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王都襲来 Ⅲ

「ぐあああああーーーーーッ!?」

「きゃああーーーーッ!?」


フレアブラスターから逃げ遅れてた人の断末魔や悲鳴が聞こえてきた。


想像を絶するほどの超高熱エネルギーに、現実世界の人達はなす術もない。王城前広場の一角は、アグニスによって放たれたフレアブラスターにより、地面は捲れあがり、その効果が及ぶ範囲を完全に焦土に変えてしまった。


フレアブラスターは、ランダムに選ばれた対象に向けて放たれる、直線範囲攻撃。その範囲は広く、アグニスが予備動作を取った時点で退避してないと間に合わない。ゲーム中だと、直撃でなくとも、掠っただけで即死するほどの威力。


現状でアグニスと戦っているのは真だけ。だから、真以外にフレアブラスターの対象となる者はいない――はずなのだが、アグニスは『ライオンハート』と『王龍』に向けて、フレアブラスターを放った。


「……距離が近かったのか……?」


考えられる理由は、アグニスとの距離の問題だ。ゲーム中では、アグニスを担当するチームは、ディルフォールとフィアハーテから十分な距離を離して戦う。


これは、アグニスのランダムターゲット攻撃が、別のチームに飛んでいかないための措置だ。距離を十分に離していないことで、ディルフォールやフィアハーテと戦っているチームがアグニスの攻撃対象範囲に入ってしまって、壊滅することはよくある事故だった。


真もそのことを考慮して戦っていた。『ライオンハート』と『王龍』が戦っている場所から、アグニスを離して戦っているつもりだった。


だが、実際には、離す距離が足りなかったということだろう。それは、元ゲームとの距離感の差によるものだ。


ゲームではモニターに映し出された3Ⅾ画像で、地面の模様やオブジェクトで距離を測っていた。


今はゲームとは違う場所で戦っている。目印となるオブジェクトや地面の模様はない。しかも、モニター越しに見る映像と、実際にその場に立って視認するのでは、距離感が違ってくる。


真がアグニスを十分離しきれていなかったのは、この距離感の錯誤によるものだった。


「ぐっ……、くそ……ッ」


真は自分の失態を歯噛みしながらも、大剣を握り直した。


更なる被害を出さないためにも、アグニスを早く倒さないといけない。倒すまでには、まだ時間がかかるだろうから、『ライオンハート』と『王龍』との距離も取らないといけない。


「こっちだアグニスッ! こっちに来い!」


真は喉から搾り出すようにして声を出した。フレアブラスターによる被害がどれだけ出ているかが気になって仕方ない。美月の安否が知りたくて堪らない。それをグッと我慢する。


真が今やらなくてはいけないことは、アグニスの対処だ。


「グルルルルー……」


しかし、アグニスは真の方へと向き直ることはせずに、静かに喉を鳴らした。自身が焼き尽した広場を満足げに睥睨するだけで、すでに戦闘態勢も解いている。


「おい! お前の相手は俺だ!」


向かってくる様子がないアグニスに対して、真はソニックブレードを発動させようとしたが――


(……スキルが発動しない?)


完全にソニックブレードの射程範囲内にあるにも関わらず、スキルは発動しなかった。


まだアグニスが健在なのに、攻撃スキルが発動しない理由。答えは1つだけ。攻撃対象としての判定がなくなっているから。


アグニスは大きく翼を羽ばたかせると、暴風をまき散らしながら空へと上がっていく。


それと同時に、周りにいた雑魚のドラゴン達も一斉に空へと舞い上がる。


遠くの方に目をやると、街中からドラゴンが飛び立っているのが見えた。そして、ヴァリアの皇城が落とされた時と同じく、ドラゴン達はまるで蜘蛛の子を散らすように王都から飛び去って行った。


あっという間に全てのドラゴン達が王都から姿を消す。見送る空は遥か彼方。荒らすだけ荒らして、ドラゴン達はいなくなってしまった。


「なん……だったんだ……?」


ドラゴン達の意味不明な行動に、真は茫然としながら空を見上げていた。何の目的で王都に襲来したのか分からない。


「真ー!」


唖然とする真の耳に聞きなれた少女の声が入ってきた。その声を聞くだけで、真の心は落ち着きを取り戻せる。


「美月……。良かった、無事だったんだな……」


真がホッと胸をなでおろす。一番心配だった美月の姿を確認することができた。


「うん……私は大丈夫……。だけど……」


美月は伏し目がちに言った。アグニスによる攻撃で犠牲者が出ていることは真にも分かる。美月がここにいるということは、回復スキルの必要がないということだ。つまり、即死だったということ。


「あれは、どうすることもできない……。美月が気に病むことじゃないよ……。どちらかというと、責任の一端は俺にあるし……」


アグニスの攻撃を知っていたのに、『ライオンハート』と『王龍』に犠牲者を出してしまった。もっと距離を離しておけば、その犠牲を出さずには済んだはずだ。完全に距離を見誤った真は責任を感じていた。


「それこそ、お前が気に病むことではない」


項垂れる真に総志が声をかけた。横には姫子も来ている。


「そうだ、お前があのドラゴンを相手にしてくれなかったら、もっと多くの犠牲が出てたんだ。もっと胸を張れ!」


姫子が励ましの言葉をかけてくる。声は笑っているが、目は泣いている。そんな顔をしている。『王龍」から出た犠牲者も多かったということだろう。


「いや……、でも、俺がもっとしっかり――」


「気にするなって言ってんだろうが! ウジウジ言ってんじゃねえよッ! お前じゃなきゃ、あんなドラゴン、誰が相手にするんだよ!」


責任を感じている真に対して、姫子が怒鳴りつけた。確かに犠牲者は出た。だが、真がアグニスを引き受けてくれなかったら、おそらく全滅していた。


「えッ!? あ、ああ……」


姫子の圧力に押されて、真は生返事しかできない。


「お前に落ち度があったかどうかは知らんが、助かった命は、お前のおかげだと断言できる。それは、間違えるなよ」


総志が真の肩を叩きながら言った。相変わらずの不愛想な声色だが、本心からの言葉だということは伝わってくる。


「そう言ってもらえるなら……。でも、そっちはいいのか……?」


真は総志や姫子の奥に目をやりながら訊いた。ドラゴンの群れが去ったとはいえ、被害は甚大だ。それに、戦場となったのは王城前広場だけではない。王都グランエンド全体が、ドラゴンの群れに襲われた。


