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探索 Ⅲ

        1



『World in birth Real Online』が始まり、半日が経過した。現実世界の街の中はまだまだ混乱が続いている。


日が沈んでしまったため、真は一旦家に帰るために平原と現実の街の境目まで戻ってきた。ここからなら歩いて5分で家に帰れる。


人が少ないせいもあるだろうか、見慣れた街の風景が全く別の物に見えた。ふと、今日の正午に聞こえてきた声を思い出す。『人数が多すぎるため、並行世界にランダムで行ってもらった』と。そのせいで人が少ないのだろう。この時間ならいつも賑わっているはずの駅前が閑散としていた。


真は見慣れた景色に違和感を覚えつつも家路についた。家の周りもやはり人が少ない。街灯もついていないし、民家の明かりもない。


(こんなに暗くなるのか……)


自然の光だけしかない状態だと、日が沈めば真っ暗だ。月と星の光以外に街の中を照らすものはない。村にはランプがあったため、日が沈む前ということもあったが明るさがあった。中世ファンタジーの世界の方が夜は明るいというのはなんとも落ちぶれたものだ。


真は家に帰ると、真っ暗な家の中を手探りで自室に戻った。流石に慣れ親しんだ我が家だ。碌に見えなくても手探りだけで自分の部屋にたどり着くことができた。


(はぁ、日が落ちてしまったら、もう寝る以外にやることがないんだよな)


ネットもテレビも使えない。蛍光灯は付かない。水道、ガスは確認するまでもなく使えないだろう。使えたなら他の家が真っ暗なわけない。そうなるともはや寝る以外にすることがない。


真は仕方なく寝ることにした。日が沈んだら寝る。日が昇ったら起きる。何とも自然な生き方だ。


結局、真が寝ることができたのは数時間たってから。それでも昼夜逆転した生活の真が眠りに付けたのは早い方だろう。なんだかんだ言っても、今日は疲れていたのだ。



        2



次の日、真は街の中を探索することにした。昨日、平原を探索した時に手に入れたアイテムを村で売ったがあまり金にはならなかった。それでも、村で食事をする分には足りる額であり、もっとちゃんと稼げば、余裕も出てくるだろう。


村で食事をすることができるのは分かったので、今度は現実の街で何が手に入るのかを探す。円がないため、買い物はできないが、どういう状況にあるのかは知っておきたい。


まず、真が向かったところはコンビニ。駅前にコンビニがあるのでそこに行ってみる。


アスファルトと平原の境目。そこにはまだ進むかどうかを迷い、座り込んでいる人がいた。昨日に比べれば数はかなり少なくなっているが、それでもまだいる。そんな人を横目に真はコンビニの前に来た。


(あれ?開いてる……)


コンビニの自動ドアは開いたままになっていた。昨日、家にある電化製品が使えなくなっていたので、おそらく自動ドアも使えなくなっているのだろう。誰かが開けて、そのままにしているため、コンビニのドアが開いたままになっているのだと推測する。


真は気にせず、そのままコンビニの店内に入った。駅前のコンビニなので、あまりスペースが取れず、店内は広くない。やはりというか、当たり前だが店員はいないし、『いらっしゃいませ』とは言われない。


店員はいないが店内は整っていた。商品は過不足なく置かれ、陳列もちゃんとしている。弁当の品揃えも十分だ。レジ横の揚げ物やおでんも揃っている。


(なんでだ?)


真は不可解だった。どうして普通なんだろう。海外では災害があった日に街の機能が停止して、店の物が盗まれたという話をテレビで見たことがある。治安の良い日本だと、こんな状況でもコンビニの食べ物にすら手を出さないのか。いくらなんでもそこまで治安が良いと逆に滑稽に思えてくる。


そんなことを思いながら真は商品に手を伸ばしてみた。そこで疑問が解決した。商品に触れないのだ。見えない壁のような何かがあり、商品に手が届く前に阻まれる。食品だけでなく、日用品、雑誌、たばこ、飲料にいたるまですべて。


(こういうところまでゲーム化されてるのかよ)


ゲームで店に入っても陳列されている商品に手を触れることはできない。店員に話しかけて、リストから買いたいものを選んで購入する。商品を持って行って、レジで精算する必要があるゲームはやったことがない。だから、陳列されている商品はオブジェなのだ。壁に描かれている絵と同じといってもいいだろう。これほどまでに店内が奇麗なのはそのためだ。


(ということは、他の店もここと同じか?)


