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生き残り Ⅱ

「蒼井、状況を教えてくれ」


総志が真に声をかけた。戦闘が始まってから、今までずっと戦い続けていたのだろうが、総志は何食わぬ顔でいる。それはベルセルクとしての特性が出ているのかもしれない。真は同じベルセルクとしてそんなことを思いながらも返事を返す。


「帝国の左翼を担当していた、センシアルの騎士団がこっちの応援に来ている。俺が到着した時には帝国のゾンビ達とセンシアルの応援が戦ってる最中だった」


「魔人とゾンビはどうなった?」


「二人の魔人は俺が倒した。ゾンビを作り出してた魔人も倒したから、もう外にゾンビはいない。帝国の残存兵力もかなり少なくなってるから、センシアル側の勝利は間違いないだろう。ただ、センシアルの騎士団もゾンビにかなりやられてたから、戦力差はそこまで大きくはない」


「そうか……、やはりゾンビは魔人が原因だったか……」


「ん? クオールっていう魔人がゾンビを作ってたネクロマンサーなんだが――紫藤さん、そっちの経過を教えてもらえるか?」


総志の言い方だと、クオールがゾンビを作り出していたことを知らなかったように聞こえる。真は総志との認識に若干のズレを感じて、質問を投げかけた。どうしてこの地下駐車場に籠ることになったのか、それを知っておきたい。


「いいだろう――戦闘開始当初から俺たちがヴァリア帝国に突撃を喰らわせて戦況を有利にした。そこに帝国黒騎士団を名乗る一団が出てきて、状況が変わった。センシアル騎士団が次々と黒騎士団に倒されていったからな。すぐさま俺たちが帝国黒騎士団の方へと向かって対処した……。そこまでは何とかなった……」


ここで総志が苦虫を噛みつぶしたような表情を見せた。そこまでは対応できていた戦いが、多くの仲間が犠牲になる結果に変わってしまったポイントだ。


「ゾンビと魔人か……」


「そうだ。最初はゾンビ達だった。倒したはずの帝国兵や黒騎士団がゾンビとなって再び襲い掛かってきた。ただでさえ手練れの黒騎士団が復活しただけでも厄介なんだが、一番厄介だったのは、黒騎士団の頭まで復活したことだ。あいつ一人にこっちは多大な犠牲を強いられた……」


「ゼール……」


ヴァリア帝国黒騎士団団長のゼールという黒騎士。真も何度か死ぬ思いを味わわされた相手だ。


「ああ、ゼールと名乗った騎士だ。俺がゼールを食い止めてはいたんだが、そこに派手な仮面をつけたふざけたオカマの横槍が入った。そいつが蒼井の言っていた魔人であることはすぐに分かった。だが、その魔人のせいで『ライオンハート』の第二第三舞台はほぼ壊滅。そこで撤退の命令を出して、このビルの地下駐車場へと逃げてきたというわけだ」


「なるほどな……。『ライオンハート』の追撃は帝国の一般兵達に任せて、魔人と黒騎士を含むゾンビ達はセンシアルの殲滅に向かったってことか……。それで、センシアル王国騎士団は殲滅させられた……」


「そういうことだろうな。俺たちはゾンビを操っていた奴までは把握できなかった。その余裕もなかったからな。ここで踏ん張ることが精一杯だったところに蒼井が来てくれたということだ」


ここまで話を聞いて、真は事の経過を把握することができた。『ライオンハート』は何度も復活するゾンビの群れと魔人ザーザスに撤退を余儀なくされたのだ。


「紫藤さん、他の『ライオンハート』の生存者は……?」


恐る恐る真が訊いた。もしかしたら、ここにいる人数が『ライオンハート』の生き残りの全てなのかもしれない。そんな悪い予感もする。


「奥に退避している。敵がセンシアルの殲滅に集中してくれたおかげで、こっちへの追撃は緩かった。第一部隊だけで防衛できるくらいの数しか来なかったのは運が良かったという他にない」


