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神殿を探して Ⅲ

       1



キスクの街からは離れた場所にあって、あまり人が来ない現実世界の地域。大きな道路の両端には商業施設が並んでおり、本来であれば平日でも多くの人が行きかう場所のはずだ。休日だったらかなりの人数が来るだろう。もう今日が何曜日であるかなど分からなくなってしまっているが、以前に来た時も同じようなことを考えていたと思う。


そんな商業施設が並ぶ地域の中で、以前と変わらずに奇麗にショウウィンドウが飾られたデパート。奇麗な服を着たマネキンは変わらず美麗な姿をしている。不自然なまでに汚れることなく。


このデパートの地下食品売り場へと続くエスカレーターが鍾乳洞の入口となっているのだが、生憎到着した頃には日が沈みきっており、休息も必要なため、以前使ったデパートの休憩所で一夜を過ごすこととなった。


次の日の朝から地下に続く鍾乳洞へと進む。ここも以前来た時と変わりはない。出てくるモンスターはマッドマンや巨大なゲジゲジ等。その程度のモンスターであれば障害にもなりえず、早足で歩みを進めていくと、しばらくして地下鉄の駅のホームまでやって来た。


「あぁ……たしかに、これでは分からないな……」


地下鉄のホームを見渡した小林が残念そうに声をこぼした。駅のホームまで来る前から、改札口でも天井や壁が鍾乳洞に浸食されていて、どこの駅なのか判別することができない状態であったため、ホームに来ても分からないだろうとは思っていたが、実際に分からないとやはり残念な気持ちになる。


「とりあえず、線路の上を進もう」


「えっ、真、そっちでいいの……?」


ホームから線路に飛び降りて歩き出した真に美月が慌てたような口ぶりで言った。


「ん? だって、エル・アーシアはこっちの方角だろ?」


「えっ、あ、分かるんだ……」


地下の鍾乳洞を潜ってどこの駅とも分からないホームにたどり着いた。方向音痴とまではいかないが、美月はすでにどちらの方角に向かっているのか分からない状態であったが、どうやら真は方向を失わずにいるらしい。


「真さん凄いですね。私もどっちに行けばいいか分からなくなってましたよ」


彩音はどちらかと言えば方向音痴だ。翼はそうでもないが、以前ここに来た時には大ムカデに追われて無我夢中で逃げてる最中に帰り道を見失ってしまったことがある。


地下鉄の線路は電気が来ていないため暗いが、半分がゲーム化した鍾乳洞で覆われているため、視界がなくなることはない。だが、所々で真っ直ぐ線を引いたように鍾乳洞が消えて現実の地下鉄だけの箇所があり、その場所だけは光がない。それでも、真っ直ぐ進めばすぐに鍾乳洞が出てくる。足元に気を付ければそれで問題はない、と思ってた矢先。


「ぐわっ!!!」


先頭を歩ていた小林が突然悲鳴を上げ、倒れるような物音をたてた。


「どうしたんですかっ!?」


美月が強張った声を上げる。今いる場所は完全に現実世界の地下鉄だけの場所。40m~50m先には鍾乳洞が見えているが、それを光源にしたところで、ほとんど視界はない。ただ、何か大きなものが動いたということは闇の中でも認識することができた。


「ムカデだっ!」


真をそう叫ぶと、背負った大剣を引き抜き、おおよその当たりをつけてスキルを発動させる。真も見えているわけではないので、状況から推測したに過ぎない。だが、鍾乳洞と地下鉄を徘徊してる巨大なムカデには一度出会っている。その時も地下鉄の線路を這いずって翼と彩音を追い回していた。ここに大ムカデが潜んでいたと考えてほぼ間違いないだろう。


<ソードディストラクション>


真が跳躍して、斜めに一回転して大剣を振るうと空間ごと破壊するかのような強烈な衝撃が辺り一面に走る。


ベルセルクが高レベルで修得する範囲攻撃スキル、ソードディストラクションは高い威力だけでなく、攻撃範囲に入った敵をスタンさせる効果を持っている。再度使用するまでに時間がかかることが弱点だが、それを補って余るだけの効果を持ったスキルだ。


攻撃スキルが発動したということはその範囲内に敵がいるということ。何もないところで攻撃スキルは発動しない。


(よしっ!)


