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最後のバージョンアップ Ⅲ

「蒼井、ゲームでの天使はどれくらいの強さだ?」


空を飛ぶ天使を睨みながら、総志が真に質問をした。


「同レベルの並みのNMくらいの強さはある……」


苦い顔で真が答えた。ゲームで『天使の心臓』を集めることに時間がかかった要因の一つが、個々の天使の強さだ。


ただの雑魚であれば、乱獲して集めることも可能だが、天使は1体でもそれなりに強かった。単独で挑んで勝てるような相手ではないため、ある程度頭数を用意して狩らないといけない。


「同じ雑魚でも、ドラゴンとは大違いだな……」


真の回答に姫子も歯噛みしていた。


「その分、数はかなり少ないようですけどね。まあ、数が多い方と個体が強い方……。どっちにしても、こちらには辛いということで変わりはありませんが……」


悟も表情は硬い。数が少ないことに安堵したのも束の間、個体の強さがドラゴンより上なのであれば、苦労は同じ。


「どうしますか? ここで迎え撃ちますか?」


眼鏡の位置を直しながら時也が口を開いた。もう、天使たちの姿が見えるくらいの距離まで迫ってきている。ここにやって来るのも、そう長くはかからない。


「ここで迎え撃つ! やり方はドラゴンと同じだ。蒼井が好きに動いて、俺達は防御を固める!」


総志が指示を出した。かなり疲弊しているので、部下たちを戦わせたくはないが、既に天使はこちらに向かっている。


ならば、できるだけこちらが戦いやすい地形で戦った方が良い。


「防御陣形、散会! 敵の殲滅は、蒼井君に任せて、僕達は防御に集中!」


時也が声を張り上げた。シン・ラースに到着した時は、150人いた討伐メンバーも今は50人を下回っている。


だから、防御に関しては、心もとないところがあるが、それでも、両ギルドのマスターとサブマスターが健在であえることは大きかった。


戦力的な問題もあるが、残された者の心の支えとして、踏ん張ることができるからだ。


アロニーファンタジアの中央広場で、真一人を前に出し、残りは後方で防御を固める陣形。人数が少なくなったことで、素早く陣形を整えることができたのは、何かの皮肉か。


全員が固唾を飲んで、天使の襲来に備える。動かずにじっと待つ。消耗した体力を少しでも回復させたいが、敵はそんな時間をくれるわけもなく、しばらくすると、天使の先頭がアロニーファンタジアの敷地内に侵入してきた。


「来るぞ! 迎撃用意!」


総志が声を上げると、一斉に武器を構えて、天使の攻撃に備えた。


アロニーファンタジアの入り口から、中央広場に続く大通り。ファンシーな外装の店が並ぶ大通りを、剣を持った天使たちが飛んできた。


「うおおおおおーーー!!!」


先陣を切ったのは真。先制される前に、真の方から仕掛けていった。


<ソニックブレード>


天使に向かって走って行った真は、射程範囲内に入れると、即座にスキルを発動。遠距離攻撃スキルのソニックブレードで先頭の一体を狙った。


<クロスソニックブレード>


真は同じ標的に向けて、連続の遠距離攻撃スキルを発動させる。十字に斬った剣先からは、真空のカマイタチが発生する。


見えない音速の刃は、甲高い音を立てて、一体の天使を斬り裂く。


だが、天使は止まらない。狙いを真に定めると、一直線に向かってきた。


「雑魚ドラゴンだったら、これで落ちてるんだけどな」


真は不敵な笑みを溢しながら独り言ちる。


真の中のベルセルクは活性化しているようだが、今までとは違った。真自身が、ベルセルクの活性化を無理に抑えようとしていないからだ。


そのことで、真とベルセルクは自然な形で高め合い、体の芯から力が湧いてくるような感覚になっていた。


「よっしゃ、来いや、天使どもー!」


自分でも妙にテンションが上がっていることを自覚しながら真が叫んだ。


その真の叫びに応えるようにして、天使たちは狙いを定めて襲い掛かって来た。


輝く白刃が真目掛けて振り下ろされる。無駄のない綺麗な動きだ。しかも速い。


真は天使が振り下ろした剣に対して、一歩踏み込んで頭を下げる。同時に――


<スラッシュ>


袈裟斬りでカウンターを入れた。後頭部の辺りから、風を切る音が聞こえてくる。天使が振り下ろした剣が通り過ぎた音だ。


<シャープストライク>


そこから、真は素早く二連撃を放った。天使は回避することもできずに直撃する。


それでも怯むことなく、天使は剣を高く掲げる。だが、それでは遅い。


<ルインブレード>


天使の目の前に円形の魔法陣が現れる。真は出現した魔法陣ごと天使を斜めに両断した。


この一連の攻撃で、天使は力尽き、地に体を付けた。


これでようやく一体。


「流石に手間はかかるけど、ゲームほどの強さはないな……」


数は多かったが、ほぼ一撃で倒せていたドラゴンの群れ。それに対して、数は少ないが、一体倒すまでに時間のかかる天使。結局、悟が言っていたように、どちらも辛さでは同じだ。