「そうか……良かった……。まぁ、でも運が良かったというか、帝国はそれ相応の数の追っ手を出してきたと思うんだけどな。単純に『ライオンハート』の力量を計りきれてなかったってだけだろ」


「それもあるかもしれないがな――ところで、他のメンバーはどうした? 『フレンドシップ』はどう動いている?」


総志は決して驕らず、正確な現状把握に努める。


「俺以外は全員、『王龍』の応援に行った。美月は途中抜けしてこっちに来たらしい」


「蒼井に敵の中央主力の殲滅を任せて、残りは敵右翼の殲滅か。理にかなった作戦だな。立案者は小林か?」


真の説明に総志が感心したような声を上げる。真の力量を分かっていて、勝つために最も有効な手段を取っている。こういうことを考えるのは、『王龍』の刈谷悟くらいだと思っていたが、『王龍』は真とは別行動中。となると、残っているのは『フレンドシップ』の小林健。


「あ、いや……。俺が敵中央を殲滅するっていう作戦じゃないんだけどな……。『王龍』側に増援をよこして、そっちを先に終わらせてから、敵中央主力を叩くっていう作戦だったんだ。俺はそのための時間稼ぎに来た。作戦の立案は俺……なんだけどな……」


そもそも、センシアル王国騎士団が全滅した原因が分かっていない状況で、真単体でヴァリア帝国中央主力を殲滅するなんて発想はなかった。


結果として、真がヴァリア帝国の中央主力を壊滅させる要因となったにすぎない。最初は時間を稼ぐだけのつもりだったのだ。


丁度その話をしている時だった。


【メッセージが届きました】


頭の中に直接声が聞こえてきた。このタイミングで届くメッセージは限られている。どちらかの戦場で結果が出たのだ。それを知らせるメッセージが送られてきた。


「……」


総志はすぐさまレターのアイコンに手を触れて、メッセージの内容を確認する。同時に真も目の前に浮かぶレターのアイコンに触れた。


【センシアル王国騎士団がヴァリア帝国第一連隊を撃破しました】


「あっ!?」


真が思わず声を上げた。


「どうだったの?」


美月が心配そうに聞くが、真の表情は明るい。どうやら悪い知らせではないようだ。


「『王龍』側が勝った! その知らせだ。美月も見てみろよ!」


当然と言えば当然の結果だろう。『王龍』だけでも義勇軍としての戦力は申し分ないのに、そこに別の義勇軍も増援として駆け付けたのだ。勝って当然。


ヴァリア帝国第一連隊がセンシアル王国を撃破したという情報がなかった以上は、イレギュラーがいないのも分かっていたこと。


「あぁ……良かった……」


美月もホッと胸をなでおろした。


「ふっ……。そうなると、もうすぐ『王龍』の応援が来るわけだな――『ライオンハート』第一部隊はここで回復に専念。それと、避難している『ライオンハート』のメンバーに状況説明をしておいてくれ」


「「はい」」


総志が指示を出すと、『ライオンハート』第一部隊員の数名が奥へと状況説明のために向かった。


「そういえば、葉霧さんは? ここにはいないみたいだけど?」


真はふと気になって質問をした。いつも総志の横にいるギルドのサブマスター葉霧時也がいない。


「葉霧は奥で負傷者の手当てをしている。ビショップとしては葉霧以上の能力を持っている奴はいないからな。衛生兵として後方待機させた」


「そうか、それなら、美月も奥に行って『ライオンハート』の負傷者を見てやってくれないか」


「うん、分かった。私もそうしようと思ってたところだし」


美月が力強く返事をした。現実の戦場と違い、ゲーム化した世界では負傷しても、血が出ることはなく、骨が折れることもない。内臓も損傷しないのだが、受けたダメージに応じて痛みがある。当然のことながら、ダメージが蓄積して規定値を超えると死に至る。


