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深緑の村

       1



小屋の中は安全だった。深夜になっても外を徘徊するモンスターが小屋に近づいてくる気配もなかった。ゲームで言うところのセーフティーゾーン。セーブポイントや回復ポイント等の安全地帯。そのおかげで見張りを立てる必要もなく、全員がゆっくり休むことができた。欲を言えばベッドが欲しかったが、好戦的なモンスターに襲われる心配がないのであれば、固い木の床で寝ることも辛くはない。


真達は話し合いにより、目的が同じなのであれば一緒に行動をした方が良いだろうという結論に達して、小林達三人と合わせて七人で行動することにした。未開の地でバラバラに動くよりは固まって動いた方が危険を回避することができることと、言うまでもなく向かう方向が同じなので一緒に行動する方がメリットが大きい。


日の出とともに出発の準備をして、早朝から小屋を出た一行は再び森の中を進んでいった。新たな戦力としてタンクのダークナイトとバッファーのエンハンサー。特にエンハンサーによる強化スキルの恩恵は大きく、守備を固めたダークナイトが敵を引き付け、後ろからソーサラーと二人のスナイパーによる遠距離攻撃。残った敵を真が片付け、美月がタンクを回復するという盤石の布陣でどんどんと道を進んでいく。


快進撃という程ではないが、安定した進行により、昨日よりも歩くペースは速くなる。午後になる前には目的地であるエルフの村に到着することができた。


簡単な木の柵で囲まれた村。森の中に比べて平地は多いがそれでも、村の中には大きな木が何本も生えていた。森とともに生きる種族エルフの村がここだ。


「とりあえず、中に入って話を聞いてみるか」


村の前で立ち止まっていた所に、真が声をかけた。一応木の柵でできた村の入口に当たる場所はあるが、警備や門番のような人はおらず、勝手に中に入ったところで咎めるような人も見当たらない。村の中を歩いているエルフの姿は確かに容姿端麗。滑らかな金髪に尖った耳。整った顔立ちをしている。こちらのことは気が付いているようだが、特に気にする様子もない。獣人NPCから聞いた話では、限られてはいるが、キスクの街との交易があると言っていた。こちらに警戒をしないのはそういう理由もあるのだろう。


「大丈夫かな……? なんか人を選り好みしそうな話を聞いたからさ……難しい人達なんじゃないかな?」


美月が不安げな声を上げる。昨日聞いた獣人NPCの話を思い出していた。エルフという種族が恵まれた外見をしていることから、他者を見た目で差別する。『お前らなら大丈夫だろう』とは言われたが、一抹の不安は残っている。


「あのさ、真田さん。昨日の話だと、ここの人達って人を外見で判断するんだよね?」


「はい。そうみたいです」


「だったらさ、若い女の子で話を聞いてみたら案外親切に教えてくれるんじゃない?」


なんとなく木村が言った言葉に園部が反応を示した。


「ねぇ、木村君……。若い女の子ってどこまでの範囲を言うのかしら?」


「いや、あ、ああの……園部さんはその、あれです、あのあれなんです……若いです……だからあの、痛いから手を放して」


両肩をガシッと掴まれ、笑顔で睨み付けられた木村が自分の失言を悔やむ。何気ない一言だったが、事実上の戦力外通告を突きつけてしまったのだ。


「まぁまぁ、園部さん、ここは若い男に行かせましょうよ、ね」


翼の提案に小林と園部が木村の顔を見た。平凡な顔つき。小林達三人の中では一番若いが、見た目は普通だ。容姿端麗のエルフが話をしてくれるのだろうか。


「ってことだから真。行ってきて!」


「結局俺かよ……」


翼に言われて渋々だが村の中に入る。誰が行ってもいいと思うが、微妙に気まずい空気になっているので、ここは大人しく翼の提案を受けることにした。


「ん……? えっと……。蒼井さんって男なの?」


木村だけでなく、小林と園部も同じような顔をしている。あの顔で男なのかと。


「ええ、彼は男性ですよ……。結構ガサツなところもありますし」


見慣れている美月でも真が男だというのは違和感がある。初対面の時は完全に女性だと思い込んでいたことも大きい。それに声も男性にしては高い方だ。初対面で真が男だと見破ったのは翼以外に知らない。


「ごめん、失礼なこと聞くけど、あっち系の人じゃないわよね?」


園部の言っているあっち系とはつまりオネエ。身体は男でも心は女なのかもしれない。


「いえいえ、いえいえ、そ、そうじゃないです。本人は完全に男だと主張してます」


女性に間違われることを真本人は嫌がっている。以前、半分冗談で化粧をしてみないかと言った時は本気で嫌がられていた。たまにしてくる自分は男ですよアピールも見た目を気にしてのことだろう。


「世の中不公平よね……」


「なんで僕の顔を見るんですか!」


憐れみを内包した園部の瞳に映し出されるのは木村の平凡な顔。別に顔が悪いというわけではないが、取り立てて良いというわけでもない。普通なのだ。そんな世の中の理不尽はさておき、真の見た目なら、外見を重視するエルフも心を開くだろう。美麗な種族にも引けを取らない見た目をしている。それはそれで女性として園部も複雑な思いではあった。あれで男なのだから。


