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災禍 Ⅱ

「笑って……る?」


美月に言われていることの意味が分からず、真は一瞬硬直していまう。ふと口元に手をやると、口角が上がっていることが分かった。


「――ッ!?」


真は、そこでようやく自分が笑っていることに気が付いた。


周りを見てみると、美月だけでなく翼や彩音、華凛も真の方を見ている。その目には動揺が滲んでいた。それは恐怖に似た感情のようにも見える。


「い、いや……その……、別に笑ってたわけじゃなくて……。その、なんて言うか、余りにも衝撃的な内容だったから……俺も、訳わかんなくなって……。だから、笑ってたとかじゃなくて……」


真が何とか言い繕おうとするも、上手く言葉が纏まらない。どれだけ言い訳をしようが、実際に真は笑っていた。


(不味い……。ディルフォールが復活したっていう情報に、ベルセルクが活性化してる……。くそっ、こんなの皆に見られるわけには……)


真が笑った原因は分かり切っている。深淵の龍帝ディルフォールが復活したからだ。バージョンアップの内容を見て、戦慄を覚えたのと同時に、楽しくて仕方なかったのだ。


それは、ゲーム化した世界の元となったゲームに出て来た強大な敵の名前だ。真が持っている最強装備、インフィニティ ディルフォール グレートソードも、この『深淵の龍帝ディルフォール』を倒して手に入れた逸品だ。


それ故、深淵の龍帝ディルフォールの強さは桁違いと言っても過言ではない。元のゲームにおいても、限られたプレイヤーしか討伐に成功していない強敵だった。


「ね、ねえ、真君……。真君が笑ってたわけじゃないっていうのは分かったけど……。その、『衝撃的な内容』っていうのは……?」


恐る恐る華凛が聞いた。真は確実に笑っていた。だが、本人がそれを否定している、というよりも、笑っていた事実を認めたくないようにしか見えなかった。それは、触れてはいけないことなのだろう。


「あ、ああ……、バージョンアップの内容な……。とりあえず皆もメッセージを見てくれ……」


華凛が話題をバージョンアップへと流してくれたことに感謝しつつ、真がメッセージの確認を促した。


「問題なのは、『深淵の龍帝ディルフォールが復活しました』ってやつですよね……?」


メッセージを確認した彩音が言う。名前を見るだけでも危険な相手だということは理解できる。


「ああ、それだ……」


真もすぐに肯定した。ディルフォールを知らなくても、『深淵の龍帝』なんていう二つ名を冠している時点で、強大な敵であることは一目瞭然。


「……真はさ、知ってるのよね? この『深淵の龍帝ディルフォール』っていうのを」


今度は翼が聞いてきた。さっき見せた真の笑い顔は気になるが聞けなかった。あれは、ブラドと戦った時に見せた顔と同じだった。あの時に感じた恐怖と同じものを感じた。それが何なのか、怖くて聞くことができなかったから、バージョンアップについて質問するしかなかった。


「『深淵の龍帝ディルフォール』っていうのは、この世界の元になったゲームに出て来た敵の名前だ。俺もゲームの中で何度も戦ったことがあるけど、本当に強い……。何度も何度も挑戦して、ようやく倒すことができた強敵だ」


「それでも、真君は倒せたんでしょ……? だったら、そいつが復活したとしても、また倒せばいいだけなんじゃ……」


華凛は自分で言いながらも楽観的過ぎるなと思っていた。ゲームの中とはいえ、真が何度も挑戦してようやく倒せた相手が、そう簡単にいくわけがない。でも、真なら何とかしてくれるという思いもあった。


「それは、ゲームでの話だ。それに、ゲームだと、俺一人じゃない。俺と同じくらいの強さを持った仲間と協力して、必死になってようやく倒せたくらいだ」


簡単に言ってくれるなと真が返す。


「えっと……。真君一人では勝てないの……?」


華凛は一つ勘違いをしていた。ゲームでも真は、『深淵の龍帝ディルフォール』を一人で倒したものとばかり思っていたのだ。


「無茶を言うなよ。ディルフォールに俺一人で挑んだら、秒殺されて終わりだ」


真は実際に一人でディルフォール挑んだことはないが、ベルセルクは防御性能が低い。ディルフォールの通常攻撃でも3~4発喰らえば昇天してしまう。


「真さん、それって、ゲームでの話ですよね? ちなみに、参考までに聞きますが、ゲームだと何人で挑戦したんですか?」


彩音が確認のために聞いた。ゲームと今回のバージョンアップを混同するの間違いだ。このゲーム化した世界の元となったゲームだとしても、完全に同一と考えるのは早計だろう。


