表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
291/419

義勇軍 Ⅵ

義勇軍と別れた真は一人走っていた。


『ライオンハート』がヴァリア帝国中央連隊と戦った場所へと向かって走っていく。事前の情報では、戦場となったのは現実世界の幹線道路。大きなビル群が聳える現実世界の都会の中心地。


世界がゲーム化されてからの都会の中心地というのは、非好戦的で比較的倒しやすい草食系のモンスターが徘徊している場所となっていた。そのため、ゲームの世界で力を持っていない人は、現実世界にいる弱いモンスターを狩って、その日の糧を得るというのが一般的になった。


真が走っている地面は、すでにアスファルトでできた現代構造物の上。地図で確認する限り、この道をまっすぐ行けば、戦場となっている幹線道路に合流することになる。


(紫藤さんなら大丈夫だとは思うけど……)


真も『ライオンハート』の安否についてはずっと気になっていた。真が一人で行くと言い出した理由の中にも『ライオンハート』の安否を確認したいという思いが含まれていたからだ。


もしも、『ライオンハート』が退避しているという情報があったとしたら、小林が提案した撤退案に賛成していただろう。


(確定していることは、ヴァリアの中央連隊がセンシアルの騎士団を撃破したということだけ……。まだ望みはある……)


真は最初にメッセージを見た時に、『ライオンハート』も壊滅させられたのではないかと思った。だが、それは確定した情報ではない。小林が撤退を提案したように、総志も撤退を命令した可能性は高い。


(生き残っているかどうか……。どっちにせよ、この目で確認しに行くしかない……)


一抹の不安を抱えながらも真がアスファルトを蹴って走る。誰もいない午後の商業地域の道路。車が通るための車線の中心を真が走っていく。


そこから十数分くらい走っただろうか、戦場である幹線道路との合流地点にセンシアル王国騎士団の一団が見えてきた。


「おおおおーーーー!! ここは何としてでも死守しろ!」

「ぎゃあああああーーーー!!」

「な、なんなんだこいつら!?」


同時に悲鳴と絶叫に交じって甲高い金属音が鳴り響いている。


(もう始まってたか!?)


できれば接敵する前にセンシアル王国騎士団に追いつきたかったが、どうやら既にヴァリア帝国中央連隊と交戦状態にあるようだ。しかも、声から察するにいきなり不利な状況になっているらしい。


戦う前にあまり体力を使いたくはなかったが、真は走る速度を上げた。一刻でも早く応援に行かないと、センシアル王国騎士団が持たない様子だったからだ。


「どけ!」


センシアル王国騎士団に追いついた真は、騎士達を押しのけるようにして前に出ていく。戦場となっている場所は都会の幹線道路であり、先ほど戦っていた橋の上と比べればかなり広さがあるのだが、それでも、1万弱のセンシアル王国騎士団とそれを上回るであろう数のヴァリア帝国軍がぶつかると、どうしても過密状態になってしまう。


真は何とかセンシアル王国騎士団を押しのけて前線にまで出て来ると、無数のヴァリア帝国兵が武器を振り上げて襲い掛かってきた。


大波のごとく押し寄せるヴァリア帝国兵に向けて、真はすぐさま大剣を抜くと、スキルを発動させた。


<ソードディストラクション>


初手からいきなりの大技。出し惜しみをしている場合ではない。空間ごと震撼させるような激しい衝撃が戦場を揺らす。


(敵を減らして、イレギュラーを炙り出す!)


今やるべきことは、兎に角敵の“イレギュラー”を見つけ出すこと。


突然、戦力の一角が瓦解したとなったら、敵は慌てるはずだ。その原因を究明すべく動くはず。そうなれば、真が原因であることはすぐに判明する。当然、敵は真を排除するために動くことになる。敵の天才的な軍師が策を示して真を追い詰めようとするのか、はたまた、特殊部隊が襲い掛かってくるのか。


軍師と特殊部隊の両方がいる可能性もあるが、どっちにせよ、炙り出しに成功すれば勝機は見えてくる。


ソードディストラクションによって真の周囲にだけ無人の空間ができる。だが、すぐに周りの帝国兵が殺到してくる。


<イラプションブレイク>


跳躍から地面を叩き割るようにして大剣を突き立てると、そこから灼熱の業火が噴出。真の周りを囲んでいた帝国兵が次々と猛火に飲み込まれていく。


「な、何だあいつは……義勇軍……なのか?」


突然現れて、ヴァリア帝国兵をなぎ倒していく真の姿に、センシアル王国騎士から驚嘆の声が漏れてくる。だが、真にはそんな小さな声は聞こえてこない。


次の敵へと目を向けると、間髪入れずにスキルを発動させた。


<レイジングストライク>


真の標的となったのは、たまたま目線の先にいた帝国兵。猛禽類が襲い掛かるような強襲で一気に距離を詰めて斬りつける。


<ブレードストーム>


敵集団の懐にまで潜り込んだ真は、容赦なくスキルを叩き込んだ。真からまき散らされる斬撃の嵐は、広範囲に広がり、ヴァリア帝国兵をズタズタに斬り裂いていった。


(くそっ……やっぱり多いな……)


