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王都襲来 Ⅰ

        1



「ドラゴンの群れって……、ディルフォールの部下か!?」


姫子が立ち上がって、報告に来た衛兵に怒鳴りつけるようにして訊いた。


「そ、それは分かりません……。ただ、とんでもない数のドラゴンが王都に向かって飛んできています!」


半分パニック状態の衛兵が答える。


「はあ? なんで分からねえんだよ!」


なおも姫子は衛兵に怒鳴りつけるが、衛兵の方は狼狽えるだけ。


「アカミネヒメコ様、間違いなくディルフォールの配下にいるドラゴンと見ていいと思います。状況から考えて、他にありません」


衛兵の代わりにロズウェルが答えた。ヴァリアがドラゴンの大群に襲われたのは記憶に新しい。それがセンシアル王国に来たとしても何ら不思議ではない。


「そうか。だったら、迎え撃つしかない! ヴァリアの二の舞はごめんだ!」


いきり立つようにして姫子が言う。ヴァリアが襲われた時には大勢の犠牲が出た。現実世界の人もNPCもだ。あんな光景は二度と見たくはない。


「赤嶺さん、ヴァリアが襲われた時、ドラゴンの大半は皇城に向かったんだな?」


今にも飛び出そうとしている姫子に対して、総志が声をかけた。


「ああ、そうだ。あたしらは街中で暴れるドラゴンに手を取られて、後手後手に回された……」


歯噛みしながらも姫子が答える。たかが爬虫類に、まんまとしてやられたのが悔しい。


「そうか……。それなら、同盟の主力は王城の防衛にあたる。幸い、ここは王城前広場の横だ。蒼井を中心として、ドラゴンどもの本隊を迎え撃つ!」


今、『ライオンハート』の同盟会議が開かれている場所は、センシアル王城の目の前の広場に隣接するホテルだ。王城前広場であれば、広さも十分にあり、ドラゴンの群れを迎え撃つことができる。


「そんな、待って――」


総志の指示に対して、美月が咄嗟に声を上げるが――


「状況を考えろッ! 今はお前の我儘に構っている暇はない!」


美月が言葉を言い切る前に、総志が一蹴した。


「……ッ」


これには美月も反論することができなかった。ヴァリアが襲われた時には美月も現場にいた。そして、瓦礫とかしたヴァリアの城を見てる。助けることができなかった無念は忘れもしない。


そして、同じことが王都グランエンドでも起ころうとしている。もう一刻の猶予もない。目の前の危機に対して、迅速に行動しないと、また大勢の犠牲が出てしまう。


「美月、大丈夫だ。あの程度のドラゴンだったら、俺には何の刺激にもならない」


真がそっと美月の肩に手を置いた。真が発狂するには、それ相応の敵が必要だ。万を超える兵士に、不死のゾンビの群れ。剣聖の二つ名を持つ黒騎士と二人の魔人。これらが同時に襲ってきて、ようやく真の中のベルセルクが目を覚ました。


ヴァリアを襲ったドラゴンの群れでは、真の中のベルセルクを起こすほどの力は持っていなかった。


「……うん。……そうだね」


美月は渋々ながらも了承。確かに真が言うように、ヴァリアが襲われた時に真が発狂するようなことはなかった。いつも通り冷静に動いていたと思う。むしろがっかりした様子が気になるところだが、逆に言えば、真の中のベルセルクが役不足という判定を出したということだろう。


それなら、真が王城防衛の要になることは了承せざるを得ない。


「葉霧、『ライオンハート』の全部隊の招集! 『ライオンハート』は全て王城の防衛にあたる! それと、『フレンドシップ』。お前たちは街の防衛の指揮を取れ!」


「分かった」


「了解した」


時也と千尋はすぐさま返事を返した。


「悟、こっちも同じだ。『王龍』の主力は全て王城前広場に集めろ! 他の同盟ギルドは街の防衛だ! 行け!」


姫子の号令を合図に、『ライオンハート』の同盟ギルドが一斉に動き出した。兎に角、今は時間的な余裕がない。機動力に優れたドラゴンの群れは、すぐに王城にまで到達してしまうだろう。