「ディルフォールは特殊な敵で、普通の戦闘とは違うんだ。150人で挑むレイドボスっていう位置づけになってる」


ゲーム内の説明となると、知らない人に教えるのは難しい。真の説明では細かいところまでは理解できないとしても、挑戦した人数だけは伝える。


「150人ッ!? って、真と同じ強さの人が150人ってことでしょ!? それで、ようやく勝てるレベルの敵って……、そんなの無理に決まってるじゃない! 真と同じくらい強い人なんて誰もいないわよ!」


青ざめた顔で翼が言う。そんなに大人数で挑んでいたとは思ってもいなかった。


「ゲームでの話だ! ゲームだと簡単に強くなれるし、何度死んでも生き返る。全員が最高レベルに追いつくことができるようになってるから、それだけの人数を揃えることができるんだよ」


「あっ……そうか……」


真に言われて、翼が自分の勘違いに気が付いた。150人で戦ったというのは、あくまでゲームでの話。今回のバージョンアップとは違う。


「真さん、もう一つ質問です。『死の大地 シン・ラースを追加しました』っていうのも、今回のバージョンアップにありますが、それも教えてもらえますか?」


彩音が続けて質問を投げかけた。今回のバージョンアップで一番重要なのは、深淵の龍帝ディルフォールが復活したことだ。それは、ある程度確認ができた。では、もう一つの内容、死の大地 シン・ラースとはどういったところなのか。


「それも、元のゲームに出てきた地名だ。ディルフォールと戦うには、シン・ラースを通らないと行けない」


「なるほど……。元となったゲームで、プレイヤーによって倒されたディルフォールが、今回のバージョンアップで復活したということですね」


顎に手をやりながら彩音が考える。


「そういうことだろうな」


真はシン・ラースのことを思い出しながら返事をした。深淵の龍帝ディルフォールを倒す以外にも、シン・ラースにはよく足を運んでいた。


シン・ラースには他では手に入らないような貴重なアイテムがあったり、ディルフォール以外にも特殊なネームドモンスターがいたからだ。


「分かりました。では、これからどうしますか? 一旦王都に戻ります?」


聞きたいことは聞けた彩音が、次の行動について話を進める。今回のバージョンアップにミッションがあるわけではないのだが、復活したディルフォールをどうするのかは決めないといけない。


「一度王都に戻る――が、その前に、『王龍』と会っておこうと思う。たしか、今、帝都に来てるのは、『王龍』の方だったよな?」


真が彩音に確認した。『ライオンハート』と『王龍』は、どちらかが拠点であるセンシアル王国の王都グランエンドに常駐していないといけない取り決めだ。


現在、ヴァリア帝国の帝都イーリスベルクには『王龍』が来ているので、留守番は『ライオンハート』ということになる。


「そうですね。まずは『王龍』と合流した方が賢明かもしれませんね」


彩音も真の意見には賛成だった。2大ギルどのうち、すぐに会える方と会ってから、王都グランエンドに戻るのが一番いいだろう。戻る間にも色々と相談することもできる。


「それじゃあ、移動するぞ――えっと、『王龍』が常駐してる宿ってどこだっけ?」


「ホテル『セントクラウン』」


真の質問に答えたのは美月だった。しばらくずっと黙っていたのだが、急に口を開いたことに、真がぎょっとした顔をする。


「あ、ああ……そうだったな……」


帝都イーリスベルクでの拠点はホテル『セントクラウン』。それは、『ライオンハート』の同盟会議で通知されたことだ。それを真は忘れていたのだが、美月の様子がおかしいのは、それが原因ではない。


美月がずっと黙っていたのは、ディルフォールの説明を聞いている時からだ。美月はずっと考えていたのだろう。ディルフォールのことを。そして、真がディルフォールと戦うことを。


美月が考えていることは、真にも大体想像がついていた。どうすれば、真がディルフォールと戦うことを避けられるか。それをずっと考えているのだ。それなのに、ディルフォールのことを嬉々として語っている真がいる。真自身はそんなつもりはないのだが、気持ちが高揚している分、どうしても、楽しそうに話しているように聞こえてしまったのかもしれない。


「……それじゃあ、行こうか」


翼も美月の様子がいつもと違うことは感じ取っていた。だが、話しかけれる雰囲気ではない。とりあえず、今の目的のために行動するしかなかった。


そうして、真達がホテル『セントクラウン』に向かって歩き出した時――


「グオォォォーーーーーン!!!」


空から大きな鳴き声が聞こえてきた。それは、低い鳴き声だった。鳥でも獣でもない鳴き声。何か大きな生物であることは、鳴き声から分かる。


その大きな鳴き声に、真達だけでなく、帝都イーリスベルクに来ている人たち全員が空を見上げた。


そこには――


「ギャオオーーーーーー!!!」

「ガアアァァァーーーー!!!」

「ゴァオオーーーーーー!!!」


見上げた空の先には、空を埋め尽くさんばかりの、無数のドラゴンの群れが迫ってきていた。





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