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道の向こうは Ⅰ

翼の言う、道というものが見えてくるまでにはそれ程時間は要しなかった。しばらく歩いていると少しずつではあるが、その姿を現し始め、翼以外の三人にも目視できるようになる。ただ、その道は確かに道ではあるが、高原の草をかき分けただけの道。むき出しの土は碌に整備もされていないためごつごつとした何とも雑な形だけの道だった。


程なくしてその道にたどり着く。見渡せば道の先は下に広がる森へと続く方と上にそびえ立つ山へと登っていく方向に伸びている。他に道のようなものはなく、広い高原の中を細い糸が垂れているだけのような道が長く伸びているだけだった。ゲームだとこの辺りに案内の看板が立っていて、どちらへ向かえばいいか教えてくれるものなのだが、そんな親切な設計にはなっていない。


「さてと、どっちに行くかだが……」


両腕を組んで真が思案する。今の計画は日が沈むまでに何も見つからなければキスクの街に引き返すということ。何とも心細い気もするが、これも一応何かの手がかりだろう。闇雲に進んできた昨日とは違うはずだ。そうなると今日で捜索を止めてキスクの街に戻るという選択肢はなくなる。


「ずっと山を下りるように進んできたんだから、このまま下りていけばいいんじゃない?」


「翼ちゃん、そんな簡単な話じゃないと思うよ……」


「う~ん……私も翼の言う通り、このまま下って行けばいいと思うけど……」


そこまで言って美月が真の方へと目線を向ける。『今までの道程通り山を下りる方向でいいと思うけどどう思う』と目で問いかける。


「俺も下りていく方向で良いとは思うんだが……」


「登った先に何があるかってことですよね?」


彩音が言い淀んでいる真の言葉を補足する。山を下りるという当初の計画にはほとんど根拠がない。ほぼ勘で進んでいると言っても過言ではない。情報が何もないため、そうする他なかったのだが、この勘が正しいという保証はどこにもないのである。


「ああ、そういうことだ……。まぁ、どこに何があるのかを探索するのが目的だから、別にどっちに行っても間違いではないんだけどな。できれば当たりを引きたい」


山へ登る方の道の先は遠すぎて何があるかさっぱり見えない。流石の翼の視力をもってしてもだ。そして、下の森へと続く道は木々に覆われて何があるか見えない。


道なのだからどこかに繋がっているのだろうが、行き止まりという可能性もある。これだけ散々歩いて来てハズレの道を進むのは嫌だ。ハズレだと分かることも収穫ではあるが、苦労してそんな小さな果実を手に入れるよりも労力に見合うだけの大きな果実が欲しいと思うことは仕方のないことだ。


山を下りていく道を進む派が翼と美月の二人。迷っているのが真と彩音の二人。この先もかなり時間がかかるであろうと予想できるだけに迷いに時間を喰われていく。そんななか突然野太い声が考察中の4人の輪の中に飛び込んできた。


「お前ら難しそうな顔して何やってんだ?」


聞きなれな野太い声に集中が霧散して声の方へと顔を向ける。4人の目線の先には2mはある大型の獣人NPCが不思議そうな顔で見ていた。声の主はこの獣人のNPCだ。虎のような黄色と黒の模様。細身だが筋肉の付き方には無駄がない。背中には弓矢を背負っているので、おそらくスナイパーだろう。


「えっ……あの、何をしているかっていうか……」


道の真ん中を4人が陣取って何か難しそうに話をしている。人の気配がないので何も気にせず道の真ん中を占拠していたが、通りがかった人から見れば何をしているのか不思議だったのだろう。


「えっと……その、あなたは……?」


キスクの街にも獣人種のNPCはいるが、目の前にいるNPCはかなり獣に寄っている。虎をそのまま二足歩行にしたような風貌である。今まで街に居た獣人種は耳や尻尾が獣で他は人間に近かっただけに、圧倒されてしまう。それでも美月はなんとか質問を投げかけた。


「ああ、俺か? 俺はこの辺りで狩りをしながら生活してるもんだ。なんだ、お前ら、原生種が珍しいか?」


「原生種っていうのは……?」


「最近の人種は原生種も知らないのかよ。まぁ俺たちも滅多に人里には顔を出さないから仕方ないっちゃあ仕方ないんだろうがな……。街に居る人種に近い獣人の祖先にあたる種族だ。他の種族と交流をするようになったやつらと、俺みたいに自然の中で生活をしてるやつらが長い年月を経て見た目も変わっちまったんだよ。あ、でも人種が嫌いってわけじゃねえんだぜ。ただ単に一人でやってる方が気楽だからそうしてるだけだ」


