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異界の扉 Ⅳ

青鈍色の怪物の魚類のような口が真に迫ってくる。口の大きさからして、真の体など一飲みにできるだろう。レベル100の最強装備ならそれでも大きなダメージを受けるわけではないが、丸飲みにされるなど、絶対にやられたくない攻撃だ。


巨大モンスターが口を開けて襲ってくることは多い。当然のことながら食われるのが嫌なので大きく回避行動を取る。


青鈍色の怪物は動きが素早い。しかも巨体故に距離感がまるで違う。遠くにいると思っていても、気が付いた時には至近距離間まで来ている。だから、タイミングはワンテンポ早めないと間に合わない。


だが、今回は事情が違った。真はギリギリのところまで避けずに粘った。


そして、真はここだと決めたタイミングで横に避けた。一瞬遅れて青鈍色の怪物が真の横を掠めた時。


<ショックウェーブ>


真が大剣を振り下ろすと、獣の咆哮のような剣圧が青鈍色の怪物に襲い掛かった。


ショックウェーブはベルセルクが使える範囲攻撃スキルで、攻撃範囲は前方に限られるが、その分威力は高い。


「キョエェェェー!!!」


青鈍色の怪物が奇怪な声を上げると、すぐさま後方へ退避。俊敏な動きで一気に真の射程範囲内から出てしまう。


<アローランページ>


<ウィンドブレード>


<オーラレイ>


そこに翼と彩音、華凛が追撃のスキルを放った。翼が威力重視で連続した矢を撃ち、彩音は詠唱時間の短いウィンドブレードを、華凛はレーザーのようなオーラレイで攻撃。


だが、青鈍色の怪物の動きは素早く、全て外れてしまう。


「今の要領でいいが、もうワンテンポ早くしてくれ」


真が青鈍色の怪物を見ながら指示を出す。翼達の狙いは悪くなかったのだが、スキルの発動タイミングが少しだけ遅い。ほんの少しなのだが、敵の動きが早く、一歩の距離も大きいため外れてしまう。


「ごめん……。大丈夫、やれるから」


自分のタイミングが遅かったことは翼も自覚をしていた。真がどう動くかということは読めていたが、敵の動きの速さについていくことができていなかった。もっと意識を集中させて、敵の動きに合わせないといけない。


「はい、やってみます……」


彩音の方は翼よりも深刻だった。魔法の詠唱があるソーサラーが動きの速い敵に合わせて攻撃をするとなると、先読みで攻撃をしないといけない。詠唱速度の速いウィンドブレードですら外れたわけだから、タイミングはかなりシビアなものになってくる。


「……」


それは華凛も同じだった。精霊の中で青鈍色の怪物の動きについていけるのはシルフィードくらいか。だが、シルフィードはスタンなどの状態異常を引き起こす搦め手が得意な精霊だ。ボス格の敵に状態異常は効果を発揮しないため、役には立たない。


それぞれに思案しながらも青鈍色の怪物動きに注視する。こちらから攻撃を仕掛けてもすぐに距離を離されてしまうため、取れる選択肢は必然的にカウンターということになる。


幸い、青鈍色の怪物は近接攻撃をしてくるため、カウンターを狙いやすいのだが、ここにきて青鈍色の怪物の動きが変わった。


青鈍色の怪物は大きく息を吸うように胸を張る。そして、胸いっぱいに空気を吸い込んだかと思うと、そこから一気に前のめりに口を開けて、大きなシャボン玉が吐き出された。


「ッ!?」


青鈍色の怪物が吐き出した大きなシャボン玉は勢いよく真に向かって飛んできた。見た目はただの大きなシャボン玉なのだが、飛んでくる速度が尋常ではない。


空気抵抗という言葉を知らないのだろうというくらいの速度で真に向かって飛来してくる。


真は嫌な予感がして、大きく横に跳躍してシャボン玉を回避した。


「気をつけろ! 絶対にシャボン玉に当たるな!」


真が声を張り上げた。これがただのシャボン玉なわけがないことはすぐに分かった。絶対に危険なものであるに違いない。


「うん……分かってる」


美月が返事をした。異形の怪物が吐き出した物だ。安全なわけがないことは美月も理解している。


青鈍色の怪物は次々と大きなシャボン玉を吐き出していった。その狙いは真だけにとどまらず、美月達の方へも飛んでいく。


「落ち着いて、回避することに集中だ」


真が声を上げた。シャボン玉は飛んでくる速度が速いにしても距離が開いている分、回避はしやすい。美月達も警戒を怠らず、青鈍色の怪物の動きを見ながら、飛んでくるシャボン玉を回避していく。