そのため、大きなダメージを受けた者は後方に下がり、安全な場所で回復を受けるようにしていた。そこに時也が缶詰になっているということだ。


「真田、手伝ってもらえると助かる」


「いえ、そんな……当然のことですから」


苦手意識がある総志から礼を言われて、美月は少し戸惑いながらも返事をして、奥へと向かって行った。


真と総志は美月が地下駐車場の奥へと姿を消したことを黙したまま見送った。そして――


「蒼井、お前はまだ動けるだろ? 行くぞ」


「ああ、大丈夫だ」


美月の姿が見えなくなったところで、総志が口を開いた。その言葉に対して、真が即答する。


「えっ!? 行くって!? 二人ともまだ戦うつもりなんですか!?」


さも当たり前のように言う真と総志に対して、椿姫が信じられないという顔で言った。


「これから『王龍』が来る。向こうも無傷というわけではないだろう。ヴァリアの中央主力もまだ残っている状況だ。少しでも敵の数を減らす」


総志にしては珍しく、少しだけ笑って返した。


「そういうことだ。残りを全部、『王龍』とセンシアル任せにするわけにもいかないだろ? それに、俺たちが行けば戦況はさらに有利になる。ほぼ決定するって言ってもいいくらいにな」


真も総志と言っていることは同じ。できるだけセンシアル側が勝利するためにやれることをやる。


「はぁ……。この二人はほんと……どうしようもないですね……。私は行きませんからね!」


椿姫が呆れ顔で言う。これだけ戦って、もう放っておいても勝利が確実だというのに、まだ戦おうというのだから、全くもって信じられない。


「心配するな。蒼井がいればそれで十分だ。和泉、お前はエンハンサーとして奥で回復の手伝いをしてくれ」


「言われなくてもそうします……」


椿姫は総志の言葉に一安心しつ返事をした。戦いの最中だけでなく、戦いが終わった後の治癒もエンハンサーとしての大事な仕事だ。


「総志様! 私もお供させてください! 蒼井になんか頼らなくても私が総志様のお役に立ってみせます!」


そこに、咲良が勢いよく声を上げた。本当は戦えるだけの体力なんて残っていない。もっと早くに奥に退避して治癒を受けるべきなのだが、総志の傍にいたいが一心でこの場所に残っていた。


「ダメだ。お前は奥へ行け」


「私もまだ戦えます!」


「ダメだと言った! 二度も言わせるな!」


総志の低い声が地下駐車場に響く。その声に他の『ライオンハート』の第一部隊員も委縮してしまうほどの迫力があった。


「はい……」


総志の迫力に押されて咲良が小さく頷いた。これ以上自分が意見できるわけがない。素直に従う以外に選択肢はなかった。


「蒼井、行くぞ」


「ああ」


そう言って、真と総志は再び戦場へと足を運んだ。その足取りはどこか軽いように見えた。それは、椿姫の錯覚ではないだろう。


「総志様……」


残された咲良が泣きそうな声で総志の名前を呼ぶ。だが、当の本人はもう戦場へと出ていってしまった。


「紫藤さんは咲良の気持ちも分かってくれてるわよ。でも、紫藤さんにとって咲良は大切な仲間だから、危険な目に遭わせたくないっていう気持ちも分かるでしょ?」


「……うん」


椿姫の話に、咲良が渋々頷いた。理屈では椿姫が言っていることが正しいし、総志だってそう思っているのは間違いないのだが、咲良の気持ちはそれで整理が付くというわけではない。


(ああ、そうか。それで真田さんを奥に引っ込ませたのね)


真が美月に奥へ行くって回復の手伝いをしてくれと頼んだ。椿姫はそれを善意でしてくれていることだと思っていたが、どうやら善意だけではないらしい。真は最初から戦場へ戻るつもりだったのだ。それを美月に言うと止められるから、奥へ行くように言った。


それを察した総志が真を連れて戦場へと向かった。真からすれば総志に言われて戦場へ戻ったということになる。


責任の所在は総志にあり、美月が総志に対して抗議できるかというと、そんな度胸はないという計算なのだろう。


椿姫は一人合点がいき、奥で手伝ってくれている美月の下へと小走りに駆けて行った。



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