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天使狩り Ⅷ

「来た! 大天使だ!」


真が声を張り上げると、不自然なまでに真っ赤に染まった空を見上げて、大剣を構えた。


目線の先にいるのは、椿姫の情報の通り、他の天使達よりも大きな体躯の天使。倍ほどはあるだろうか。明らかに大きさが違う。


右手には大剣を。左手には何も持っていない。長い金髪と陶器のような白い肌。銀色の防具と白いローブ。能面のように無機質な顔が真を見据えて降りて来た。


「いきなり来たわね……」


翼も弓を構えて大天使に注意を向ける。


「ランダムって言っても、他に対象者がいない分、当たる確率は高くなったってことかな……」


翼の横で、彩音も身構えた。大天使が出現する条件は揃っていても、必ず現れるわけではない。昨日、真達が大天使と遭遇しなかったのは、そのためだ。だが、今日は偶然なのか必然なのかは分からないが、すぐさま大天使が出現した。


「どっちでもいいわよ。来たなら倒すだけだし」


大天使には搦め手は通用しない。ならばと、攻撃専門の精霊であるサラマンダーを召喚して、華凛が合図を待つ。


「翼、彩音、華凛もっと下がって! 魔法と弓が届くギリギリの所でいいから」


既に臨戦態勢に入っている、翼と彩音、華凛に対して、美月が注意を促す。大天使は、ダークナイトですら一撃で絶命させてしまうほどの攻撃を持っている。それを喰らえば、ひとたまりもない。


「大丈夫。分かってる」


翼が静かに返事をし、数歩後ろに下がる。彩音と華凛も同じく下がって、美月と並んだ。


そして、無言のまま大天使の動きに注視する。


真っ赤に染まった空を背に、大天使は下りて来る。表情もなければ、声も上げない。ただ、真を見たまま下りて来る。


「…………」


真も無言のまま、天使を見上げる。無意識に大剣を握る手に力が入る。


大天使は、一定の高さまで下りて来ると、大剣を掲げ、一気に降下して真に向けて突撃してきた。


「来い! 相手になってやるよ!」


<ソニックブレード>


急降下してくる大天使に向けて、真は遠距離攻撃スキルで迎撃。真空のカマイタチが、見えない刃となって大天使に襲い掛かる。


だが、大天使の軌道は変わらない。真のソニックブレードが直撃したにも関わらず、勢いそのままに大剣を振って来た。


<スラッシュ>


大天使の大剣が届く直前、真が一歩踏み出して剣を振った。


ガキンッ!!!


金属同士が激しくぶつかり合う音が響く。真からしてみても、大天使は倍以上の大きさがある相手だ。同じ大剣同士がぶつかり合うと言っても、持っている武器のサイズが全然違う。それこそ、脇差と斬馬刀ほどの差がある。


