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天使狩り Ⅴ

真達が天使狩りを初めて、もう10日目となる。


この日も午前中から、所定のエリアで天使が来るのを待って、来たら狩る。そして、また来るまで待って、来たら狩る。


ここ毎日は同じことの繰り返し。それに、真がいれば天使など相手にもならない。


逆に言えば、美月達4人だけで天使を狩るというのは、かなり厳しい。一体だけならまだ何とかなるが、天使は複数で出現するため、まず勝ち目はない。真がいればこその天使狩りだ。


そうして、今日も危なげなく天使狩りを終えることができた。


「今日は、2個取れたね!」


意気揚々と翼が言う。黄昏に沈む夕日を背に、仲間たちに笑顔を向けている。


この日は、『天使の心臓』を2個取れたので、日が沈む前に撤収することにして、王都グランエンドに戻って来ていた。


「毎日2個ペースで取れたらいいんだけどね」


美月としても、今日の収穫には満足していた。何より、早い目に狩りを切り上げて、日が沈む前に王都に戻ってくることができている。


「欲を言うと、1日10個くらい手に入れたいところなんですがね」


彩音が軽く笑って言った。朝から夕方まで天使を狩って、手に入る『天使の心臓』の数が、多くて2個。しかも、天使はなかなか姿を現さない。かといって、普通に狩りをしてたら、天使に襲われるという、微妙な出現率だ。


「ほんと、それ! 私達どれだけ天使狩ってるのっていうね」


華凛が愚痴を溢しながら、王都の街を仲間と歩く。だが、その顔はどこか自信に満ちている。強い天使だが、華凛の状態異常攻撃が有効に働いているからだ。


「これでようやく13個か……。他の人達が集めてる分を足したらどれだけになるんだろうな?」


真がアイテム欄を見ながら言う。シン・ラースで最初に天使と戦った際に手に入れた『天使の心臓』1個と、ここ10日間で手に入れた『天使の心臓』12個。合計13個。


「ペースでいうと、私達が一番早いんじゃない? 狩場も近いし、真がいる分、倒すのも早いから」


顎に手をやりながら美月が答える。遠方地にまで天使を狩りに行っている部隊は、移動だけで時間を取られるし、狩場についてたとして、『フォーチュンキャット』のようなペースで天使を狩ることはできない。


「それでもさ、全部集めたら、もう半分くらいは集まってないかな?」


歩きながら話している内に、いつの間にか拠点としている宿の前まで来ていたので、翼が扉を開けながら言った。


「さすがに、もっと集まってるんじゃないの? もう10日も経ってるわよ」


宿のロビーを進みつつ華凛が言う。


「私達で13個ですしね。他の人達のも合わせたら、100個超えてるかもしれませんね」


彩音が言っていることは、希望も混じっているが、『ライオンハート』と『王龍』が人海戦術で、『天使の心臓』集めをしているのだ、もう100個あってもおかしくはない。


「もすうぐ100個集まりそうなら、紫藤さんから連絡があるはずなんだけどな。まだ連絡がないってことは、まだ目途が立ってないってことだと思うぞ」


真も、今どれだけの『天使の心臓』が集まってるのだろうと考えていた。『天使の心臓』の収集状況については、総志に情報が集約される。真も定期的に総志に数の報告をしている。


だから、ある程度、『天使の心臓』の数については、予測ができるはずなので、十分に集まっていそうなら総志から連絡が入るはずだ。


「そうだね。でもさ、もうしばらくしたら、紫藤さんから連絡来る頃なんじゃ……って、あれ、紫藤さん?」


ロビーを抜け、階段を上ったところで、自室の前に人が待っているのを美月が見つけた。


数は4人。うち一人は総志だ。その風格から、ぱっと見ただけでも、まず総志が目に入る。


残りは、時也と椿姫、それに咲良の3人だ。総志は相変わらずの仏頂面だが、他の3人まで硬い表情をしているのはどうしてだろうか。


「紫藤さん、どうしたんだ? 俺達を待ってたのか?」


真も総志達の姿を見つけて声をかける。一瞬、先ほど話していた『天使の心臓』が100個集まったという情報を持ってきたのかとも思ったが、それにしては、他の3人の表情が暗い。


「蒼井、戻って来たか」


総志が真に目を向けて口を開く。


「ああ……。狩りを終えて帰ってきたところだけど……」


いつもの低い声音の総志だが、この時はまた一段と低い声に聞こえた。真は総志の声から、何か良くないことが起こっているのだと感じていた。


「狩りを終えたばかりで、疲れているとは思うが、少しだけ話をさせてもらえるかな?」


時也の口調も重たい感じがする。


「大丈夫だ。今日は早い目に帰ってきたから、それほど疲れてはいない……」


どうもただならぬ雰囲気だ。真なりに気を使いながら返事をし、部屋の扉を開け、総志達を中に招き入れる。


「悪いね……」


時也が静かに会釈をして、部屋の中に入る。総志や椿姫、咲良も同じように部屋へと入っていった。


「どうぞ……」


美月が、部屋に備え付けのテーブルに着くように促すと、4人は無言のまま席に着いた。総志と時也も暗い表情をしているが、椿姫と咲良はその比ではない。意気消沈といったところか。項垂れるようにして座っている。