青鈍色の怪物はいくつかシャボン玉を発射させた後、再度、真に向かって飛びかかってきた。


「待ってたよ、そういうの!」


青鈍色の怪物の動きを見ながらシャボン玉を回避していた。そこに青鈍色の怪物が飛びかかってきたとしても、シャボン玉に置き換わっただけに過ぎない。


真は冷静に間合いを見極め、軽く後ろに下がる。


ついさっきまで真がいた場所に青鈍色の怪物が着地する直前、真が動いた。


<グリムリーパー>


下段から大剣を掬い上げるようにして斬撃を放つ。その剣の軌道はまるで死神の大鎌のような弧を描く。


<アシッドアロー>


青鈍色の怪物が飛びかかってくるのを狙っていたのは真だけではない。翼もすかさず矢を射る。空中で液状化した矢は、酸となって敵の身体を蝕んでいく。


<ウィンドブレード>


<オーラレイ>


少し遅れて彩音と華凛が魔法攻撃スキルを放つ。詠唱時間があるため、翼と同時に反応できたとしても、スキルの発動が遅れてしまうのはどうしようもない。


案の定、当たったのは真と翼の攻撃だけ。青鈍色の怪物は奇怪な声を上げながら、彩音と華凛の攻撃を回避して、大きく後退する。


「くっ……」


上手く攻撃が当たらないことで、華凛は歯噛みしていた。敵の動きを見ているつもりなのだが、どうしてもタイミングが合わない。


「華凛さん、大丈夫です。ちゃんと反応できてますから」


華凛の心中を察した彩音が声をかけた。青鈍色の怪物が苦手な相手であることは彩音も同じだ。華凛が何に憤りを感じているのかは彩音が一番よく分かっていた。


「分かってる……。次は当てるから」


華凛はそう言うと、距離の離れた青鈍色の怪物を睨むようにして見つめた。身体が大きいくせに、鈍重ではなく機敏な動きをしている。的が大きいくせに、一歩で動く距離が大きいから、攻撃を外されてしまう。華凛は『当てる』と言ったものの、目算は全くなく、負け惜しみでしかないことは自覚していた。


「そうですね……。私も当てます」


彩音も攻撃を当てるために青鈍色の怪物を見つめる。のっぺりとした顔で奇怪な姿。背中と腕には鰭のように棘が何本も並んでいる。その棘が小刻み震えているのが見えた。


すると、突然、青鈍色の怪物の身体全体から白い泡が噴出してきた。


「な、なんだ!?」


いきなり噴出してきた大量の泡に、真が警戒の色を強めた。青鈍色の怪物との距離は開いているため、その泡が真達の方へと届くことはないが、泡の量が半端なく多い。


たちまち巨大な青鈍色の怪物を覆い隠すほどの泡が玉座の間に溢れた。


「泡……!? なにこれ!?」


白く細かい泡の塊が山のようになっている。翼は昔テレビで見た工場から排出される化学物質に汚染された川を思い出していた。川の表面に浮かぶ泡の塊。自然の状態では絶対に発生しない白い泡の塊。子供の時に見たその映像は、酷く汚く見えたのと同時に怖いと思ったことを思い出していた。


「絶対に触らないで!」


どんどん溢れて来る白い泡に美月も警戒の声を上げる。白い泡は徐々にその領域を広げている。この泡に触ってはいけない。おそらく毒の状態異常を引き起こすだろうと美月は考えていた。


「ッ!? まず――」


この状態で真が『まずい』と言おうとした時だった。泡の中から突然大きなシャボン玉が発射された。


青鈍色の怪物は完全に泡の中で姿を隠してしまっている。大きく膨れ上がった泡の山の中から発射された泡は不意打ちと言っていいだろう。


真達は青鈍色の怪物の動きを見て、飛んでくるシャボン玉を回避していた。だが、肝心の青鈍色の怪物は泡の中に埋もれてしまい、姿を見ることができない。


必然的にその動きを把握することはできず、飛んできたシャボン玉への反応は遅れてしまう。


「きゃっ――」


狙われたのは華凛だった。溢れてくる泡を意識していたため、飛んでくるシャボン玉に対応することができず、直撃を受けてしまう。


「華凛ッ!?」


真が華凛の方を見ると、華凛は大きなシャボン玉の中に完全に入ってしまい、床から数十センチのところで浮いていた。


シャボン玉の檻の中に捕らわれた鳥といったところだろうか。大きなシャボン玉はまるで鳥籠のように華凛を閉じ込めて空中に浮いている。


「キョオオオオーーー!!!」


今まで以上に大きな奇声を発しながら、青鈍色の怪物は泡の山の中から飛び出してきた。


魚類のような口を大きく開けて、シャボン玉の中に捕らわれた華凛を丸飲みにするべく跳躍した。



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