この獣人NPCの話によると、キスクの街でも見かける獣人種はもともとはこの原生種という一つの種族だったのだ。それが他の種族と交わるようになって今の街にいる獣人種になったのだろう。他種族との交流をしていないというだけで、避けているわけではなさそうだ。今もこうして話しかけていることからも敵対心はないことが分かる。それなら。


「俺たちは道に迷ってるんだ。この道がどこに続いているのか教えてくれないか?」


「道に迷う? なんで迷うんだよ? お前らキスクの街から来たんじゃないのか?」


獣人は再び不思議そうな顔で真見やった。何を言っているのか分からないという表情をしている。


「あ、ああ。俺たちはキスクの街から来たんだよ」


「だったら一本道だろうが。キスクの街から来たってことはこの道を通って来たんだろ? 何に迷ってんだ?」


衝撃的なことを耳にした。その言葉を聞いて数秒呆然とする。言われていることを理解しているが、理解することを認めたくないという気持ちが妨害する。


「えっと、すまない。ちょっと確認したいんだけど……。この道を山の方へ進んだらどこに出るんだ?」


軽い頭痛を覚えながらも真が質問をする。


「山を越えたらキスクの街がある周辺に出るぞ。ここからだと一日あればキスクの街に着くだろうが、お前ら一体どこから来たんだ?」


もうすでに分かっていた答えだが、実際に耳にすると眩暈がする思いだ。


「……俺たちは向こうの山を越えて来たんだけどな……」


今まで辿ってきた道のりを思い出しながら真が雄大な山を指さす。それは広く大きな山だったと思う。つい昨日のことだが、走馬燈のように山の思い出が頭の中を流れる。そういえば、エル・アーシアに繋がる道を探していた時も、全ての道を調べたわけではない。最初に見つけたエル・アーシアへ繋がる場所からそのまま探索を開始しただけだ。言うまでもなく、近道が他にあったということだ。


「人種って変わった奴が多いよな」


獣人の言わんとしていることは分かるが、情報がないのだから仕方ないだろうと叫びたくなる気持ちをぐっとこらえて、もう一つ大事な質問をする。


「じゃ、じゃあ、この森の方に伸びてる道の先には何があるんだ?」


「ああ、この先か。ここから一日くらい歩いた所にエルフの村があるぜ。いけ好かねえ奴らだけどな」


何故かうんざりとした表情で獣人は答えた。人種に対しても気楽に話しかけている性格から、選り好みはしないように思われたが、エルフという種族にはあまりいい顔をしていない。


「ねぇ、おじさんはエルフ達となんかあったの?」


少しも気を使わない翼が直球を投げる。遠慮という物がないのだが、そのことを獣人が気にするようなことはなかった。


「何にもねえよ。ただ、エルフっていうのはな、自分たちの見た目が良いから、人を見た目で判断するような奴らなんだよ。だから、俺みたいなのははなから相手にもされないってわけだ。別に相手にしてほしいわけでもねえがな。あと、おじさんじゃねえ! お兄さんかって言われるとあれだがな」


自嘲気味な笑みを浮かべて獣人が答える。デリカシーのない翼の質問もまるで意に介していない様子だった。こういうタイプは翼の方が相性が良いのかもしれない。


「え、でも、キスクの街にいるエルフってそんなに見た目で判断するような人たちだったかしら?」


「俺たち獣人が別々の道を進んだのと同じだ。森の中に残ってる奴らは選民思想が強いんだよ」


「ああ、なるほどね」


エルフというのは西洋ファンタジー世界では馴染みの種族。その多くは奇麗な姿をして人よりも遥かに長い年月を生きるとされている。大体の作品に出てくるエルフは他種族を嫌い、人と交わったハーフエルフは禁忌とされ忌み嫌われていることが多い。


「そうなると私達も相手にされないのかな?」


街に居るエルフと違い選民思想が強いエルフなら人種も相手にされない可能性がある。美月が疑問に思うのは確かなことだ。


「ああ、それなら大丈夫だろう」


「どういうことですか?」


「あいつらもずっと引き籠って生活することは限界があるんだよ。外に出た奴らの方が裕福な暮らしをしてるしな。だから、ある程度キスクとの交易があるんだよ。まぁ、それも限られた種族だけだがな。お前ら見た目は良いから大丈夫だろう」


見た目で判断されることには釈然としないが、貴重な情報が得られた。女性のような見た目に変えられたことには未だ持って不満しかないため、これが役に立つということも真としては釈然としないものがあった。




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