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試練 Ⅱ

        1



「そ……そんなっ……」


美月が言葉を失いそうになる。石壁の両脇に並ぶのは先ほど戦ったガーゴイルの像、およそ10体。どう控えめに見てもこれがただのオブジェには見えない。


更には奥に控えている剣闘士の石像。これも10体はあるだろうか。古代ローマのコロッセオを生き抜いてきた歴戦の猛者のように力強く立っている石像は今にも動き出しそうなほどの躍動感を持っている。


「いきなり、こんなに増えるのかよ……」


最初の試練というのだろうか、それはガーゴイルを二体相手に勝利すること。次の試練が5倍の数のガーゴイルとおそらく奥に控える10体の剣闘士との戦闘。簡単すぎると思っていた矢先、やはりとでも言うべきだろうか、突然難易度を上げてきた。


「ここは一旦落ち着こう……。まだ時間はある」


小林の意見に皆が賛同する。とりあえず、今いる場所で待機し、奥にある蛇の石像へは近づかないようにする。


「試練 ニ 挑ム者 汝ラ ハ 更ナル 力 ヲ 示シ 扉 ヲ 開ケ」


低く重い声は突如石の部屋に響いた。その声に反応するかのようにして両脇に並ぶガーゴイルの石像が振動を始め、鈍い音を発する。


「っちょっと!? 待って!? どうしてっ!?」


翼は慌てて弓を構え直した。こちら側はワープで転送された位置に留まっていた。なのに何故、唐突に声は試練の開始を告げるのか。さっきとルールが違う。蛇の石像に近づかなければガーゴイルの像は動き出さないのではないのか。


「う、うそ……まだ……だ、だって……」


彩音も状況を整理しきれていない。考えていたことは翼と同じだった。近づきさえしなければ戦闘になることはない。彩音がやったことのあるRPGでも近づかないと戦闘に突入はしない。ゲーム化を受けた世界なら同じではないのか。


「くっそっ! やるしかないっ!!」


真が毒づく。こちらの思い込みに付け込まれた。ウル・スラン神殿で聞こえてくる声が言う『試練』とやらを開始する条件が蛇の像に近づくこととは誰も言っていない。声が言うことは一つだけ『力を示せ』それだけだ。


脳天に不意打ちを喰らった思いだが、見渡してみると低く重い声に反応して動き出しているのはガーゴイルの像だけのようだった。奥に並んでいる剣闘士の像は微動だにしていない。それは好都合だった。数で劣る真達にすれば、一度に来られるよりも戦力を分断してもらった方がこちらにとっては有利なことだ。


「た、頼む……もってくれよ……」


<リフレクトアーマー>


小林が祈るように呟くと自己強化のスキルを使用した。リフレクトアーマーは自らの防御力を高めると同時に受けたダメージの一部を反射する。


<デモンアクセル>


続けさまに小林が動き出したガーゴイルに対して範囲攻撃兼ヘイト上昇スキルのデモンアクセルを発動させた。振り下ろした斧の衝撃がガーゴイル達の敵対心を煽る。


小林はしっかりと盾を構えて、次々と襲ってくるガーゴイルの攻撃に守りを固めた。敵を妨害、弱体させることによって相対的に防御を固めることを得意としたダークナイトだが、そのスキルの範囲は単体に限られるものが多い。こういった単純な物量戦は自己の防御性能を高める手段が豊富で、回復もできるパラディンの方が得意であった。


「お願い……」


<ヒーリングプラス>


美月がヒールの上位スキルであるヒーリングプラスを小林にかける。10体のガーゴイルからの攻撃は苛烈を極め、いかに防御力のあるダークナイトであっても簡単に生命力を削り取られていく。普段、真と一緒に行動をしている分、ほとんど意識しないことであるが、ビショップは命そのものを守る役割であることを改めて認識させられ、手が震えた。


「おおおおおおおおおーーーーー!!!」


<イラプションブレイク>


小林に群がって行ったガーゴイルの群れに真が大剣を叩きつける。ダークナイトのヘイト上昇スキルによって引き寄せられ、密集した中心をベルセルクの大剣が叩き割り、放射状に延びた大地のひび割れからは、地獄の業火とでも呼ぶべき猛烈な炎が噴き出してきた。