「まあ、俺としては、個々の強さが高い方が楽しいけどな!」


真は笑いながら、次の獲物へと狙いを付ける。


丁度、真に向けて剣を突き出してきた天使がいた。


真はそれを半身になって避けると、下段から掬い上げるようにして剣を振り上げた。


<グリムリーパー>


真の大剣は死神の大鎌のような軌跡を辿る。


身体を真下から斬り上げられた天使だが、相手はゲームの存在。一切痛みを感じることもなく、無表情のまま剣を振ってくる。


<スラッシュ>


真は天使の剣を避けると同時に袈裟斬りを入れる。


<フラッシュブレード>


止まることなく、横薙ぎに剣を振る。まるで閃光が瞬くような鋭い剣戟だ。


<ヘルブレイバー>


天使は反撃に転じているが、真は関係なく体ごと剣を振り上げる。跳躍とともに天使の体を下から斬り裂いた。


そこに別の天使が真に向けて剣を構えているのが見えた。しかも、一体だけではない、真の周りを囲んでいる天使たちが一斉に剣を振りかざして狙っている。


前も後ろも、右も左も、頭上からも天使達が押し寄せてきている。


<ソードディストラクション>


真は、空中で体ごと斜めに一回転させて剣を振った。


直後、放たれるのは具現化した破壊の衝動。空間ごと震撼させる激しい衝撃は、蹂躙するかのごとく天使に襲い掛かる。


ソードディストラクションは、ベルセルクが持つ範囲攻撃スキルの中では最強の威力を誇っている。さらには、スタンさせる効果も付いているという凶悪ぶり。


「流石は天使。ソードディストラクションを喰らっても生きてるか……。でも、スタンは入るみたいだな」


雑魚のドラゴン達だったら、真のソードディストラクションは、完全にオーバーキルなのだが、天使は生き残っている。だが、スタンの効果により、真の攻撃範囲に入った天使は全員、気絶している。


「それじゃ、遠慮なく」


<イラプションブレイク>


真は軽く跳躍すると、大剣を地面に叩きつけた。大剣を叩きつけられた地面からは、四方八方に地割れが発生し、その隙間から勢いよくマグマが噴出した。


瞬く間に、灼熱の赤が天使達を飲み込んでいく。


「これでも、まだ倒せないか」


<ストームブレード>


真は更に体を一回転させて大剣を振った。水平に薙ぎ払た剣からは、同心円状に斬撃の嵐が巻き起こる。


ストームブレードは効果範囲が広いが、威力は落ちるという特徴がある。ただ、最強レベル、最強装備のベルセルクが放ったストームブレードだ。威力としては十分。


もう、虫の息だった天使たちは、バタバタと地に落ちていく。


一連の範囲攻撃スキルの連打で、倒した天使たちは十数体。まだ、半分も倒していない。


だが、これで数は天使たちの方が少なくなったはずだ。


真は、チラリと後方に目をやると、10体ほどの天使が『ライオンハート』と『王龍』の防御陣形に突撃している。


「防御に専念しろ! 徐々に削っていけばいい! そうすれば蒼井が殲滅してくれる!」


声を上げているのは総志だ。かなり疲労が蓄積しているはずだが、顔は生き生きとしている。


「紫藤さんは大丈夫そうだな」


ただ、逆に言えば、まともに動けるのは真と総志だけ。他は全員疲労困憊。作戦として防御に専念しているというより、攻めるだけの体力がなく、防御を余儀なくされていると言った方が正確なようだ。


「個々の強さは天使が上だろうが、数と機動力ではドラゴンの方が上だ! こいつらを蹴散らしたら、急いで船に戻るぞ! それまで持ちこたえろ!」


総志が更に声を上げている。丁度、一体の天使を斬り伏せたところのようだ。


(確かに、紫藤さんの言う通りだな。ドラゴンの厄介なところは、機動力の高さだったし。一度目を付けられたら逃げ切れないしな)


真がドラゴンとの戦いを振り返る。ヴァリア帝国が落とされたのは、圧倒的なドラゴンの数だけではない。空を飛ぶ機動力が天使とは比べ物にならないくらいに速いからだ。


地上でドラゴンの相手をしている間にも、どんどん上空を通過されていってしまう。


その点、天使たちの速度は、ドラゴンのそれと比べても遅い。


ここまで来るのにも、こちらが発見してから時間がかかっていた。


「それでも……」


<ショックウェーブ>


真は迫りくる天使の一団に向けて、範囲攻撃スキルを放った。まるで獣の咆哮のような、強烈な剣圧が天使達に牙を剥く。


ショックウェーブは、直線状に効果範囲が限られるが、その分威力は大きい。


「やっぱり、個々の強さが高いっていうのは厄介だな」


真のショックウェーブでも天使達を止めるには至らない。剣を振りかざして押し寄せて来る。


ただ、予想通り、天使の強さは元となったゲームとは違う。真や総志の強さを基準とした強さではない。とは言っても、美月達や椿姫達にとってはかなり強敵だろう。


数のドラゴンと質の天使といったところか。


「まあ、それでも、残ってるのは数えられる程度なんだけどな」


真は大剣を握り直して、天使を迎え撃った。


天使が強いのは確かだが、それは雑魚レベルでの話。深淵の龍帝 ディルフォールには遠く及ばないし、アグニスやフィアハーテよりも断然弱い。


真がベルセルクと一緒に発狂するほどの敵ではない。ある程度楽しめはするが、その程度。


真は、天使達を淡々と斬り伏せていった。






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