幹線道路の交差点まで来た真が内心で愚痴を溢した。分かっていたことだが、敵の数が多い。範囲攻撃スキルを3発使ったが、倒せた敵はその効果範囲の中だけ。スキル発動直後は真の周りに敵がいなくなるのだが、効果範囲の外にはまだ無数の敵が残っている。


そして、その無数の敵は真を恐れる様子もなく、一直線に群がってくる。


<ショックウェーブ>


獣の咆哮のような凄まじい剣圧がヴァリア帝国兵に襲い掛かる。ショックウェーブに巻き込まれた敵兵はバタバタと倒れていくが、効果範囲から漏れた敵はまっすぐ真に向かって突撃してきた。


(なんだこいつら……。死を恐れてないのか……? NPCだから、退くことを知らないのか……?)


ここで真は違和感を感じた。NPCの兵士だから、死を恐れることなく突っ込んでくるというのも考えられることだが、どうも様子がおかしい。


センシアル王国騎士団は敵の戦力に対して悲鳴を上げていたし、橋の上で戦ったヴァリア帝国兵は真の力に慄いていた。


この世界のNPCは非常に人間に近い行動をするのだ。ゲームとして触れられないこと以外はほとんど現実世界の人間と区別がつかないほどに精巧にできている。


なのに、この戦場にいるヴァリア帝国兵は断末魔どころか悲鳴すら上げていない。愚直なまでに真に襲い掛かってきている。


ズシャッ!


真の思案を破ったのは背中からくる軽い痛みだった。いつの間にか囲まれており、背中から斬りつけられていたのだ。


(チッ……)


油断していたわけではないが、考え事をしていたせいで、普段なら当たらないような攻撃を食らってしまったことに内心苛立ちを覚える。


<スラッシュ>


真を斬りつけてきたヴァリア帝国兵を袈裟斬りにすると、その一撃で敵は倒れた。


(こいつも悲鳴すら上げないのか……)


真が感じていた違和感はさらに高くなる。直接斬り伏せた敵が無言のまま倒れていく。本物のゲームでさえ、敵を倒した時には断末魔やら嗚咽やら、何かしらの反応をして倒れるものだ。


だが、その違和感について考えている暇はない。敵はまだまだ真を取り囲んでいる状態だ。一人倒したところで、次から次へと襲ってくる。一撃で仲間を倒した真に対して、一切臆することなく武器を突き立ててくる。


(こいつらの違和感は後回しだ。今は敵を倒してイレギュラーを引きずり出す!)


真は頭を切り替えて、目の前の敵に集中することにした。使える範囲攻撃スキルはすべて出し尽くした。再度使用できるようになるまでにはクールタイムが必要となる。


それまでは単体攻撃スキルで対応するしかない。とはいっても、レベル100で最強装備をしたベルセルクの攻撃だ。単体の攻撃であっても、食らった敵は一撃で倒れていく。範囲攻撃スキルに比べて効率が悪いというだけで、敵の数を減らすことに関しては十分な効果を発揮している。


「うぅ……」


呻き声のようなものが聞こえてきたのは、そんな時だった。敵が発する呻き声に真が反応して振り返ると。


「――ッ!?」


倒れていたヴァリア帝国兵が次々に起き上がり出していた。起き上がった直後はヨロヨロとしていた帝国兵だが、剣を構えると弾けるようにして真の方へと剣を振りかざしてきた。


ガキンッ!


咄嗟に真が大剣で敵の攻撃を受け止める。それは修練を積んだ鋭い攻撃だった。何度も戦場を経験してきた者の剣だ。


<スラッシュ>


真は敵の攻撃をいなすと同時に踏み込んで袈裟斬りにする。その一撃で敵は倒れるのだが、周りを見ると、さっき倒したばかりの敵がどんどん起き上がってきている。


(な、なんだよこいつらは……!?)


ここで、真はセンシアル王国騎士団の一人が叫んでいた言葉を思い出した。『なんなんだこいつら』と言っていた。おそらくこのことを言っていたのだろう。


「ううぐ……」

「ぁぁ……」

「ぁぐ……」


呻き声を上げながらヴァリア帝国兵が立ち上がってくる。その眼には全く生気が感じられない。兜の隙間から見える肌は、血が通っていないとしか思えないほど青白い顔をしている。


「ゾンビか……!?」


答えは明白だった。真が倒した敵は全てゾンビだったのだ。死を恐れることなく突撃してくることも、悲鳴や断末魔も上げないことも、それらの答えがここにあった。既に敵は死んでいたのだ。死してもなお戦い続けるゾンビソルジャーとして真を取り囲んでいたのだった。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