チュートリアル Ⅱ
確認したステータスはゲームと同じ数値を示している。ベルセルクは攻撃特化の前衛職であるため、やたらと攻撃力が高い。
ステータスの確認と同じ要領で装備を確認する。すでに見た目が見知った装備をしているため、改めて確認する必要はないと思われたが、念のために確認をした。
(これも一緒か)
武器、防具、アクセサリーに至るまですべて最強装備の最大強化。これを作るために膨大な時間をかけたことを思い出す。コスプレ趣味はないが、そんな装備を実際に着ているというのは感慨深いものがあった。
続いてアイテムを確認する。事前の説明ではアイテムの‟一部”のみ引き継ぐことができると書かれていた。
(ほとんど引き継いでないじゃねえかよ!)
アイテム欄にある情報から手持ちのアイテムを確認する。あまり使わない安物の回復アイテムと装備の見た目を変更する装備外見変更スクロール。そして、初期装備の布の服、布の手袋とズボン、皮の靴、ダガー。ワープできるアイテムや一定時間強化できるアイテム、高価な装備の素材となるアイテム、復活アイテムはことごとくなくなっていた。
そして、所持金は1000ゴールド。
(はぁ……金はこれだけかよ……)
『World in birth Online』で持っていた所持金は数十億ゴールド。それが今はたったの1000ゴールドである。
真は気を取り直して、スキルも確認しておくことにした。ステータス画面でレベルが100と表示されていたので、スキルも当然すべて揃っているはずだ。
(うん、まあそうだよな。)
スキルを確認するとすべて揃っている。レベル100ともなると数多くのスキルを所持することになるが、『World in birth Online』の特徴というか良いところは死にスキルが少ないこと。低レベルの時に修得したスキルでも、何らかの使い道が用意されている。そのため、弱いからもう使う必要がないというスキルはないこともないが、少なかった。
これで最低限確認したいことは確認できた。他にも色々と気になることはあるが、どうやって確認したらいいのか分からないことの方が多かった。その一つが地図。チュートリアルを見ても地図の見方が記載されていない。
(地図はないのかもしれないな……。そうなると、外に出るしかないか……)
真は完全に引き籠って外にも出ないというわけではない。コンビニには行くし、ゲームや漫画、ラノベも買いに行く。
(そういえば、ログアウトってどうするんだろう……?って、ログアウトした先が今の世界か)
そもそも、今いるのは現実世界。ゲームの世界ではないし、ログインもしていない。当然ログアウトなんてすることはできない。というよりも既にログアウトしている状態である。
ゲームのログアウトはないので、家からログアウトしてみることにする。
(今さらだけど、土足で家の中にいたんだよな)
玄関に来て外に出ようとした時にふとそんなことが頭をよぎった。そして、玄関の壁に備え付けられている鏡を見る。そこに映る姿は、赤黒い髪をしたショートカットの女子のような男子。白と黒を基調とした軽装鎧とコート。そして、燃え盛る炎のような真っ赤な大剣。
(目立つな)
防具もそうだが、何よりも大剣が目立つ。ゲームをやっていた時から目立っていた。その刃は大きく、濃い赤色をした刀身が目立たないわけがない。
(あ、装備外見変更スクロール!)