真のいないところで真の話題をしながら、待つこと三十分ほど。村の奥から真が戻ってきた。


「どうだった?」


あまり浮かない顔をしている真に美月が声をかける。収穫がなかったのだろうか。


「ああ、一応手がかりは見つけた。どうやらエルフ達にとって厄介なことが起きてるらしい。話しかけた時は友好的に接してくれるけど、ミッションのことになると、みな口を閉ざすんだ。詳しいことが聞きたければ長老に聞けって言われたよ。でも、逆に言えば、ここでミッションを受けることができるっていう裏付けだろう」


エルフ達は思っていたより友好的な種族であった。見た目で判断するだけで、見た目さえ合格ラインに達していれば他種族であっても邪険に扱うようなことはないのだろう。ゲームや小説に出てくるエルフはもっと排他的だが、この世界のエルフはそこまででもない。


「そっか……。それなら行ってみるしかないよね……」


美月のその言葉に一同が同意の表情を浮かべる。情報を収集するためにここまで来た。そして、ミッションの内容という重要な情報がある可能性が極めて高くなっている。ほぼ確定と言ってもいいだろう。ミッションの内容を確認して他の人達にも情報を回す。まずはそれからだ。



       2



エルフの長老は村の奥にある一際巨大な大樹の上に建てられた家に住んでいる。大樹の周りをぐるりと回るようにして螺旋階段を上って行った先に入口がある。こういう木の上の家というのはなんとも心くすぐられるものがある。憧れとでも言いうのだろうか、一度は住んでみたいと思う。


「あのぅ、すみません、ちょっとお話を伺いたいのですが」


玄関の前で荷物の整理をしている若い女性エルフに美月が声をかけた。長老の孫娘だろうか。それでもエルフなら100歳を超えていてもおかしくはないだろうが。


「え、はい。あの、もしかして、大ジジ様にですか?」


「あ、はい。ええっと。長老様からお話を聞かせていただきたいんですけども……」


「は、はいっ! す、すぐに話を通してきますので、そ、その待って、待っていてください!」


大ジジ様というのがおそらくエルフの長老のことだろう。エルフの娘はなぜか大慌てで家の中へと駆け込んでいった。どうやらここのエルフ達にとって今起きている厄介ごとというのは、かなり重要なことのようだ。数分もしない内に先ほどのエルフの娘が戻ってきた。


「お、お待たせしました。大ジジ様がお会いになるそうです。どうぞこちらへ」


エルフの娘に案内されて、大樹の上の家の中へと入っていく。家の中は広く、大きく取られた窓からは森の緑が大海原のように広がっており、開放感ある作りとなっている。そして、さらに奥には上に行く階段があり、家の一番上の部屋に大ジジ様ことエルフの長老が鎮座していた。


「キスクの街から来なさったのかな? 遠路はるばるお疲れのところだろう。よく来てくれた」


長老は深い皺が顔に刻まれ、髪の毛は白く、腕は細いが静かな威厳と言うべきだろうか、身の細さ以上にどっしりとした風格がある。


「いえ、こちらこそ、急な申し出にも関わらず、ご面会いただき感謝しております」


小林が丁寧に一礼をして謝意を述べる。が、それに対して長老は特に反応はなかった。長老は真や美月のいる方に顔を向けて話を続けた。


「もうすでに聞いておるかもしれんが、儂らエルフ族にとって危機的な状況が訪れようとしている。皆に動揺が蔓延し始めておる」


「一体何が起きてるんですか? 皆さん詳しいことは言いたくないようですし……」


長老の言葉に美月が質問を投げかける。何かが起こっているらしいが、村のエルフ達は口を閉ざしていたということだ。


「これは我々エルフ族の沽券に関わる問題だ。だから、長老である儂が直接会って話をするかどうかを判断することになっておる。皆が口を閉ざしていたのはそういうことじゃ」


そこまで言って、長老は値踏みするようにして真達一行を見た。そして、何やら決めた顔で話の続きを始めた。


「よかろう。お主らには話をしよう……。実はな、ダークエルフどもが村の巫女を攫って行ったんじゃ。薄汚い泥のような悪辣な連中じゃ! あの腐った連中はこともあろうに儂らの巫女を生贄にして、ダークエルフ共の邪神を復活させよとしておる! 頼む、儂らの巫女が生贄になる前に助け出してほしい」


【メッセージが届きました】


長老の話を一通り聞いたところで突然頭の中に声が響いた。今までにも何回も聞いたことのある声、そして、目の前にはレターのアイコン。


全員がお互いの顔を見合わせる。確認するまでもなく、全員にメッセージが届いていた。内容は分からない。だが内容を確認しないわけにはいかない。真がレターのアイコンに触るとそれに続くようにして美月や小林達も内容の確認をする。


【ミッションを受領いたしました。このミッションは期限付きのミッションです。期限を過ぎますとミッションは失敗となり、そこであなたの冒険は終了いたします。残り時間119時間58分】





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