数秒だけ重い空気が流れた後、総志が切り出してきた。


「蒼井、大天使の情報が入って来た」


「見つかったのか!? どこだ? シン・ラースか?」


大天使の情報という内容に真が食いついた。懸念材料だった大天使の居場所。これが分かれば、ラーゼ・ヴァールと戦う見通しが立てられる。


「シン・ラースではない。ブラウ村近くの湿地だ……」


総志が静かに答える。


「ブラウ村近くの湿地……? モードロイドの麓の村の?」


真は記憶を探った。たしか、ミッションで『命の指輪』を取りに行った際に、寄った村がブラウ村だったと記憶している。


「そのブラウ村だ」


「そんな所に大天使がいたのか? 予想外過ぎるというか……、予想の斜め下を行くというか……。なんでそんな所にいるんだ?」


真の疑問はもっともだろう。最後のミッションと告知されているのに、ミッション遂行のためのアイテムを取りに行くのが、過去のミッションで通り道にあった村の近くの湿地なのだから。何の関係性もない。


「正確に言うと、ブラウ村近くの湿地に大天使が居るわけではない」


「どういうことだ?」


「ブラウ村近くの湿地で、天使を狩っている最中に、突然、大天使が現れた」


「突然、大天使が現れた!?」


「そうだ……」


総志は静かに答える。大天使の情報は、本来のなら歓迎すべきものなのだが、そういう雰囲気ではない。


「ということは、天使を一定量狩れば、出現するタイプの敵っていうことか……」


「正確に言えば、少し違うな。だが、お前の推測の一つが、近かったということだ。天使を狩り終わった直後に大天使が現れたということらしい」


会議の場で、真が話した推測の一つ。天使を一定数倒せば、その後に大天使が出現するというパターン。もう一つ、可能性として考えていたのは、どこかに大天使が居て、そこまで倒しに行くというものだが、これは完全に外れていたようだ。


「少し違う?」


真が総志に聞き返す。天使を狩れば大天使が来ることで間違いはないのだが、どういうことなのか。


「細かい話は後だ。それより、まずは大天使の話からだ」


「ああ、そうだな……」


どこが間違っていたのか、真は気になるところだが、まず話をしないといけないことが他にある。大天使と直接対峙した人の話を聞くのが先だ。


「「…………」」


真がチラリと目線を変える。椿姫と咲良がグッと歯を食いしばっているのが見えた。握った拳にも力が入り、何かを必死に堪えている。


「それで……、大天使は……?」


結果がどうなったのかは、椿姫と咲良を見れば明らかだが、聞かないといけないと思い、真が口を開いた。


「大天使と遭遇したのは、和泉が率いていた部隊だ。35人中、生きて帰ってこれたのは、和泉と七瀬を含む9人。なす術もなかったということだ……」


総志が、椿姫と咲良に目を配りながら話をした。


「ちょっと待って下さい! 椿姫さんと咲良ちゃんがいて、なす術もなかったって……。他の人達も『ライオンハート』のメンバーですよね? それなのに、なす術も……」


居ても経ってもらいられず、翼が声を上げた。椿姫も咲良も一緒にミッションをやったことがある。その実力は翼だけでなく、他の皆もよく知るところだ。それに加えて、『ライオンハート』から、天使狩りに任命されるような人達35人で戦って、生きて戻ってきたのが9人しかいない。


「それはだな――」


「私が話します」


総志が説明しようとした時だった、椿姫が顔を上げて声を上げた。


「大丈夫……ですか……?」


心配そうな顔で彩音が言う。椿姫とは何かと仲良くしている彩音だが、これほど落ち込んでいる椿姫は見たことがない。


「大丈夫……。大丈夫……」


彩音を見ながら、椿姫が二度呟いた。


「和泉、状況を説明してやれ」


総志も椿姫に任せるようで、ここは引き下がる。


「はい……。私達が天使を狩っていたエリアが、ブラウ村近くの湿地帯。何日かそこで天使を狩っていて、その日も現れた天使を全部狩り終わったとこだった……。最後の一体に止めを刺したのと同時だったと思う……、突然、空が赤くなったの……」


「空が赤く……?」


神妙な面持ちで真が聞き返した。


「そう……。天使と戦ってたのは昼前……。だけど、最後に残った天使を倒した瞬間、空が真っ赤になったの……。凄く不気味な……、不自然な色で……。なんて言えばいいんだろう……。透明の赤いセロファンを目に被せた感じの色……。そんな色になったの……」


椿姫の話を全員が食い入るようにして聞いている。口にするのも辛いだろうが、椿姫はそのまま話を続けた。


「その時に、現れたの……。大天使が……」










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