アイテムを確認した時にはがっかりしたが、今こそあれが役に立つ。とりあえず、初期装備として配布された布の服、布の手袋とズボン、皮の靴を使って装備の外見を変更する。
装備外見変更スクロールは非常に安くで売っているアイテムで、変更したい見た目の装備を消費して、装備の見た目を変えることができる。今やろうとしてることは、引き継いだレベル100からしか装備できない目立つ装備の見た目を初期装備の見た目にすること。一度、外見を変更した装備は何時でも外見の変更前と変更後を切り替えることができる。ただし、別の見た目にしようとすると、新たに装備を消費して見た目の上書きをしないといけないので、一度に何種類もの見た目を切り替えるということはできない。元の装備と変更後一種の装備だけである。
(問題は武器か)
装備外見変更スクロールは同系列の装備を消費しないと外見を変更できない。防具の系列は大きく分けて3つ。重装鎧、軽装鎧、ローブ。初期装備は軽装鎧に分類されるため、同じ軽装鎧の『インフィニティ ディルフォール メイル』等の防具一式は外見の変更が可能であった。武器は更に細かく分かれる。剣だけでも短剣、片手剣、大剣の3つがある。初期装備のダガ―は短剣に分類されるため、大剣の『インフィニティ ディルフォール グレートソード』の見た目を変更することができないのである。
(これが一番目立つんだけどな……)
真は仕方なく、大剣を装備から外してダガーに切り替えた。外した装備がアイテム欄に移り、手元からなくなることはゲームと同じ。複数の装備を大きな袋にいれて抱えないといけないということはない。
「よし!」
見た目を初期装備に変えて、目立たなくなったところで家の外に出る。まずは世界がどうなっているのか確認しないといけない。
【チュートリアル 村に行きましょう】
家の外に出た瞬間、また頭の中に直接声が響いた。
「うおっ!?」
さっきも突然頭の中に声が響いたが、またもや驚いてしまった。
目の前にアイコンが表示されている。すでに慣れた手つきで、それをタッチすると、矢印が現れた。どうやらこの矢印に従って進めということだろう。MMORPGを最初からスタートさせた頃によくある光景だ。
真が矢印の方角を見ると駅の方を指していた。だが、駅はすでに無くなっており、そこは平原になっている。
(行ってみるしかないよな……)
他に何をすればいいか思い当たらないため、チュートリアルに従って矢印が示す方に歩き出す。アスファルトで舗装された住宅街の道路を布の服で歩く。腰にはダガ―をぶら下げて。他にも同様の恰好をして歩いている人がいる。どうやら向かう先は真と一緒で駅のあった方へと向かっている。
(こんな格好でダガ―を持ってたら普通職務質問されるだろうな……)
とは言え、警察が今も機能しているかどうかは分からない。電化製品もスマホも使えない状態であると説明があった。そんなことができるなら警察がまともに機能できる状態ではないだろうと推測する。
道にはまだ混乱している人が大勢いた。真のようにチュートリアルに従っている人もいれば、何が起こっているか分からずに呆然とする人、喧嘩のように口論になっている人、泣いている子供、座り込んでいる老人。色々な人がいた。その中を狐や大ネズミ、大ウサギが徘徊している。人に対して危害を加えようとはしていないため、そのことで大きな混乱は起きていない。おそらく普段の生活でこんなに大きなネズミやウサギが徘徊していたら騒ぎになるだろうが、今はそれどころではない。大ネズミや大ウサギも含めて何もかもに混乱しているのだ。
5分ほど歩くと駅のあった場所の近くまで来た。駅の周りにある商店街は健在で多くの店が軒を連ねている。そして、肝心の駅は、案の定無くなって平原になっていた。
道路がぶつ切りにされたように途絶え、コンクリートの建物が無くなり、唐突に平原が始まっている。道はアスファルトから土へ、草をかき分けて道を作っている。
その道の先には木でできた壁が周りを囲んでいる集落のようなものが見えた。おそらくこれがチュートリアルで言っていた、‟村”なのだろう。矢印もその方向を真っ直ぐに示している。その境界線の前には人が集まっていた。
「なぁ、大丈夫なのか?」
「私に聞かないでよ!」
「なんで行かないといけないんだよ!」
「どうしたらいいんだよ!? 何が起こってるんだよ!?」
その村に行かないといけないのだろう。だが、進む人は少なかった。アスファルトと平原の境界で立ち止まる人の方が多い。どちらの選択が正しいのか。不自然なまでに突然現れた平原と村。
(行くしかないだろう……)
真は進むことを選択した。