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試練 Ⅲ

<ソードディストラクション>


真が突撃してくる剣闘士の石像達に飛び込んで範囲攻撃スキルを発動させる。空間ごと破壊するかのような振動と衝撃が無造作にまき散らされて、向かってきた10体の剣闘士の石像に襲い掛かる。


ソードディストラクションはベルセルクが持つ範囲攻撃スキルの中では最も攻撃力が高いスキル。しかも、攻撃範囲内に入った敵をスタンさせることができるため時には強力な切り札にもなり得る。その分、再度使用するまでにかかる時間が長く設定されている。


「あの馬鹿っ、何考えてんのよ!?」


翼が驚愕にも似た声を上げる。ガーゴイルはまだ5体残っており、その状態を引きずって新たに10体の剣闘士の石像に攻撃を加える。当然のことながら真は全ての標的となる。人を脳筋だとか言っておきながら、敵のど真ん中に突っ込んで範囲攻撃をぶっ放すなど、それこそ脳筋。いや、もはや狂戦士と言った方が正しいかもしれない。


「真ーっ!?」


悲鳴のように叫ぶ美月の声が、激しい戦闘で騒然となった神殿の石室でも高く響き渡った。普段、冷静に物事を分析しているように見えて、危機的な状況では無茶苦茶な行動を取ることがある。グレイタル墓地の時もそうだった。敵の数こそグレイタル墓地の時の方が多かったが、個体の強さがまるで違う。


(……どうして、こんな無茶ばかり……)


美月が心中で自問しながらも、答えはすぐに出てきた。『一番犠牲者を出さずにミッションをクリアする方法は俺が一人で行くことなんだ』、真がウル・スラン神殿に入る前に言った言葉だ。しかし、結果として全員がウル・スラン神殿の中に入ってしまっている。だから、こんな無茶をしているのだ。真の行動原理は分かるが、それを素直に受け入れることができるかと言えばそうではない。でも、止めることはできない。そんな力はない。だったら自分にできることをするしかない。


<ライフフィールド>


真を中心にして円形の光が広がる。ビショップの回復スキル、ライフフィールドはその効果範囲内にいる者全ての生命力を持続的に回復することができるスキルだ。円形に広がる光が生命の源である水のように青白く光り癒しを与えてくれる。


「木村さん! 彩音! あの羽生えた奴から片付けてしまうわよ!」


翼が後衛陣の指揮を取り出した。真が無茶苦茶な行動を取ってることで逆に翼がの方が冷静に判断をできるようになっている。後先考えずに突っ込むタイプの翼ではあるが、それは判断に迷いがないということでもある。


「OK! ガーゴイルね」


「うん!」


木村と彩音がはっきりと返事をする。翼の迷いのない判断が木村と彩音を牽引している。今はとにかく敵の数を減らすことに集中するべきだ。


弓矢と魔法が雨のようにガーゴイルへと降り注ぐ。どれだけ攻撃を加えてもガーゴイル達の標的は真から剥がれることはない。そして、一体、また一体とガーゴイルを倒していく。


「これで終わりよっ!」


最後に残ったガーゴイルにも弓と魔法の集中豪雨を浴びせ、撃沈する。


ガーゴイルを全て倒し切り、残すは剣闘士の石像が10体……のはずだったが、パッと見ただけでも数が少ないことが見て取れた。残り少なくなっていたガーゴイルの生命力を削り切っている間に、真は新手の剣闘士の石像達を次々に撃破していた。


石の床には崩れた剣闘士の石像が欠片となって散らばっている。どれだけの数なのかは、バラバラになっているため分からないが、今立っている剣闘士の石像の数はすでに三体。翼たち後衛火力組が本気で攻撃をして、すでに大きなダメージを負っていたガーゴイルを五体倒している間に、真は無傷だった剣闘士の石像を七体倒している。


「あれも、もうすぐ終わるよね……?」


木村があきれ果てたような声を出している。いきなり敵の真ん中に突っ込んでいく真の行動は理解不能だったが、今の光景よりは理解できる。スナイパーもソーサラーも攻撃力が低いわけではない。スナイパーは遠距離攻撃ができるという利点がある分、アサシンやベルセルクより純粋な攻撃力は少し落ちるが、ソーサラーは撃たれ弱いという弱点があるため、火力は互角だ。三人ががかりでもここまでの差をつけられるとは思いもしていない。


