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探索 Ⅱ

巨大ワームの円形の口は内側を囲むようにして牙が生えていた。口は開いたままで、緑色の液体が涎のように垂れている。


「まじかよっ!?」


こんな初っ端で巨大モンスターと遭遇するなんて想定していなかった。真は崩れた姿勢を立て直して、すぐさま逃げ出す。この世界は現実世界と同じ、ゲーム化の影響で死ぬことがある。数時間前に説明された声を思い出してゾッとした。


逃げる真を巨大ワームは追いかけてきた。しかも早い。すぐに追いつかれて、その巨体で真に飛びかかってきた。


「ぐあっ!」


斜め上から飛び込んできた巨大ワームの口を横に飛んで回避する。大地に倒れ込むようにして飛び込んだが、すぐさま立ち上がって走らないといけない。巨大ワームは攻撃を外したからといって諦めてはくれないだろう。


一時的に標的を見失った巨大ワームだが、あっという間に真を見つけると再度追いかけてきた。


「くっそおーーー!!!」


真は必死で走った。ここまで必死になって走ったのはおそらく生まれて初めてだろう。学校に行っていたときの運動会でさえここまで本気で走ったことはない。


額に汗をかきながらも必死で走るが、それでも巨大ワームの方が早い。再び巨大ワームは狙いを定めて真目がけて飛びかかってきた。


「うわあっ!!」


寸でのとっころで真は転がるようにしてこの攻撃を回避した。巨大ワームの方は大地に頭から突っ込み、そのまま低い音を響かせて地面の中へと潜っていった。しかも凄まじい速度で潜っていく。地上を走るよりも早いのではないかと思うくらいに。


「これって……」


真は嫌な予感がした。ゲームの中でも巨大なワームが地面の中に潜っていくものは多い。その多くは見えない地面の下から奇襲をかけてくる。つまり……。


ゴゴゴゴゴ。地響きにも似た低い音が聞こえだし、真は周りを警戒した。どこにいるか分からないが、一つだけ分かることは近くにいること。ただ、どこから出てくるかが分からない。


「こっちか!?」


咄嗟に後ろを振り返る。が、何もいない。更に横を向くが姿が見えない。辺りを見渡しても低い音が響いているだけで姿が見えない。


地面から響く低い音は更に大きくなり、そして、その音が鮮明になった時、真の正面の地面から巨大ワームが飛び出してきた。


「っ!?」


反射的に体が動き、持っていた大剣で巨大ワームの体当たりを受け止めた。質量が桁違いの相手からの体当たり。地面を信じられないスピードで潜っていくほどの力強さ。巨大で鋭い牙。それらが真に直撃した。


「うん……?」


巨大ワームの攻撃で後方に弾かれたが、痛みはない。しかも、あれだけの巨体がぶつかってきたにも拘わらず、後方に押されたくらいにしか影響を受けていない。


「……HPオープン」


確認のために今のHPを表示させる。普段は視界の邪魔になるので伏せられているが、一言唱えればすぐに見ることができる。確認できたHPは全く減っていない。一切のダメージを受けていない。


巨大ワームは体を地上に出しながら、くねくねと真へ攻撃を仕掛けるタイミングを計っている。


(こいつ、もしかして……)


真は剣を構えて、巨大ワームを睨み付けた。


<ソニックブレード>


振り払った真の大剣から出たのは真空のかまいたち。甲高い音を鳴らしながら音速の刃が飛んでいき、狙い澄ましたように巨大ワームの体に当たると、なんの抵抗もなく真っ二つに巨大ワームを両断した。


ソニックブレードはベルセルクのスキルの一つ。近接アタッカーであるベルセルクには珍しい遠距離攻撃が可能なスキルだ。気持ちの悪い巨大ワームに近づきたくないという思いから、真はこのスキルを選択した。連続攻撃でクロスソニックブレードにも派生するスキルだが、連続攻撃に移る前に巨大ワームは倒れた。


「弱っ!」


思わず真の口から言葉が漏れた。相手が弱いというよりは、レベル100のベルセルクが最強装備をしていて、初期エリアに現れるモンスターに後れを取るわけがない。だが、ゲームと違い、現実にあれほど巨大な生物が襲ってくるとそれは恐怖だった。真は背中にびっしょりと嫌な汗をかいていた。


倒れた巨大ワームからは白い靄が出ている。何かアイテムを落としたということだろう。真は気持ち悪いと思いながらも巨大ワームの死骸に近づき、手をかざしてみた。


『ランドイーターベルト』


手に入れたのは装備品だった。何匹かモンスターを狩ったが、装備品が出たのはこれが初めてだった。装備品の情報を見てみると、『レアグレード 装備可能レベル5~ 防御+10 HP+30』と表示されている。


(レアか、いらないな。でも、まぁ、売ればそれなりの金になるかもしれないか)


『World in birth Online』の世界にある装備にはグレードが設定されている。同じレベルの装備でも高いグレードの装備の方がより強力になるのである。一番下のグレードは『ノーマル』次に『レア』と続き、『ヒーロー』、『レジェンド』、そして、最上級の『ミシック』がある。当然のことながら真の装備は全てミシックグレード。高いグレードの装備はそれだけ入手が困難であるが、ノーマルとミシックでは、同じレベルの装備でも性能は天と地ほどの差がある。


(今のこの世界はどこまでのグレードが存在するんだろう……?)


『World in birth Online』も最初からミシックグレードの装備が実装されていたわけではない。度重なるバージョンアップによってようやくミシックグレードの装備が実装されるに至った。最初の頃はヒーローグレードまでしか存在しなかった。


(いったん帰るとするか)


日はまだ昇っているが、帰るまでの時間を考慮すればこのあたりで切り上げるのがいいだろう。真はそう判断した。


(もっと遠くに行く場合は野宿を覚悟しないといけないかもしれないな……)


乗り物が使えるのであればもっと早く移動することができるだろうが、お金がかかるだろう。マール村でも馬は見かけたので、もしかしたら貸してくれるかもしれないが、今はまだ遠くに行く段階ではない。


ぐぅ~~


真の腹の虫が鳴った。


(そういえば起きてから何も食べてないな。ゲーム化しているとはいえ、やっぱり腹は減るんだな)


ある側面はゲームで、もう片方の側面は現実。腹が減るのも現実の生理現象だ。生きていく上ではどうしても食事を摂らないといけない。


(どこで食べ物を手に入れたらいいんだろう?コンビニは使えるのか?っていっても、財布がなくなってるから、円もないんだけど。コンビニでゴールドは使えないよな……。開いてるかどうかも知らないけど)


真が平原に入る前には駅前のコンビニが残っていたことを確認している。だが、店内にまでは入っていない。そこまで確認する余裕はなかった。もし、この状況で平常営業していたらそれはそれで凄いことだ。いくらなんでもブラックすぎる。


(まぁいい。村に戻って何か食べる物があるか確認してみよう)


巨大ワームとの戦闘は余裕で勝てたものの、最初の方は無駄に逃げ回ったことで疲れていた。心労とでもいうのだろうか、不必要な恐怖を感じたせいでストレスがたまった。見た目が気持ち悪かったというのもストレスになる。身体的なものよりも精神的な方が疲れた真は村への帰路を歩き出した。



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