「大丈夫だ。お互いの副官が優秀だからな。あっちは任せてある。それより、蒼井。アグニスとドラゴンは、何故突然この場を去っていった?」


今度は総志の方が真に質問をした。アグニスが去ってくれたことは歓迎すべきことなのだが、その理由が不明。いきなり現れて、いきなり去っていっただけにしか思えない。


「それは……、分からない……。まだ戦ってる最中だったし、フレアブラスターを放って終わりっていうのも、どうしてだろうって……」


真もアグニスやドラゴン達が去っていった理由は分かっていない。まだまだ戦うつもりでいたのに、強制シャットダウンされたような気分だ。


「フレアブラスターっていうのはなんだ?」


聞きなれない単語に姫子が質問を投げかける。


「アグニスが最後にやってきた攻撃だ……。俺が直前に『逃げろ』って叫んだやつ……。アグニスが持っている最大火力の攻撃が『フレアブラスター』っていう名前なんだ……」


真はアグニスが放ったフレアブラスターの跡に目をやると、そこはただの芝生に戻っていた。アグニスがフレアブラスターを放った直後は、焦土と化しており、整備された広場が見る影もなかったのだが、これもゲームだからだろう。アグニスがいなくなると、一瞬で元の広場に戻っている。


「それが分からないな。アグニスが最大火力の攻撃を仕掛けておいて、すぐに去っていく理由が思いつかない……」


総志も、フレアブラスターが放たれた場所に目をやる。今はただの芝生だが、数刻前には尋常ではない火炎攻撃が放たれた場所だ。戦局を一気に変えるだけの火力があったのに、反撃に転じることなく帰っていったドラゴンの行動が不可解でならない。


「宣戦布告……、といったところでしょうか」


割り込んできたのは別の男性の声だった。


真達がその声の方へと振り向くと、そこにはロズウェルとアーベルの姿があった。この2人も、兵を出してドラゴンと戦ってくれていた。


「宣戦布告だと……?」


姫子が訝し気な顔で聞き返した。


「はい、宣戦布告です。ディルフォールはイルミナと繋がっている、これは間違いありませんよね?」


「そうだな。蒼井が実際にイルミナの姿を見ている。会議の場でも話をしていた通り、イルミナとディルフォールの繋がりは間違いないだろう」


ロズウェルの質問には総志が答えた。


「イルミナという女のことを知っているのであれば、こういう挑発行為をしてくることも納得してもらえると思いますが?」


「どうなんだ蒼井?」


若干嫌味なロズウェルの聞き方に対して、総志が真に水を向けた。


「ロズウェルさんの言ってることで合ってると思う……。あいつは世界の浄化を楽しみながらやっている節がある。もしかしたら、浄化っていうアルター真教の教義も、イルミナにとっては、世界をぐちゃぐちゃにしたいだけの方便なのかもしれない……」


『ライオンハート』の同盟の中で、実際にイルミナに会ったことがあるのは、『フォーチュンキャット』のメンバーだけ。総志や姫子はその姿を直接目にしていない。


「真田はどう思う?」


総志は、次に美月にも話を向けた。


「私も真と同じ考えです……。イルミナの目的が何かまでは分かりませんが、遊んでいる風にも見えます……」


美月が素直な感想を言う。イルミナの印象は兎に角危険だということ。何をしでかすか分からない。逆に言えば、何をしてもおかしくないと言うこと。ロズウェルが言うように、宣戦布告もあり得る。


「そうか。となると、また突発的にドラゴンを嗾けて来る可能性はあるな」


「俺もそう思う……」


真が総志の意見に賛同した。ただの宣戦布告で、竜王の一角を投じてきたのは驚きだが、イルミナならそれくらいやってくるだろう。最後まで戦わせなかったのも、挑発だからと考えれば合点がいく。


「蒼井、戦いの直後で悪いが、俺たちだけで会議の続きをする。今から『シャリオン』の会議室まで来てくれ」


総志は休む間もなく真に言う。激しい戦闘の後だが、対策を講じないわけにはいかない。


「俺は構わないけど……」


真は曖昧な返事をしながら、チラリと美月の方を見た。


「私も行き――」


「お前は仲間の安否確認に行け!」


総志は美月の言葉を遮って言い放った。これ以上、美月に話をさせないくらい強引な口調だ。


「私は――」


「美月、『フォーチュンキャット』のことを頼みたい……」


真は困ったような目で美月を見ていた。総志ほどきつくは言えないが、これからの会議に美月が参加することは容認できない。


「…………ッ」


美月は歯を食いしばって黙るしかなかった。これから話し合われる内容は簡単に想像ができる。真がディルフォール、イルミナの双方と同時に戦う算段だ。同時にアグニスやフィアハーテのことも話し合うのだろう。


止めたい。これ以上、真が強敵と戦うことは何としてでも止めたい。だけど、今の惨状を目の当たりにしている。目の前で多くの人が命を落とした。助けることができなかった。


またこの惨劇が繰り返されると思うと、美月は真を止めることができなくなってしまった。


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