「僕達も加勢します!」


そう言って来たのはアーベルだった。ロズウェルの右腕というだけでなく、ソーサラーとしての腕前も一流。戦力としては申し分ない。


「ああ、助かる! そっちの戦力もできるだけ王城前広場に集めてくれ!」


総志はアーベルとロズウェルを見ながら返事をした。敵の数が多い分、こちらの頭数も多いに越したことはない。


「はい。センシアル王国魔道顧問として、尽力させていただきます!」


ロズウェルも総志に応えた。いつの間にか、ロズウェルの肩書が変わっているが、それは放置しておく。センシアル王国に協力した分、相応の見返りをもらっていることは、前から知っていたことだ。



        2



正午前から降り出した雨は、止む気配はなく、分厚い雲が空一面を覆っている。まるで、箱の中に閉じ込められたような圧迫感さえ覚えるほどの空。


時折稲光がすると、数秒遅れてゴロゴロと地鳴りのような雷鳴が聞こえて来る。それに交じって、聞こえて来る音があった。


けたたましく響くドラゴンの鳴き声だ。空を蝕むようにして、ドラゴンの大群が迫ってきている。その数は最早、目算では数えきれないほど。


あの日、ヴァリアで真達が見た光景と同じだった。


王都グランエンドの街中に降り立つドラゴンもいるが、大半はセンシアル王城に向かって直進している。


対するは、『ライオンハート』と『王龍』を中心とした防衛ライン。両ギルドともに大勢のギルド員を擁してはいるが、現時点で集まれる数には限界がある。全てのギルド員が王都グランエンドに滞在しているわけではないからだ。


それでも、1000人以上の人数が終結している。


そして、この防衛ラインの最重要ポイントが、『フォーチュンキャット』の蒼井真だ。真がどれだけ自由に戦えるかで、王城を守れるか落とされるかが決まると言っても過言ではないだろう。


