表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
380/419

闇底の龍 Ⅳ

真の鼓動が急激に速くなる。全身から力が噴出してくる。リミッターなど何の役にも立たない。もう、何物にも止めることはできない。


真の瞳が深紅に染まると、目の前の敵に照準を合わせた。


「アAaあァァぁーーーーッ!!!」


異常なまでの叫びを上げながら、真がディルフォールへと斬りかかっていく。


その姿に人間らしさなど欠片もない。どこまでも歪で、どこまでも異様。加えて動きも尋常ではない。ただ単に突っ込んでくるだけの動きなのだが、まるで弾丸のようなスピードで迫って行く。


「ぬぁッ!?」


ドラゴンの反射神経をもってしても回避不可能な速度。ディルフォールは、真の斬撃に対して、何ら対抗することなく受けてしまう。


「Aァァァあぁーーーーッ!!!」


真の攻撃は更に加速していく。人間とは思えない、その奇怪な声を発しながら、ディルフォールを斬り刻むべく大剣を振る。


「ぐぬッ……!?」


これにはディルフォールも後退をする他なかった。翼を使って大きく後方へと飛び退く。


だが、真は逃がしてはくれない。


「――ッ!!」


先ほどとは一転して、一切声を出さず、ただ笑うだけの真がディルフォールを追いかける。


「くッ――エル バラクッ!」


ディルフォールは右手を真に向けて魔法を詠唱。瞬時に発生した紫電が真目掛けて飛んでいく。


蛇のようにうねりながら飛んでくる雷。不規則なその動きを予測して避けることはほぼ不可能。最初に真がこの攻撃を受けた際も、大きく迂回して対処するしかなかった。


「…………!」


しかし、真は避ける素振りすら見せずに、ディルフォールを見る。そして、勢いをつけて体を傾けると、そのまま捻るようにして飛んだ。


ほとんど同時のタイミングで、真の体の脇を紫電が通り抜ける。


「なァッ!?」


ディルフォールは驚きに声が出なくなってしまたった。迸る紫電に対して、一直線に飛び込んできて、それでいて、体ごと捻り飛んで避けられた。


真は着地する勢いそのままに、ディルフォールに斬りかかった。


「ぐッ……!」


肩口から袈裟斬りに受けた斬撃にディルフォールは顔を顰める。距離を離して牽制する目的で使った攻撃が、まるでその意味を果たさなかった。


しかも、真は止まる気配がない。それは、目を見れば分かる。


(な、何なんだ、この目はッ!? こやつ、本当に人間か!?)


深紅に染まった真の目を至近距離で見てしまったディルフォールは、戦慄に血の気が引いていた。見たことのない目。人でも化け物でもない目。それが何であるか分からない。


分かることは一つだけ。得体の知れない何かが襲い掛かってきている。


「ラファ トルナドーッ!」


ディルフォールは焦りながらも魔法を詠唱すると、自身の体を大きな竜巻へと変化させた。


激しく渦巻く風は、巨大な爪となって真を襲撃する。


<ソードディストラクション>


真は逃げもせずに跳躍すると、体ごと斜めに一回転させて剣を振りぬいた。


その瞬間、真の剣を中心にして、辺り一面を蹂躙するかのごとく衝撃が爆ぜた。まるで、破壊という事象そのものが顕現したかのような猛烈な衝撃。


ディルフォールの竜巻と真の衝撃がぶつかり、空間ごと破砕するような激しい振動が起こった。


「ぐはぁッ……!?」


勢いよく弾き飛ばされたのはディルフォールだった。


無限ともいえるほどの魔力を誇るディルフォールが、完全に力で負けていた。


「くっ……」


惨めにも地面に膝を付くディルフォール。顔を上げて、キッと真の方を睨む。


「――――」


真は何も言わずに立っている。瞬きもせずに、ただ笑ってディルフォールを見ている。


「ふふふ……。なるほどな……。これが汝の本当の力か。よくもまぁ、自分のことを人間と言えたものよな」


笑いを溢しながらディルフォールが立ち上がった。


「aぁ……」


笑ったままの真から声が漏れて来る。


「最早理性もないか。だが、我は構いはせんぞ。これほどの力を持っているのだ。何もかもが許される。誰が異を唱えることができようか。ただ、欲望の限り貪ればよい! それが我の望みでもあるからな!」


ディルフォールも胸が高鳴っていた。興奮に血が湧きあがる。体中が燃え盛るように熱くなっているのが分かる。


「理性ha……のコッテru……」


「ん……?」


片言の言葉にディルフォールが聞き返した。


「マだ……慣レteなクてな……」


「ああ、そういうことか……。よい。我は気にせんぞ。お互いに言葉などなくてもよいであろう?」


ディルフォールは笑って返した。理性がないように見えるが、どうやら残っているらしい。しかし、そんなことはどうでもよかった。思う存分戦えるのだから、理性があろうがなかろうが、些末な差でしかない。