一撃を終えると真はすぐさま走り出した。真っ直ぐ前にある鍾乳洞に向かって走る。視界が悪い状態で戦うことは不利であり、真ならいざ知らず、他の仲間に被害が出る可能性があった。まずは見えるところまで引きずり出す。


MMORPGの多くはヘイトという概念がある。ヘイトは敵に対してどれだけ嫌な行動を取ったかでその大小が決まり、PTだと一番大きなヘイトを稼いだ人が敵から狙われる。一言で言えば敵にとって一番嫌な奴が狙われるということである。そして、敵に大ダメージを与えるということもヘイトが大きく上昇する効果を持っている。


鍾乳洞までたどり着き、振り返ると体長15mはあろうかという程の巨大なムカデが近くまで迫っていた。


大ムカデは頭を上に上げると大きな口を開き、頭ごとぶつけてくる勢いで真に攻撃を加えてきた。真は大剣を横にしてその攻撃を受け止める。装備外見変更スクロールを使っているため見た目は平凡な装備をしているが、中身はインフィニティ ディルフォール グレートソード+10他、武器も防具も最強装備のオンパレード。後方に弾き飛ばされはしたもののダメージを受けることはない。


「お返しだ!」


<スラッシュ>


踏み込みからの一撃。


<フラッシュブレード>


さらに間髪入れず、閃光の様な横薙ぎの一閃。


<ヘルブレイバー>


下から飛び上がる力を加えて斬り上げる。スラッシュから派生する連続斬りの三段目。連続スキルは後続に発生するほどにその威力は上がる特徴がある。


真がヘルブレイバーからさらに四段目の連続攻撃を繰り出そうとしたその時、大ムカデの後ろから弓矢と氷の槍がその巨体を貫き、大ムカデはかなぎり声をあげてその場に崩れ落ちた。


「真っ! 大丈夫!?」


駆け寄ってきたのは翼だった。弓矢は翼と木村が、氷の槍は彩音が放ったスキルだろう。大ムカデの背後から援護射撃をしてくれたようだ。


「俺は大丈夫だ。小林さんは?」


「今、美月と園部さんが見てくれてる。ダークナイトだから大丈夫だとは思うけどね」


「そうか、それならいい」


暗闇の中で不意打ちを喰らったとはいえ、タンク職のダークナイト。耐久力ならパラディンと並んで双璧を成している。ビショップの美月とエンハンサーの園部が回復スキルを使ってくれているのであれば尚更問題はない。


「こいつが例の大ムカデか……」


未だその場から消えていない大ムカデの死骸を見て木村がゾッとした声を出す。こんな奴が暗闇に潜んでいたなんて思うとそれだけで鍾乳洞に来ようなんて考えない。


「すまない……助かったよ」


小林が歩いてやって来た。見たところどこも問題はなさそうに見える。回復のエキスパートであるビショップがいるわけだからそもそも問題はなかったのだろう。



        2



それから歩くこと数時間。エル・アーシアの方に向かって伸びている線路の上を歩き続ける。地下の閉塞空間を長時間歩き続けるというのはストレスが溜まる。エル・アーシアの高原を一日中歩き続けたことも辛かったが、大空の下で開放感のある場所であったため、気分的には今より幾分マシだ。


残り時間が少なくなっているという不安もあり、実際に歩いている時間よりも長く感じる。だが、前に進む以外にやれることはなく、やらないといけないこともまた、只管前に進むということ。しかし、この道が正しいかどうかはまだ分からない。肉体的な疲労よりも不安からくる精神的な疲労の方が大きかった。


そして、線路の上を歩き続け、ようやく前方に出口の光が見えてきた。それがどこに繋がっているのか。それだけが気がかり。もし外していればもう時間はない。戻って別の道を探しているうちに期限を超過してしまうだろう。だから、祈るようにして足を前に出す。正解だと信じて進んできたが確証がないためどうしても不安を拭い去ることができない。


「方角は合ってると思う……」


先頭の真が緊張しているような呟きを漏らす。地下鉄の線路は切り取られたようになくなり、突然空の下に放り出される。ほぼ垂直にそびえる崖と崖の間。渓谷の底に出た。この先を進めばウル・スラン神殿が見えてくるはずだ。


今度は下から見上げるようにして渓谷を見ているため、以前見た景色と同じかどうか判断ができない。似ていると言えば似ているし、違うと言えば違うような気がする。別の渓谷に出ていたとしたらもうアウトだ。


確かめる方法はウル・スラン神殿があるであろう所まで歩いてみるしかない。皆が祈るようにして歩みを進めていく。


「はぁ……良かった……」


安堵のため息と一緒に漏れた美月の声はここまで来ることが不安でいっぱいだったことの表れだ。


暫く渓谷の底を歩いて来た目線の先に見えるのはウル・スラン神殿。崖にめり込んだようにして建てられている巨大な神殿。ようやく辿り着いた。


だが、安堵している場合ではない。これからが本番なのだ。この中は更に何が起こるのか分からない上に残り時間はすでに24時間を切っている。







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