレイジングストライクで距離を詰めていった。勇敢な行動だとは思うが、怪物を相手に突然そんな行動を取られると美月は心臓が張り裂けそうになる。


「ほんと、あんな奴がいるなんて聞いてないわよ!」


「翼ちゃんもお願いだから、あんな怪物に向かって弓を撃つの止めようね。私が止めてなかったら、真さんの次に撃ってたよね?」


彩音の心配の種である翼は未だに行動が変わっていない。真がいるからまだ安心はできるが、それでも、あれほど巨大なドラゴンに向かって弓を撃とうとする神経が理解できない。


「ね、ねぇ……ちょっと、待って。あなた達……あれが何か知らないの……?」


華凛は信じられないというような表情で真達四人を見ている。


「ああ、初めて見る奴だからな。ドラゴンがいるなんて聞いてないよ……っていうか、華凛は知ってるのか?」


真からしてみれば、なぜ華凛があのドラゴンを知っているかのような口ぶりをしているのかが疑問だった。


「知ってるも何も、どうしてドレッドノート アルアインを知らないの?」


あれだけ騒ぎになったドレッドノート アルアイン。ほとんどの人がキスクの街を出てウィンジストリアへ来た理由。真達も同じ理由でウィンジストリアへ来たのではないのか。華凛はそのことがとても不可解だった。






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