真は確かめることにした。飲食店は店員がいないので、行かなくてもいいだろう。それなら、近くに本屋がある。そこに行ってみることにした。


歩いて1分ほどのところにある書店。ここの自動ドアも機能はしておらず半開きになっている。大きな窓ガラスがある店なので、外からでも中の様子が伺える。コンビニと同じく店内は奇麗に整頓されていた。一応、店の中に入ってみて本を手に取ろうとするが、やはり駄目だった。見えない何かに邪魔をされて触ることができない。


書店の向かいにある電気屋も同じであった。店に入ることはできるが商品に触ることができない。電気屋の隣の携帯ショップも当然のことながら同じ。


(街中の探索はあまり意味がないか)


食料やライターなどが手に入ればと思っていたが、結局駄目だった。やはり、ゲームと同じく、モンスターを倒して、ゲーム化した場所で売買をしないと物が手に入らない。


ただ、店の中に入れることは助かった。この先、遠くに行くことになった場合、野宿せずにすむかもしれない。ホテルなんかの床だと、カーペットが敷かれている所もあるため、地べたに寝ても寝心地は良いはずだ。



        3



『World in birth Real Online』が始まり、一週間が経過した。最初は要領を掴んでない人でも何をしないといけないかを理解し、マール村の周辺では大ネズミや大ウサギを狩る人が増えている。ただ、村周辺のモンスターの落とす物は二束三文にしかならないため、一日の生活費を稼ぐにも一苦労だ。


真は村からは離れた場所にあるところで狩りをしていた。そこは村から一時間ほど歩いた場所にある、平原と現実世界の境界線を越えた場所。一日目に村から周りの景色を見渡して、遠くにビルが見えた方角にある場所だ。


平原が突然ぶつ切りになったように途絶えてアスファルトの道路が出てくる場所。現実世界の街の中だが、人はいなかった。人の代わりにいるのはゴブリン。ファンタジー世界での雑魚モンスターの代表格ともいえる小鬼の魔物。


こいつらも他のモンスターの例に漏れず、真の一撃で沈むが、落とすアイテムが良かった。良いといっても、他の小動物モンスターに比べて良いというだけで、大した金にならないのは事実だが、他にここで狩りをする人がおらず、真の独占状態になることは美味かった。


平原と現実世界の探索を一週間続けた真はあることに気が付いた。それは行ける範囲が限られているということ。今いる場所も奥の方に行けば、道が途絶えている。瓦礫に塞がれて行けなくなっているのだ。瓦礫の上を登ろうとしても、途中で見えない壁に阻まれて行けなくなる。こういうところもゲーム化の影響だろう。それは平原の方も同じだった。山の上もある程度登ると見えない壁に阻まれて行けなくなる。


ただ、そのことに気が付いているのは真以外にはほぼいないだろう。そこまでの余裕がないはずだ。村から離れて、もし、巨大ワームのようなモンスターに襲われでもしたら命がない。それに、今、真がいる場所のゴブリンも一匹ずつというわけではない。集団で襲ってくることもある。真にかかれば範囲攻撃一発でオーバーキルだから問題はないのだが。


(問題はないんだけど、いつまでこんなことを続けるんだろ)


真がそんなことを考えている時、突然、一週間前に聞いた、大音量のあの声が世界に響き渡った。


― 皆様、『World in birth Real Online』におきまして、本日正午にバージョンアップを実施いたします。 ―



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