「コッチは……souiうワケにハいかない……んデナ……。オ前とは……別ノ約束がaるんだ……」


「汝が誰とどんな約束をしたかは知らぬが、我を楽しませるという約束は、違えるでないぞ?」


「ソレは、心配……suruナ……。俺ハ……モう……逃geたリは……しなイ……」


たどたどしい言葉とは裏腹に、真からは強い意志が感じられる。


「そうか、ならば我も汝の期待に応えねばな! 満たしてほしいのだろう?」


「アあ、ソうda……」


「いいだろう。我が汝を満たしてやろう! この世のモノとは思えぬ快楽を与えてやる!」


ディルフォールはそう言うと、一気に自身の力を開放させた。開放されたディルフォールのオーラは、周囲の空気を弾き飛ばしていく。


真は、ディルフォールのオーラをビリビリと感じながらも、心はかつてない程に昂っていた。


「とくと味わうがよい――ラーナ メル ゲヘナッ!」


ディルフォールが高く右手を掲げると、漆黒の炎が溢れ出してきた。押さえつけられていた力が破裂するようにして、地獄の業火が吹き上がった。


広いアロニーファンタジアの中央広場が、一瞬の内に黒い炎にまみれる。色とりどりの花壇も、パステルカラーの店も、白い石畳も、全てが黒に染まる。


「アアァァァaaーーーッ!!!」


真は脇目も降らずにディルフォールへと向かって突進。ほとんど逃げる隙間もないような、獄炎の中を突っ走る。


「さあ、来い! 我を満足させてくれ――エメント バラクッ!」


魔法の発動と同時に、ディルフォールの周囲に無数の雷が落ちてきた。周囲を焼き尽す業火と、数えきれないほどの雷光が交じり合う。


<スラッシュ>


真は無数の落雷の合間を縫って、ディルフォールの体に斬撃を入れる。


「アーム ルアハ!」


ディルフォールは、真の斬撃にも臆することなく魔法を詠唱。左手を掬い上げると、そこから巨大な風の刃が発生して飛んでいく。


<シャープストライク>


真は半身になって避けると、素早い二連撃を放った。


「エル オウル!」


斬撃を受けながらも、ディルフォールは真の顔に向けて右手を突き出す。一瞬の間をおいて、超出力の光線が発射された。


真はこれを、上体を逸らすだけで回避。


<ルインブレード>


そのままの体勢から、連続攻撃スキルの3段目を放つ。


目の前に魔法陣が出現すると、真は魔法陣ごとディルフォールを斬り裂いた。


連続攻撃スキルの3段目であるルインブレードは、高い攻撃力に加えて、敵の防御力を下げるという効果まで付与されている。


まずはルインブレードを叩き込むというのが真のセオリーだ。


「ぐッ……。やりおるな……。だが、これならどうだ――エムト ラ ケラハッ!」


ディルフォールの詠唱が終わると、すぐさま周囲の空気が白く濁った。


ディルフォールを中心に展開される、広い範囲攻撃だ。氷属性のダメージだけでなく、効果範囲内に入った者は、凍り付いて一定時間動けなくなってしまう。


「…………」


真は何も言わずに後退。一足飛びに退いて、氷結の領域から離脱していく。


「エル オウル!」


距離が開いた真に対して、ディルフォールは狙いを付けて魔法を詠唱。収束した光線が矢となって真を襲う。


<レイジングストライク>


対する真は、一気にディルフォールへ飛びかかっていった。空中から獲物を狙う猛禽類のように、急激な加速でディルフォールへと飛びかかる。


真の脚の横を光線が通り抜けた。そして、着地する勢いを乗せて、真の剣がディルフォールへと突き刺さった。


この時点で、ディルフォールが放った凍結の効果は消えている。攻撃発動時に、その範囲の中にさえいなければ凍結させられることはない。これがゲームの仕様だ。


「ふふふ……ハハハハハー! いい! いいぞ! これだ! これだ! これだ! 我が望んでいたのはこいうことだ! 楽しいよな! 楽しいよな! 汝もそう思うであろう! なあ、そうであろう!」


どんな攻撃をしても真を止めることができない。それが、ディルフォールにとって無性に楽しかった。何をしても構わない。何をしても壊れない。何をしても向かってくる。これほど楽しいと感じたことはなかった。


「あa、楽シイよ! 最高の気分ダ! コンナに楽シイって思ッタことは、今マデにないってクライにな!」


真も笑いながら返す。自分の中にいるベルセルクも歓喜の声を上げているのが分かる。そして、真自身もベルセルクと一緒になって喜んでいる。


素直に力を受け入れて、素直に戦いに興じて、素直に興奮する。それが、堪らなく楽しかった。


「汝も楽しか! 嬉しいのう! 嬉しいのう! これほど嬉しいと感じたことは、生まれてこの方なかったぞ! ならば、我は全身全霊を尽くそう! もうこの後のことなどどうでもよいわ! 見せてくれる、これが最強のドラゴンの力だ!」


激しい高揚の中で、ディルフォールは叫んだ。


かつて、ここまでの相手がいただろうか。初めて人間に倒された時も、百数十人という単位の人間と戦ってのことだ。


それがどうだ。たった一人の小娘が、深淵の龍帝といわれる最強のドラゴンを追い詰めているのだ。


そんな相手に出し惜しみなどしていては意味がない。もっともっと狂いたい。


「グガアァァァァーーーッ!!!」


ディルフォールの口から吐き出されたのはドラゴンの咆哮。アグニスやフィアハーテなんかよりも遥かに大きく、力強い咆哮。


ディルフォールの目が赤く光ると、全身から黒紫色のオーラが溢れ出してきた。それは、今まで纏っていたオーラとはまるで別物。


恐ろしく、強大で、何よりも禍々しい。


そのオーラはまるで巨大なドラゴンのような形になり、湧きあがるようにして、ディルフォールの背後から聳え立った。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