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動揺 Ⅰ

「ちょっ!? っちょっと待て! どういうことだ?」


小林がメッセージの内容を確認して、すぐさま声を上げた。書いてあるメッセージの内容が理解できないとでもいうように何度も見直している。


「『ミッションを受領しました』……って、どういうことなの……?」


書いてある文字の通りの意味しかない文章であるが、美月は一瞬意味が分からなかった。どうしていいか分からず、周りを見るが、それぞれが似たような顔をしてる。


「……どうもうこうも、そういうことでしょ……。書いてある通りに読むしかないじゃない……」


翼にしては珍しく声が低い。呻くような声を喉から絞りだしている。


「私たちは……ミッションを受けた……ってこと……ですよね……?」


彩音も不安を隠せない。この中では一番臆病な性格だから仕方のないことだが、努めて冷静さを保とうと努力をしている。


「待て、僕たちは話を聞いてる途中だったはずだ! まだミッションの導入の話しか聞いていない! どこに行ってどうすればいいかも聞かされていないんだぞ。なんでいきなりミッションを受けたことになってるんだ!」


木村の声も大きくなっていた。状況を確認するが、冷静さを欠いている。何故こうなったのかが全く理解できない。


「ちょっと、あんた! どういうつもりよ! 私たちはまだミッションを受けるって言ってないわよ!」


園部も訳が分からない。木村の声が大きくなっていたことに連鎖するかのうように、たまらず声を荒げてエルフの長老に詰め寄る。


「なんじゃ貴様は! 礼儀を知らぬ者め! よさぬか!」


「待って、それよりも問題なのは……」


よもやエルフの長老に掴みかからんとばかりの勢いで身を乗り出した園部を真が静止する。慌てる気持ちは理解できるがもっと大事なところは他にある。


「長老、一つ聞きたい……。この期限は何だ?」


「‟この期限”じゃと? ……ああ、期限か。そうじゃ、早く巫女を助け出してくれねば忌々しいダークエルフどもの邪神の生贄にされてしまう……。一刻の猶予もない状況だ!」


「残り5日っていうのは、エルフの巫女が生贄にされるまでの時間のことか?」


「5日じゃと? さっきも言った通りだ、時間の余裕などない。早く何とかしほしい……。頼む、お主らが頼りなんじゃ!」


真が聞きたいのはミッションに120時間という制限時間が設けられているということ。エルフの長老の口ぶりからするに120時間という制限時間は知らないようだ。さっきから会話が微妙にかみ合わないのもそのせいだろう。


「たぶんだけど……。話を聞いただけでミッションを受けたことになったのは、この期限のせいだと思う……」


「どういう……ことなの……?」


美月が思わず声をこぼしたが、他のみんなも同じ思いだ。真が言っている期限と話を聞いただけでミッションを受けたことになることとの関連が気になる。


「あくまで推測だけど……。前のミッションは、内容を聞くだけ、もしくは受けるだけでやらないっていう選択肢もあったんだ。誰か一人でもミッションをクリアすれば全員がクリアしたことと同じになったからな。今回も同じように考えていた」


最初のミッションでは、真がゴブリンのリーダーであるダーティーハンド ゴルゴルドを倒したことで、マール村の人は全員ミッションをクリアしたことになっていた。誰かが課題をクリアすればよかった。


「だけど、期限付きのミッションだと知っていたら誰がミッションを受けようと思う? 実際に死ぬかもしれないミッションを期限以内にやれと言われれば誰だって受けようとしないだろ。だから、これはトラップなんだ……。誰も受けようとしないから聞いただけでミッションを受けたことになるように仕組まれてた……。否応がなしにミッションをやらないといけなくなるトラップなんだ……」


真の話に固唾をのんで聞き入る。全員が無言でその話に耳を傾ける。


「ねぇ……それじゃあ、私たちはまんまと罠にかかったってこと……?」


翼の呟きには怒気が含まれていた。完全に手玉に取られている。どこまで人を虚仮にするつもりなのか。だが、真の言うことにも理解できていた。期限が付いていると分かっていればミッションを受けるだろうか。強制的に期限付きミッションを受けさせられたが、知っていても自分は受けただろうか。家族のため友達のためと威勢の良いことは言いながらも、その選択肢を迫られたとしたら、逃げてしまう自分を想像できたことが悔しかった。


「あ、蒼井君……。その……期限を過ぎたら……どうなる……?」


聞いてきたの小林だ。それは他のみんなも気になるところだろう。だが、聞いてはいけないと直感が告げている。確認しないといけないことだというのは間違いない。だが、それを拒否しようとする。あまりにも都合の悪い事象からは目を背けたくなる。見たくない物を見ないで済むならそれに越したことはない。だが、それを見ないわけにはいかない。見たくない、知りたくない、なぜなら答えはほぼ分かっているから。


「『期限を過ぎますとミッションは失敗となり、そこであなたの冒険は終了いたします』っていう文言……。冒険の終了はつまり………………死ぬっていうこと……」


ここまで話をすれば分かり切った答えだ。


「ね、ねぇ! ねぇ、ちょっと待ってよ! まだ分からないじゃない! 期限が過ぎたらもうミッションを受けることができないっていうだけかもしれないじゃない! 期限が過ぎたからって死ぬっていうのはあくまでも憶測の話でしょ? だったら、他の可能性もあるわよね? 死なないっていう可能性もゼロじゃないわよね?」


園部がまくし立てるようにして言葉を次々に投げかけてくる。焦り、不安、恐怖。藁をもすがる思いで言葉を並べて理論を組み立てる。だが……。


「……園部さん。言っていることは間違っていないと思います……。期限を過ぎても死なないかもしれません……。でも、この世界がそんなに優しくするはずがないんです……」


苦虫を噛み潰したような表情で美月が反論をする。この世界は人の死を嘲笑うかのように罠を仕掛けてくる。唐突に、忘れた頃に、狡猾にそれは仕組まれている。最初のミッションで、グレイタル墓地で、美月は思い知らされている。


「俺もそう思う……。それに、今の段階でどうなるかは期限を過ぎてみないと分からない」


「…………蒼井君の言う通りだ、生きていればいいが、死んだらどうしようもない。それなら、最悪を想定して行動するしかないだろう」


小林が落ち着きを取り戻して意見を出す。ミッションの期限を過ぎた場合どうなるのか。当然誰も知らない。どうなるのか確認する方法は実際に期限を超過させる以外にない。死んでしまっては確認のしようもないが。


「じゃ、じゃあ、どうするのよ!? やるの? ミッションを? どんなことやらされるか分からないのよ!」


「園部さん落ち着いてください! ここは冷静にならないといけないでしょう!」


木村が園部を落ち着かせようと声を上げる。木村としても落ち着いていられるような状況ではないが、パニックになって解決するようなことなど何一つとしてない。


「分かってるわよ!」


苛立ちながらも園部が落ち着きを取り戻そうと努力をする。みっともない恰好を見せていることも分かっている。冷静にならないといけないことも分かっている。だが、突然の不条理に気持ちがかき乱される。


「あ、あの……。ミッションの詳しい内容を聞きましょう……。もうそれしかないと……思います……」


勇気を出して彩音が声を振り絞る。彩音自身にしたって今の状況は怖いどころのレベルではない。緊迫した空気の中で意見を言うなど、普段の彩音からしたらそれだけでも負担超過だ。だが、期限はどんどんと迫ってくる。残り119時間という時間は多いのだろうか少ないのだろうか。それすら分からない。だが、言い争いをしている間にも時間は過ぎていく。ただただ、無慈悲に残りの時間を削り取っていく。






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