爆発にも似た炎の噴出により、強烈なダメージを受けたガーゴイルの群れは一気に真の方へと狙いを変えた。


<ブレードストーム>


ガーゴイルが真にターゲットを向けたかどうかなど関係ないとばかりにさらに範囲攻撃を発動させる。威力はイラプションブレイクに劣るにしても、ベルセルクの持つ範囲攻撃スキルの中では最も範囲の広いブレードストーム。斬撃の嵐が同心円状に広がり、ブレードストームの領域に入った敵を無差別に切り刻んでいく。



        2



「あっ……うっ…………」


「彩音っ! 何やってんのよ! 早く攻撃しなさい! こういう時はあんたの方が得でしょ!」


翼が弓スキルを撃ちながら怒鳴るようにして彩音に喝を入れる。敵の数が多い場合は同じ遠距離攻撃型の職業であってもスナイパーよりソーサラーの方が有利だ。ソーサラーはどの職業よりも範囲攻撃スキルを豊富に持っているため多くの敵を一気に殲滅することが可能になる。ただし、その分多くのヘイトを敵から集めることになり、ソーサラーの撃たれ弱さも相まってハイリスクハイリターンであることには違いなかった。


「う、うん……!」


それでも意を決して範囲攻撃スキルを発動させる。真が先に攻撃を加えているならそれを上回らない限りこちらにターゲットが移ることはないはずだ。


<ウィンドストーム>


ソーサラーの範囲攻撃スキル、ウィンドストームが密室の石室に風の刃をまき散らす。真に群がっているガーゴイルたちは更に切り刻まれていく。ウィンドストームは魔法の詠唱時間が短いだけでなく、出血による追加ダメージが入る。出血は状態異常の一つで、効果時間中は徐々に生命力を削られていくものだ。


<スクリューウォーター>


続けて彩音がスキルを発動させる。渦巻いた水が大蛇のようにガーゴイル達を取り囲み飲み込んでいく。


「やればできるじゃない!」


年下の翼が彩音の頑張りを褒める。気の弱い彩音が頑張っている以上、翼も手を抜くわけにはいかない。次々と弓のスキルを発動させていく。


「その調子だよ。大丈夫、蒼井君は強いからね」


隣にいる木村も同様に彩音を励ます。そして、翼と同じく手を休めずに矢を放っていく。



        3



(あいつらはどのタイミングで攻めてくる……?)


真は大剣を振り回しながら横目で石室の奥を見た。依然として動きのない剣闘士の石像。ガーゴイルを片付けるまで待っていてくれるのだろうか。それとも今すぐにでも動き出すのだろうか。だとしてら、スキルを温存しておかないといけない。一度使えば、もう一度使用できるようになるまで時間制限がある。ただでさえ少ないベルセルクの範囲攻撃スキル。次の戦闘も見据えてスキルをどう回すのか考えないといけない。


真は我武者羅に振り回しているようで、しっかりと計算してスキルを使用している。より多くのダメージをどれだけ効率的且つ継続的に与えることができるのか。それがアタッカーの腕の見せどころとなる。


そんな計算の元一体、また一体とガーゴイルを倒していく。残りのガーゴイルは半分といったところ。そこにまた低くて重い声が割り込んできた。


「汝ラ 強キ 者 ト 認ム ナレバ 戦イ ノ 従者 剣ヲ 振ルウ ニ 値ウ」


戦いの最中に響いた声を聞いている余裕などない。だが、聞こえてきた声の意味は理解できた、というよりはそれ以外に考えられるものがない。


奥の祭壇の後ろにずらっと並んでいた剣闘士の石像が石室に響いた声に呼応して、手に持っている剣を高々に上げると、まるで合戦上にいるかのように一斉に突撃してきた。


「くそっ!! このタイミングでかっ!?」


小林が吐き捨てるように言葉を出す。奥に並ぶ剣闘士の像とは戦うことになるとは予想していた。だが、ガーゴイルと一緒に動き出さなかったことで、そちらへの意識が下がっていた。できることなら、ガーゴイルを全て片づけてから動き出してくれという希望的観測もあった。


全体に動揺が走る中、真はガーゴイルへの攻撃を止め、突撃してくる剣闘士の集団に向かって走り出した。その後をガーゴイルたちも追いかけてくる。依然としてガーゴイルのターゲットは真だ。


「真っ!?」


突然、向かってくる敵の集団へと走り出した真を見て、美月が悲鳴にも似た叫び声を上げる。真はガーゴイルを引き連れたまま、あの数の剣闘士たちも一手に引き受けようとしているのだ。




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