それでも――


「オラァーッ!」


打ち勝ったのは真の方。相手との体格差など微塵も感じさせずに、完全に力で押しのけてしまった。


真の大剣に弾き飛ばされた大天使は、空中で姿勢を整えた。そこに焦りなどは一切感じられない――というよりも、感情の一切がない。


人形のように無表情のまま、真を見て、再び大剣を振り上げ、突進してくる。


一直線に真を狙って、大天使の斬撃が放たれる。何の迷いもない鋭い斬撃だ。正確に、的確に、無慈悲に真を狙って、大剣が振り下ろされる。


「速いけど……、単調なんだよな」


<スラッシュ>


振り下ろされた大天使の大剣を、真は半身になって回避。そのまま、一歩踏み込でからの袈裟斬り。


<シャープストライク>


続けざまに放たれるのは鋭い二連撃。


<ルインブレード>


真は間髪入れずに、連続攻撃スキルの3段目を発動。大天使の前に出現した魔法陣ごと、真は大剣で大天使を斬りつけた。


「椿姫さんと咲良ちゃんの仲間の仇、取らせてもらうから!」


<スラッシュアロー>


そこに、翼も弓矢による攻撃を仕掛けてきた。


<クイックショット>


翼も負けじと連続攻撃スキルを放つ。速射で放たれた矢が大天使の体に突き刺さる。


<ラプターアロー>


スナイパーの連続攻撃スキルの3段目、ラプターアローが発動。放たれた矢は、まるで羽のような光を纏って敵を貫く。


「私も、仇を取らせてもらいます!」


<ヘルファイア>


魔法の詠唱を終えた彩音が、スキルを発動させた。噴出する黒い炎が大天使の体を焼き付ける。


ヘルファイアは単発の威力も大きいが、加えて継続的なダメージを与え続けることができる、高威力のスキルだ。


「搦め手が効かないくらいで、調子に乗らないでよね!」


<フレアボム>


華凛も召喚したサラマンダーのスキルを発動させると、大天使を中心として、核熱の炎が巻き上がる。


暴れまわる炎の共演。地獄の業火と、紅蓮の炎が混ざり合い、大天使を包み込む。


だが、大天使は物ともしてない。平然と大剣を掲げ、真に向けて振り下ろしてくる。


<グリムリーパー>


対する真は、攻撃のモーションを利用して大天使の攻撃を回避しつつ、同時に掬い上げるようにして大天使に斬りかかった。


これでも、大天使は全く動じない。反撃に転じるべく、大剣を構えて、斬撃を繰り出してくる。


真も同じく動じない。大天使の攻撃を避けつつ、カウンターを入れる。


大天使は体が大きい分、リーチも長い。だが、真は常に大天使の懐に入り、真の間合いを維持し続ける。相手に有利な距離を潰し、自分に有利な距離を保つ。


真が長い戦いの経験の中で身に着けた戦法。これで、幾多の敵を倒してきた。


大天使が一旦距離を取ろうと後退しても、同じ距離だけ真が詰めて来る。大天使の得物が大きい分、相当やりにくいはずだが、大天使の表情はピクリとも動かない。


能面のような大天使の顔が、真を覗きむようにして見ると、徐に空いている方の手を翳してきた。


「ビームかッ!?」


咄嗟に真が反応した。大天使の掌には光が収束している。椿姫が言っていた“ビーム”が来る予兆だ。


『ライオンハート』のダークナイトですら一撃で絶命させた攻撃。おそらくは、防御力を無視する性能が付与されている。


「真ッ!? 避けてーッ!」


美月も大天使の行動が変わったことに気が付いた。大剣を退いて、空いている方の掌が真を狙っているのが見える。


ヒュンッ


真の耳に届いたのは、そんな小さな音だった。とても小さな音だ。それが高速で通り抜けていく。耳元を掠めなければ聞こえもしなかっただろう。


真は思いっきり体を捻って、ビームを回避していた。視界の端に見えたのは、一瞬だけピカッとした光。


「来ると分かってても、この速さだと、避けるのは大変だな……」


体勢を整えて、真が独り言ちた。『ライオンハート』のダークナイトも、大天使が何かやってくることは分かっていたはずだ。それでも、喰らってしまい、命を落とした。それくらい、異常な速度を持った攻撃だ。


大天使の方は、自慢の攻撃を避けられたからといっても動揺は見られない。相変わらず表情のない人形のような顔で真を見据えて、大剣を振り上げている。


「単調だって言ってるだろ!」


<スラッシュ>


真は、大天使の斬撃を半身で躱すと、そこから一歩踏み込んで、斜めに剣を振るった。


<パワースラスト>


一旦、大剣を退くと、体重を乗せて突き出す。勢いよく放たれた真の刺突は、大天使の体に突き刺さる。


<ライオットバースト>


大天使の体に深々と刺さったままの真の大剣が激しく光を放った。その瞬間、大天使の体内で激しい炸裂が巻き起こる。


ベルセルクの連続攻撃スキルの3段目、ライオットバーストは、攻撃の後にも継続してダメージを与え続けることができる。


ここで、大天使は大きく後ろに飛び、そのまま空へと上がっていった。


「突進が来るぞ! 気を付けろ!」


真が警告を発する。


「分かった! 皆、突進が来たら、一気に左右に飛ぶよ!」


声を上げたのは翼だ。攻撃の方法が分かっていれば、対処方法もある。だが、油断はできない。『ライオンハート』の後衛陣は、この突進を喰らって半壊したということだ。


大天使は上空で身を翻すと、一気に急降下してきた。


それは、まるで大砲のような速さ。大きな体は何の足枷にもならず、高速で突っ込んでくる。


<スラッシュ>


真は頭を下げて避けながらも、すれ違いざまに斬撃を入れる。


少しでも大天使の動きを止めることができたならと思って入れた斬撃だが、まるで効果を発揮している様子はなく、大天使は勢いそのままに、後衛の方へと突撃していった。


「大丈夫か?」


真が振り返り、声を張り上げる。


「大丈夫!」


すぐさま、美月の声が帰って来た。翼も彩音も華凛も無傷のようだ。


大天使の方は、美月達に避けられた後、再ぶ上空へ上がり、弧を描くようにして真の正面へと戻って来た。


「どうした? これで終わりか? 顔色が悪いんじゃないのか?」


「…………」


真が大天使を挑発するが、何も返っては来ない。ただ、大剣を真に向けて振り下ろしてくるだけ。


「しぶとさだけは、認めてやるよ」


<イラプションブレイク>


真は大天使の攻撃を半歩下がって避けると、跳躍し、地面に大剣を叩きつけた。そこから、四方八方にひび割れが走ると、一気に灼熱の炎が噴出してきた。


大天使の巨体を、吹き荒れる業火が飲み込む。


これは効いたのか、大天使は反撃に転ずることなく、再び上空へと退避した。


「逃がさねえよ!」


空へと逃げられたら、飛べない真では手が出せない。それならと、遠距離攻撃スキルである、ソニックブレードを発動させようとした時だった。


「――ッ!? スキルが発動しない!?」


大天使は空に浮かび上がっているが、まだ遠距離攻撃スキルなら届く範囲だ。それなのに、ソニックブレードが発動しない。こういう時は――


「気を付けろ! 何かやってくる! 椿姫も知らないパターンが来る!」


真が警告の声を張り上げた。戦闘の最中に攻撃ができなくなるのは、ゲームとしての仕様だ。例えば、変身しようとしている最中に、攻撃を加えるという無粋なことができない仕組みになっている。


「な、何が来るの!?」


真の警告に華凛が動揺した声を上げる。


「分からない。兎に角、気を付けろ!」


何に気を付けていいのかさえも分からないが、真は再び警告の声を上げる。この先は完全に初見で対応するしかない。知っているというのは武器であり、鉄壁の守りでもある。それがもうないということだ。


真達が注目する中、大天使は天空に向けて大剣を掲げると、眩い光を放った。


「うっ……」


あまりにも強い光は、目を開けているのも痛いほど。真は呻きながらも、一瞬目を閉じてしまう。


すぐに光は収まり、真が視界を取り戻すと――


「なッ……!?」


そこには、大天使を取り囲むようにして、十数体の天使が舞い降りてきていた。





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