「え、ええ……たぶん……」


翼がそう答えている間にも真は一体倒していた。流れるような奇麗な連続攻撃。アサシンのように舞を踊るかのごとき連続攻撃とはまた違う美しさがある。豪快さと繊細さという二律背反する要素を内包した真の剣技。轟と斬る中に一切の無駄がなく、また一体敵を倒していた。


残る剣闘士の石像は一体だけ、もはや、翼も彩音も攻撃を加える気にはならない。そう思っている間に敵が沈む。


「ふぅ、流石にこれで終わりだろ……」


一仕事終えた真が振り返り一言。数は多かったが、圧倒的な真の火力の前では物の数ではない。


「はぁ……ここまでとはね……」


園部が想定外の景色に他の言葉が出てこない。それは他の皆も同じだった。何とも言いようのない呆気に取られている目が真を見ている。


真はそこでふと気が付く、その中で一つだけ違う目があった。


「………………」


美月だけは泣きそうな目で真を見ている。睨んでいると言った方が正しいかもしれない。言いたいことがあるような目をしている。だが、何も言ってこない。


(……?)


怒っているのだろうか? 真は美月の表情を見て最初に思ったことがそれだった。それでは美月は何に怒っているのか。自分を見ているのだから自分に対して怒っているのだろうというのは真も理解ができた。ただ、なぜ美月は自分に対して怒っているのだろうか。それが分からなかった。


「一人でクリアできるって言ったことも伊達じゃないってことみたいだね……」


小林が降参だという風に両手を軽く広げている。真が強いことは道中で分かったことだが、想定の範囲という物をこうまで軽く吹き飛ばされると逆に清々しいほどである。


「汝ラ 強キ者 ヨ 最後 ノ 試練 ニ 臨ム ガ イイ サスレバ 神 ノ 謁見 賜ル コト 叶ウ」


低く重い声が石室に響いた。二つ目の試練を突破して次の試練へと部屋を移動するのだろう。すでに慣れたというように、真達は視界が暗転するのを待ち、そして、すぐにやって来た闇に身を投じる。


闇が晴れるとそこは予想通り別の部屋であった。部屋の構造自体はほぼ一緒だが、若干違うところがある。部屋の広さはさっきの部屋とあまり変わらない。部屋の奥にある祭壇の上に蛇の石像があることも同じだ。この部屋が前の部屋と違うところは二点。一つは部屋の両脇にガーゴイルの像が無くなっていること。もう一つは、蛇の像の後ろにあるのが、5~6mほどある一体の巨人の像であるということ。


真達はすでに身構えていた。さっきの部屋では突然戦闘開始の合図があり、有無を言わさずガーゴイルが動き出した。


だから、誰もが黙ってその時を待った。静まり返った部屋で緊張しつつも心の準備をして待った。だが……。


「何も言ってきませんね……?」


数分経過してから彩音がボソッと呟く。最初は蛇の像に近づいたらガーゴイルが動き出し、次の部屋では突然動き出した。今の部屋では待っていても何も起こらない。結局どういうルールで動いているのかが分からない。


「何だろうな……遊ばれてる気分になってくるな……」


真が苛立ちを含んだ声を吐き出す。そして、そのまま言葉を続ける。


「次の相手はあの巨人の像なんだろうが……とりあえず俺が近づくよ。たぶん蛇の像に近づけばいいと思う。聞こえてきた声の主も蛇の像だろうしな」


「ね、ねぇ、これで最後なのよね? 蛇? が言った通だったらこれが最後の試練になるのよね?」


翼が言う最後の試練。この部屋に転送させられる前に聞こえた蛇の像の低い声の内容。『最後の試練に臨むがいい』これが最後の試練だと言っていた。


「‟試練”は最後なんだろうな」


「どういうことよ?」


「試練を通過した者だけが神に謁見できるんだ。それが、ダークエルフの邪神なんだろう。だったら、そこに今回のミッションの主犯がいるはずだ。そいつを倒してエルフの巫女を助け出すまでミッションは終わらないはずだ」


「そ、そうか……。そうだよね……」


早く終わってほしいという願望からだろう、翼が口にした疑問は普段なら勘違いするようなことではなかったはずだ。翼の気持ちは誰もが理解できた。気丈にふるまっているところはあるが、やはり恐怖が背中から離れない影のように潜んでる。





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