「来るぞ……!」


低い声色で総志が呟いた。もうすでに、ドラゴンの群れは、視界に入る空一面を埋め尽くすほどにまで迫ってきている。接敵まで、あと数えるほどの距離。


「グオォォォーーーーーン!!!」


ドラゴンの第一陣が王城前広場にいる人間達を見つけると、一斉に降下してきた。


「うおおおーーー!」


降り立つ無数のドラゴンの群れに対して、最初に飛び出したのは真だった。


大剣を振りかざして、躊躇いもなくドラゴンの群れに突っ込んでいく。


<レイジングストライク>


標的にしたのは群れの先頭にいる一匹のドラゴン。他の雑魚ドラゴンと比べると、少し大きいくらいの個体だ。


空から襲い来るドラゴンに対して、真は勢いよく飛んで、ぶつかっていった。猛禽類が獲物に襲い掛かるような攻撃が先頭のドラゴンに突き刺さる。


まずは一匹。真の一撃を受けたドラゴンは、なす術もなく息絶える。


次の標的を定めようと、真が顔を上げると――そこには、目の前を覆いつくさんばかりのドラゴンが、牙を剥いて迫ってきていた。


だが、真は動じなかった。最初の一匹に狙いを定めた時点で、周りのドラゴンの行動も想定済み。一斉に狙われると確信していた。


<ソードディストラクション>


真は倒したドラゴンの上で跳躍し、そのまま体ごと斜めに一回転させて大剣を振り切った。


一瞬の間を置いて、強烈な衝撃が暴れまわると、空間ごと震撼させた。それは、まさに破壊という事象そのものだった。


真の攻撃範囲に入ったドラゴンは一切の例外なく、全て地に落ちていく。その一角だけ突然穴が開いたように、ドラゴン達が駆逐されている。


「蒼井に続け! ドラゴンどもを蹴散らせ!」


真の戦いを見た総志が、興奮気味に雄たけびを上げた。総志もベルセルクだ。適性は真よりも低いが、これだけの強さを見せつけられたら、魂が沸き立ってくる。


「「「おおおおおおーーーー!!!」」」


『ライオンハート』のギルドメンバーも、総志に呼応して雄叫びを上げると、総志を先頭に走り出した。


「あたしらも負けんじゃねえぞ! 『王龍』の意地を見せんぞコラー!」


負けじと姫子も叫び声を上げる。パラディンの中で最強と言われる姫子が剣を振り上げると、『王龍』のメンバーも雄叫びを上げながら走り出した。


真を中心に、『ライオンハート』と『王龍』が次々にドラゴンを倒していく。美月も必死になって、ダメージを受けた人達の回復に専念している。


ただ、数では圧倒的にドラゴン達の方が多い。『ライオンハート』と『王龍』の防衛ラインだけでは、空を飛ぶドラゴンの全てを止めることはできない。


当然、王城へと到達するドラゴンもいる。だが、それは計算済み。王城の守りは、センシアル王国騎士団とロズウェル及びアーベルがいる。


ほとんどのドラゴンを王城前広場で倒しているため、実際に王城へ到達できるドラゴンは少ない。だから、NPC達の戦力だけでも、ドラゴンの撃退は可能となっていた。


そこが、ヴァリアが落とされた時との違いだ。


「陣形を崩すな! 守りを固めろ! 殲滅は蒼井に任せておけ!」


総志が檄を飛ばしながらも、ドラゴンを斬り伏せていく。前線をパラディンやダークナイトの守りで固めて、後方からはソーサラー、サマナー、スナイパーが援護をする。ベルセルクとアサシンは遊撃隊。陣形の中心にはビショップとエンハンサーを配置し、回復支援を行う。


真は完全に陣形の外にいた。最前線よりもさらに前に出て、一人でドラゴンの群れと戦っている。


真に狙いを定めたドラゴンは、その時点で終わり。一撃の下に沈められるか、範囲攻撃に巻き込まれて落ちるかのどちかしかない。


真を自由にさせて、残りは防御を固める。この作戦は予想以上に上手く行っていた。『ライオンハート』と『王龍』の防衛ラインも一切揺るぐことなく維持することができ、その後ろにいるセンシアル王城も、大きくそがれた戦力しかないドラゴンでは歯が立たない。


「このままの状態を維持しろ! ドラゴンの殲滅を急ぐ必要はない! このまま守っていれば、あたしらの勝ちだ!」


姫子の声が戦場に響く。力強いその声は、戦場の士気をさらに上げた。もう勝ちが見えている。だからこそ、焦ることなく、確実にその勝ちを拾いに行く。急ぐ必要はない。大事なのはブレることなく、守り続けることだけ。


「勝てるぞ! この戦い俺たちの勝ちだ!」


一人の男が叫ぶ。勝利を確信して、興奮状態になっている。


「目に見えてドラゴンの数が減ってる! このまま落ち着いて、守りに専念するぞ!」


誰かは分からないが、別の男も声を上げた。冷静になるように呼び掛けているが、勝てると分かって、高揚している様子だ。


「勝ちに急ぐ必要はない! 自分たちの仕事にだけ専念しろ! 余計なことは考えなくて――」


勝てると思った時ほど油断をする。姫子はそのことを危惧して、注意の声を上げた時だった。


ドゴーーーーンッ!!!


突然、大きな爆発が起きた。同時に激しい熱波と轟音がまき散らされる。あまりにも大きな衝撃は、姫子ですら立っていることができずに、地面に転がされるほど。


「な、なんだ……ッ!?」


身を焼くほどの熱量と鼓膜が痛いほどの爆音。何の前触れもなく、襲ってきた爆発に、姫子の頭がくらくらする。


「何が起きた!?」


すぐさま総志の声も聞こえてきた。尋常ではない大きな爆発音と焼けるような熱で、維持していた陣形も崩れてしまっている。


何かしら敵の攻撃を受けたということは想像がつく。だが、これほどの威力がある攻撃をできる敵が思いつかない。襲ってきているドラゴンの数は多いものの、一個体の能力はそこまで高くないからだ。


「――あ、あれッ!?」


“それ”を最初に見つけたのは美月だった。見上げた空の先にいるものを見て、美月の声が震えている。


「……なッ!? な、何なんだ……あいつは……!?」


美月が指さした方向に総志も目をやった。そこにいたのは巨大なレッドドラゴン。他のドラゴンと比べても、あからさまに大きさが違う。


金色の目に鋭い牙。大きな四本角と凶暴な爪。口からは息とともに炎が吐き出されている。そして、何より特徴的なのが、体を覆う深紅の鱗。その鱗は硬質化しており、まるで鎧のようにレッドドラゴンの体を覆っている。


「アグニス……!?」


空を見上げた真がレッドドラゴンの名前を呟いた。それはまさしく、ゲームで見た火竜王アグニスの姿そのものだった。


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